痛み・口腔顔面痛|局所の画像所見と、痛みの病歴をどうつなぐか。頭蓋内病変の4例をたどる症例報告(Noma 2017・Journal of Endodontics)
歯科画像に異常があれば、それが痛みの原因でしょうか。Nomaらは、歯痛に似た症状を呈した頭蓋内病変の4例を報告しました。局所の処置後も痛みが続く経過があり、全例でMRIにより頭蓋内病変を認めています。症例1・3・4は腫瘍切除後に痛みが消失しましたが、症例1では術後に顔面神経麻痺・感覚障害・難聴が記録されました。難聴は術前からあり、各症状の新発・悪化は記載されていません。症例2のその後の経過は不明でした。局所の病変が見つかっても、痛みの病歴を閉じない。そう読むための症例集積であり、脳腫瘍の頻度や、歯痛患者全員へのMRIの必要性を示す研究ではありません。
①歯に異常がある。それで痛みを説明できる?
痛む場所の写真に、病変が見える。「これが原因だろう」と考えるのは自然だ。けれど、処置をしても同じ痛みが続いたら、次の歯を治療する前に立ち止まりたい。
歯科画像に異常があっても、痛みの原因が歯以外にあることがある。Nomaらが2017年に報告したのは、歯痛に似た症状を呈した頭蓋内病変の4例だ。歯の病変と、歯以外から来る痛み。この両方が重なりうることを、診療の経過から考える。
②画像の異常と、痛みの原因を分ける
著者らは、歯科を受診した患者の痛みを考えるとき、歯・顎顔面の病気や顎関節症に目が向き、詳しい診察や痛みの聞き取りより画像を頼りにしやすい、と指摘している。
今回も、局所に何もなかったわけではない。症例1では歯根の先の不透過性病変、症例2では上顎洞の病変が認められた。それでも、歯科での処置後に痛みは残った。画像の異常と、痛みの原因を分ける。ここが、この報告を読む軸になる。
③頭蓋内病変の4例をたどる
これは4例の症例集積である。歯痛患者を連続して調べ、脳腫瘍がどれだけ見つかるかを測った研究ではない。歯痛に似た症状を呈した頭蓋内病変の4例について、症状、歯科での処置、MRI所見、その後の経過を記述している。比較群はない。
全例でMRIを実施し、頭蓋内病変を認めた。症例1・4は聴神経腫瘍、症例3は髄膜腫を組織検査で確認している。一方、症例2はMRIで聴神経腫瘍様の病変を認めた段階で、その後の経過は不明だった。
以下では、原著が用いた「占拠性病変に起因する有痛性三叉神経ニューロパチー」を、頭蓋内の腫瘍などに関連する三叉神経の痛みとして読む。原著は当時のICHD-3 betaに基づく分類を使っている。
④局所の処置後も、痛みが残った
症例1:歯科処置後も痛みが残った。右下の大臼歯部の痛みが続き、歯の亀裂と診断されて第一大臼歯を抜歯したが、痛みは治まらなかった。次に、根尖付近の不透過性病変を原因と考えて顎骨の病変を切除したが、症状は変わらなかった。その後、第二大臼歯に根管治療が繰り返された。
Figure 1の説明では、根管治療後に第二大臼歯の透過像は縮小している。その一方で、経過中には難聴が現れ、鈍い痛みから三叉神経痛に似た痛みへと性質が変わっていった。歯科画像の改善だけでは、続く痛みを説明できなかった。
症例2:抜歯後も強い痛みが残った。左上下顎大臼歯部の強い痛みがあり、左上顎洞の貯留嚢胞と診断され、上顎の第一・第二大臼歯を抜歯していたが、強い痛みは続いた。MRIでは左三叉神経に接する聴神経腫瘍様の病変を認め、脳神経外科へ紹介された。
画像・組織の所見
転帰・残った症状
⑤感覚異常が目立たない例もあった
症例2・3:三叉神経痛様の所見以外に、神経学的異常を認めなかった。症例2では左下顎大臼歯部の頬側歯肉、症例3では下顎角への軽い接触で、短い刺すような痛みが誘発された。しかし、追加の神経学的評価で、それ以外の異常は検出されなかった。
症例3は左顔面の電撃痛で、先に象牙質知覚過敏の治療を受けていたが改善しなかった。MRIでは左Meckel腔入口付近に、三叉神経を圧迫する小さな髄膜腫を認めた。切除後に刺すような痛みは消え、2年間再発しなかった。
症例4:難聴の既往と、新たなしびれがあった。難聴をきっかけに10年前に聴神経腫瘍と診断され、切除を受けていなかった。今回は右下顎の発作痛としびれがあり、診察では軽い接触や針刺激への感覚低下、右耳の難聴を認めた。MRIで右小脳橋角部の腫瘤を認め、切除後に痛みは消失した。
難聴や感覚低下が手掛かりになる例がある一方、それらがそろわない例もある。今回の症例2・3では、三叉神経痛様の痛みが主な手掛かりだった。
⑥痛みが消えても、転帰はそれだけではない
症例1・3・4では腫瘍切除後に痛みが消失した。症例1では、術後に顔面神経麻痺・感覚障害・難聴が記録された。難聴は術前からあり、各症状が術後に新たに生じたか、悪化したかは記載されていない。痛みの消失と、ほかの神経症状の有無は分けて読む必要がある。
また症例1では、MRIより前にカルバマゼピンで症状が一部軽減していた。薬が効いたという経過と、頭蓋内病変が見つかったことは両立している。
著者らの結論は、歯科画像だけでなく、病歴と痛みの特徴に注目すること。そして、頭蓋内病変を疑う場合にMRIを行うことだ。歯痛の患者全員へのMRIを検証した報告ではない。
⑦明日の臨床へ
この研究が確かめたことは、歯痛に似た症状を呈した4例で頭蓋内病変が見つかり、局所の処置後も痛みが続く経過や、腫瘍切除後に痛みが消失する経過が記録されたことだ。ここから先は筆者の臨床的な読みであり、紹介基準の精度や、紹介による予後改善を調べた結果ではない。
- 追加処置の前に、痛みの経過を聞き直す。どこに異常が見えるかに加え、何で誘発されるか、痛みの性質が変わったか、処置前後でどう変わったかを確認したい。
- 難聴やしびれも、病歴と一緒に確認する。今回の手掛かりだった情報だ。ただし、症例2・3のように、三叉神経痛様の所見以外に異常を認めない経過も忘れたくない。
- 頭蓋内病変を疑う場合は、医科での評価につなぐ。紹介時には、歯科所見、実施した処置と反応、痛みの特徴、併存症状を整理して伝える。これは本報告をもとに筆者が考えた情報の渡し方である。
4例の症例集積で、比較群はない。歯痛患者に脳腫瘍がある頻度、診察所見の感度、治療効果は推定できない。症例2の紹介後の経過は不明で、全例の長期転帰がそろっているわけでもない。
原著内にも記述のずれがある。症例2の症例記述には抜歯が書かれているが、考察では上顎洞貯留嚢胞も切除したと読める。嚢胞切除の詳細は確認できない。また、分類コードは序論と抄録・Table 1・考察で異なり、Table 1には用語の不統一もある。ここではコードを診療用の分類表として転載しない。
それでも、局所の病変と痛みの説明が一致しているかを問い直すために、この症例集積は具体的な経過を示してくれる。
今日のひとこと
局所の病変が見つかっても、痛みの病歴を閉じない。頭蓋内病変の4例は、歯科所見と痛みの特徴を合わせて考える手掛かりになる。


