1問1答 論文 痛み・口腔顔面痛

片側の副鼻腔炎、歯も調べていますか?——病院で評価された190人中138人に歯原性感染の関与(Matsumoto 2015)

1問1答 論文 痛み・口腔顔面痛

痛み・口腔顔面痛|片側性副鼻腔炎と歯原性感染の関係を診療録から調べた単施設の後ろ向き研究

上顎洞の異常が見つかったら、歯との関係はもう考えなくてよいのか。杏林大学の口腔外科・耳鼻咽喉科で評価された片側性副鼻腔炎190人中138人(72.6%)に、歯原性感染の関与が認められた。ただし、これは歯痛患者全体の割合ではなく、鼻・副鼻腔由来の歯痛の見分け方を検証した研究でもない。画像と歯科の所見をつないで読む。

論文
Association between odontogenic infections and unilateral sinus opacification
著者
Yuma Matsumoto, Tetsuya Ikeda, Hidenori Yokoi, Naoyuki Kohno(杏林大学・日本)
掲載
Auris Nasus Larynx 2015;42(4):288-93. doi:10.1016/j.anl.2014.12.006
種類
単施設の診療録を用いた後ろ向き観察研究。2005〜2012年に口腔外科・耳鼻咽喉科で評価された片側性副鼻腔炎190人。CTで主に片側の副鼻腔に陰影があり上顎洞を含むこと、反対側のLund–Mackeyスコアが2未満であることを条件とし、嚢胞性疾患と腫瘍を除外。画像・電気歯髄検査・口腔内診査から歯原性感染の関与を分類。
PMID
25638394

①片側の副鼻腔炎。歯も調べていますか?

上の奥歯と鼻の周辺が痛い。画像では片側の上顎洞に陰影がある。「鼻の病変が見つかったから、歯の話はここまで」と区切ってよいだろうか。

Matsumotoらが調べたのは、病院で評価された片側性副鼻腔炎190人。そのうち138人(72.6%)で歯原性感染の関与ありと判定された。鼻へ目を向けたあとにも、歯との関係を確かめる理由がある。ただし、この割合の対象は歯痛患者全体ではない。

②鼻の病変でも、歯との関係が残る

原著の導入では、副鼻腔炎に歯原性感染が関わるかの評価は難しいとされ、歯科との連携にも課題が挙げられている。鼻の画像所見が分かっただけで、歯との関係まで分かるわけではない。

この研究の病院には口腔外科があり、耳鼻咽喉科と日常的に連携していた。著者らが見直したのは、その環境で診療した片側性副鼻腔炎の患者たちだ。歯科と耳鼻咽喉科で評価した患者の記録から、歯原性感染の関与を調べている。

③病院で評価された片側性副鼻腔炎190人

杏林大学の口腔外科・耳鼻咽喉科で、2005〜2012年の診療録を後ろ向きに調べた研究である。対象の定義は、CTの陰影が主に片側にあり、その側の上顎洞を含むこと。さらに、反対側の副鼻腔のLund–Mackeyスコアが2未満で、嚢胞性疾患と腫瘍を除外している。以下ではこの選択条件を満たした患者の結果を読む。

評価にはCT・パノラマX線・電気歯髄検査・口腔内診査を用いた。電気歯髄検査(EPT)は、電気刺激に対する歯髄の反応を見る補助検査として使っている。

  • A群=歯原性感染の関与あり
  • B群=歯原性感染の関与なし
  • C群=歯原性感染の関与を判定できず

治療法を無作為に比べる試験ではない。診療の中で得られた所見を組み合わせ、歯原性感染の関与を分類した研究である。

④最終分類では、歯原性感染の関与ありが最多

対象:病院で評価された片側性副鼻腔炎190人

A群=関与あり
B群=関与なし
C群=判定できず

0 25% 50% 75% 100% 対象190人に占める割合 (%) 72.6% 16.8% 10.5% A群=関与あり B群=関与なし C群=判定できず 対象:病院で評価された片側性副鼻腔炎190人。A群138人、B群32人、C群20人。歯痛患者全体の割合ではない。百分率は原著表記。

歯原性感染の関与による最終分類。A群:138人(72.6%)、B群:32人(16.8%)、C群:20人(10.5%)。各割合の分母は190人。原著の抄録・結果3.4・Fig. 7の最終値に基づく。百分率は原著の表記で、丸めにより合計は100%にならない。

