エンド|抜去した上顎中切歯27本(各方法9本)の歯根表面にひずみゲージを貼り、側方加圧・Obtura・Thermafil で根管充填したときの歯根のひずみと充填の荷重を測り、スプレッダーで破折させる荷重も調べた実験室研究(SawとMesser 1995・Journal of Endodontics)
垂直性歯根破折の原因として、根管充填、とくに側方加圧がよく挙げられます。SawとMesserは1995年、抜去した上顎中切歯27本で、3つの充填方法の歯根のひずみを測りました。充填中の最大の荷重は Thermafil が平均0.92kgで最も小さく、歯根表面の総ひずみは Obtura が最も大きい結果でした。歯冠側3分の1では、Obtura と Thermafil のひずみ(熱によるひずみと加圧によるひずみの最大値の和)のうち、熱によるひずみが69.4%と95.1%を占めました(この定義での熱の割合は、Obtura の根尖側では22.4%)。側方加圧と Thermafil の総ひずみには、結果の節では有意差が検出されていません(抄録の記載とは食い違います)。各方法9本の実験室研究(in vitro)で、患者さんの歯で破折が起きるかは調べていません。
①根管充填のとき、歯根にはどれだけの力がかかる?
垂直性歯根破折の原因として、根管充填、とくに側方加圧がよく挙げられます。スプレッダーを押し込むたびに、歯根は内側から押し広げられる。では、温めたGPで詰める方法なら、歯根への負担は小さいのか。
この問いを抜去歯で調べたのが、SawとMesserが1995年に Journal of Endodontics に報告した実験室研究です。抜去した上顎中切歯27本の歯根表面にひずみゲージを貼り、側方加圧・Obtura(注入式の熱可塑性GP)・Thermafil(キャリア付きのGP)の3つの方法で根管充填をしたときの、歯根のひずみと、充填のときにかけた荷重を測りました。
・充填中の最大の荷重は、側方加圧で平均2.47kg、Obturaで2.59kg、Thermafilで0.92kg。Thermafil は他の2つより有意に小さかった(各群9本)
・歯根表面の総ひずみは、Obtura が最も大きく、側方加圧・Thermafil より有意に大きかった。側方加圧と Thermafil のあいだに有意差は検出されなかった(抄録は「Thermafil は Obtura・側方加圧より有意に小さい」と書いており、結果の節と食い違う)
・歯冠側3分の1では、Obtura と Thermafil のひずみの多くが、温かいGPによる熱によるひずみだった(Obtura 69.4%、Thermafil 95.1%(熱によるひずみと加圧によるひずみの最大値の和のうち、熱によるひずみの割合)。Obtura の根尖側3分の1は22.4%)
・スプレッダーで歯根を破折させた荷重は平均16.1kg(4.9〜25kg超)で、著者らは、充填時の荷重の5〜6倍だったと書いている
・抜去した上顎中切歯27本(各方法9本)の実験室研究(in vitro)。室温で、1人の術者が充填した。患者さんの歯で破折が起きるかは調べていない
②なぜこの実験が必要だったか
著者らは序論で、こう整理しています。垂直性歯根破折は診断が難しく、根管治療をした歯に多く、予後が悪い。よく挙げられる原因の1つが、根管充填のときに歯根に生じる応力で、とくに側方加圧が大きな原因とされてきた。光弾性模型・有限要素解析・ひずみゲージの研究で、側方加圧のときに歯根に局所的な応力が生じることが示されている。
一方で、GPを熱で軟らかくして詰める新しい方法が増えてきたが、そのときの歯根のひずみはほとんど調べられていなかった。側方加圧はスプレッダーのくさびの作用で、垂直加圧は温かいGPを根尖方向に押し込む荷重で、Thermafil は挿入のときだけ、ひずみを生じると考えられる。ここまでは、著者らが引いた文献と、著者らの見立てにもとづく整理です。
③何をどう比べたか
使ったのは、抜去したばかりのヒトの上顎中切歯27本です。破折・ひび・大きなう蝕・根未完成の歯は除き、エックス線写真で石灰化した根管や大きすぎる根管がないことを確かめています。歯冠はセメントエナメル境から2mm上で切り、ステップバック法で40号か45号まで形成しました。
歯根の唇側面の、歯冠側3分の1と根尖側3分の1に、ひずみゲージを横向きに貼りました。歯根の周の方向のひずみ(押し広げられて伸びた量)を測るためです。ゲージをシリコーン(約200µm)で覆い、石膏に埋めて、歯根膜と骨の代わりにしています。この台ごと上皿天秤に載せ、充填のときにかけた縦の荷重も同時に記録しました。
