エンド|歯冠修復の質(臨床とX線写真の両方で評価)と根管充填の質が、根尖の状態とどう関連するかを調べた横断調査(Hommez・Coppens・De Moor 2002・International Endodontic Journal)。ベルギー・ゲント大学歯学部を受診した228人の根管充填歯745歯。ある時点のX線写真での評価で、経過を追った研究ではない
根管治療歯の根尖病変を見たとき、「根管充填が甘いからか、上の修復から漏れているからか」と考えます。Hommezらは2002年、ゲント大学歯学部を受診した228人の根管充填歯745歯について、歯冠修復を探針と目(臨床)とX線写真の両方で評価し、根管充填の質とあわせて、根尖性歯周炎の有無との関連を調べました。X線写真で根尖性歯周炎の所見があったのは全体の32.5%(242歯)。歯冠修復を臨床的に評価した場合、可31.1%・不可36.8%で有意差はありませんでした。X線写真で評価すると、可23.8%・不可49.1%で有意差がありました(P<0.001)。根管充填は、長さと均質性がともに可の歯で23.0%、不可の歯で37.4%でした(P<0.001)。ロジスティック回帰では、根管充填の均質性(オッズ比2.092)と歯冠修復のX線所見(オッズ比2.673)が同じ程度の大きさで残りました。ある時点のX線写真を調べた横断調査で、修復や根管充填の質が根尖病変の原因だと示した研究ではありません。
①根尖に関わるのは、根管充填か、上の修復か
根管治療歯のX線写真に、根尖の透過像が写っている。根管充填が足りないのか、歯冠修復の辺縁から漏れているのか。再治療を考えるたびに迷う場面です。
この論文の序論によると、当時の報告は割れていました。Ray & Trope(1995)とKirkevangら(2000)は、X線写真で見た歯冠修復の質のほうが根管充填の質より根尖への影響が大きいと報告し、Tronstadら(2000)は歯冠修復の質のほうが重要度は低いと報告していました。ただ、どれも歯冠修復をX線写真だけで評価しています。Hommezらは、口の中で探針を使って診た評価を加えて、同じ問いを調べ直しました。
先に断っておきます。これはある時点のX線写真を調べた横断調査です。修復や根管充填の質が原因で根尖病変ができた、と確かめた研究ではありません。
・X線写真で根尖性歯周炎の所見があったのは32.5%(242歯)
・歯冠修復を探針と目で評価:可31.1%、不可36.8%。有意差なし
・歯冠修復をX線写真で評価:可23.8%、不可49.1%。有意差あり(P<0.001)
・根管充填(長さと均質性):可23.0%、不可37.4%。有意差あり(P<0.001)
・ロジスティック回帰では、根管充填の均質性(オッズ比2.092)と歯冠修復のX線所見(オッズ比2.673)が、同じ程度の大きさで残った
・著者らの結論は「歯冠修復と根管充填は、どちらも重要」
②調査の組み立て:745歯を、口の中とX線写真の両方で診た
対象は、ベルギーのゲント大学歯学部を受診した患者です。無作為に選んだ患者のパノラマX線写真で根管充填歯を選び、前年に修復治療を受けていない歯だけを調べました(カルテか本人の記憶で確認)。選んだ歯は1本ずつ、フィルムホルダーを使ってデンタルX線写真を撮っています。全部で228人・745歯、1人あたり平均3.3歯です。
・歯冠修復(臨床):Rygeの基準の変法で7段階。辺縁良好、探針が引っかかるが隙間は見えない、エナメル質内の隙間、の3つを「可」。象牙質に達する隙間・修復物の破折・脱離・喪失を「不可」
・歯冠修復(X線写真):漏洩の所見がない修復を「可」。辺縁が開いている、二次う蝕がある、を「不可」。あわせて、修復物の下のベースの有無、アマルガムかコンポジットか、ポストの有無も記録
・根管充填:X線写真上の根尖から0〜2mmで終わるものを長さ「可」。2mmより短い、または根尖を越えるものを「不可」。気泡がなく緊密なものを均質性「可」。長さと均質性がともに可の歯だけを、根管充填「可」とした
・根尖の状態:正常/歯根膜腔の拡大(側方の歯根膜腔の幅の2倍以内)/根尖部の透過像。後ろの2つを根尖性歯周炎とした
X線写真は5倍拡大のビューアで読んでいます。評価者は2人で、事前と調査中に較正を行い、評価の一致度(カッパ値)は0.70〜0.96でした。