ここで押さえたいのは、判定できずの患者を、関与なしに含めないことだ。歯科と耳鼻咽喉科が評価しても、関与を決めきれない患者が残っている。

つまり: この病院の片側性副鼻腔炎では、歯原性感染の関与は見過ごせない。歯痛患者全体に72.6%を当てはめることはできない。

⑤痛みの訴えは、どの群にもあった

では、痛みがあれば歯原性と考えてよいのか。原著は主訴を「顔面痛・歯痛・鼻痛」をまとめた項目として集計している。歯痛だけの割合ではない。

対象:病院で評価された片側性副鼻腔炎190人の各群

A群=関与あり
B群=関与なし
C群=判定できず

0 25% 50% 75% 100% 顔面痛・歯痛・鼻痛の主訴 (%) 44.2% 34.4% 35% A群(138人) B群(32人) C群(20人) 対象:病院で評価された片側性副鼻腔炎190人の各群。A群61人/138人、B群11人/32人、C群7人/20人。歯痛だけの割合ではない。診断精度や群間の有意差を示す図ではない。

「顔面痛・歯痛・鼻痛」の主訴。A群:61人/138人(44.2%)、B群:11人/32人(34.4%)、C群:7人/20人(35%)。分母はそれぞれの群の患者数。結果3.5の記述値で、群間の有意差を示す図ではない。

この項目の訴えは、関与あり・関与なし・判定できずのいずれにも見られた。著者らは、症状に歯原性を特徴づけるものは認めなかったと述べている。ただし、鼻・副鼻腔由来の歯痛を見分ける診断精度の研究ではない。この棒の高さを感度や特異度として読むことはできない。

⑥画像に歯髄検査を重ねた理由

著者らは、歯髄の状態には画像だけでは判断しにくい部分があり、電気歯髄検査が補助になると説明している。同時に、反応はさまざまな条件に左右されるため、電気歯髄検査だけでは診断しないとも述べている。

また、歯原性感染が多く見つかった背景には、診療科間の連携や撮影条件を工夫した診断手順が関係した可能性を挙げている。連携によって検出率がどれだけ上がったかを比較した結果ではない。

著者の結論: 画像だけでの診断には問題が生じうる。歯髄検査などの追加が必要になる場合があり、画像と口腔内の所見を合わせて判断する。歯科と耳鼻咽喉科の連携が重要になる。

⑦明日の臨床へ

この研究が確かめたことは、対象となった病院の片側性副鼻腔炎患者で、歯原性感染の関与ありが多数を占めたこと。ここから先は筆者の臨床的な読みである。以下は紹介時の情報整理の提案であり、診断手順や治療効果を検証した結果ではない。

上顎洞の異常が見つかったときも、歯との関係を確かめる視点を残したい。紹介時には、痛む場所と経過、歯科で確認した所見、鼻症状との重なりをそろえて渡す。「歯科では何もない」の一行だけにまとめず、何を確認し、どこがまだ判断できないのかを伝えるための項目だ。

この論文から持ち帰るのは、特定の症状で歯原性を決める方法ではなく、鼻の所見と歯の所見を、同じ診療の話としてつなぐ視点である。

ここだけ、冷静に補助線

単施設の後ろ向き研究で、対象は病院で評価された片側性副鼻腔炎190人。歯痛患者全体での割合や、鼻・副鼻腔由来の歯痛を見分ける感度・特異度は示していない。歯科治療による歯痛の改善率も報告していない。

原著の初期判定から追加診断への記載には不整合がある。追加CTは本文・Fig. 7図中で23人、Fig. 7説明文で20人と異なる。ここでは一致している最終分類を示した。また考察には「全群で痛みが最多」とあるが、結果3.5のB群では痛み11人より鼻漏・後鼻漏14人のほうが多い。本記事の症状の図は結果3.5に従った。こうした限界を踏まえても、歯科と耳鼻咽喉科が所見を持ち寄る意義を考える材料になる。

今日のひとこと

病院で評価された片側性副鼻腔炎190人中138人に歯原性感染の関与があった。鼻の異常が見つかっても、歯との関係を確かめる視点を残したい。ただし、歯痛の見分け方や治療効果を確かめた研究ではない。

Matsumoto Y, Ikeda T, Yokoi H, Kohno N. Association between odontogenic infections and unilateral sinus opacification. Auris Nasus Larynx. 2015;42(4):288-93. doi:10.1016/j.anl.2014.12.006. PMID: 25638394.
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。