保存修復|抜去したヒト大臼歯24本を4群(各6本)に分け、頬側面・舌側面に皿状の窩洞とベベルを4種類のバーで形成。各群1本は形成後の窩縁の観察に使い、残りの各群5本をセルフエッチングの接着システムとコンポジットレジンで修復。5℃と55℃の温度負荷500回のあと、窩縁のエナメル質の亀裂とギャップを光学顕微鏡で数えた実験室研究(Nishimuraら 2005・Journal of Medical and Dental Sciences)
コンポジットレジン修復の窩洞を、レギュラーのダイヤモンドバーで削る。窩縁はそのまま充填に進むか、細かい粒度のバーで仕上げ直すか。Nishimuraらは2005年、抜去したヒト大臼歯に4種類のバーで窩洞とベベルを作り、各群5本を修復して温度負荷をかけたあとの、窩縁のエナメル質の亀裂とギャップを数えました。窩縁を8区画に分けて亀裂が見つかった区画を数えると、スーパーファインのダイヤモンドバーで仕上げた群は平均3.8区画。レギュラーのダイヤモンドバーだけの群(7.0区画)とカーバイドバーの群(7.2区画)より有意に少ない値でした。ファインのダイヤモンドバーで仕上げた群(6.0区画)とのあいだには、有意差は示されていません。ギャップが見つかった区画の数には、表面の観察で、4群のあいだに有意差は検出されませんでした。歯を縦に切った断面の観察では、ギャップがある歯の本数を数えており、スーパーファインの群がカーバイドバーの群より有意に少ない、という結果でした。抜去歯・各群5本・1種類の接着システムの実験室研究(in vitro)で、修復物の成績や二次う蝕は調べていません。
①窩縁の仕上げ、バーの粗さで何が変わる?
コンポジットレジン修復の窩洞を、レギュラーのダイヤモンドバーで削る。窩縁はそのまま充填に進むか、細かい粒度のバーで仕上げ直すか。「粗い面のほうが接着に有利」と習った人も多いはずです。
この問いを抜去歯で調べたのが、Nishimuraらが2005年に Journal of Medical and Dental Sciences に報告した実験室研究です。4種類のバーで窩洞と窩縁のベベルを仕上げ、コンポジットレジンを充填して温度変化の負荷をかけたあと、窩縁のエナメル質の亀裂(クラック)と、歯と修復物のあいだの隙間(ギャップ)を光学顕微鏡で数えました。
・窩縁を8区画に分け、亀裂が見つかった区画の数を数えると、スーパーファインのダイヤモンドバーで仕上げた群は平均3.8区画。レギュラーのダイヤモンドバーの群(7.0区画)とカーバイドバーの群(7.2区画)より有意に少なかった(各群5本)
・ファインのダイヤモンドバーで仕上げた群(6.0区画)とスーパーファインの群のあいだには、有意差は示されていない
・ギャップが見つかった区画の数は、スーパーファインの群で平均0.2区画といちばん少なかったが、表面の観察では4群のあいだに有意差は検出されなかった
・歯を縦に切った断面の観察では、ギャップがある歯の本数を数えた。バーの種類の影響は有意で、スーパーファインの群はカーバイドバーの群より有意に少なかった
・抜去したヒト大臼歯24本(修復したのは各群5本)、1種類の接着システムを使った実験室研究(in vitro)。修復物の成績や二次う蝕は調べていない
②なぜこの実験が必要だったか
著者らは序論で、こう整理しています。コンポジットレジンの重合収縮の応力は、今も修復の大きな問題の1つである。接着システムの接着強さが上がったことで、レジンと窩壁のあいだのギャップは減ってきた。一方でエナメル質は小柱の構造をもち、力がかかると引きはがされやすい。重合収縮の応力が歯の強さを上回ると、亀裂が、多くはエナメル質に生じる、と。
バーについては、こうです。接着の面積と微小な機械的維持を増やすために、レギュラーのダイヤモンドバーで粗い面を作ることが勧められてきた。しかし、バーで窩洞を削ること自体が、エナメル質に微小な破折を作りやすい。その程度は、ダイヤモンドの粒度やバーの種類に左右されうる。窩縁の機械的な損傷をできるだけ小さくして削ることが、修復した部位のエナメル質の亀裂を防ぐうえで大切かもしれない。ここまでは、著者らが引いた教科書や報告にもとづく整理です。
③何をどう比べたか
材料は、抜去した健全なヒト大臼歯24本です(表面に亀裂がないことを24倍の光学顕微鏡で確かめたもの)。6本ずつ4群に分けました。
