1問1答 論文 エンド

新しいプレミックスのバイオセラミックシーラーは、歯根膜の細胞にやさしい?——ヒト歯根膜幹細胞の実験室研究で、Bioroot Flow と AH Plus Bioceramic Sealer の抽出液では細胞の代謝活性と移動がおおむね保たれ、AH Plus の抽出液では大きく下がった(Sanz 2024)

1問1答 論文 エンド

エンド|2つのプレミックス型カルシウムシリケート系シーラー(Bioroot Flow・AH Plus Bioceramic Sealer)とエポキシレジン系の AH Plus を、抜去歯から採ったヒト歯根膜幹細胞で比べた実験室研究(Sanzら 2024・Clinical Oral Investigations)

根尖から押し出されたシーラーは、歯根膜の細胞に触れます。新しく出てきたプレミックス型のカルシウムシリケート系シーラーは、その細胞にどう働くのか。Sanzらは2024年、抜去した親知らずから採ったヒト歯根膜幹細胞で調べました。硬化させたシーラーから溶け出した液を細胞にかけると、AH Plus(エポキシレジン系)では、薄めない液で細胞の代謝活性が対照の2〜4%まで下がり、4倍に薄めた液でも72時間で約72%と有意に低い値でした。Bioroot Flow と AH Plus Bioceramic Sealer では、4倍に薄めた液でどの時点でも対照と有意な差は検出されませんでした。ただし薄めない Bioroot Flow は、72時間で約70%と有意に低い値でした。21日間の培養では、Bioroot Flow の液で石灰化の染色が最も強く出ましたが、液に含まれるカルシウムが沈着しただけの可能性も著者ら自身が挙げています。細胞培養の実験で、患者さんの歯での治りを調べたものではありません。

論文
Comparative bioactivity and immunomodulatory potential of the new Bioroot Flow and AH Plus Bioceramic sealer: An in vitro study on hPDLSCs
著者
José Luis Sanz, Sergio López-García, David García-Bernal, Francisco Javier Rodríguez-Lozano, Leopoldo Forner, Adrián Lozano, Laura Murcia(スペイン・バレンシア大学、ムルシア大学 ほか)
掲載
Clinical Oral Investigations 2024;28(3):195
種類
実験室の研究(細胞培養)。健康な18〜30歳の10人から抜去した第三大臼歯の歯根膜から採ったヒト歯根膜幹細胞(hPDLSCs)を使用。Bioroot Flow・AH Plus Bioceramic Sealer(プレミックス型カルシウムシリケート系)と AH Plus(エポキシレジン系)を直径5mm・高さ2mmの円板にして48時間硬化させ、培養液に24時間浸した液(そのまま・2倍・4倍に薄めたもの)を細胞にかけた。代謝活性(MTT)・移動(スクラッチ試験)・細胞骨格の染色・円板表面の電子顕微鏡観察・炎症の物質(IL-6・IL-8)・分化の遺伝子(7日・21日)・石灰化(21日)を調べた。細胞の実験は各条件3つずつ(電子顕微鏡の円板は各材料5枚)、一元配置または二元配置の分散分析と Tukey の検定
資金・利益相反
スペインの公的研究費(カルロス3世保健研究所の細胞治療の研究網・欧州連合の復興基金ほか)と、欧州社会基金・バレンシア州の博士研究員の雇用助成。著者らは利益相反なしと記載
PMID
38441709

①新しいプレミックスのバイオセラミックシーラーは、歯根膜の細胞にやさしい?

シングルコーン法でも側方加圧でも、シーラーは根尖孔や側枝から多少押し出されることがあります。押し出されたシーラーが触れるのは、根尖の周りの歯根膜の細胞です。では、最近出てきたプレミックス型(練らずにシリンジから出す)のバイオセラミックシーラーは、その細胞にどう働くのでしょう。

この問いを細胞培養で調べたのが、Sanzらが2024年に Clinical Oral Investigations に報告した研究です。2つのプレミックス型カルシウムシリケート系シーラー、Bioroot Flow(Septodont)と AH Plus Bioceramic Sealer(Maruchi 製造・Dentsply 販売)を、エポキシレジン系の AH Plus と比べました。使った細胞は、抜去した親知らずの歯根膜から採ったヒト歯根膜幹細胞です。