27本を9本ずつ、3つの方法に無作為に割り付けました。シーラーはすべて AH26、充填は1人の術者が行っています。
・側方加圧:45号のマスターコーンを入れ、D11スプレッダーを作業長の1mm手前まで入れて、補助コーンを足していく
・Obtura:注入式の熱可塑性GP(本体は最高温度の設定)。針を作業長の3〜5mm手前まで入れてGPを出し、プラガーで押し固める。これを2回
・Thermafil:金属のキャリア付き(40号か45号)。炎で温めて押し込み、歯冠側のGPをプラガーで押し固める
ひずみは、充填の前の30秒から5分間、連続して記録しました。単位はマイクロストレイン(もとの長さの100万分の1の伸び)です。ひずみが熱によるものかを確かめるため、別の実験として、熱電対で歯根表面の温度も同時に測っています。
最後に、側方加圧と Obtura の歯で、GPを根尖側3分の1か歯冠側3分の1の高さまで除去してから、試験機に付けたスプレッダー(40号)を毎秒5Nで押し込み、歯根が破折するまでの荷重を測りました(上限25kg)。
統計は、荷重に一元配置分散分析、ひずみに二元配置の共分散分析(方法とゲージの位置。充填の荷重を共変量)とScheffeの検定を使っています。
④結果:Obtura が最も大きく、歯冠側では熱によるひずみが大きかった
充填中の最大の縦の荷重は、側方加圧で平均2.47kg、Obturaで2.59kg、Thermafilで0.92kgでした(原著の表1。本文では2.46kg・2.60kgと書かれています)。Thermafil は、側方加圧と Obtura より有意に小さい値です(p<0.01)。側方加圧と Obtura のあいだには、有意差は検出されませんでした。
ひずみは、どの方法でも数百マイクロストレイン程度でした。歯冠側3分の1では、Obtura の総ひずみが Thermafil の2倍以上、側方加圧の4倍だった、と著者らは書いています。根尖側3分の1でも Obtura が最も大きく、次が側方加圧、最も小さいのが Thermafil でした。Obtura と Thermafil は歯冠側のほうが、側方加圧は根尖側のほうが大きいという違いもありました。
統計では、総ひずみは方法によって有意に違い(p<0.001)、Obtura は側方加圧と Thermafil のどちらより有意に大きい値でした(どちらも p<0.01)。側方加圧と Thermafil のあいだには、有意差は検出されていません。一方、抄録には「Thermafil は Obtura と側方加圧より有意に小さかった」と書かれており、結果の節と食い違っています。
Obtura と Thermafil の記録には、2つの成分がありました。温かいGP(Obtura では熱い針)を入れた直後に急に生じてゆっくり戻る「熱によるひずみ」と、その上に乗る、押し固めるたびの鋭い「加圧によるひずみ」です。熱によるひずみが占めた割合は、Obtura で歯冠側69.4%・根尖側22.4%、Thermafil で歯冠側95.1%・根尖側92.8%でした(熱によるひずみと加圧によるひずみの最大値の和のうち、熱によるひずみの割合)。Thermafil の根尖側では、キャリアを入れた瞬間の鋭いひずみに、器具そのものによる機械的な広がりも含まれうるが、加圧とは関係しないので全体を熱によるものとして扱った、と著者らは書いています。
別に行った熱電対の実験(Obtura の針を根管の歯冠側半分に入れるだけで、根管壁に押し当てず、GPも出さない)では、針を入れると、温度が上がる3〜4秒前からひずみゲージが反応し、歯根表面の温度の上昇は約3℃でした。著者らは、ゲージそのものの熱の影響ではなく、象牙質が熱で膨張したものだと判断しています。加圧によるひずみは充填の荷重と有意に関連し(p<0.001)、荷重を考慮すると方法やゲージの位置とは有意に関連しませんでした。熱によるひずみは、歯冠側のほうが根尖側より有意に大きく(p<0.001)、Obtura は Thermafil より大きい値でしたが、この差は有意ではありませんでした。
破折の実験では、側方加圧と Obtura の歯17本で、破折に要した荷重は平均16.1kg(4.9〜25kg超)でした。GPを残した高さによる有意差は検出されていません。17本のうち14本は完全に破折し、2本は部分的な破折、1本は上限の25kgでも破折しませんでした。破折は主に唇舌方向で、17本中13本は根尖孔を通り、セメントエナメル境より歯冠側に及んだものはありませんでした。
⑤結果の読み方
