エンド|根管治療歯の「部分フェルール」の破折抵抗を、全周2mmのフェルール・フェルールなしと比べた実験室研究(in vitro)17本の系統的レビューとメタ解析(Al-Sanabani ほか 2023・Journal of Prosthodontic Research)。指標は標準化平均差(SMD)。ヒトでの臨床成績を調べた研究ではない
隣接面の深いう蝕などで、フェルールを全周には確保できない歯があります。一部の壁だけが残る「部分フェルール」に意味はあるのか。Al-Sanabaniらは2023年、この問いを調べた実験室研究(in vitro)17本を集めてメタ解析しました。破折抵抗は、全周2mmのフェルールが部分フェルールより高く(標準化平均差 0.93)、部分フェルールはフェルールなしより高い(同 2.02)という結果でした。2mmの頬側・舌側の壁だけを残した設計に限ると、全周との差は有意ではありませんでした(p=0.06)。ただし、これは「同じ」と確かめた解析ではありません。機械で歯に荷重をかけて壊れる力を測った研究の統合であり、ヒトの口の中での長期成績は調べていません。
①フェルールが全周取れないとき、部分的でも意味はある?
根管治療歯にクラウンを入れるとき、「フェルールは全周に」と習います。けれども実際には、隣接面の深いう蝕で近心や遠心の壁が欠けていたり、頬側だけ、舌側だけしか歯質が残っていなかったりします。全周を確保するために歯冠長延長術まで行うのか。それとも、残った壁だけで進めるのか。迷う場面は多いと思います。
Al-Sanabaniらは2023年、一部の壁だけが残る「部分フェルール」の破折抵抗を、全周のフェルールやフェルールなしと比べた実験室研究を集め、メタ解析を行いました。
・集めたのは実験室研究(in vitro)17本。ヒトでの臨床成績を調べた研究ではない
・全周2mmのフェルールは、部分フェルールより破折抵抗が高かった(標準化平均差 0.93、95%信頼区間 0.57〜1.29、15研究)
・部分フェルールは、フェルールなしより破折抵抗が高かった(標準化平均差 2.02、95%信頼区間 1.54〜2.49、14研究)
・2mmの頬側・舌側の壁だけを残した設計に限ると、全周との差は有意ではなかった(p=0.06、8研究)。「同じ」と確かめた解析ではない
・17研究のうち9研究はバイアスリスクが高、8研究は中等度。研究間のばらつきが大きく、出版バイアスも示された
・著者らの結論は「全周が最も高い破折抵抗を示したが、全周が無理な場合、部分フェルールは選択肢になりうる」。あわせて、臨床研究が必要だとしている
②なぜこの研究が必要だったか
著者らは序論で、フェルールについて次のように整理しています。フェルール効果という考え方はEissmanとRadkeが示したもので、クラウンの縁を、コアと歯質の境目より少なくとも2mm根尖側まで延ばすことが勧められてきました。十分な効果を得るには、高さ1.5〜2.0mm、厚み1mm以上が最低限必要とされています。
ただ、全周のフェルールをすべての症例で確保できるわけではありません。前歯や小臼歯では、隣接面う蝕のあとに深いボックスが残り、その部分のフェルールが足りなくなることがよくあります。全周を確保するために歯冠長延長術を行えば、隣在歯の損傷、付着歯肉の幅の減少、知覚過敏、術後の歯肉退縮といった合併症がありえます。著者らは、こうした合併症と、全周のフェルールがないクラウンの力学的なリスクを、てんびんにかける必要があると書いています。
部分フェルールを調べた実験室研究はいくつもありますが、結果は割れていました。全周より劣るとした研究、全周との有意差を検出しなかった研究、部分フェルールの方がよかったとした研究が混ざっています。そこで著者らは、これらをまとめて評価しようとしました。ここまでは、著者らが引いた先行研究にもとづく整理です。
③何を、どう集めたか
・問い:根管治療歯で、部分フェルールは、全周フェルールやフェルールなしと比べて破折抵抗にどう影響するか
・検索:PubMed・Scopus・Web of Science・Google Scholar。2022年5月20日までに発表された研究
・採用の条件:実験室研究(in vitro)で、部分フェルールを全周フェルールまたはフェルールなしと比べ、破折抵抗を測り、1群5本以上
・除外:臨床研究、対照のない研究、必要な数値のない研究、総説など