③結果その1:歯冠修復は、評価のしかたで結果が変わった
歯冠修復を口の中で診た評価では、75.2%が「可」でした。根尖性歯周炎は、可の歯で31.1%、不可の歯で36.8%。この差は有意ではありませんでした。臨床的に辺縁う蝕があるかどうかで分けても、31.1%と38.5%で有意差はありません。
X線写真で評価すると、78.1%が「可」でした。根尖性歯周炎は、可の歯で23.8%、不可の歯で49.1%。こちらは有意でした(カイ二乗=32.027、P<0.001)。原著に載っている割合どうしを割ると、リスク比は約2.1です(49.1 ÷ 23.8。本文の割合から計算。可の割合の数字には、補助線の(1)に書いた注意があります)。
・漏洩の所見がない修復:23.8%
・辺縁が開いている修復:41.3%
・辺縁に二次う蝕がある修復:59.2%
臨床とX線写真の基準を合わせて評価すると(可は全体の67.4%)、根尖性歯周炎は可30.1%、不可37.4%でした。差は有意です(P<0.05、オッズ比1.392、95%信頼区間1.008〜1.921。リスク比は約1.24=37.4 ÷ 30.1。本文の割合から計算)。
臨床の評価とX線写真の評価の相関は弱く、Spearmanの順位相関係数は0.485でした。口の中で診た評価と、X線写真で見た評価は、同じものを測っていなかったことになります。
④結果その2:根管充填は、長さも均質性も関連していた
・長さ:根尖から0〜2mm 27.2%/根尖を越える 52.6%/2mmより短い 34.8%。「0〜2mm」と「それ以外(短い+越える)36.4%」の比較で有意差あり(36.4%は原著本文の記載値。表3の実数では432歯中157歯=36.3%)(カイ二乗=6.983、P<0.01、オッズ比1.531、95%信頼区間1.115〜2.103。リスク比は約1.3=36.4 ÷ 27.2。本文の割合から計算)
・均質性:均質 27.5%/不均質 47.1%(P<0.001。リスク比は約1.7=47.1 ÷ 27.5。本文の割合から計算)
・長さと均質性を合わせた評価:可 23.0%/不可 37.4%(カイ二乗=15.835、P<0.001、オッズ比1.997、95%信頼区間1.416〜2.816)
・ポスト:あり 31.9%/なし 32.9%(有意差なし)
長さと均質性がともに「可」だった根管充填は、全体の34.4%(256歯)にとどまりました。可と不可の割合を割ると、リスク比は約1.6です(37.4 ÷ 23.0。本文の割合から計算)。
⑤結果その3:2つを組み合わせると
著者らは、歯冠修復と根管充填の良・不良を組み合わせた4群を、2通りの分け方で示しています。
・A 歯冠修復 良 × 根管充填 良:22.5%
・B 歯冠修復 良 × 根管充填 不良:34.4%
・C 歯冠修復 不良 × 根管充填 良:24.3%
・D 歯冠修復 不良 × 根管充填 不良:43.2%
・有意差があったのは A対B、C対D、A対D。A対C と B対D には有意差がなかった
つまり、この分け方では、根管充填の良し悪しで差が出て、歯冠修復の良し悪しでは有意な差が出ませんでした。著者らは考察で、歯冠修復の質(臨床とX線写真の両方で評価)は、根管充填の質と組み合わせると根尖の状態に有意な影響を持たなかった、と書いています。
・A 良 × 良:20.8%/B 良 × 不良:31.9%/C 不良 × 良:34.1%/D 不良 × 不良:54.6%
・表の脚注で有意差が示されているのは A対B、A対D、B対D、C対D(A対Cの検定結果は示されていない)
多変量の解析(ロジスティック回帰)では、次の3つが根尖の状態と有意に関連していました。
・歯冠修復のX線所見:オッズ比2.673(95%信頼区間1.744〜4.097)
・根管充填の均質性:オッズ比2.092(95%信頼区間1.473〜2.973)
・根管充填の長さ:オッズ比1.402(95%信頼区間1.006〜1.954、P=0.046)
著者らは、歯冠修復のX線所見と根管充填の均質性のオッズ比が同じ程度の大きさであることから、2つは根尖の状態に同じくらい関わっていると解釈しています。なお、この表のオッズ比は他の項目を同時に入れて調整した値です。この記事で併記しているリスク比は、2つの群の割合を単純に割ったもので、調整はしていません。
