エンド|5菌種(枯草菌は栄養型と芽胞の2通り)を塗りつけたガッタパーチャポイントを、5.25%次亜塩素酸ナトリウム(未希釈のクロロックス)に30秒〜10分浸し、72時間の培養で発育の有無をみた実験室研究(Senia・Marraro・Mitchell・Lewis・Thomas 1975・Journal of Endodontics)。各条件ポイント2本、対照は生理食塩水30秒
根管充填の前に、ガッタパーチャポイントを次亜塩素酸ナトリウムに浸す。では何秒浸せば足りるのか。Seniaらは1975年、菌をわざと塗りつけたポイントを5.25%次亜塩素酸ナトリウム(未希釈のクロロックス)に時間を変えて浸し、培養で確かめました。4菌種を塗ったポイントは30秒で、枯草菌の栄養型は45秒で、枯草菌の芽胞は60秒で、培養に発育がみられなくなりました。生理食塩水に30秒浸した対照からは、どの菌でも発育がありました。著者らの結論は「1分の浸漬で滅菌できた」です。ただし、各条件ポイント2本の実験室研究で、統計解析はありません。根管充填後の感染や治療成績を調べた研究でもありません。
①ガッタパーチャポイント、次亜塩素酸ナトリウムに何秒浸す?
根管充填の直前、ガッタパーチャポイントを次亜塩素酸ナトリウムにさっと浸す。多くの診療室で見かける手順です。では、その「さっと」は何秒なら足りるのでしょうか。数秒くぐらせるだけでよいのか、1分は置くべきなのか。根拠をたずねられると、意外と答えにくいところです。
この問いに実験室で向き合った古い論文があります。Seniaらが1975年に Journal of Endodontics の第1巻に報告した研究です。菌をわざと塗りつけたポイントを、5.25%次亜塩素酸ナトリウム(未希釈のクロロックス)に時間を変えて浸し、培養で菌が育つかどうかを確かめました。
・4菌種(表皮ブドウ球菌、Corynebacterium xerosis、大腸菌、Streptococcus faecalis)を塗ったポイントは、30秒・45秒・60秒のどの浸漬でも、培養で発育がみられなかった。30秒は調べた中でいちばん短い時間
・枯草菌の栄養型を塗ったポイントは、30秒では発育あり。45秒以降は発育なし
・枯草菌の芽胞を塗ったポイントは、30秒と45秒では発育あり。60秒以降(10分まで)は発育なし
・生理食塩水に30秒浸した対照のポイントからは、どの菌でも発育があった
・著者らの結論は「未希釈のクロロックスに1分浸せば、グラム陽性菌・グラム陰性菌・芽胞をつくる菌に対して滅菌できた」
・各条件ポイント2本の実験室研究(in vitro)で、統計解析はない。根管充填後の感染や治療成績は調べていない
②なぜこの実験が必要だったか
著者らは序論で、こう整理しています。器具の滅菌には方法がそろっており、ラバーダムは唾液からの汚染を防ぎ、根管の化学的・機械的な清掃は、治療を始めた時点で根管内にいる菌を取り除くのに有効である。ところが、根管をふさぐガッタパーチャポイントは、湿熱や乾熱による滅菌に向かない材料です。そこで臨床では、薬液による処理が使われてきました。
ただ、どの薬剤をどれだけの時間使うかは、ばらばらでした。著者らが当時の教科書や論文から挙げた薬剤は、ゼフィラン(Zephirin)のチンキ、メタフェン(Metaphen)のチンキ、チメロサール、アルコール、ポビドンヨード、ホルムアルデヒドガス、パラホルムアルデヒド錠など。接触時間も、拭くだけのものから、浸したまま保管するものまでさまざまです。そして著者らは、こうした薬剤の使用を裏づける、対照をおいた実験のデータは文献に多くない、と書いています。ここまでは、著者らが引いた文献にもとづく1975年時点の整理です。
この研究の目的は2つです。未希釈のクロロックス(5.25%次亜塩素酸ナトリウム)がガッタパーチャポイントに対してどれだけ殺菌作用をもつかを評価すること。そして、その効果を得るのに最適な浸漬時間を決めることでした。
