1問1答 論文 エンド

側方加圧でスプレッダーを押す力で、歯根は割れるのか?——抜去歯60本の実験では、加圧時の荷重(平均1.0〜2.5kg)とひずみは破折時の値より有意に低かった。ただし下顎切歯では、ハンドスプレッダーの荷重(平均2.2kg)が安全限界荷重2.4kgに迫っていた(Lertchirakarn 1999)

1問1答 論文 エンド

エンド|抜去歯60本(上下顎の切歯・小臼歯・大臼歯の6歯種×10本)で、側方加圧のときにかかる荷重と歯根表面のひずみを、フィンガースプレッダーとハンドスプレッダー(D11T)で測り、同じ歯を試験機で破折させたときの値と比べた実験室研究(Lertchirakarn・Palamara・Messer 1999・Journal of Endodontics)

側方加圧充填でスプレッダーを押し込むとき、「この力で歯根が割れないか」と気になったことはないでしょうか。Lertchirakarnらは1999年、抜去歯60本を使って、側方加圧のあいだにかかる荷重と歯根表面のひずみを測り、同じ歯を破折させたときの値と比べました。加圧時の荷重は平均でフィンガースプレッダー1.0〜1.4kg、ハンドスプレッダー(D11T)2.0〜2.5kg。破折時の平均荷重は6.2〜17.2kgで、加圧時の荷重とひずみは破折時より有意に低い値でした。著者らは「側方加圧だけが垂直性歯根破折の直接の原因ではないだろう」と示唆しています。ただしこれは抜去歯の実験で、臨床で破折が起きるかどうかを追った研究ではありません。下顎切歯では、ハンドスプレッダーの荷重が著者らの定めた安全限界荷重に迫っていました。

論文
Load and Strain during Lateral Condensation and Vertical Root Fracture
著者
Veera Lertchirakarn, Joseph E. A. Palamara, Harold H. Messer(メルボルン大学 歯学部・オーストラリア)
掲載
Journal of Endodontics 1999;25(2):99-104
種類
抜去歯を使った実験室研究(in vitro)。通常の臨床上の理由で抜去された歯を、上顎中切歯・上顎小臼歯(2根)・上顎大臼歯・下顎切歯・下顎小臼歯・下顎大臼歯の6群に各10本(計60本)。破折・亀裂・歯根に及ぶ大きなう蝕・根未完成・根管治療の既往・石灰化した根管や極端に太い根管のある歯は除外。歯冠はセメントエナメル境の2mm歯冠側で切除し、上顎小臼歯は頬側根、上顎大臼歯は近心頬側根、下顎大臼歯は近心根を使用。ステップバック法で形成(上顎切歯は40号か45号、ほかは30号か35号)し、ゲーツグリデンドリル2番・3番でフレア形成。歯根の頬側面の根尖側1/3と中央1/3にひずみゲージを貼り、表面を約200μmのシリコーンで覆って(歯根膜の模擬)、荷重計の上に固定。1人の歯内療法専門医が、同じ歯をフィンガースプレッダー(Kerr・ミディアムファイン)とハンドスプレッダー(Hu-Friedy・D11T)で1回ずつ側方加圧充填し(順番は無作為)、荷重とひずみを連続記録。その後、ガッタパーチャを詰めた根管にスプレッダーの先を試験機で毎秒1Nずつ荷重を上げながら押し込み、破折が始まった時点の荷重とひずみを記録した。統計は一元配置分散分析(Bonferroni)と対応のあるt検定、有意水準5%
資金・利益相反
オーストラリア国立保健医療研究評議会(NHMRC)の研究助成を受けたと書かれている。利益相反についての記載は論文中にない。器具はKerr社のフィンガースプレッダーとHu-Friedy社のD11Tスプレッダー
PMID
10204465

①側方加圧でスプレッダーを押す力で、歯根は割れるのか?