・修復物の下にベースあり25.9%/ベースなし41.3%(P<0.005)。リスク比は約0.63(25.9 ÷ 41.3。本文の割合から計算)。ロジスティック回帰(420歯)でのベースのオッズ比は0.624(95%信頼区間0.394〜0.988)
・アマルガム28.4%/コンポジット40.5%(P<0.01。リスク比は約1.4=40.5 ÷ 28.4。本文の割合から計算)。材料の種類は、ロジスティック回帰の表には残っていない
⑥明日の臨床へ
・よく封鎖された歯冠修復と、丁寧に行われた根管治療は、どちらも根管治療の成功に重要である
・歯冠側からの漏洩を根尖性歯周炎との関連で評価するには、臨床だけの評価より、歯冠修復のX線写真での評価のほうが重要である
・データからは、根管治療が丁寧に行われていれば、歯冠側からの漏洩は、過去の研究が示したほどには臨床的な影響を持たないかもしれない
・修復物の下にベースを置くことは、根尖性歯周炎を減らすうえで有益である
・「根管充填か、歯冠修復か」の二者択一ではなく、両方を見る。経過観察のX線写真では、根尖と根管充填だけでなく、修復物の辺縁にも目を向けたいところです
・探針で触って問題がなくても、X線写真で辺縁の開きや二次う蝕が見えることがあります。この調査では、2つの評価の相関は弱いものでした
・ベースと材料の結果は、充填で修復された歯に限った観察です。当時のコンポジット修復の結果で、どの材料が良いかを比べるために組まれた調査ではありません
X線写真は二次元の像です。著者らは、海綿骨に限られた病変は通常のX線写真ではほとんど検出できないこと、根管の中の細菌の状態はX線写真からは分からないことを、限界として挙げています。歯冠修復の質も、X線写真だけでは確実には評価できないと書いています。
対象は、大学の歯学部を受診した228人の745歯です。統計は歯を単位に行われていて、同じ患者の複数の歯であることを調整したという記載はありません。
原著の中で、記載が合わない箇所があります。(1)X線写真で歯冠修復が「可」の歯の根尖性歯周炎は、抄録・本文・表2とも23.8%です。一方、表2の実数は582歯中162歯で、割ると27.8%になります(表8の実数とも一致します)。この記事は原著の記載どおり23.8%を載せました。実数から計算すると、不可49.1%とのリスク比は約1.8です(筆者の計算)。(2)本文は「ポストは59.5%の歯にあった」と書いていますが、表3ではポストありが40.4%、ポストなしが59.6%です。(3)根管充填の均質性について、本文はオッズ比6.898(95%信頼区間4.595〜10.354)と書いていますが、表3の実数から計算すると約2.3で(筆者の計算)、ロジスティック回帰の2.092に近い値です。この記事では本文の6.898は使っていません。(4)表9のA対Bのオッズ比の下限は、表の脚注で1.178、本文で1.187です。
オッズ比は、根尖性歯周炎のように割合の高い所見では、「何倍なりやすいか」より大きめの数字になります。この記事では、割合が示されていて有意差のあった2群の比較に、リスク比(調整していない単純な割合の比)を併記しました。
資金・利益相反:原著に、資金提供や利益相反の記載は見当たりません。
それでも、同じ歯を口の中とX線写真の両方で評価し、根管充填の質と並べて解析した調査です。根管治療歯を「根管充填だけ」「修復だけ」で見ていないか、振り返る材料になる1本です。
今日のひとこと
この調査が示したのは、根管充填歯745歯では、根管充填の質と、X線写真で見た歯冠修復の質の両方が、根尖性歯周炎の有無と関連していたということです。歯冠修復を探針と目で評価した場合は、可31.1%・不可36.8%で有意差がなく、X線写真で評価した場合は、可23.8%・不可49.1%で有意差がありました(P<0.001)。根管充填は、可23.0%・不可37.4%でした(P<0.001)。ロジスティック回帰のオッズ比は、根管充填の均質性2.092、歯冠修復のX線所見2.673、根管充填の長さ1.402です。著者らはよく封鎖された歯冠修復と、丁寧な根管治療の両方が重要だと結論しています。ある時点のX線写真を調べた横断調査で、原因と結果の関係を示した研究ではありません。筆者の読みでは、根管治療歯の経過を見るとき、根管充填と一緒に修復物の辺縁もX線写真で確かめる習慣を後押しする1本です。


