1問1答 論文 エンド

次亜塩素酸ナトリウムとEDTA、混ぜて使っていない?——根管洗浄剤の総説(Zehnder 2006)は、次亜塩素酸ナトリウムを主役に拡大の間ずっと使い、EDTAやクエン酸は混ぜずに拡大の後で使う手順を提案した。混ぜると有効な塩素がすぐ減るため(引用された実験)。洗浄剤の違いで治療成績を比べた無作為化比較試験は無く、推奨は主に実験室の研究からの推論だと著者自身が書いている(Zehnder 2006)

1問1答 論文 エンド

エンド|根管洗浄剤の働きと組み合わせを、主に実験室の研究と、細菌の培養を指標にした臨床研究の引用から整理し、洗浄の手順を提案したナラティブ総説(Zehnder 2006・Journal of Endodontics・著者1人・文献178本)

根管洗浄で、次亜塩素酸ナトリウムとEDTAをどう使い分けるか。チューリッヒ大学の Zehnder は2006年の総説で、洗浄剤に求められる働きを整理し、次亜塩素酸ナトリウムを主役の洗浄剤として拡大の間ずっと使い、EDTAやクエン酸は混ぜずに、拡大が終わってから使う手順を提案しました。EDTAやクエン酸を次亜塩素酸ナトリウムに混ぜると有効な塩素がすぐ減り、細菌や壊死組織に効かなくなる、という引用された実験が理由です。ただし著者自身が、洗浄剤の違いで治療成績を比べた無作為化比較試験は無く、推奨は主に実験室の研究と細菌の培養を指標にした研究からの推論で、慎重に読む必要があると書いています。

論文
Root Canal Irrigants
著者
Matthias Zehnder(スイス・チューリッヒ大学 歯学センター 歯内療法学)
掲載
Journal of Endodontics 2006;32(5):389-398
種類
ナラティブ総説(著者1人。文献178本を引用。文献の探し方・選び方の記載なし)。根管感染の特徴から洗浄剤に求められる働きを整理し、次亜塩素酸ナトリウム・クロルヘキシジン・キレート剤(EDTA・クエン酸)などの働きと組み合わせを、主に実験室の研究と、細菌の培養を指標にした臨床研究の引用から論じ、洗浄の手順を提案した
資金・利益相反
資金と利益相反の記載は見当たらない。引用178本のうち10本は著者が加わった研究(筆者が文献の一覧から数えた)
PMID
16631834

①次亜塩素酸ナトリウムとEDTA、混ぜて使っていない?

根管拡大の途中、次亜塩素酸ナトリウムで洗い、EDTAも入れる。2つの液を続けて入れて、根管の中で泡が立つと「よく効いている」と感じる——そんな場面はないでしょうか。2つの洗浄液を、どの順番で、どう使い分けるのがよいのでしょうか。

この問いに、根管洗浄剤の働きと組み合わせを整理して答えたのが、チューリッヒ大学の Zehnder が2006年に Journal of Endodontics に出した総説です。

結論を先に書きます。
・この論文は著者1人によるナラティブ総説で、主に実験室の研究と、細菌の培養を指標にした臨床研究の引用から論じている(文献178本)
・著者は、次亜塩素酸ナトリウムを主役の洗浄剤として勧めた。抗菌の範囲が広く、壊死組織を溶かす力を持つのは次亜塩素酸ナトリウムだけだから(著者の表1)
・次亜塩素酸ナトリウムは無機質を溶かせずスメア層を防げないので、EDTAやクエン酸を補助に使う
・ただしEDTAやクエン酸を次亜塩素酸ナトリウムに混ぜると、有効な塩素がすぐ減り、細菌や壊死組織に効かなくなる(引用された実験)。だから混ぜずに、拡大の間は次亜塩素酸ナトリウム、拡大が終わってからEDTAかクエン酸、という手順を提案した
・著者自身が、洗浄剤の違いで治療成績を比べた無作為化比較試験は無く、推奨は推論なので慎重に読むべきだと書いている

②なぜ洗浄剤の選び方が問題になるのか

著者はまず、根管治療の失敗の主な原因は、治療後に根管に残った、または入り直した微生物だと整理します。壊死した根管では、細菌が根管壁にバイオフィルムを作り、長く続く感染では象牙細管にも入り込みます。バイオフィルムの細菌は、試験管の中で浮いている細菌より薬が効きにくいことが知られています(引用文献)。

