エンド|メタクリレート系(レジン系)の根管用シーラーを4つの世代に分け、封鎖性・象牙質への接着・充填材との結合・破折抵抗・生体適合性・除去・吸水・臨床成績について、2010年までの実験室研究と臨床研究を検討した総説(Kimら 2010・Journal of Endodontics)
シーラーが象牙質にも充填材にも接着すれば、根管の中は隙間のない一塊(モノブロック)になる。そう期待されたレジン系の「接着する」シーラーを、Kimらは2010年の総説で検討しました。著者らの結論は、これまでのデータからは、接着する充填材と組み合わせたメタクリレート系シーラーを使う明確な利点は、現時点では見えない、というものです。著者らが表にまとめた漏洩の実験室研究38本は、従来のシーラーより良い14本・差を認めなかった11本・悪い13本に分かれ、破折抵抗の研究で著者らの2つの条件(形成だけで充填しない歯根を対照に置く・充填した群がその対照より有意に低くない)を満たす11本では、強くなったのは2本でした(いずれも筆者が表から数えた)。臨床成績の研究は4本で、従来のシーラーと比べたのは1本だけ(差は検出されず。表3から筆者が数えた)でした。研究の集め方の手順が示されていない総説(ナラティブレビュー)で、2010年以降のシーラーは含まれていません。
①「接着するシーラー」で、根管は一塊になるのか?
シーラーが象牙質にも充填材にも接着すれば、根管の中は隙間のない一塊(モノブロック)になり、封鎖も歯根の強さも良くなる。2000年代、そう期待されて、レジン系の「接着する」シーラーと、Resilon のような接着できる充填材が相次いで登場しました。では、その期待は研究で裏付けられたのか。
この問いに、2010年までの研究を整理して答えようとしたのが、Kimらが2010年に Journal of Endodontics に発表した総説(Critical Review)です。メタクリレート系(レジン系)のシーラーを4つの世代に分け、封鎖性、象牙質への接着、シーラーと充填材の結合、歯根の破折抵抗、生体適合性、再治療での除去、吸水と溶出、臨床成績の順に、実験室研究と臨床研究を検討しています。
・著者らの結論は、「これまでの実験室と臨床のデータからは、接着する充填材と組み合わせたメタクリレート系シーラーを使うことに、現時点で明確な利点は見えない」
・漏洩を調べた実験室研究38本(著者らの表1)を、各研究の著者の主張で分けると、従来のシーラーより良い14本、差を認めなかった11本、悪い13本だった(筆者が表から数えた。「差を認めなかった」は同等の証明ではない)
・破折抵抗の実験室研究のうち、著者らが決めた2つの条件を満たす11本では、強くなった2本、差を認めなかった8本、弱くなった1本(筆者が数えた)。著者らは、今のシーラーは根管の象牙質の力学的な性質を変えられないとまとめている
・臨床成績の研究は4本だけで、従来のシーラーと比べた研究は1本(差は検出されず)、残る3本は比べる群が無い(表3から筆者が数えた)
・この記事のもとは、研究を系統的に集めて統合したものではない、著者らによる総説(ナラティブレビュー)。実験室研究の多くは、方法も期間もそろっていない
②なぜこの総説が書かれたか
著者らは序論でこう述べます。従来の接着しないシーラーでも、予測できる臨床成績が報告されている。それでも、根管壁の象牙質と充填材の両方に同時に接着するシーラーが求められ続けてきた。修復の分野でセルフエッチング・セルフアドヒーシブの技術が広まると、同じ働きの低粘度のレジン系シーラーが根管治療にも登場し、「根管の中にモノブロックを作る」という性質を強く宣伝されてきた。
モノブロックとは、根管の中が、異なる材料と界面からなる隙間のない固い塊で満たされた状態を指し、封鎖と破折抵抗を同時に良くすると言われてきました。著者らは、これらのシーラーのふるまいを明らかにし、臨床で使う利点を示すエビデンスがあるかを確かめることを、この総説の目的に挙げています。
③4つの世代と、検討したこと
・第1世代(1970年代半ば):Hydron。ポリHEMAが主成分で、根管に注入して重合させた。強い炎症反応、吸収、大きな漏洩、吸水と膨潤が報告され、1980年代に使われなくなった
