痛み・口腔顔面痛|歯と上顎洞の画像所見を分けて読む(Vallo 2010)
上の奥歯が痛く、パノラマには上顎洞の影もある。その影で、痛みの説明までできるだろうか。Valloらは、30歳以上のフィンランド成人5,021人の画像を調べ、歯の病的所見と粘膜肥厚の関連を示した。歯痛患者を集めた研究ではなく、痛みの原因や治療効果を確かめた研究でもない。歯と洞の関連から何が言えて、何が言えないのかを読む。
①上顎洞に影。痛みの答えも写っている?
上の奥歯が痛い。パノラマを見ると、上顎洞の粘膜にも変化がある。ここで「歯の問題か、上顎洞の問題か」と考えたくなる。けれど、両者が関わっている可能性もある。
Valloらの研究で見えたのは、歯の病的所見と上顎洞粘膜肥厚の関連だ。画像所見の関連を調べた横断研究であり、その影が今回の痛みを起こしたかまでは確かめていない。画像にあるものと、症状の説明を分けて読む。そこが、この論文を臨床へ持ち帰る入口になる。
②近くにある歯と洞。関係は以前から考えられていた
原著の背景説明では、上顎の小臼歯・大臼歯と洞底は近く、歯からの刺激が洞粘膜に関わる可能性が挙げられている。歯と洞の所見を結びつけた先行研究もあった。ただし、対象が小規模だったり、限られた集団だったりしたという。
もう一つ、入口で分けたいのが影の種類だ。粘膜肥厚は洞壁に沿う帯状の所見。一方、MAC(mucosal antral cyst)は、洞底や洞壁から盛り上がるドーム状の所見で、原著では偽嚢胞とも呼んでいる。粘膜肥厚とMACは分けて読む。同じ上顎洞の影でも、歯との関連まで同じとは限らない。
③30歳以上のフィンランド成人5,021人を調べた
使ったのは、全国を代表するように抽出されたHealth 2000調査のデータだ。調査時期は2000〜2001年。パノラマ撮影を受けた6,115人のうち、少なくとも片側の上顎洞を明瞭に評価できた5,021人が今回の対象になった。歯痛患者を集めた研究ではない。
パノラマ上で歯の所見と洞の所見を比較した。粘膜肥厚は、洞壁に沿う厚さ3〜6 mmの不透過帯として記録した。根尖病変のほか、水平性骨吸収、垂直性骨内欠損、根分岐部病変、根管充填も調べている。歯周所見も画像上の評価だ。
全体の集計に加え、上顎小臼歯・大臼歯部を左右別に解析した。左右別解析:右4,650人・左4,665人。割合は歯の本数を分母にした値ではない。標本抽出と未回答の影響には重み付けで対応している。
④粘膜肥厚は12%、MACは7%
MAC
何らかの上顎洞所見があったのは941人(19%)だった。ここでの12%や7%は、歯痛の原因が上顎洞だった割合ではない。調査参加者のパノラマに、それぞれの所見があった割合だ。
⑤根尖病変がある群で、粘膜肥厚は多かった
次は全体の頻度から、歯の状態による違いへ進もう。根尖病変の分類を取り出すと、粘膜肥厚の割合は次のようになった。
根尖病変なし
根尖病変あり
右も左も、根尖病変のある群で粘膜肥厚が多い。水平性骨吸収、垂直性骨内欠損、根分岐部病変についても、原著は粘膜肥厚との関連を報告している。
年齢・性別・教育歴・喫煙歴・花粉症などのアレルギー性鼻炎を考慮した解析でも、根尖病変との関連は残った。右側の調整済み解析4,619人で、根尖病変あり群のオッズ比 3.5(95%信頼区間 2.5–5.1)。比較の基準は無歯群だ。歯があり根尖病変のない群との比較ではない。
割合で捉え直すと、Table Iの右側の35%÷13%から計算した調整前の有病割合比は約2.69となる。これは丸められた表の割合からの概算で、調整済みオッズ比の換算値ではない。追跡して発症を数えた研究ではないため、発症リスク比とも呼ばない。
⑥MACでは、歯の病的所見との関連は明瞭ではなかった
粘膜肥厚との関連を、MACへそのまま広げることはできない。MACについては、調整すると歯の病的所見との関連が弱まり、根尖病変や根管充填がなくても、歯がある群の推定値が同程度に高かった。著者らも、MACとの関連は粘膜肥厚ほど明瞭ではないと述べている。
著者らは粘膜肥厚について、歯の感染を治療すれば粘膜肥厚の予防につながり、さらに上顎洞炎の予防にもつながるかもしれないと考察している。これは著者らの推測であり、本研究で治療後の改善を観察した結果ではない。歯からの刺激という説明と、実際に治してどう変わるかという検証の間には、まだ距離がある。
⑦明日の臨床へ
この研究が確かめたことは、歯の病的所見と粘膜肥厚が関連していたこと。ここから先は筆者の臨床的な読みである。痛みの原因や、歯を治せば痛みが消えるかは調べていない。
画像の記録では、歯の所見と洞の所見を並べて残す。そのうえで、「画像で何が見えたか」と「今回の痛みをどう説明するか」を別の文で考えたい。上顎洞に影があることだけで歯の関与を外さず、歯と洞の所見が並ぶことだけで痛みの原因も決めない、という読み方だ。
横断研究で、原因や治療効果は確定できない。鼻・副鼻腔由来の歯痛と、歯髄・根尖由来の痛みを見分ける診断精度も調べていない。パノラマでは所見を見落とす可能性があり、対象は30歳以上に限られる。垂直性骨内欠損の読影一致度にも問題があり、著者らは訓練後の全標本での一致度を測定していないと記している。
原著の抄録・本文・表には説明の揺れがある。抄録はMACとの有意な関連を否定する一方、結果本文は根尖病変と根管治療に関連ありと記す。Table IIIのMACの調整済みオッズ比は、根尖病変ありで1.7(95%信頼区間 1.0–2.8)、根管充填ありで1.5(1.0–2.3)。信頼区間の下限は丸め値で1.0なので、本記事では有意性を断定せず、「関連は明瞭ではない」とした。また水平性骨吸収の定義は、方法本文が歯根中央3分の1に達するもの、Table I脚注が歯頸側または中央3分の1とし、揃っていない。
それでも、全国調査のデータで歯と洞を一緒に見た意義は大きい。関連を知り、症状の説明とは分けて使う。この位置づけなら、画像から考えられることを増やせる。
今日のひとこと
歯の病的所見と上顎洞粘膜肥厚には関連がある。今回の痛みの原因は、別に確かめる。