拡大にも限界があります。ニッケルチタンの器具でも手用のステンレスの器具でも、根管壁のほぼ半分は削られずに残る(引用された研究)。さらに拡大すると、削りかすや歯髄の残りからなるスメア層が根管壁にでき、細菌の隠れ場所になったり、シーラーの密着を妨げたりします。

そこで著者は、洗浄剤に求められる働きを次の4つにまとめました。バイオフィルムの細菌まで含めた広い抗菌力、壊死した歯髄の残りを溶かすこと、内毒素を不活化すること、スメア層ができるのを防ぐか、できたものを除くこと。加えて、全身に毒性が無く、歯周組織を傷めず、アレルギーを起こしにくいことです。

③この論文は何か

・種類:著者1人によるナラティブ総説。文献178本を引用しているが、文献の探し方・選び方は書かれていない
・根拠:主に実験室の研究と、治療後に根管から細菌が培養されるかを指標にした臨床研究。著者は冒頭で、洗浄剤の違いが治療成績にどう影響するかを調べた無作為化比較試験は無く、細菌の数のような代わりの指標は本当の治療成績と必ずしも一致しないと書いている
・扱った洗浄剤:次亜塩素酸ナトリウム、クロルヘキシジン、ヨウ素ヨウ化カリウム、過酸化水素、酢酸デカリニウム、EDTA、クエン酸など。使われなくなった薬は扱っていない
・内容:洗浄剤の働きの比較(表1)、次亜塩素酸ナトリウムの濃度・温度・超音波、キレート剤、洗浄の手順の提案、洗浄針の届き方

④整理1:主役は次亜塩素酸ナトリウム

著者が作った表1では、4つの働きを最も多く満たすのが次亜塩素酸ナトリウムでした。とくに組織を溶かす力が「強い(+++)」のは次亜塩素酸ナトリウムだけで、ほかの6つの洗浄剤はすべて「ない・わずか(−)」です。

表:根管洗浄によく勧められる水溶液の特徴(原著の表1の全行・全列。著者による文献のまとめ) 洗浄剤(推奨濃度) 抗菌 組織溶解 内毒素 スメア層 腐食性 アレルギー 過酸化水素(3〜30%) + − − − 濃度による − 次亜塩素酸ナトリウム(1〜5.25%) ++ +++ + ++(有機成分) 濃度による + ヨウ素ヨウ化カリウム(2〜5%) ++ − 情報なし − − ++ クロルヘキシジン(0.2〜2%) ++ − + − 濃度による + 酢酸デカリニウム(0.5%) 情報なし − 情報なし + − ++ EDTA(10〜17%) + − − ++(無機成分) − − クエン酸(10〜50%) − − − +++(無機成分) − − 記号(原著の凡例):−=ない・わずか、+=報告がある、++=はっきりある、+++=強い。濃度による・情報なしも 原著の凡例どおり。 列(原著の見出し):抗菌=根管の細菌・バイオフィルムへの作用、組織溶解=組織を溶かす力、内毒素=内毒素の不活化、 スメア層=スメア層への作用、腐食性・アレルギー=組織を傷める・アレルギーを起こす可能性。 原著の「種類」の列:過酸化水素=過酸化物、次亜塩素酸ナトリウムとヨウ素ヨウ化カリウム=ハロゲン放出剤、クロルヘ キシジン=ビスグアニド、酢酸デカリニウム=第四級アンモニウム化合物、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)=多塩基酸、 クエン酸=有機酸。 表は著者が引用文献をもとに作ったまとめで、各欄の根拠となった研究の種類(多くは実験室の研究)は表には示されてい ない。 次亜塩素酸ナトリウムの推奨濃度「1〜5.25%」は表1の記載。著者は本文では、今の根拠では1%を超える濃度を使う理由は 無いと結論している(表と本文の記載が異なる)。
表:根管洗浄によく勧められる水溶液の特徴(原著の表1の全行・全列)。著者が引用文献をもとに作ったまとめ。

著者が挙げた理由は次のとおりです(引用文献)。

・壊死組織と、スメア層の有機成分を溶かす
・バイオフィルムや象牙細管の中の細菌を、同じくらいの濃度のクロルヘキシジンやヨウ素と同程度に殺す
・内毒素を不活化するという報告もあるが、その効果は水酸化カルシウムの貼薬に比べて小さい