側方加圧充填で、スプレッダーをぐっと押し込む瞬間。「この力で歯根にひびが入らないだろうか」と手が止まった経験のある先生は多いと思います。根管治療のあとに垂直性歯根破折が見つかると、「あのときの加圧が原因だったのでは」と振り返りたくもなります。

Lertchirakarnらは1999年、抜去歯60本を使って、側方加圧のあいだに実際にかかっている荷重と歯根表面のひずみを測り、同じ歯を破折させたときの荷重・ひずみと比べました。

結論を先に書きます。
・加圧時の最大荷重(各歯種の平均)は、フィンガースプレッダー1.0〜1.4kg、ハンドスプレッダー(D11T)2.0〜2.5kg。全6歯種でD11Tの方が有意に高い(p<0.05)
・破折時の平均荷重は6.2〜17.2kg。加圧時の荷重とひずみは、破折時の値より有意に低かった
・加圧時の歯根表面のひずみはどちらのスプレッダーでもごく小さく、著者らによれば破折時のひずみの1〜10%
・ただし破折時の荷重は歯によるばらつきが大きく、下顎切歯では最小3.4kgで破折した歯があった。著者らが定めた安全限界荷重は2.4kgで、D11Tの加圧時の荷重(平均2.2kg)に迫っている
・著者らの結論は「側方加圧だけが垂直性歯根破折の直接の原因ではないだろう。ただしフィンガースプレッダーの方がリスクは低い」
・抜去歯の実験であり、臨床で破折が起きたかどうかを追った研究ではない

②なぜこの実験が必要だったか

著者らは序論で、垂直性歯根破折の予後は悪く、対応はおもに抜歯か破折した根の切除に限られる、と整理しています。臨床研究では、破折した歯の多くが根管治療を受けた歯でした。そのため根管治療の手技、とくに側方加圧で力をかけすぎることが、原因の1つと考えられてきました。スプレッダーが根管の中でくさびのように働いてひずみを生む、という説明です。

先行研究では、側方加圧でかける垂直荷重は1〜3kgとされていました。抜去歯では、下顎切歯で1.5kg、上顎切歯で7.2kgという小さな荷重で破折した例が報告されている一方、破折時の平均荷重は10〜20kgと、加圧の荷重よりかなり高いとも報告されていました。ここまでは、著者らが引いた先行研究にもとづく整理です。

ところが、側方加圧のときのひずみと破折時のひずみを、同じ歯で測って比べた研究はありませんでした。そこでこの研究は、いろいろな歯種で、フィンガースプレッダーとハンドスプレッダーによる加圧時の荷重とひずみを測り、同じ歯の破折時の値と比べ、破折を避けるための「安全限界荷重」を計算することを目的にしました。

③実験の組み立て:同じ歯を2種類のスプレッダーで充填し、最後に破折させた

対象と準備
・通常の臨床上の理由で抜去された歯60本。上顎中切歯・上顎小臼歯(2根)・上顎大臼歯・下顎切歯・下顎小臼歯・下顎大臼歯の6歯種×10本
・20倍の実体顕微鏡で調べ、破折・亀裂・歯根に及ぶ大きなう蝕のある歯、根未完成歯、根管治療の既往がある歯、石灰化した根管や極端に太い根管の歯は除外
・歯冠はセメントエナメル境の2mm歯冠側で切除。ひずみゲージを貼るため、上顎小臼歯は頬側根、上顎大臼歯は近心頬側根、下顎大臼歯は近心根だけを残した
・ステップバック法で形成(上顎切歯は40号か45号、ほかは30号か35号)。ゲーツグリデンドリル2番・3番でフレア形成
・歯根の頬側面の根尖側1/3と中央1/3にひずみゲージを貼り、円周方向のひずみを測定。表面は約200μmのシリコーンで覆った(防湿と歯根膜の模擬)
測定の手順
・根管充填は1人の歯内療法専門医が担当
・同じ歯を、フィンガースプレッダー(ミディアムファイン)とハンドスプレッダー(D11T)で1回ずつ側方加圧充填した。どちらを先にするかは無作為に決め、1回目のあとガッタパーチャを取り除いて2回目を行った
・スプレッダーは作業長の約1mm手前まで入れ、回して引き抜き、アクセサリーポイントを足す操作をくり返した。この間の荷重とひずみを連続して記録
・その後、ガッタパーチャを中央1/3まで除去して熱したプラガーで垂直に加圧した
・破折試験:ガッタパーチャの入った根管にスプレッダーの先を試験機で押し込み、毎秒1Nずつ荷重を上げて、歯根に最初の破折が起きた時点の荷重とひずみを記録した

破折試験で使ったスプレッダーの先は、作業長までは届かず、根尖の1mm以上手前で根管壁に当たる太さのものが選ばれています。つまり「破折時の荷重」は、手で加圧したときに偶然割れた値ではなく、試験機で割れるまで押し込んだときの値です。

