副根管による歯髄と歯周組織の交通 | J Periodontol
大臼歯の根分岐部の骨が溶ける——つい「歯周病のせい」と決めつけがちです。でも歯の中(歯髄)から回ってくる“抜け道”はないのか。1978年、Gutmannは抜去した大臼歯102本に色素を通し、歯髄と歯根表面をつなぐ「副根管」が、根分岐部の領域で28.4%(約4本に1本)に存在することを実証しました。歯髄と歯周組織は、思っている以上に直接つながっています。
根分岐部の骨吸収、犯人は本当に歯周病だけ?
大臼歯の根分岐部(根と根の分かれ目)に骨吸収が起きると、つい「歯周病が進んだ」と考えがちです。でも——歯の中の歯髄(神経)から、分岐部へ回ってくる“抜け道”はないのか。1978年、Gutmannは抜去した大臼歯102本に色素を通し、歯髄と歯根表面をつなぐ「副根管(accessory canal)」が分岐部にどれくらいあるのかを、正面から数えました。
従来の悩み:交通路の存在は言われても、正確な頻度が不明だった
「歯髄と歯周組織は副根管でつながっている」こと自体は、それまでも多くの研究で示唆されていました。組織切片の研究では分岐部に副根管が多く見つかり、走査電顕を使ったBurchとHulenは大臼歯の76%に分岐部の副孔(開口部)があると報告。ただし、その孔が本当に歯髄腔と外表面を貫通しているか(=patency/開通性)までは確かめられていませんでした。“穴があるように見える”ことと、“通じている”ことは別問題だったのです。
今回の一手:抜去大臼歯102本に色素を通し、染み出しを見る
方法はシンプルで巧みです。無作為に選んだ抜去大臼歯102本(上顎51本・下顎51本の第一・第二大臼歯)を用い、歯髄を除去して根尖をワックスで封鎖。歯髄腔に赤いサフラニン色素を入れ、歯根の外表面に525mmHgの陰圧を最大15分かけて、分岐部の外表面に色素が染み出すか=副根管が貫通しているかを観察しました。「分岐部の領域」は、分岐部そのものに加え、根の内側4mmまでを含めて評価しています。
では、実際に“抜け道”はどれくらいの歯にあったのか。
結果:約4本に1本の大臼歯で、分岐部に貫通性の副根管
102本のうち、29本(28.4%)が「分岐部の領域」に貫通性の副根管を持ち、その数は計43本。上顎で27.4%、下顎で29.4%と、上下でほぼ同じ傾向でした。分岐部そのものに限ると24.5%、側方の根面では10.2%。色素は多くの例で30〜120秒で染み出し、しっかり“通じている”ことが分かります。さらに、セメント質が失われた部位では、象牙細管を通じて色素が外表面まで達する交通も観察されました。副根管という太い抜け道だけでなく、細管という無数の細い抜け道も存在するわけです。
なぜ?──発生のときの“作り忘れ”で歯髄が外とつながる
副根管は、歯の根ができる過程でHertwig上皮鞘の局所的な形成不全が起きると生じます。その部分だけ象牙質が作られず、歯髄が歯周(濾胞)組織と接したまま残ってしまう——いわば“壁の作り忘れ”です。この抜け道があるために、歯髄の炎症が歯周組織へ、あるいは歯周の感染が歯髄へと波及しうる。分岐部にこれが多いことは、原因のはっきりしない分岐部病変を考えるうえで見過ごせません。
明日の臨床へ:分岐部病変は「歯髄の生死」から見極める
大事なのは、副根管があること=必ず病気が波及する、ではないという点です。Langelandらは「歯髄が完全に壊死するのは、主要な根尖孔がすべて感染に巻き込まれたとき」と示しており、抜け道の存在は“可能性”を意味するにすぎません。とはいえ、根分岐部病変を診るときに「歯周病だから」と決めつけるのは危うい。歯内療法だけで治る例、歯周治療だけの例、両方が要る例がある。だからこそまず歯髄が生きているかを見極める(腫脹・打診・歯髄診・痛みの性状・瘻孔の有無)ことが、治療の順番を決める第一歩になります。加えて、根管治療後は髄床底をきちんと封鎖し、分岐部への漏洩経路を断つことも実務上の教訓です。
今日のひとこと
抜去大臼歯102本を調べると、歯髄と歯根表面を貫通する「副根管」が根分岐部の領域で28.4%(約4本に1本)、分岐部そのもので24.5%、側方根面で10.2%に見つかった。歯髄と歯周組織は副根管や象牙細管を通じて直接つながりうる。ただし副根管があること自体が病気の波及を意味するわけではなく、治療方針を決める鍵は「歯髄が生きているか」の見極め。根分岐部病変を診るときは歯周病と決めつけず、歯髄由来の可能性も鑑別に入れる。in vitroの数値なので、生体での実際の交通はこれより少ない可能性がある。