結論を先に書きます。
・硬化させたシーラーから溶け出した液を細胞にかけると、AH Plus では細胞の代謝活性が大きく下がった(薄めない液で対照の2〜4%、4倍に薄めた液でも72時間で約72%。いずれも有意)。細胞の移動もほとんど進まなかった
・Bioroot Flow と AH Plus Bioceramic Sealer では、4倍に薄めた液で、代謝活性に対照との有意な差はどの時点でも検出されなかった。ただし薄めない Bioroot Flow は48時間で約86%、72時間で約70%と有意に低かった
・21日間の培養で、石灰化の染色は Bioroot Flow が最も強く、AH Plus Bioceramic Sealer、骨をつくる方向へ導く培養液(陽性対照)より有意に高かった。ただし液に含まれるカルシウムが沈着しただけの可能性を著者らが挙げている
・分化の遺伝子は、Bioroot Flow で上がったもの(21日の CAP・BSP)と下がったもの(21日の CEMP1・RUNX2)が混在した
・炎症の物質 IL-6 は、カルシウムシリケート系の2つで対照より有意に低く、AH Plus で有意に高かった
・ヒトの細胞1種類を使った実験室の研究で、患者さんの根尖の治りを調べたものではない

②なぜこの研究が必要だったか

著者らは序論で、どの充填法でもシーラーは根尖孔や側枝から歯周組織へ押し出されることがあり、少なくとも周りの細胞や組織に悪い反応を起こさないことが求められる、と書いています。さらに、シーラーには周りの細胞に良い影響を与える「生物活性」があることが理想だ、とも述べています。

そこで注目されるのが歯根膜幹細胞です。著者らは、根管内の材料が押し出されると触れる細胞であること、セメント質や骨をつくる細胞へ分化する力を持つことを理由に挙げています。

Bioroot Flow は、製造者によれば生体親和性と生物活性を持つプレミックス型のケイ酸三カルシウム系シーラーです。ただ、その細胞への働きや炎症への作用は、他のシーラーと比べて調べられていませんでした。著者らによると、Bioroot Flow を調べた研究はこれが初めてで、AH Plus Bioceramic Sealer についても報告はまだ少ない、というのが出発点です。

③何をどう調べたか

・細胞:健康な18〜30歳の10人から、矯正や歯周病の理由で抜いた第三大臼歯の歯根膜から採ったヒト歯根膜幹細胞(継代2〜4代目)。表面の目印(CD73・CD90・CD105 など)で幹細胞の性質を確かめている
・対照:培養液だけで育てた細胞
・シーラー:Bioroot Flow、AH Plus Bioceramic Sealer、AH Plus。直径5mm・高さ2mmの型に入れ、37℃で48時間かけて硬化させた
・抽出液:硬化させた円板を培養液に24時間浸して作った液を、そのまま・2倍・4倍に薄めて使った(国際規格 ISO 10993-5・-12 に沿った作り方)

調べたのは次のとおりです。

(1)代謝活性(MTT):3つの濃さの液を24・48・72時間かけ、生きて働いている細胞の量を発色で測った(培養液だけの細胞=対照と比べた割合)
(2)移動(スクラッチ試験):細胞の層に引っかき傷を付け、3つの濃さの液の中で24・48・72時間後に傷がどれだけ残っているかを測った
(3)細胞骨格の染色・電子顕微鏡:3つの濃さの液で72時間育てた細胞の形を染色で、各材料5枚の円板の上で72時間育てた細胞の付き方を電子顕微鏡で観察した(写真による定性的な評価)
(4)炎症の物質(ELISA):72時間後の IL-6・IL-8 の量を測った
(5)分化の遺伝子(RT-qPCR):薄めない液で7日・21日培養し、セメント質や骨をつくる方向の目印(CEMP1・CAP・RUNX2・BSP)を測った
(6)石灰化(アリザリンレッド染色):薄めない液で21日培養し、カルシウムの沈着を染めて測った

(5)(6)では、培養液だけの細胞を陰性対照、骨をつくる方向へ導く市販の培養液(OsteoDiff)で育てた細胞を陽性対照としています。AH Plus は代謝活性の結果が悪かったため、(5)の遺伝子の実験から外されました。細胞の実験は各条件3つずつ(電子顕微鏡の観察は各材料5枚の円板)用意し、一元配置または二元配置の分散分析と Tukey の検定(有意水準5%)で比べています。