③何をどう調べたか
使った菌は5種類です。表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)、Corynebacterium xerosis、大腸菌(Escherichia coli)、Streptococcus faecalis(原著の表記)、枯草菌(Bacillus subtilis)。枯草菌は、増殖している状態の「栄養型」と、厳しい環境に耐える休眠型の「芽胞」を分けて調べたので、菌液は合わせて6種類になります。どの菌液も、1mlあたりおよそ9×108個に相当する濁度の標準液に合わせて調整されました。
手順はこうです。ガッタパーチャポイント(Mynol no.100)を菌液に1分間完全に浸し、滅菌ガーゼを敷いたシャーレに移して、37℃で30分間乾かします。そのあと、約10mlの未希釈クロロックスに完全に浸しました。浸す時間は30秒、45秒、60秒。枯草菌(栄養型と芽胞)を塗ったポイントは、さらに1分半、2分、3分、4分、5分、10分も調べています。
引き上げたポイントは、チオグリコレート培地に入れて37℃で培養し、72時間まで毎日、発育の有無を観察しました。培地はすべて羊血液寒天に植え継いで確かめ、菌が出たときは同定しています。ポイントを浸した後のクロロックスも2mlずつ取り、同じように培養しました。対照は、クロロックスの代わりに滅菌生理食塩水を使ったものです。
試験はすべて2回ずつ(duplicate)行われ、表の脚注には、各菌・各浸漬時間につきポイント2本を調べた、と書かれています。
④結果:30秒・45秒・60秒で分かれた
4菌種は、30秒で発育がみられなくなりました。表皮ブドウ球菌、C. xerosis、大腸菌、Str. faecalis を塗ったポイントは、30秒・45秒・60秒のどの浸漬でも、72時間の培養で肉眼的な発育がなく、植え継いでも生きた菌は出ませんでした。一方、生理食塩水に30秒浸した対照からは、24時間の時点で発育があり、もとの菌と同定されています。なお、30秒はこの実験で調べたいちばん短い時間です。30秒より短い時間でどうなるかは、分かりません。
枯草菌は、もう少し時間が必要でした。栄養型を塗ったポイントは、30秒では発育があり、45秒以降は発育がありませんでした。芽胞を塗ったポイントは、30秒と45秒では発育があり、60秒以降は10分まで発育がありませんでした。発育があった条件では、24時間の時点で肉眼的に確認されています。
浸した後の薬液からは、菌が育ちませんでした。ポイントを浸した後のクロロックス2mlを培養すると、6種類の菌液のどれについても、どの浸漬時間でも発育はありませんでした(原著の表2と表4)。枯草菌のポイントにまだ菌が残っていた30秒や45秒の薬液でも、結果は同じです。対照の生理食塩水からは発育がありました。
ポイントの表面も観察されています。未希釈のクロロックスに5分浸したポイントと、水に同じ時間浸したポイントを、実体顕微鏡(拡大率40)で見比べたところ、違いは認められなかった、と著者らは書いています。観察した本数は書かれていません。
⑤結果の読み方
枯草菌だけ時間がかかった理由について、著者らは考察で2つの説明を挙げています。1つは、芽胞をつくるグラム陽性桿菌は、ほかの菌と生理的な仕組みや細胞壁の組成が違い、厳しい環境に耐えやすいこと。もう1つは、実験で塗りつけた菌がポイントの表面で何層にも重なり、その重なりが内側の菌を薬液から守る物理的な壁になること。どちらもこの実験で確かめた仕組みではなく、著者らの説明(仮説)です。
浸した後の薬液から菌が育たなかった点について、著者らは、浸すだけでは薬液がほとんど動かないので、ポイントから離れる菌はごくわずかで、離れた菌は薬液に取り囲まれて生き残れないのだろう、と述べています。これも推測として書かれています。