④結果(1):加圧時の荷重は、破折時の荷重より有意に低かった

加圧時の荷重と破折時の荷重(kg・各歯種10本の平均・抜去歯) 加圧時:フィンガースプレッダー 加圧時:ハンドスプレッダー D11T 安全限界荷重(最小破折荷重の70%) 破折時の荷重(10本の平均) 0kg 5kg 10kg 15kg 20kg 上顎切歯 1.1 2.0 6.4 17.2 上顎小臼歯(頬側根) 1.4 2.3 3.4 8.7 上顎大臼歯(近心頬側根) 1.3 2.1 4.8 11.5 下顎切歯 1.0 2.2 2.4 6.2 下顎小臼歯 1.1 2.3 3.4 9.7 下顎大臼歯(近心根) 1.4 2.5 3.4 8.1 原著の Table 1(加圧時の最大荷重の平均)と Table 3(破折時)の全6歯種。棒の長さは値に比例。加圧時の荷重は、全歯種でD11Tがフィンガースプレッダーより有意に高い(p<0.05)。破折は、ガッタパーチャを詰めた根管にスプレッダーの先を試験機で押し込んで起こした。安全限界荷重は、各群10本のうち最小の破折荷重の70%(著者らが先行研究の考え方で設定)。
歯種ごとの荷重(kg)。原著のTable 1(加圧時の最大荷重の平均)とTable 3(破折時の平均荷重と安全限界荷重)の全6歯種を、筆者が1つの図にまとめた。抜去歯・各歯種10本
主な数字(原著のTable 1・Table 3)
・加圧時の最大荷重(平均±標準偏差)
 フィンガースプレッダー:上顎切歯1.1±0.2、上顎小臼歯1.4±0.2、上顎大臼歯1.3±0.1、下顎切歯1.0±0.2、下顎小臼歯1.1±0.2、下顎大臼歯1.4±0.2kg
 D11T:上顎切歯2.0±0.4、上顎小臼歯2.3±0.5、上顎大臼歯2.1±0.4、下顎切歯2.2±0.4、下顎小臼歯2.3±0.4、下顎大臼歯2.5±0.3kg
 全ての歯種で、D11Tの方が有意に高い(p<0.05)
・破折時の荷重(平均±標準偏差):上顎切歯17.2±4.3、上顎小臼歯8.7±2.6、上顎大臼歯11.5±3.6、下顎切歯6.2±1.5、下顎小臼歯9.7±2.9、下顎大臼歯8.1±3.8kg
・各群で最小の破折荷重:上顎切歯9.1、上顎小臼歯4.8、上顎大臼歯6.9、下顎切歯3.4、下顎小臼歯4.8、下顎大臼歯4.8kg
・安全限界荷重(最小の破折荷重の70%):上顎切歯6.4、上顎小臼歯3.4、上顎大臼歯4.8、下顎切歯2.4、下顎小臼歯3.4、下顎大臼歯3.4kg

加圧時の荷重は、歯種が違ってもあまり変わりませんでした。ハンドスプレッダーの荷重はフィンガースプレッダーのほぼ2倍です(荷重の平均どうしの比較)。一方、破折時の荷重は歯種で大きく違い、いちばん高い上顎切歯(17.2kg)といちばん低い下顎切歯(6.2kg)で3倍近い開きがあります。同じ歯種の中でも、10本の破折荷重にはおよそ3倍の幅がありました。

著者らが注目したのは、平均ではなくいちばん弱かった歯です。最小の破折荷重は、6群のうち4群で5kgを下回り、下顎切歯の1本では3.4kgでした。先行研究の考え方にならって「最小の破折荷重の70%」を安全限界荷重とすると、6歯種のうち4歯種で、ハンドスプレッダーの加圧時の荷重との差がおよそ1kg以内に収まっていました。

⑤結果(2):歯根表面のひずみは、どちらのスプレッダーでもごく小さかった

加圧時の歯根表面ひずみ(μstrain・平均±標準偏差・原著 Table 2) フィンガースプレッダー ハンドスプレッダー D11T 歯種 根尖側1/3 中央1/3 根尖側1/3 中央1/3 上顎切歯 3.6 ± 11.3 7.1 ± 11.9 32.1 ± 26.0 25.6 ± 12.8 上顎小臼歯 7.2 ± 12.5 11.9 ± 15.8 30.4 ± 22.2 32.0 ± 23.6 上顎大臼歯 4.2 ± 8.9 15.5 ± 23.4 34.5 ± 15.0 45.8 ± 15.2 下顎切歯 1より小さい * 1より小さい * 27.0 ± 17.2 25.6 ± 19.0 下顎小臼歯 6.0 ± 12.9 2.4 ± 7.5 25.6 ± 17.8 18.5 ± 18.9 下顎大臼歯 9.6 ± 15.7 11.4 ± 12.2 27.3 ± 24.3 46.8 ± 20.2 * 測定器の検出限界より小さい。1 μstrain は100万分の1の寸法変化。D11Tのひずみはフィンガースプレッダーのおよそ5倍(p<0.05)。ただしどちらもごく小さい。同じスプレッダーなら、測定位置の間・歯種の間に有意差は検出されなかった(p>0.05)。破折時のひずみは数値の表がなく、棒グラフ(原著 Fig. 3)だけなので、ここには載せていない。
側方加圧のときの歯根表面ひずみ(原著のTable 2の全行)。平均より標準偏差の方が大きい欄が多く、ばらつきが大きい