④結果:AH Plus の液で細胞の働きが大きく下がり、2つのバイオセラミックではおおむね保たれた

図1:シーラーの抽出液をかけた細胞の代謝活性(原著の図2。3種×3つの濃さ×3時点の全て) シーラー 抽出液の濃さ 24時間 48時間 72時間 AH Plus そのまま 3.7%* 3.7%* 1.8%* AH Plus 2倍に薄めた 57.7%* 29.3%* 6.7%* AH Plus 4倍に薄めた 88.4%* 90.3%(注2) 71.9%* AH Plus Bioceramic そのまま 96.5% 96.7% 87.5%* AH Plus Bioceramic 2倍に薄めた 96.5% 103.5% 103.1% AH Plus Bioceramic 4倍に薄めた 96.8% 101.1% 105.7% Bioroot Flow そのまま 98.1% 85.9%* 69.7%* Bioroot Flow 2倍に薄めた 100.2% 95.6% 70%*(注) Bioroot Flow 4倍に薄めた 103.1% 96.4% 96.4% 値=培養液だけの細胞(対照)を100%とした代謝活性の割合(MTT)。原著の図2の棒の中に記された数値。 *=対照より有意に低い(P<0.05。原著の図の印による)。印の無い値には、原著の図2で有意の印が無い。原著 の本文が全時点で有意差なしと明記するのは、AH Plus Bioceramic の2倍・4倍と Bioroot Flow の4倍。シー ラー同士の検定の結果は示されていない。 抽出液=48時間硬化させた円板を培養液に24時間浸した液。各条件3つずつ。 (注)Bioroot Flow の2倍・72時間は、図の数字は70%だが、棒の高さは対照の約8割に見え、図の中で食い違い がある。 (注2)AH Plus の4倍・48時間は図に印が無いが、原著の本文は AH Plus を全ての濃さ・時点で有意に低いと記 載しており、食い違う。有意差の有無は確定できない。 ヒト歯根膜幹細胞を使った実験室の研究。患者さんの歯で調べた結果ではない。
図1:シーラーの抽出液をかけたヒト歯根膜幹細胞の代謝活性(原著の図2。3種×3つの濃さ×3時点の全27点。数値は原著の図に記された対照比の割合)。

代謝活性は、AH Plus の液で大きく下がりました。薄めない液では24・48・72時間とも対照の2〜4%で、2倍に薄めた液でも72時間で約7%でした。4倍に薄めた液でも、24時間で約88%、72時間で約72%と有意に低い値でした。4倍・48時間(約90%)は図に有意の印がありませんが、本文は AH Plus を「全ての濃さ・時点で有意に低い」と書いており、食い違っています。

AH Plus Bioceramic Sealer は、2倍・4倍に薄めた液ではどの時点でも対照との有意な差が検出されませんでした。薄めない液では72時間で約88%と有意に低い値でした。Bioroot Flow は、4倍に薄めた液では有意な差が検出されませんでしたが、薄めない液では48時間で約86%、72時間で約70%、2倍に薄めた液でも72時間で有意に低い値でした(この点の図の数字は「70%」ですが、棒の高さは対照の約8割に見え、図の中で食い違いがあります)。

細胞の移動も同じ傾向でした。AH Plus の液では、どの濃さでも72時間後に傷の約85〜100%が開いたままでした(原著の図3の棒から筆者が読んだおおよその値。培養液だけの対照は72時間でほぼ閉じた)。AH Plus Bioceramic Sealer(2倍・4倍)と Bioroot Flow(3つの濃さとも)では、どの時点でも対照と有意な差は検出されませんでした。薄めない AH Plus Bioceramic Sealer は、24時間の時点だけ傷が有意に多く残っていました。

写真による観察では、AH Plus の液をかけた細胞は数が少なく形も崩れ、円板の表面にも細胞が付いておらず細胞の死を示す残骸が見られました。2つのバイオセラミックでは、細長い細胞が広がり、円板の表面にも多くの細胞が付いていました。

0 0.1 0.2 アリザリンレッド染色の吸光度(405nm) 0.02 0.01 0.07 0.15 0.09 陰性対照 AH Plus AH Plus Bioceramic Bioroot Flow 陽性対照 21日間、薄めない抽出液で培養。陰性対照=培養液だけ、陽性対照=骨をつくる方向へ導く培養液(OsteoDiff)。値は原著の図7の棒から筆者が読んだおおよその値(0.022・0.006・0.074・0.153・0.089を小数2桁に丸めた)。有意差(P<0.05):Bioroot Flow は他の4群すべてより高い。AH Plus Bioceramicは陰性対照より高く陽性対照より低い。AH Plus は陰性対照より低い。液のカルシウムの沈着で染まった可能性を著者らが指摘。ヒト歯根膜幹細胞の実験室研究
図2:21日間培養したあとの石灰化(アリザリンレッド染色の吸光度。原著の図7。値は図の棒から筆者が読んだおおよその値)。