一方クロルヘキシジンは、最後の洗浄には役立つものの、主役には勧められないとしています。壊死組織を溶かせないこと、グラム陰性菌への効きがグラム陽性菌より弱いことが理由です。初めての根管治療の感染ではグラム陰性の嫌気性菌が多いのに、実験室の研究ではグラム陽性のエンテロコッカス・フェカーリスを使うことが多く、クロルヘキシジンの効き目を大きく見積もりやすい、と著者は注意しています。引用された無作為化臨床試験では、根管内の細菌が培養されなくなる割合は、2.5%次亜塩素酸ナトリウムが0.2%クロルヘキシジンより有意に高かったとされます。

⑤整理2:濃度は1%を超えなくてよい、と著者

濃度については、著者は「今の根拠では、1%(重量/容量)を超える濃度を使う理由は無い」と結論しています(表1の推奨濃度の欄は1〜5.25%で、表と本文の記載は異なります)。根拠として挙げたのは次の点です(いずれも引用文献の結果)。

・5%は0.5%より根管内の細菌を大きく減らしはしなかった(臨床研究)
・生理食塩水と比べて、5.25%は象牙質の弾性率と曲げ強さを有意に下げたが、0.5%では有意な低下を認めなかった(実験)
・実験室の観察では、1%で1回の治療の間に歯髄全体を溶かせるとみられる
・洗浄の間は新しい液が次々に入るので、濃度は決め手にならないかもしれない。洗えない所は、濃度より液が物理的に届かないためかもしれない
・濃い液を誤って根尖の外へ押し出したり、ラバーダムから漏れたりして、強い刺激が起きた報告がある

濃度を上げずに効きを高める方法として、著者は液を温めることを挙げます。著者らの研究室の実験では、1%を45℃に温めると、歯髄を溶かす力が20℃の5.25%と同じだったとされます。ただし、温めた次亜塩素酸ナトリウムを支持する臨床研究はまだ無い、と著者自身が書いています。超音波で液を動かす方法は、根管のきれいさでも残る細菌でも報告が一致せず、効果があっても小さかったとまとめています。また、次亜塩素酸ナトリウムがどれだけの時間根管にとどまればよいかは、まだ答えが出ていないとしています。

⑥整理3:EDTA・クエン酸は混ぜずに、拡大の後で

次亜塩素酸ナトリウムにも弱点があります。無機質の削りかすを溶かせず、拡大中にスメア層ができるのを防げません。そこでEDTAやクエン酸が補助に勧められてきました。表1でも、スメア層の無機成分への作用はEDTA「++」、クエン酸「+++」です。EDTAの洗浄液は、生理食塩水より根管内の細菌を大きく減らしたという臨床研究も引かれています。

大事なのは組み合わせです。著者は引用された実験をもとに、次のように書いています。

・EDTAもクエン酸も、次亜塩素酸ナトリウムの有効な塩素をすぐに減らし、細菌や壊死組織に効かなくする。だから決して混ぜない
・ペースト状のEDTA製剤も同じで、1対10の割合(原著の表記)で混ぜると、1%次亜塩素酸ナトリウム液の次亜塩素酸塩(hypochlorite)がすぐにすべて失われた
・混ぜた時の泡立ちは化学反応が起きている証拠で、泡に汚れを落とす物理的な効果があることは示されていない
・EDTAと過酸化物を含むペースト状の製剤は、スメア層を防ぐ力が足りないので使うべきでない
・なお、エチドロネート(HEBP)は短時間なら次亜塩素酸ナトリウムとの干渉が小さく、EDTAやクエン酸の代わりの候補として挙げられている。ただし洗浄に役立つかは今後の研究で示す必要がある、とされる

そのうえで、著者は次の手順を提案しました(図)。

図:著者が提案した根管洗浄の手順(原著の「Suggested Irrigation Regimen」を流れ図にしたもの) 1 拡大の間 次亜塩素酸ナトリウム 根管をいつも次亜塩素酸ナトリウムで満たしておき、器具を替えるたびにたっぷり洗う。EDTAやクエン酸を混 ぜない(混ぜると有効な塩素がすぐ減る)。 2 拡大が終わったら EDTA かクエン酸 根管をよく洗ってスメア層を除く。決まった推奨は無いが、1根管に少なくとも1分・5〜10mLが一般的。強い キレート剤に長く当てると象牙質が弱まるおそれ。 3a 最後の洗浄:水酸化カルシウムを貼薬する時 次亜塩素酸ナトリウム 水酸化カルシウムと次亜塩素酸ナトリウムは互いに補い合う(著者の研究室の研究を引用)。 または(次の処置でどちらか一方) 3b 最後の洗浄:根管壁の削りかすが除かれたと判断し、根管充填する時(またはクロルヘキシジンのゲ ルを貼薬する時) クロルヘキシジンが有望 象牙質に付いて効きが続く。次亜塩素酸ナトリウムが残っているとクロルヘキシジンが赤褐色の沈殿になるの で、クロルヘキシジン液をたっぷり使うか、クロルヘキシジンで洗う前にペーパーポイントで根管を乾かす。 3a と 3b は、次の処置に応じてどちらか一方を選ぶ(著者)。 この手順は著者の提案。著者自身が、洗浄剤の違いで治療成績を比べた無作為化比較試験は無いと書いている。
図:著者が提案した根管洗浄の手順(原著の「Suggested Irrigation Regimen」を流れ図にしたもの)。治療成績を比べた試験にもとづくものではない。