加圧時のひずみは全体に小さく、ひずみゲージの検出限界に近い値も多くありました。同じスプレッダーなら、根尖側1/3と中央1/3のあいだ、歯種のあいだに有意差は検出されませんでした(p>0.05)。D11Tのひずみはフィンガースプレッダーのおよそ5倍でした(p<0.05)。ただし著者らは、どちらのスプレッダーでもひずみはとても小さかった、と念を押しています。

破折時のひずみは、加圧時のひずみより有意に高く(p<0.05)、その差は非常に大きいものでした。考察では、加圧時のひずみは破折時の1〜10%にすぎない、と書かれています。破折時のひずみの数値は表になく、棒グラフ(原著のFig. 3)で示されているだけなので、この記事では数値を読み取って載せることはしていません。

⑥結果(3):破折線の多くは頬舌方向だった

試験機で破折させたとき、破折線が頬舌方向だった歯根の本数(原著の本文)
・上顎切歯:10本中8本
・下顎切歯:10本中8本(原著の表記は80%)
・下顎小臼歯:10本中8本
・下顎大臼歯(近心根):10本中8本
・上顎小臼歯(頬側根):10本中5本。そのうち4本は頬側根の口蓋側の面だけに破折線があった
・上顎大臼歯(近心頬側根):10本中3本。ほかは隣接面だけが3本、頬側と隣接面の隅角が3本、頬側と隣接面の両方が1本

破折が起きたとき、スプレッダーの先は根尖から平均2.8〜5.4mm手前にありました。著者らはここから、破折の多くはガッタパーチャを介して伝わった応力で起きたと考え、応力の高い場所は根尖側1/3か、根尖側と中央の境目あたりだろうと推測しています。これは著者らの解釈で、応力の分布を直接測ったわけではありません。

⑦著者らの考察

著者らが述べていること(この実験の荷重とひずみにもとづく推論を含みます)
・加圧の力が過大な場合や、歯根がふつうよりかなり弱い場合(たとえば過剰な根管形成のあと)を除けば、側方加圧が垂直性歯根破折の直接の原因ではないだろう
・ただし、側方加圧が不完全な破折を生む可能性は指摘されている。そうした部分が応力の集中する場所になり、修復処置や咬合力で亀裂が少しずつ進むのかもしれない
・下顎切歯は垂直性歯根破折にいちばん弱い。安全限界荷重は2.4kgしかなく、ハンドスプレッダーでかかる荷重の範囲に入っている
・安全限界荷重と加圧時の荷重を合わせて考えると、フィンガースプレッダーでは垂直性歯根破折のリスクは非常に低くなりそうである。とくに下顎切歯、過剰に形成された歯根、象牙質の壁が薄い歯(アペキシフィケーションの症例など)では、フィンガースプレッダーを選ぶべきだ
・各歯種10本を無作為に選んだだけなので、歯根の細い歯や根管の太い歯をとくに集めれば、最小値はもっと低くなりうる

著者らの論理は、「加圧時の荷重・ひずみ」と「破折時の荷重・ひずみ」の開きから、破折のリスクを推し量るというものです。側方加圧のあいだに歯根が割れた本数を数えて比べたわけではありません。