・第2世代:EndoREZ。エッチングしない親水性のシーラーで、次亜塩素酸ナトリウムとEDTAでスミヤー層を除いてから使う。レジンでコーティングしたGPと組み合わせる
・第3世代:セルフエッチングプライマーとシーラーの組み合わせ。FibreFill、Epiphany(RealSeal)など。Epiphany は充填材の Resilon と組み合わせ、メーカーは「根管充填の新時代」と宣伝した
・第4世代:エッチング・プライミングの工程も省いたセルフアドヒーシブのシーラー。MetaSEAL(日本では Hybrid Bond SEAL)、RealSeal SE など。4-META を含む
そのうえで著者らは、根管の中での接着の難しさを挙げます。視野と到達性の制限、根尖側に多い硬化象牙質、根管壁の削片、そして細長い根管の非常に高い窩洞形態係数(Cファクター)です。この条件では、低粘度のレジン系シーラーの薄い膜の封鎖は大きく損なわれうる、としています。
④研究を並べると、どうだったか
象牙質への接着:MetaSEAL と RealSeal SE は、EDTA を使わないと、ニッケルチタンファイルが作る厚いスミヤー層を越えて象牙質をエッチングできなかった、と著者らは書いています。実験室研究のプッシュアウト強さでは、接着する充填材とレジン系シーラーの組み合わせは、GPと従来のシーラーより「例外なく」有意に低かった、とも述べています(著者らが引いた研究の結果)。
漏洩:著者らの表1には、メタクリレート系シーラーの漏洩を調べた実験室研究が38本並んでいます。各研究の著者の主張で分けると、従来のシーラーより漏洩が少ない14本、差を認めなかった11本、多い13本です(筆者が数えた)。差を認めなかった研究は、同等であることを示したものではありません。方法は色素・液体ろ過・細菌・グルコースとさまざまで、期間も直後から16か月までそろっていません。著者らは、これらの実験室の漏洩研究の臨床的な意味には強い疑問が出されている、とも書いています。
シーラーと充填材の結合:Resilon とシーラーの接着強さは、コンポジットレジンとシーラーの接着強さの4〜5分の1だった、Epiphany の Resilon への接着強さはエポキシ系の AH 26 より低かった、という研究を挙げ、著者らは、シーラーと充填材の化学的な結合は総じて弱いか最適化されていない、とまとめています。
破折抵抗:著者らは、破折抵抗の研究を読むときの2つの条件を決めています。(1) 形成しただけで充填していない歯根を対照に置いていること、(2) 充填した群の値が、その対照より有意に低くないこと。表2で2つとも満たす11本のうち、破折抵抗が上がったのは2本、差を認めなかったのは8本、下がったのは1本でした(筆者が数えた)。著者らは、今のメタクリレート系シーラーと接着の手順は、根管の象牙質の力学的な性質に影響を与えられない、とまとめています。
生体適合性・除去・吸水:EndoREZ の細胞毒性・組織反応の報告はまちまちで、MetaSEAL は最初の1週間は強い細胞毒性を示したあと毒性が無くなった、Epiphany は、ある研究では空気に触れると固まるまで最大7日かかり、別の実験室研究では2週間後も40%が重合していなかった、という研究が引かれています。再治療では、従来のシーラーとGPより取り除きやすいという見方でおおむね一致している一方、Epiphany は歯科で使う溶剤に溶けません。溶解度は、メタクリレート系シーラー3種(Epiphany・InnoEndo・EndoREZ)で3〜8%と、米国歯科医師会の規格(3%未満)を満たさないものが多い、としています。
臨床成績:文献を検索して見つかった関連論文は4本だけでした(著者らの表3)。EndoREZ の症例集積(表3の成功率の列で、1〜2年91.3%、5年86.3%〔累積の成功の確率〕。どちらも比べる群が無く、脱落は19.44%と33.33%)、Resilon の開業医での症例の報告(89.36%=臨床的な治癒の印象〔CIH〕で健康または治癒中とされた割合。比べる群なし)、そして Resilon/Epiphany と GP/従来のシーラーを比べた研究(表3では後ろ向き、総説の本文では質の低いランダム化比較試験と記載。表3の成功率78.6%、充填材の種類で成績に有意差は検出されず、追跡2〜25か月)です。