石灰化の染色は、Bioroot Flow が最も強く(吸光度 約0.15)、陰性対照(約0.02)、陽性対照(約0.09)、AH Plus Bioceramic Sealer(約0.07)のいずれより有意に高い値でした。AH Plus Bioceramic Sealer は陰性対照より有意に高く、陽性対照より有意に低い値でした。AH Plus は陰性対照より有意に低い値でした(約0.01)。

図3:分化の遺伝子の発現(原著の図6。2つのバイオセラミック×4つの目印×2時点の全て) 目印の遺伝子 AH Plus BC 7日 AH Plus BC 21日 Bioroot Flow 7日 Bioroot Flow 21日 CEMP1(セメント質) 有意差なし ↓ 有意に低い 有意差なし ↓ 有意に低い CAP(セメント質) ↓ 有意に低い 有意差なし ↓ 有意に低い ↑ 有意に高い RUNX2(骨) ↓ 有意に低い 有意差なし ↓ 有意に低い ↓ 有意に低い BSP(骨) 有意差なし 有意差なし ↑ 有意に高い ↑ 有意に高い AH Plus BC=AH Plus Bioceramic Sealer。培養液だけの陰性対照と比べた向きと有意差(P<0.05。原著の図の棒の 上の印による)。 薄めない抽出液で7日・21日培養し、RT-qPCRで測定。各条件3つずつ。AH Plus は代謝活性の結果が悪かったため、この 実験に含まれない。 Bioroot Flow の7日の CEMP1 は対照より高めに見えるが、有意の印は無い。 ヒト歯根膜幹細胞を使った実験室の研究。患者さんの歯で調べた結果ではない。
図3:分化の遺伝子の発現(原著の図6。2つのバイオセラミックの液で7日・21日培養。培養液だけの陰性対照と比べた向きと有意差の印。AH Plus はこの実験に含まれない)。

分化の遺伝子は、一方向にはそろいませんでした。Bioroot Flow では、21日で CAP と BSP が陰性対照より有意に高く、BSP は7日でも有意に高い値でした。一方で、7日の CAP と RUNX2、21日の CEMP1 と RUNX2 は有意に低い値でした。AH Plus Bioceramic Sealer では、21日に上がった目印は無く、7日の CAP と RUNX2、21日の CEMP1 が有意に低い値でした。

著者ら自身も、ここに食い違いがあると書いています。石灰化の染色では Bioroot Flow が陽性対照を上回ったのに、分化の遺伝子は陽性対照のほうが高かった。その説明として、Bioroot Flow はカルシウムを多く含み、それが培養液の中で沈着して、細胞が分化したかどうかに関係なく染まった可能性がある、というのです。

図4:72時間後の炎症の物質の量(原著の図8。4群×2つの物質の全て) 群 IL-6(pg/mL) IL-8(pg/mL) 陰性対照(培養液だけ) 約200 約20 AH Plus 約310# 約200# AH Plus Bioceramic 約110* 約5 Bioroot Flow 約140* 約5 ELISAで測定。値は原著の図8の棒から筆者が読んだおおよその値。 #=陰性対照より有意に高い。*=陰性対照より有意に低い(P<0.05。原著の図の印による)。 IL-8 の2つのバイオセラミックは陰性対照と有意差が検出されていない。 細菌や毒素で炎症を起こしていない細胞での測定。シーラーをどの濃さで加えたかは原著に明記 がない。 ヒト歯根膜幹細胞を使った実験室の研究。患者さんの歯で調べた結果ではない。
図4:72時間後の炎症の物質の量(ELISA。原著の図8。値は図の棒から筆者が読んだおおよその値)。

炎症の物質では、AH Plus で IL-6(約310 pg/mL)と IL-8(約200 pg/mL)がどちらも陰性対照(約200・約20 pg/mL)より有意に高くなりました。2つのバイオセラミックでは、IL-6 が陰性対照より有意に低く(AH Plus Bioceramic Sealer 約110、Bioroot Flow 約140 pg/mL)、IL-8 は陰性対照と有意な差が検出されませんでした。

⑤結果の読み方

著者らの結論は、Bioroot Flow と AH Plus Bioceramic Sealer はどちらもヒト歯根膜幹細胞に対して十分で同程度の細胞適合性を示し、Bioroot Flow はセメント質・骨をつくる方向への分化と石灰化も促した、というものです。AH Plus の細胞への強い影響については、硬化の反応のときに出るビスフェノールAやホルムアルデヒドとの関連を、過去の報告を引いて述べています(この研究では測っていません)。