最後の洗浄でクロルヘキシジンを勧める根拠として、著者は、象牙質に付いて効きが続く性質(サブスタンティビティ)を挙げます。引用された無作為化臨床試験では、2%クロルヘキシジンでの最後の洗浄は根管内の細菌を有意に減らしましたが、比べた相手は生理食塩水で、次亜塩素酸ナトリウムでの最後の洗浄より良いかは分からない、と著者自身が断っています。

⑦明日の臨床へ

この総説から持ち帰れるのは、次のような点です(総説の記述と、筆者の読み)。

・次亜塩素酸ナトリウムとEDTAは混ぜない:混ざると次亜塩素酸ナトリウムの有効な塩素がすぐ減り、効かなくなる(引用された実験)。根管で泡が立つのは反応のしるしで、よく洗えている証拠ではない
・拡大の間は根管を次亜塩素酸ナトリウムで満たしておく:液の働く時間を長くし、器具の切れ味や回転器具への負担の面でも、乾いた根管より有利とされる(著者)
・EDTAは拡大の後に:1根管に少なくとも1分・5〜10mLが一般的(決まった推奨は無い)。長く当てすぎない
・洗浄針の届く範囲を意識する:色の違う2つの液を使った観察(著者の図3)では、新しい液は針の先から1mmより奥へ届かなかった。著者は、30ゲージの針なら根尖部をISO 35〜40まで拡大するよう提案している。図3の例では、ISO 35では根尖部に古い液が残り、ISO 40で針が届いて洗えた
・クロルヘキシジンを最後に使う時は、次亜塩素酸ナトリウムが残っているとクロルヘキシジンが赤褐色の沈殿になる。クロルヘキシジン液をたっぷり使うか、クロルヘキシジンで洗う前にペーパーポイントで根管を乾かす(著者)

なお、レーザーや電解水、オゾンなどの新しい方法は、バイオフィルムの細菌を殺す力で単純な次亜塩素酸ナトリウムでの洗浄に及ばないという研究がある、と著者はまとめています(引用文献。いずれも実験室の研究)。界面活性剤を加えて表面張力を下げても、スメア層の除去や抗菌力は上がらなかったとしています。

ここだけ、冷静に補助線(1)推奨の多くは推論です。洗浄剤の違いで治療成績を比べた無作為化比較試験は無く、推奨は主に実験室の研究と、細菌の培養という代わりの指標を使った研究からの推論だと、著者自身が冒頭で書いています。
(2)ナラティブ総説で、文献の探し方・選び方は書かれていません。引用178本のうち10本は著者が加わった研究でした(筆者が文献の一覧から数えた)。EDTA・クエン酸と混ぜた時の反応、温めた次亜塩素酸ナトリウム、水酸化カルシウムとの組み合わせなどの根拠には、著者の研究室の研究が含まれます。
(3)表1の記号は著者によるまとめで、各欄の根拠となった研究の種類や条件は表には示されていません。
(4)2006年の総説なので、その後の研究は含まれていません。
(5)資金と利益相反の記載は見当たりませんでした。とはいえ、次亜塩素酸ナトリウムを軸に手順を組み立てる考え方を、化学の理由とともに一望できる1本です。

今日のひとこと

この総説の芯は、次亜塩素酸ナトリウムは拡大の間ずっと、EDTAやクエン酸は混ぜずに拡大の後でという順番です。混ぜると有効な塩素がすぐ減る、という引用された実験が理由でした。ただし洗浄剤の違いで治療成績を比べた無作為化比較試験は無く、推奨は主に実験室の研究からの推論だと著者自身が書いています。今の手順の「なぜ」を確かめ直す、整理の1本として読むのが合っています。

Zehnder M. Root canal irrigants. J Endod. 2006;32(5):389-398. doi: 10.1016/j.joen.2005.09.014. PMID: 16631834
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。