⑧明日の臨床へ

ここからは筆者の読み(原著が述べたことではありません)
・平均で見れば、側方加圧の荷重と破折の荷重のあいだにはかなり開きがあります。「側方加圧をしたら歯根が割れる」と過度に恐れる必要はなさそうだ、と読めます
・ただし安心材料は平均の話です。いちばん弱い歯は平均の半分ほどの荷重で割れており、下顎切歯ではハンドスプレッダーの荷重の平均と安全限界荷重の差が0.2kgしかありません(2.4kgと2.2kgの差。筆者の引き算)。細い歯根、太く形成した根管、象牙質の薄い歯では、押す力を控えめにする理由になります
・フィンガースプレッダーは、この実験では荷重もひずみも小さく済んでいました。指で持つ器具は大きな力をかけにくい、という手ごたえとも合います。新しく買い足す費用も小さく、切り替えの手間が少ない選択肢です
・一方で、この実験は「フィンガースプレッダーなら破折しない」と確かめたものではありません。臨床の垂直性歯根破折には、根管形成の量、ポスト、咬合力、経過年数などがからみますが、この研究はそれらを調べていません
・測ったのは1人の歯内療法専門医の力です。術者が変われば加圧の力も変わりえます。自分がどのくらいの力で押しているかを、一度はかりの上で確かめてみるのも面白いかもしれません
ここだけ、冷静に補助線この研究は、側方加圧のときの荷重とひずみを、同じ歯の破折時の値と比べた実験です。著者らによれば、加圧時と破折時のひずみを測って比べた研究はそれまでありませんでした。6つの歯種をそろえ、平均だけでなく「いちばん弱かった歯」から安全限界荷重を出した点に価値があります。そのうえで、読むときに押さえたい点があります。
(1)抜去歯を使った実験室研究です。歯冠を切除し、歯根膜をシリコーンで模擬し、歯根の先を台に載せた条件での測定で、口の中と同じとは限りません。臨床での垂直性歯根破折の発生を調べた研究ではありません。
(2)各歯種10本ずつです。著者ら自身が、歯の選び方によっては最小の破折荷重はもっと低くなりうると書いています。
(3)破折は、試験機でスプレッダーの先を、毎秒1Nずつ荷重を増やしながら押し込んで起こしたものです。手で何度も加圧する動きや、咬合力がくり返しかかる状況は再現していません。
(4)同じ歯を2回充填し、そのあとで破折させています。先に行った充填が、あとの測定に影響したかどうかは検討されていません(充填の順番は無作為に決められています)。
(5)ひずみゲージは頬側の2か所だけです。破折線がゲージを通らなかった歯もあり、著者らは、測定された破折時のひずみは実際より低いだろうと書いています。
(6)加圧時のひずみは平均より標準偏差の方が大きい欄が多く、検出限界に近い値です。「およそ5倍」という差は、ごく小さい値どうしの比較です。
(7)側方加圧の途中で破折や亀裂が起きた歯があったかどうかは、本文に書かれていません。
(8)根管充填は1人の歯内療法専門医が行っています。ほかの術者の力にそのまま当てはまるとは限りません。
(9)考察では安全限界荷重の出どころが「Table 2」と書かれていますが、実際に載っているのはTable 3です。この記事はTable 3の値を使いました。
(10)安全限界を「最小の破折荷重の70%」とするのは、先行研究(Pittsら)の提案にならった目安で、この研究で確かめられた境目ではありません。
(11)1999年の研究で、形成はステップバック法とゲーツグリデンドリルです。いまの形成法や充填法にそのまま当てはまるかは分かりません。
それでも、「自分が押している力は、歯が割れる力のどのあたりにいるのか」を数字で見せてくれる研究は貴重です。力の余裕が歯種で違うこと、この実験ではフィンガースプレッダーの荷重がハンドスプレッダーの半分ほどだったことは、今日の根管充填の手の力を少し考え直すきっかけになります。

今日のひとこと

この実験が示したのは、抜去歯60本では、側方加圧のときにかかる荷重(平均1.0〜2.5kg)と歯根表面のひずみが、同じ歯を試験機で破折させたときの値より有意に低かったということです。荷重もひずみも、フィンガースプレッダーの方がハンドスプレッダー(D11T)より有意に低い値でした。著者らは「側方加圧だけが垂直性歯根破折の直接の原因ではないだろう」と示唆し、フィンガースプレッダーの方がリスクは低いと考えています。ただし、破折時の荷重は歯によって大きくばらつき、下顎切歯ではD11Tの荷重(平均2.2kg)が安全限界荷重2.4kgに迫っていました。臨床で破折が起きるかどうかを調べた研究ではなく、「フィンガースプレッダーなら割れない」と確かめられたわけでもありません。押す力には歯種ごとに余裕の違いがある、と教えてくれる1本です。

Lertchirakarn V, Palamara JEA, Messer HH. Load and strain during lateral condensation and vertical root fracture. J Endod. 1999;25(2):99-104. doi: 10.1016/S0099-2399(99)80005-3. PMID: 10204465
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。