読むときに分けておきたいのは、次の3つです。

・細胞を傷めにくいか:代謝活性・移動・写真の観察で、AH Plus との差ははっきりしていました。ただし Bioroot Flow も、薄めない液では72時間で約70%でした
・骨やセメント質をつくる方向へ導くか:石灰化の染色は強く出ましたが、液のカルシウムの沈着で説明できる可能性があり、遺伝子は上下が混在していました
・炎症を抑えるか:IL-6 が陰性対照より低かったのは、炎症を起こしていない細胞での72時間後の測定です。細菌や毒素で炎症を起こした状態は調べていません

抄録は Bioroot Flow が「少なくとも1つの分化の目印を上げた」とまとめていますが、図を見ると下がった目印もあります。結論の言葉だけでなく、図の向きまで確かめたい研究です。

⑥明日の臨床へ

ここからは筆者の読みです。原著の主張ではありません。

この研究で分かったのは、硬化させたシーラーから24時間で溶け出した液を、ヒト歯根膜幹細胞にかけたときの反応です。根尖から押し出されたシーラーで、患者さんの根尖の治りや痛みが変わるかを調べたものではありません。

それでも、押し出しが起きたときに周りの細胞へどう影響しうるかを考える材料にはなります。AH Plus の液は、4倍に薄めても72時間で代謝活性を下げました。プレミックス型の2つのバイオセラミックは、薄めた液では細胞の働きをおおむね保ちました。一方、薄めない Bioroot Flow でも72時間で約70%まで下がっており、「バイオセラミックなら細胞に影響しない」とまでは言えません。

シーラーの押し出しを減らす作業長の管理と、根管の清掃・緊密な充填という基本の上で、材料選びの参考の一つにする。そのくらいの距離感で読みたい1本です。

ここだけ、冷静に補助線代謝活性から石灰化・炎症の物質まで、ヒトの歯根膜の細胞で幅広く見た実験です。そのうえで、読むときの補助線をいくつか。
(1)ヒト歯根膜幹細胞(10人の親知らずから採った細胞)を使った実験室の研究です。生体の中の反応や、患者さんの根尖の治りは調べていません。著者らも、管理された実験室の条件で、臨床での振る舞いに影響する要素は含まれていないことを主な限界に挙げています。
(2)抽出液は、48時間硬化させた円板を24時間浸して作ったものです。練ったばかり・硬化中のシーラーが押し出された場合や、長い期間の溶け出しは調べていません。
(3)石灰化の染色の強さは、液に含まれるカルシウムの沈着で説明できる可能性があります(著者らの指摘)。分化の遺伝子も上下が混在しています。「骨をつくる力が高い」とまでは読めません。
(4)炎症の物質の測定は、炎症を起こしていない細胞で72時間後の1回です。どの濃さで測ったかは原著に明記がありません。
(5)原著には記載の食い違いがいくつかあります。図1の説明文が電子顕微鏡の分析の説明になっている(図は細胞の目印の解析)、倫理審査の番号が本文(3686/2021)と流れ図(2199/2018)で違う、図6の説明に3・14日とあるが図は7日と21日だけ、Bioroot Flow の2倍・72時間の数字(70%)と棒の高さが合わない、などです。
(6)資金はスペインの公的研究費などで、著者らは利益相反なしとしています。同じ研究グループは以前にも AH Plus Bioceramic Sealer を調べています。
新しいシーラーの細胞への働きを、最初に幅広く見せてくれた1本、という位置づけで読むのがよさそうです。

今日のひとこと

ヒト歯根膜幹細胞の培養では、プレミックス型のカルシウムシリケート系シーラー2つ(Bioroot Flow・AH Plus Bioceramic Sealer)から溶け出した液で、細胞の代謝活性と移動がおおむね保たれ、AH Plus の液では大きく下がりました。Bioroot Flow では石灰化の染色も強く出ましたが、液のカルシウムが沈着しただけの可能性があり、分化の遺伝子には上がったものと下がったものが混在していました。細胞1種類の実験室の研究で、根尖から押し出されたシーラーが患者さんの体の中でどう振る舞うかは別の問題です。「細胞にやさしい」の中身を、測った指標ごとに分けて読みたい1本です。

Sanz JL, López-García S, García-Bernal D, Rodríguez-Lozano FJ, Forner L, Lozano A, Murcia L. Comparative bioactivity and immunomodulatory potential of the new Bioroot Flow and AH Plus Bioceramic sealer: An in vitro study on hPDLSCs. Clin Oral Investig. 2024;28(3):195. doi: 10.1007/s00784-024-05593-7. PMID: 38441709
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。