著者らの考察はこうです。Obtura のひずみが最も大きかったのは、固まっていくGPの塊を平らな先端の器具で押し固めるからで、室温での充填もひずみを大きくしたかもしれない。ただし、大きくても均一に分散した荷重は、小さくても偏った荷重ほど破折を起こしにくい可能性がある。Obtura のひずみの大きさの臨床的な意味は、現時点では分からない。どの方法でも、総ひずみは全体として小さかった、とも書いています。
熱膨張について、著者らは、これまで報告されていなかった予想外の所見だとしています。側方加圧で根尖側のひずみが大きかったのは、根尖側の象牙質が薄いことや、細い部分でスプレッダーの先がくさびとして働くことによるのかもしれない、とも考察しています。
破折の荷重は、平均では充填時の荷重の5〜6倍だった一方で、4.9kg で破折した歯もありました。著者らは、これは平均的な充填の荷重の2倍にすぎないと書き、歯ごとの解剖学的・生物学的なばらつきのほうが、充填の方法よりも、どの歯が破折するかを決める要因として大きいかもしれない、と結んでいます。
⑥明日の臨床へ
ここからは筆者の読みです。原著の主張ではありません。
この実験が教えてくれるのは、「温かいGPで詰めれば歯根へのひずみが小さい」とは限らない、ということです。この条件では、Obtura の総ひずみは側方加圧より大きく、歯冠側では、温かい方法のひずみ(熱によるひずみと加圧によるひずみの最大値の和)の多くが、押す力ではなく熱によるものでした(この定義での熱の割合は、Obtura の根尖側では22.4%)。
一方で、ひずみが大きいことが、そのまま破折しやすさにつながるとは言えません。破折の荷重は Thermafil の歯では測っておらず、Obtura と側方加圧のあいだで破折の荷重も比べていません。4.9kg で割れた歯があったことは、方法よりも歯そのものの弱さに目を向ける必要を示しているように見えます。
どの方法でも、スプレッダーやプラガーにかける力と、温めた器具やGPの扱いに気を配る。その理由を、ひずみの数字で見せてくれる1本です。
(1)実験室研究(in vitro)です。抜去した上顎中切歯27本(各方法9本)を、シリコーンと石膏に埋めて使っています。歯根膜や骨の代わりで、患者さんの口の中の条件とは違います。
(2)充填は室温で行い、術者は1人です。Obtura は最高温度の設定で使っています。
(3)ひずみは唇側面の2か所(歯冠側3分の1と根尖側3分の1)の、周の方向だけを測っています。応力の集中は調べていない、と著者らも書いています。
(4)総ひずみの比較について、抄録は「Thermafil は側方加圧より有意に小さい」と書いていますが、結果の節と表2の注では、有意差があるのは Obtura と他の2つのあいだで、側方加圧と Thermafil のあいだには有意差は示されていません。この記事は結果の節に従いました。
(5)ひずみの値は図(棒グラフ)でしか示されておらず、この記事では図から数値を読み取っていません。歯冠側で「Obtura は Thermafil の2倍以上、側方加圧の4倍」は、著者らの本文の記述です。
(6)荷重の値は、表1(2.47kg・2.59kg)と本文(2.46kg・2.60kg)でわずかに違います。
(7)破折の実験は、側方加圧と Obtura の歯だけで行っています。9本ずつで18本のはずですが、結果は17本で報告されており、1本の扱いは書かれていません。方法のあいだで破折の荷重は比べていません。
(8)研究は、オーストラリア国立保健医療研究評議会の助成を受けた、メルボルン大学の修士論文にもとづくものです。利益相反についての記載は、論文中に見当たりません。
「温かいGPなら歯根にやさしい」という思い込みを、熱膨張という意外な所見で揺さぶってくれる実験、という位置づけで読むのがよさそうです。
今日のひとこと
この実験が示したのは、温かいGPで詰めれば歯根のひずみが小さい、とは限らないということです。歯根表面の総ひずみは Obtura が最も大きく、歯冠側では、温かいGPの方法のひずみ(熱によるひずみと加圧によるひずみの最大値の和)の多くが、押す力ではなく熱によるものでした(この定義での熱の割合は、Obtura の根尖側では22.4%)。充填の荷重は Thermafil が最も小さい値でした。ただし、ひずみの大きさが破折しやすさにそのままつながるとは言えず、著者らも Obtura のひずみの臨床的な意味は分からないとしています。4.9kg で破折した歯もあり、著者らは、方法よりも歯ごとのばらつきのほうが破折に大きく関わるかもしれないと結んでいます。器具にかける力と熱の扱いに気を配る理由を、数字で見せてくれる1本です。


