痛み・口腔顔面痛|片側性副鼻腔炎と歯原性感染の関係を診療録から調べた単施設の後ろ向き研究
上顎洞の異常が見つかったら、歯との関係はもう考えなくてよいのか。杏林大学の口腔外科・耳鼻咽喉科で評価された片側性副鼻腔炎190人中138人(72.6%)に、歯原性感染の関与が認められた。ただし、これは歯痛患者全体の割合ではなく、鼻・副鼻腔由来の歯痛の見分け方を検証した研究でもない。画像と歯科の所見をつないで読む。
①片側の副鼻腔炎。歯も調べていますか?
上の奥歯と鼻の周辺が痛い。画像では片側の上顎洞に陰影がある。「鼻の病変が見つかったから、歯の話はここまで」と区切ってよいだろうか。
Matsumotoらが調べたのは、病院で評価された片側性副鼻腔炎190人。そのうち138人(72.6%)で歯原性感染の関与ありと判定された。鼻へ目を向けたあとにも、歯との関係を確かめる理由がある。ただし、この割合の対象は歯痛患者全体ではない。
②鼻の病変でも、歯との関係が残る
原著の導入では、副鼻腔炎に歯原性感染が関わるかの評価は難しいとされ、歯科との連携にも課題が挙げられている。鼻の画像所見が分かっただけで、歯との関係まで分かるわけではない。
この研究の病院には口腔外科があり、耳鼻咽喉科と日常的に連携していた。著者らが見直したのは、その環境で診療した片側性副鼻腔炎の患者たちだ。歯科と耳鼻咽喉科で評価した患者の記録から、歯原性感染の関与を調べている。
③病院で評価された片側性副鼻腔炎190人
杏林大学の口腔外科・耳鼻咽喉科で、2005〜2012年の診療録を後ろ向きに調べた研究である。対象の定義は、CTの陰影が主に片側にあり、その側の上顎洞を含むこと。さらに、反対側の副鼻腔のLund–Mackeyスコアが2未満で、嚢胞性疾患と腫瘍を除外している。以下ではこの選択条件を満たした患者の結果を読む。
評価にはCT・パノラマX線・電気歯髄検査・口腔内診査を用いた。電気歯髄検査(EPT)は、電気刺激に対する歯髄の反応を見る補助検査として使っている。
- A群=歯原性感染の関与あり
- B群=歯原性感染の関与なし
- C群=歯原性感染の関与を判定できず
治療法を無作為に比べる試験ではない。診療の中で得られた所見を組み合わせ、歯原性感染の関与を分類した研究である。
④最終分類では、歯原性感染の関与ありが最多
対象:病院で評価された片側性副鼻腔炎190人
B群=関与なし
C群=判定できず
ここで押さえたいのは、判定できずの患者を、関与なしに含めないことだ。歯科と耳鼻咽喉科が評価しても、関与を決めきれない患者が残っている。
⑤痛みの訴えは、どの群にもあった
では、痛みがあれば歯原性と考えてよいのか。原著は主訴を「顔面痛・歯痛・鼻痛」をまとめた項目として集計している。歯痛だけの割合ではない。
対象:病院で評価された片側性副鼻腔炎190人の各群
B群=関与なし
C群=判定できず
この項目の訴えは、関与あり・関与なし・判定できずのいずれにも見られた。著者らは、症状に歯原性を特徴づけるものは認めなかったと述べている。ただし、鼻・副鼻腔由来の歯痛を見分ける診断精度の研究ではない。この棒の高さを感度や特異度として読むことはできない。
⑥画像に歯髄検査を重ねた理由
著者らは、歯髄の状態には画像だけでは判断しにくい部分があり、電気歯髄検査が補助になると説明している。同時に、反応はさまざまな条件に左右されるため、電気歯髄検査だけでは診断しないとも述べている。
また、歯原性感染が多く見つかった背景には、診療科間の連携や撮影条件を工夫した診断手順が関係した可能性を挙げている。連携によって検出率がどれだけ上がったかを比較した結果ではない。
⑦明日の臨床へ
この研究が確かめたことは、対象となった病院の片側性副鼻腔炎患者で、歯原性感染の関与ありが多数を占めたこと。ここから先は筆者の臨床的な読みである。以下は紹介時の情報整理の提案であり、診断手順や治療効果を検証した結果ではない。
上顎洞の異常が見つかったときも、歯との関係を確かめる視点を残したい。紹介時には、痛む場所と経過、歯科で確認した所見、鼻症状との重なりをそろえて渡す。「歯科では何もない」の一行だけにまとめず、何を確認し、どこがまだ判断できないのかを伝えるための項目だ。
この論文から持ち帰るのは、特定の症状で歯原性を決める方法ではなく、鼻の所見と歯の所見を、同じ診療の話としてつなぐ視点である。
単施設の後ろ向き研究で、対象は病院で評価された片側性副鼻腔炎190人。歯痛患者全体での割合や、鼻・副鼻腔由来の歯痛を見分ける感度・特異度は示していない。歯科治療による歯痛の改善率も報告していない。
原著の初期判定から追加診断への記載には不整合がある。追加CTは本文・Fig. 7図中で23人、Fig. 7説明文で20人と異なる。ここでは一致している最終分類を示した。また考察には「全群で痛みが最多」とあるが、結果3.5のB群では痛み11人より鼻漏・後鼻漏14人のほうが多い。本記事の症状の図は結果3.5に従った。こうした限界を踏まえても、歯科と耳鼻咽喉科が所見を持ち寄る意義を考える材料になる。
今日のひとこと
病院で評価された片側性副鼻腔炎190人中138人に歯原性感染の関与があった。鼻の異常が見つかっても、歯との関係を確かめる視点を残したい。ただし、歯痛の見分け方や治療効果を確かめた研究ではない。