著者らは「滅菌(sterilization)」という言葉を使っています。ただ、この実験が確かめたのは、塗りつけた6種類の菌液について、決めた時間浸したあとに培養で発育がみられなかった、という範囲です。調べていない菌や、調べていない条件まで保証する結果ではありません。
⑥明日の臨床へ
この論文から持ち帰れるのは、「次亜塩素酸ナトリウムにどれだけ浸すか」を考えるときの、時間の目安です。調べた条件では、30秒の浸漬では枯草菌の発育が残り、45秒では芽胞の発育が残り、60秒ではどの菌液でも発育がありませんでした。著者らが「1分」と結論したのは、この並びが理由です。時間のかかる処理は臨床では現実的でないので、速く、確実で、手軽で、安価な方法を目指した、と著者らは書いています。
一方で、当てはめるときの条件にも目を向けたいところです。結果は、未希釈の5.25%液に、ポイント全体を完全に浸した場合のものです。薄めた液、さっとくぐらせるだけ、拭くだけ、といった使い方は調べていません。浸したあとにすすぐかどうかも、この論文には出てきません。診療室で実際にポイントに付く菌の種類や量が、実験で塗りつけた菌液と同じとも限りません。
そして、「処理したポイントを使えば根管充填後の感染が減る」ことを確かめた研究ではありません。著者らは考察の冒頭で、根管充填後の感染の説明の1つとして、汚染されたポイントが持ち込まれる可能性を挙げていますが、これは問題意識として書かれたもので、この実験で確かめたことではありません。浸漬時間を決める手がかりの1つ、という位置づけで読むのがよさそうです。
(1)実験室研究(in vitro)です。患者さんの歯で、感染や治療成績を調べたものではありません。
(2)各条件ポイント2本です。表には条件ごとに「+」か「−」が1つ示されているだけで、統計解析はありません。
(3)菌は、濃い純培養液を人工的に塗りつけたものです。使ったのは5菌種で、嫌気性菌や真菌、ウイルスは調べていません。
(4)ポイントは1製品(Mynol no.100)、薬液も1製品(クロロックス)です。5.25%は原著に書かれた濃度で、実験に使った液の濃度を測ったという記載はありません。
(5)浸したあとのポイントは、そのまま培地に入れたと読めます。すすぎや、薬液を中和する操作は書かれていません。ポイントに付いて持ち込まれた薬液が、培地での発育に影響したかどうかは、この論文からは分かりません(筆者の読みです)。
(6)ポイント表面への影響は、5分浸して拡大率40の実体顕微鏡で見た範囲です。寸法や硬さなどの物性は調べていません。
(7)著者らは考察の終わりで、未希釈のクロロックスを根管洗浄液としても考慮すべきだと述べていますが、根管洗浄はこの実験の対象ではありません。
(8)資金や利益相反についての記載はありません。著者らは米国空軍の所属で、見解は空軍や国防総省のものではない、という断り書きがあります。
それでも、「何秒浸すか」という日常の小さな疑問に、対照をおいた実験で答えようとした姿勢は、いま読んでも学ぶところがあります。自分の診療室の手順を見直すきっかけになる1本です。
今日のひとこと
この実験が示したのは、菌を塗りつけたガッタパーチャポイントを5.25%次亜塩素酸ナトリウム(未希釈のクロロックス)に浸すと、4菌種は30秒、枯草菌の栄養型は45秒、枯草菌の芽胞は60秒の浸漬で、培養に発育がみられなくなったということです。30秒では枯草菌の発育が残り、45秒では芽胞の発育が残りました。著者らはここから「1分の浸漬で滅菌できた」と結論しています。ただし、各条件ポイント2本の実験室研究で、統計解析はなく、調べたのは5菌種・1製品のポイント・未希釈の液だけです。根管充填後の感染や治療成績は調べていません。「何秒浸すか」を考えるときの手がかりの1つ、という位置づけで読みたい1本です。