歯冠中央部の頬側面または舌側面に、深さ約1.5mm・直径約2mmの皿状の窩洞を作り、窩縁に凹面のベベル(考察によれば幅0.5mm)を付けています。使ったのは、直径1.4mmのラウンド形のバーと、エアタービン(毎分40万回転、十分な注水)です。
・1群:レギュラーのダイヤモンドバー(平均粒度100µm)で窩洞形成とベベルまで
・2群:レギュラーのダイヤモンドバーで窩洞形成のあと、ファインのダイヤモンドバー(60µm)で仕上げとベベル
・3群:レギュラーのダイヤモンドバーで窩洞形成のあと、スーパーファインのダイヤモンドバー(25µm)で仕上げとベベル
・4群:6枚刃のタングステンカーバイドバーで窩洞形成とベベルまで
各群1本は、削っただけの窩縁を200倍の測定顕微鏡で観察しました。残りの5本は、セルフエッチングプライマーの接着システム(Clearfil SE Bond)とコンポジットレジン(Clearfil AP-X)で修復しています(光照射は600mW/cm²で40秒)。仕上げと研磨のあと、5℃と55℃のあいだを500回往復させる温度負荷をかけました。
評価は2段階です。まず、修復物の辺縁に染色液(1.0%アシッドレッドのプロピレングリコール液)を5秒作用させて水洗し、窩縁を8等分。亀裂またはギャップが見つかった区画の数(0〜8)を、歯ごとに数えました。次に、窩洞の中央で歯を縦に切り、断面を研磨して同じ液で染め、咬合側と歯肉側の窩縁に亀裂やギャップがある歯の本数を数えています。
統計は、表面の観察の区画数に一元配置分散分析とTukeyのHSD検定、断面の観察の歯の本数に二元配置分散分析(因子はバーの種類と、咬合側・歯肉側の別)とScheffeの検定を使っています(有意水準5%)。
④結果:亀裂はスーパーファインで少なく、ギャップは検定ごとに違った
削っただけの窩縁(各群1本)の観察では、レギュラーのダイヤモンドバーの窩縁がいちばん粗く、小さなエナメル質の破片が見られました。ファインで仕上げた窩縁は、レギュラーと似ていました。スーパーファインで仕上げた窩縁は滑らかで、亀裂がいちばん少なく、カーバイドバーでは、エナメル質の欠けと亀裂が多く生じていた、と著者らは書いています。
亀裂が見つかった区画の数は、スーパーファインの3群が平均3.8区画で、レギュラーの1群(7.0区画)とカーバイドの4群(7.2区画)より有意に少ない値でした(p<0.05)。ファインの2群(6.0区画)と3群のあいだには、有意差は示されていません。
ギャップが見つかった区画の数も、3群が平均0.2区画でいちばん少ない値でした。ただし、4群のあいだに有意差は検出されませんでした(p>0.05)。
断面では、どの群でも、多くの歯で咬合側と歯肉側の両方の窩縁にエナメル質の亀裂が見られました。ギャップは、3群では咬合側の1本だけです。二元配置分散分析では、ギャップがある歯の本数について、バーの種類の影響は有意で(p<0.05)、咬合側か歯肉側かの影響は有意ではなく(p>0.05)、両者の交互作用も有意ではありませんでした(p>0.05)。Scheffeの検定で、ギャップがある歯の本数は、3群が4群より有意に少ない、という結果です。断面の亀裂についての検定結果は、原著に書かれていません。
象牙質の窩壁とレジンのあいだのギャップは、1群の1本を除いて見つからなかった、とも著者らは書いています。
⑤結果の読み方
著者らの結論はこうです。レギュラーのダイヤモンドバーと6枚刃のカーバイドバーによる窩洞形成は、エナメル質の亀裂とギャップをいちばん多く生じさせた。スーパーファインのダイヤモンドバーは、エナメル質の亀裂を減らし、接着性のコンポジットレジンの窩洞への適合を良くした。考察では、この結果から、臨床の窩洞形成ではスーパーファインのダイヤモンドバーで仕上げることを勧める、と書いています。
読むときに分けておきたいのは、統計で示された差と、数字や顕微鏡像の傾向です。有意差が示されたのは、表面の亀裂(3群と1群、3群と4群)と、断面のギャップ(3群と4群)です。ファインの2群とスーパーファインの3群のあいだは、著者ら自身が、亀裂にもギャップにも統計的に有意な差は示されなかったと書いたうえで、顕微鏡の観察では3群のほうが少なかった、と述べています。