・流れ:1961件 → 重複を除いて811件 → 全文を確認68件 → 17研究を採用
・指標:標準化平均差(SMD)と95%信頼区間。異質性が大きいときはランダム効果モデル
採用された17研究の中身は、そろっていません。使われた歯は、上顎切歯が8研究、下顎小臼歯が4研究、上顎前歯が2研究、上顎犬歯が1研究、上顎犬歯と下顎小臼歯が1研究、1つの群に複数の種類の歯を混ぜた研究が1つ。1群は7〜12本で、ほとんどが10本です。歯の本数は、本文と表1では合わせて848本、抄録では807本と書かれています。
ポストは、グラスファイバーが6研究、クオーツファイバーが4研究、種類の書かれていないファイバーが3研究、鋳造ポストが4研究。クラウンは金属冠が9研究(本文の記載。表2を数えると10研究)、オールセラミック冠が2研究、金属コーピングが2研究で、3研究は記載がありません。荷重の角度は研究によって違い、いちばん多いのは135°(表2で7研究)です。クロスヘッドの速度は0.5〜10mm/分で、1mm/分が8研究、0.5mm/分が7研究でした(表2)。
部分フェルールの形もさまざまです。頬側か舌側の壁だけを残したもの、隣接面の壁だけを残したもの、高さを変えたもの、全周2mmのうち一部だけを0.5mmに下げたもの、などが含まれています。
なお、標準化平均差(SMD)は、2つの群の平均の差を、ばらつき(標準偏差)で割った値です。測り方の違う研究をまとめるための指標で、「何ニュートン強いか」を表す数字ではありません。
④結果(1):全周2mmは、部分フェルールより破折抵抗が高かった
・全体(15研究):標準化平均差 0.93(95%信頼区間 0.57〜1.29、p<0.00001)。全周2mmの方が高い
・前歯:0.99(0.54〜1.44、p<0.0001)
・小臼歯:0.76(0.21〜1.30、p=0.006)
・前歯と小臼歯の差は有意ではない(p=0.52)
・研究間のばらつき(I²):83%
個々の研究の結論は、一方向にそろっていたわけではありません。原著の本文によると、17研究のうち全周2mmが最もよかったとしたものが8研究、部分フェルール(いずれかの設計)が最もよかったとしたものが6研究、フェルールの設計による有意な差はなかったとしたものが3研究です。統合すると全周2mmの方が高い、というのが今回の結果です。
⑤結果(2):2mmの頬側・舌側の壁だけなら、全周との差は有意ではなかった。ただし「同じ」ではない
著者らは次に、部分フェルールのうち「頬側だけ2mm」「舌側だけ2mm」「頬側と舌側の両方2mm」の3つの設計にしぼって、全周2mmと比べました。8研究が対象です。数字は上の図の下半分にあります。
・3つの合計:標準化平均差 0.34(95%信頼区間 −0.02〜0.69、p=0.06)
・頬側のみ2mm:0.54(−0.24〜1.31、p=0.17)
・舌側のみ2mm:0.11(−0.42〜0.65、p=0.68)
・頬側と舌側の2mm:0.42(−0.12〜0.95、p=0.13、6研究)
・研究間のばらつき(I²):全体で70%
どの比較でも、有意差は検出されませんでした。著者らはこれを「全周と同等(comparable)」と表現しています。
ここは注意して読みたいところです。「有意差が検出されなかった」ことと「同じだと確かめられた」ことは別です。点推定は4つとも全周2mmが高い向きで、3つの合計の信頼区間は−0.02から0.69まであります。全周の方が高い可能性を残したまま、差があるとまでは言えなかった、という結果です。同等かどうかを判定するための解析は行われていません。
⑥結果(3):部分フェルールは、フェルールなしより破折抵抗が高かった
・全体(14研究):標準化平均差 2.02(95%信頼区間 1.54〜2.49、p<0.00001)。部分フェルールの方が高い
・前歯:2.03(1.49〜2.57)
・小臼歯:2.49(1.27〜3.72)
・前歯と小臼歯の差は有意ではない(p=0.49)
・研究間のばらつき(I²):全体で86%
こちらも、すべての研究が同じ向きだったわけではありません。図4には、フェルールなしの方が高い値だった比較が3つ(2研究)含まれています。原著の本文は、フェルールなし群の方が高い値を示した研究は1つだけで、その差は有意ではなかった、と書いています。
なお、著者らは、すべての比較で研究間のばらつきが大きく(I²は53〜92%)、ファンネルプロットとEgger検定で出版バイアスが示された、と報告しています。
