1問1答 論文 痛み・口腔顔面痛

痛む歯が、原因の歯なのか?——ICOPで考える歯痛の鑑別(Piggらの2021年解説総説)

1問1答 論文 痛み・口腔顔面痛

痛み・口腔顔面痛|歯の所見と訴えが合わないとき、筋・顎関節・頭痛に似た痛みなどをどう考えるか。ICOPの構造と診療への使い方を紹介するナラティブレビュー。

患者さんが指す歯と、痛みの原因は一致するとは限りません。Piggらは、国際口腔顔面痛分類(ICOP)を使い、歯原性と非歯原性の痛みを同じ枠組みで考える方法を解説しました。筋・顎関節の診査や、発作に伴う症状の問診が、鑑別の入口になります。診断精度や治療効果を新たな患者集団で確かめた研究ではありません。分類が支えることと、分類だけでは決められないことを読み分けます。

論文
New International Classification of Orofacial Pain: What Is in It For Endodontists?
著者
Maria Pigg, Donald R Nixdorf, Alan S Law, Tara Renton, Yair Sharav, Lene Baad-Hansen, Thomas List
掲載
Journal of Endodontics 2021;47(3):345-357. doi:10.1016/j.joen.2020.12.002
種類
ナラティブレビュー(解説総説)。ICOPの概要、歯痛の鑑別への応用、分類の検証・改善に向けた課題を説明。新規の患者集団・介入群・比較群はなく、診断精度や治療効果を測定した研究ではない。
PMID
33340605

①痛む歯が、原因の歯なのか

「この歯が痛いんです」。患者さんが指す歯を診る。けれど、訴えと歯の所見がうまく重ならない。そんなとき、次にどこを調べるだろう。

痛む歯が原因とは限らない。Piggらの総説が紹介する国際口腔顔面痛分類(ICOP)は、歯から生じる痛みと、歯以外から生じる痛みを同じ枠組みで考えるための地図だ。この記事のテーマは、ICOPで考える歯痛の鑑別。分類名を覚える前に、痛みと診査所見をどう結びつけるかを見ていこう。

②痛む場所から、原因の場所へ

歯髄や根尖部の病態を調べ、治療につなげる。これは歯内療法の大切な仕事だ。一方、著者らが説明するICOPの出発点は「痛みそのもの」。その痛みを、どの組織の状態や出来事に結びつけられるかを考える。

ここで区別したいのが、痛みを感じる場所と、痛みの発生源である。歯髄や歯周組織の痛みも、同じ側の別の口腔顔面部位へ関連・放散しうる。原著に再掲された診断基準にも、この注意がある。「関連痛だから歯以外」とは決められない。

逆方向もある。著者らは先行文献を引き、筋からの痛みが歯の痛みに見えることを説明している。歯が圧痛を示すだけで、根管の問題と結びつけてしまう。その判断に、別の候補を並べる役割をICOPは持つ。

③患者を比較した実験ではなく、分類の使い方を解説した

この論文は2021年のナラティブレビュー(解説総説)だ。ICOPの開発に参加した著者らが、2020年に公表された分類の構造と、歯痛の鑑別に役立つ診断基準の例を紹介している。新たな患者集団で診断精度や治療効果を比較した研究ではない。本稿でも、総説で示された考え方を読む。

ICOPには痛みの6分類と、心理社会面の評価を扱う第7章がある。痛みの6分類を、入口の言葉で並べると次のようになる。

  • 歯と周囲の組織/筋・筋膜——歯・歯周組織に加え、口腔粘膜・唾液腺・顎骨などの痛みと、筋・筋膜の痛みを別の群として扱う。
  • 顎関節/脳神経の病変・疾患——顎関節の痛みと、三叉神経・舌咽神経の病変や疾患による痛みを分ける。
  • 頭痛に似た痛み/特発性の痛み——頭痛に似た特徴を持つ口腔顔面痛と、原因が分からない口腔顔面痛を扱う。

番号に当てはめれば診断が終わるわけではない。原著では、別の病態に起因する二次性の痛みについて、原因と考える病態の存在と、可能な場合には場所・機能・時間の関係から痛みとのつながりを確かめる、という基準の構造を示す。ほかの診断でよりよく説明されないかも検討する。一方、一次性の痛みは別の病態に帰せない痛みとして扱い、原因疾患の特定を前提としない。根尖性歯周炎は痛みなく長く存在することもあり、時間の一致だけでは因果関係を示せない例として説明されている。

④筋と顎関節を、別々に確かめる

筋の痛みは、顎の動きや触診との関係を見る。原著に再掲された一次性筋・筋膜性口腔顔面痛の基準には、側頭筋・咬筋で痛む場所を確認すること、側頭筋・咬筋の触診、または自力もしくは補助下の最大開口で痛みが誘発されること、顎の運動・機能・食いしばりなどで痛みが変化することが含まれる。他のICOP診断でよりよく説明されないことも条件だ。ここで挙げたのは、一次性筋・筋膜性口腔顔面痛の基準の一部である。

著者らが特に注意を促すのは、歯に圧痛があり、痛みを伴う顎関節症(TMD)と診断されている場合。歯の病変を示す明らかな所見がなければ、侵襲的な歯科治療の前に筋からの関連痛を除外する、と述べている。歯に病変がある場合まで、一律に筋の問題とする話ではない。