⑤結果の読み方
著者らの結論は、抄録の一文に集約されています。一部の実験室研究では、封鎖性、セルフエッチングの力、生体適合性、除去のしやすさで、従来の接着しないシーラーより良い可能性が示された。しかし、モノブロックという理想の目標の達成は、今も大きな課題である。これまでの実験室と臨床のデータからは、接着する充填材と組み合わせたメタクリレート系シーラーを使う明確な利点は、現時点では見えない。
著者らは最後に、問いを投げかけています。根管充填の失敗は、材料よりも術者の責任であることが多い。根管洗浄の不十分さ、根尖部の拡大の不足、封鎖の良い修復が入っていないことを差し置いて、充填材を失敗の原因にするのは適切か。清掃・拡大と歯冠修復が十分なら、接着するシーラーの利点が将来のランダム化比較試験で示されるかは疑わしい、と述べています。これは著者らの見解です。
⑥明日の臨床へ
ここからは筆者の読みです。原著の主張ではありません。
この総説が教えてくれるのは、「接着する」「一塊になる」という言葉と、研究で確かめられたことのあいだの距離です。2010年の時点では、漏洩の実験室研究は良い・差を認めない・悪いに割れ、破折抵抗は多くの研究で上がったと示されず、臨床で従来のシーラーと比べた研究は1本だけでした。
一方で、これは2010年までの研究の整理です。その後に出たシーラー、とくにバイオセラミック系のシーラーについては、この総説は何も言っていません。また、研究を系統的に集めて統合した分析ではなく、著者らが選んで評価した総説です。
新しい材料の宣伝文句を聞いたときに、「その利点は、何と比べて、どんな研究で示されたのか」を確かめる。その習慣を思い出させてくれる1本です。
(1)研究の集め方や選び方の手順が示されていない、著者らによる総説(ナラティブレビュー)です。臨床成績の研究だけは、キーワードで文献を検索したと書かれています。
(2)漏洩38本・破折抵抗11本の数は、著者らの表1・表2の分類(各研究の著者が主張した結果)を筆者が数えたものです。原著の図4・図5は円グラフで示していますが、本文に割合の数値は書かれていません。
(3)漏洩の研究は、色素・液体ろ過・細菌・グルコースと方法が違い、期間も直後から16か月までばらばらです。同じ物差しで比べたものではありません。
(4)臨床成績の4本は、3本が比べる群の無い症例の集まりで、従来のシーラーと比べた1本も、著者らは質の低いランダム化比較試験(エビデンスレベル2)と評価しています。追跡も2〜25か月とばらつきがあります。なお、この1本は、表3では「後ろ向き(Retrospective)」と書かれ、本文では「患者の割り付けに無作為化を行った」質の低いランダム化比較試験と評価されており、原著の中で記載が食い違います。
(5)2010年までの研究の整理で、その後のシーラー(バイオセラミック系など)は含まれていません。
(6)総説は、米国ジョージア医科大学歯学部の歯科研究センターの資金で行われています。利益相反についての記載は、論文中に見当たりません。
新しい材料を、宣伝ではなく研究の中身で評価する。その見本として読むのがよさそうです。
今日のひとこと
この総説が示したのは、「接着する」「一塊になる」という宣伝と、2010年までの研究で確かめられたことのあいだに距離があったということです。漏洩の実験室研究は良い・差を認めない・悪いに割れ、破折抵抗が上がったと示した研究は少なく、臨床で従来のシーラーと比べた研究は1本だけでした(いずれも総説の表から筆者が数えた)。著者らは、接着する充填材と組み合わせたメタクリレート系シーラーに、現時点で明確な利点は見えないと結論しています。ただし、研究の集め方の手順が示されていない総説で、その後に出たシーラーは含まれていません。新しい材料の利点を、何と比べてどんな研究で示されたのかで確かめる。その習慣を思い出させてくれる1本です。