⑦なぜこうなったのか(著者らの考察)
・全周のフェルールでは、クラウンの縁が健全な象牙質の上に全周で乗るので、咬合力が分散されやすい。歯冠側の象牙質が全周にあると、ポストとコアが安定し、回転への抵抗も増えるだろう
・フェルールがない歯では、セメントとポストの境目に応力が集まりやすい
・臼歯では咬合力が咬合面から歯肉の方向と頬舌方向にかかるので、隣接面のフェルールがなくても影響は小さいと考えられる
・上顎前歯は口蓋側から力を受けるので、口蓋側のフェルールが破折に抵抗しうる。下顎前歯は頬側から力を受けるので、頬側のフェルールの方が抵抗しうる
力の向きと壁の位置を結びつけたこの説明は、著者ら自身が「実験室研究の結果にもとづく仮定」と断っています。今回のメタ解析が、壁の位置ごとの優劣を確かめたわけではありません。
⑧明日の臨床へ
・根管治療歯の修復では、全周のフェルールが第一の選択と考えられる
・何らかの理由で全周が無理な場合、部分フェルールは適切な代わりの選択肢になりうる
・採用した研究の一部はバイアスリスクが高く、質の高い研究が必要。部分フェルールが破折抵抗と歯の長期的な維持にどう影響するかは、臨床研究で調べる必要がある
・「全周に確保できるなら全周」という基本を変える結果ではありません。統合した結果は、全周2mmの方が部分フェルールより高い値でした
・一方で、壁が一部しか残らない歯でも、実験室の条件では、壁がまったくない場合より高い値でした。残っている健全な壁を残す意味を、実験室の数字の面から支える材料にはなります
・「2mmの頬側・舌側の壁があれば全周と同じ」とは読めません。有意差が出なかっただけで、同等と確かめられたわけではありません
・歯冠長延長術や矯正的挺出で全周のフェルールを作りにいく場合と、部分フェルールのまま修復する場合を比べた研究ではありません。どちらがよいかは、この研究からは分かりません
・測ったのは、機械で荷重をかけて壊れるときの力です。患者さんに説明するときは、「口の中で何年もつか」を調べた結果ではないことを分けて伝えたいところです
・手間や費用について、原著は比べていません
(1)採用されたのはすべて実験室研究です。著者らも、実験室研究は咀嚼による繰り返しの荷重を再現しておらず、温度の変化・水分・pHといった口腔内の環境も違う、と限界に挙げています。
(2)17研究のうち9研究はバイアスリスクが高、8研究は中等度で、低と判定された研究はありません。足りなかった項目は、根管治療を1人の術者が行ったか、症例数の計算、試験機の操作者の盲検化が中心でした。
(3)研究間のばらつきは大きく、I²は53〜92%です。歯の種類、ポストの種類、荷重のかけ方が研究ごとに違います。出版バイアスも示されています。
(4)2mmの頬側・舌側の壁の解析(p=0.06)は、差があるかを調べた検定です。「同等」と判定するための解析ではありません。
(5)歯の本数は、抄録では807本、本文と表1では848本と書かれており、一致していません。この記事では両方を書きました。
(6)抄録には、歯の種類による効果の違いについて「p<0.001」とありますが、本文と図2では、前歯と小臼歯の差の検定は p=0.52 です。この記事は本文と図の方を採りました。
それでも、「全周が取れない歯をどう考えるか」という日常の迷いに、いま手に入る実験室のデータを整理して示した1本です。著者らが求めている臨床研究の報告が楽しみです。
今日のひとこと
この研究が示したのは、実験室研究17本を統合すると、根管治療歯の破折抵抗は、全周2mmのフェルールが部分フェルールより高く(標準化平均差 0.93、95%信頼区間 0.57〜1.29)、部分フェルールはフェルールなしより高かった(同 2.02、1.54〜2.49)ということです。2mmの頬側・舌側の壁だけを残した設計では、全周との差は有意ではありませんでした(p=0.06)。ただし、これは「全周と同じ」と確かめた結果ではありません。採用された17研究はすべてバイアスリスクが中等度か高で、研究間のばらつきが大きく、出版バイアスも示されています。そして、機械で荷重をかけて壊れる力を測った結果であり、ヒトの口の中で歯がどれだけ長くもつかを調べたものではありません。著者らの結論は「全周が最も高い破折抵抗を示したが、全周が無理な場合、部分フェルールは選択肢になりうる」。著者ら自身が、臨床研究が必要だと書いています。