粗い面のほうが接着に有利、という考え方について、著者らは考察でこう述べます。この実験では、レギュラーのバーで削った面に塗りつけられたようなエナメル質の破片が多く、カーバイドバーでは微小な破折が多く見られた。ギャップの一部はエナメル質の亀裂とつながっていた。今の接着システムは接着強さが大きく上がっているので、接着面積と機械的維持のために粗い窩縁を作る必要はないかもしれない、と。これは著者らの考察で、この実験が粗さと接着強さの関係を測ったわけではありません。
⑥明日の臨床へ
ここからは筆者の読みです。原著の主張ではありません。
この実験が教えてくれるのは、「削ったあとの窩縁のエナメル質には、充填の前からすでに傷が入っているかもしれない」という見方です。この実験の条件では、スーパーファインのバーで窩縁を仕上げ直した群で、温度負荷のあとの窩縁の亀裂が少なくなっていました。
一方で、分かっていないことも多くあります。試したのは、頬側面・舌側面の小さな皿状の窩洞と、1種類のセルフエッチングの接着システムだけです。咬合面やⅡ級の窩洞、リン酸エッチングを使う接着システムで同じになるかは、この実験からは言えません。亀裂が少ないことが、二次う蝕や修復物の寿命にどうつながるかも、調べられていません。
窩縁の仕上げにどのバーを使うかを決めるときの、材料の1つ。その位置づけで読みたい実験です。
(1)実験室研究(in vitro)です。抜去したヒト大臼歯の頬側面・舌側面に作った、深さ約1.5mm・直径約2mmの皿状の窩洞を使っています。患者さんの口の中での修復物の成績を調べた研究ではありません。
(2)修復して評価したのは、各群5本です。削っただけの窩縁の観察は、各群1本だけです。
(3)表面の観察で、ギャップの区画数には4群のあいだで有意差が検出されませんでした。これは「差がない」ことの証明ではありません。5本ずつの小さな実験です。
(4)原著の抄録と結論は、スーパーファインのバーが「ほかのバーより亀裂とギャップが少なかった」とまとめています。ただし、ファインで仕上げた2群とのあいだには、統計的に有意な差は示されていません。
(5)2群と3群は、レギュラーのバーで削ったあとに仕上げ直した群です。1群と4群は、1種類のバーで最後まで削った群です。「粒度の違い」と「仕上げ直す工程があること」は、この実験では分けられていません。
(6)断面の観察は、亀裂やギャップが「ある歯の本数」(0〜5本)を数えたものです。これに分散分析を当てた解析の細部は、原著からは読み取れません。
(7)負荷は、5℃と55℃の温度変化500回だけです。咬合の力はかけていません。亀裂とギャップは、染色液と光学顕微鏡(200倍)で判定しています。
(8)接着システムは Clearfil SE Bond の1種類、コンポジットレジンは Clearfil AP-X の1種類です。レギュラーのダイヤモンドバーは、メーカー(松風)の試作品と書かれています。
(9)研究は、東京医科歯科大学のCOEプログラム(Center of Excellence Program for Frontier Research on Molecular Destruction and Reconstruction of Tooth and Bone)の助成を受けています。利益相反についての記載は、論文中に見当たりません。
窩縁の仕上げを、接着の前の「下ごしらえ」として見直す。そのきっかけをくれる研究、という位置づけで読むのがよさそうです。
今日のひとこと
この実験が示したのは、抜去歯の頬側面・舌側面の小さな窩洞では、スーパーファインのダイヤモンドバーで窩縁を仕上げた群のほうが、レギュラーのダイヤモンドバーだけの群やカーバイドバーの群より、温度負荷のあとに亀裂が見つかった区画が有意に少なかったということです(8区画中の平均3.8に対して7.0と7.2)。著者らは、臨床の窩洞形成ではスーパーファインのダイヤモンドバーで仕上げることを勧めています。ただし、修復して評価したのは各群5本。ファインのバーで仕上げた群とのあいだには有意差が示されておらず、表面の観察ではギャップの区画数に4群のあいだで有意差は検出されませんでした。接着システムは1種類で、修復物の成績や二次う蝕は調べていません。窩縁の仕上げにどのバーを使うかを考える手がかりの1つ、という位置づけで読みたい1本です。