顎関節からも、歯・歯槽部へ関連痛が生じうる。原著は、筋からの関連痛より少ないと説明している。顎関節部の痛みと、顎の動き・関節部の触診との関係を調べるのが入口だ。再掲された基準には、痛む場所の確認や他の診断の除外も含まれる。

つまり: 筋も顎関節も、誘発所見だけで診断しない。歯の所見と合わせて考える。

原著は、筋や顎関節を調べる枠組みとしてDC/TMD(顎関節症の診断基準)を紹介する。ただし、歯痛として感じられる関連痛を起こす筋をすべて評価するには、追加の筋の触診が必要とも述べている。この総説だけで、診査手順全体がそろうわけではない。

⑤頭が痛くなくても、頭痛に似た痛みはある

頭痛がなくても、この群は除外できない。ICOPには、一次性頭痛に似た特徴を持ちながら、頭痛を伴わない口腔顔面痛の群がある。著者らは先行報告を引き、歯痛がその現れの一部になり、ときには唯一の所見になることもあると説明している。

その一例が、神経血管性口腔顔面痛だ。歯髄炎に似た痛みを示しうるため、痛む歯だけでなく、発作に伴って起きることにも目を向ける。

  • 発作の持続時間と繰り返し方。
  • 同じ側の涙・鼻水・鼻づまり。
  • 光や音への過敏、吐き気。

これらは問診の入口で、診断基準の全項目ではない。神経血管性口腔顔面痛の基準には、痛みの強さや性質、局所の原因では説明できず臨床・画像検査が正常であること、ほかの診断でよりよく説明されないことも含まれる。涙が出るという所見だけで、歯の原因を除外できるわけではない。

また、治療済みの歯に痛みが続く場合には、神経障害性の痛みも候補になる。著者らは先行文献を引き、痛みが神経障害性であれば、再治療や抜歯で解決せず、追加の神経損傷で増悪する可能性を述べている。治療歴だけで診断するのではなく、外傷・処置と発症の関係、神経の分布に合う痛みや感覚の変化、神経損傷の根拠などを合わせて考える。

⑥痛みの分類に、心理社会面の評価が並ぶ理由

ICOPの第7章は、口腔顔面痛患者の心理社会面の評価を扱う。著者らは先行文献を踏まえ、心理社会的要因も、診断と対応を考えるうえで重要だと説明している。歯原性か非歯原性かを考えることと、患者さんの困りごとを把握することが、同じ枠組みに置かれている。

ただし、この総説は具体的な問診票や尺度を提示していない。次の節で示す睡眠・生活・不安・希望についての質問は、この考え方を診療に持ち込むための筆者の提案だ。心理的な原因や精神疾患を確定するための質問としては扱わない。

⑦明日の臨床へ

この論文が示したのは、ICOPの構造と歯痛の鑑別への使い方である。新たな実験で確かめた診断精度や治療成績はない。ここから先は筆者の臨床的な読みとして、問診と診査の整理に落とし込む。

  • いつ始まり、何で変わるかを聞く。発症と処置・外傷の前後関係、発作の長さと繰り返し、顎の動きとの関係、痛みと一緒に出る症状を、歯の診査所見と並べて記録したい。
  • 誘発した痛みと、主訴の歯痛を照らし合わせる。筋や顎関節の診査で痛みが出たら、「いつもの歯の痛みと同じですか」と確かめる。単独の誘発所見で原因を決めず、ほかの所見と合わせるための問いとして使いたい。
  • 眠り・生活・不安・希望も聞く。「痛みで眠りや生活はどう変わりましたか」「何が不安ですか」「診療に何を望みますか」。筆者の問診案として、紹介を決めた後まで待たず、歯の診査と並行して聞きたい。困りごとの把握に使い、心理的な原因の確定には使わない。
  • 歯を再評価し、必要なら診査を広げる。歯内療法で説明できる根拠を見直し、合わなければ筋・顎関節など歯以外の候補を調べ、所見を添えて適切な専門家への紹介を考える。原著の図も、診査から診断、治療・紹介へつなぐ使い方を提案している。診断精度が検証された分岐手順ではない。

歯以外の診査には、顎骨の病態を確かめる視点も含まれる。原著は、最近の顎の外傷を示す病歴があれば、歯内療法や抜歯の前に骨折を除外するよう述べている。分類表を上から順番に埋めるより、病歴と所見から必要な評価へ進む、という読み方をしたい。この総説は、緊急性の判定手順全体を検証したものではない。

ここだけ、冷静に補助線
ICOP原典そのものではなく、診断基準の例を紹介する解説総説である。分類のすべての基準を載せてはいない。著者らも、検証済みの基準がない領域では専門家の判断に基づいており、診断精度の研究が必要だと述べる。分類を使ったときの診断精度や、不要な処置の減少を、この論文は測定していない。それでも、痛む歯から原因へ考えを進め、患者さんや他職種と所見を共有するための共通言語として読める。

今日のひとこと

痛む歯から、原因の場所へ。ICOPを手掛かりに歯の所見と痛みの特徴を照らし合わせ、筋・顎関節などの候補も考える。分類名だけで原因を決めず、患者さんや紹介先と所見を共有したい。

Pigg M, Nixdorf DR, Law AS, Renton T, Sharav Y, Baad-Hansen L, List T. New International Classification of Orofacial Pain: What Is in It For Endodontists? J Endod. 2021;47(3):345-357. doi:10.1016/j.joen.2020.12.002. PMID: 33340605
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。