口腔顔面痛|神経障害性疼痛の診断・分類・治療を、米国・欧州・日本の実情を含めて整理したナラティブ総説(Chong & Bajwa 2003・J Pain Symptom Manage 増刊号)
根管治療をやり直しても、抜歯しても取れない痛み。次の一手を、何を根拠に選んでいるでしょうか。この総説は「現時点で神経障害性疼痛の最適な管理について合意は存在せず、診療は世界中でばらばらである」という一文から始まります。著者らが挙げる理由は、診断のプロトコルで合意しにくいこと、神経障害性・侵害受容性・特発性の痛みが同じ患者に同居すること、そして神経障害性疼痛が「症状の背後の仕組み」ではなく「原因となった病気の名前」で分類されてきたこと。IASPが神経障害性疼痛を用語集に載せたのは1994年で、その定義は感度は高いかもしれないが特異度が低い——神経の損傷があれば診断がついてしまうため、別の原因の痛みを取り違える誤診も、神経の徴候を見落とす過少診断も起こります。治療は逸話的な根拠と少数の小さな試験に支えられた経験的なもので、現在のエビデンスはある薬を他より優先する根拠にならないとまで書かれています。著者らの提案は、病因による分類とメカニズムによる分類を組み合わせること。ただしこれは2003年の総説で、プレガバリンもデュロキセチンも登場しません。
①抜髄しても、抜いても取れない痛み。次の一手を何で選んでいますか
根管治療をやり直した。それでも痛い。抜歯した。それでも、その場所が焼けるように痛む。こういう患者さんを前にしたとき、次の一手を何を根拠に選ぶでしょうか。
この総説は、いきなりこう書き出します。現時点で、神経障害性疼痛の最適な管理について合意は存在せず、診療は世界中でばらばらである。2003年、英国 King’s College Hospital の Chong と、ハーバードの Bajwa による、増刊号の総説です。
著者らが「考えられる説明」として挙げるのは2つ。診断のプロトコルで合意するのが難しいことと、神経障害性の痛み・侵害受容性の痛み・ときに特発性の痛みが、同じ患者の中に同居することです。加えて著者らは、神経障害性疼痛が歴史的に「症状の背後にある仕組み」ではなく「原因となった病気の名前」で分類されてきたとも指摘します。
②1994年に、やっと名前がついた
痛みの研究の歴史は長いのに、神経障害性疼痛に注目が集まったのは、1973年に国際疼痛学会(IASP)が設立されてからだと著者らは書きます。IASPが最初の痛みの用語集を出したのが1979年。そこに「神経障害性疼痛」が載ったのは、1994年でした。
そのときの定義が、「神経系の一次的な病変または機能障害によって惹起された、あるいはそれによって引き起こされた痛み」です。非常に広い定義ですが、ここには重要な考え方が畳み込まれています。神経が傷むと、刺激が続いていなくても、神経経路の中の変化だけで慢性の痛みが起こりうる——これは、刺激が痛みを生むというデカルト的なモデルを否定する、当時としては革命的な発想だったと著者らは説明します。
だから神経障害性疼痛は、侵害受容性疼痛とはカテゴリーとして別物です。侵害受容性疼痛は、有害な刺激で侵害受容線維が活動して起こる痛みで、ふつうは有限で・限局していて・治癒や刺激の除去とともに治まります。
・アロディニア:ふつうは痛みを起こさない刺激で生じる痛み
・痛覚過敏:ふつうに痛い刺激に対する反応が増大すること
・dysesthesia:自発的か誘発性かを問わない、不快な異常感覚
・paresthesia:自発的か誘発性かを問わない異常感覚
・末梢神経障害性疼痛:末梢神経系の一次的な病変または機能障害による痛み
そして、診断を難しくしている核心がここです。この定義を厳密に当てはめると、痛みのある患者に神経の損傷か機能障害を示しさえすれば診断がついてしまいます。しかも神経の損傷は、感覚の低下という「陰性症状」としても、異常感覚や痛覚過敏という「陽性症状」としても現れます。
結果として、IASPの定義は感度は高いかもしれないが、特異度は低いと著者らは指摘します。神経損傷があって、たまたま別の原因の痛みも抱えている患者を、神経障害性疼痛と誤診して誤った治療をしてしまう。逆に、神経機能障害の徴候と症状に気づかれなければ、過少診断になる。どちらにも転ぶわけです。
③だから診断は、病歴と「感覚を測る道具」でできている
そこで著者らは、神経障害性疼痛を疑う患者には詳しい病歴と全身のレビュー、そして包括的な身体診察・神経学的診察が必要だと書きます。
・痛みの質:患者さん自身の言葉で記録する(電撃のような/灼けるような/鈍く痛む)
・感覚の診察:診断は「疑わしい神経の支配領域に感覚の異常があること」に大きく依存するので、感覚脱失の有無と範囲を丁寧に調べる。道具は温・冷の金属ローラー(温度覚)/ラクダ毛の筆(触覚)/ピン(痛覚)
評価ツールとしては、Neuropathic Pain Scale(NPS)が紹介されています。神経障害性疼痛に特徴的な痛みの質を記述語として定義したもので、個々の患者が経験している症状の「型」を再現性よく評価でき、いずれは症状に合わせて治療を組み立てられるようになるかもしれない、という位置づけです。ただし著者らは慎重で、このスケールを使うことが診断や臨床管理の改善につながるかは、まだ決まっていないと明記しています(各国語版の妥当性検証は、臨床的に使える可能性を示唆している、という書き方です)。同じ領域では LANSS などのスケールも開発中だとされています。
④分類を、「原因」から「メカニズム」へ
ここがこの総説のいちばんの主張です。
従来の分類は、原因となった病気で分けるものでした。有痛性糖尿病性神経障害、三叉神経痛、帯状疱疹後神経痛、脊髄損傷。あわせて、神経の損傷が末梢にあるのか中枢にあるのかという部位でも分けます。
もうひとつの体系が、推定される「仕組み(メカニズム)」で分けるやり方です。この場合も詳しい病歴と診察が前提になります。そして著者らは、神経障害性疼痛に使う薬も、推定される抗神経痛作用の仕組みによって層別化することが重要だと書いています(この仕組みによる層別化そのものは、同じ増刊号の別稿で詳しく論じられているとして、ここでは深入りしません)。
抄録の言葉で言えば——病因による分類とメカニズムによる分類を組み合わせれば、神経障害性疼痛の管理は改善するかもしれない。あくまで「かもしれない(might)」であって、証明された話ではない点は押さえておきたいところです。
⑤薬は、大きく2つの系統でできている
治療の話に移ります。まず非侵襲的な治療から。もっとも単純なもののひとつとして挙げられているのが TENS(経皮的電気神経刺激)です。1960年代から使われてきました。背景にあるのは Melzack と Wall のゲートコントロール理論で、太い求心線維と細い求心線維が、上位中枢へ投射する前に後角ニューロンで収束するという相互作用を利用しています。著者らの評価は「有用な補助療法で、副作用はほぼない」です。
そして薬物療法が治療の主軸だと著者らは書きます。神経障害性疼痛は、一次性の鎮痛薬に部分的に、あるいはまったく反応しないことがある。だから使われるのは 鎮痛補助薬(adjuvant analgesics)=もともとの適応が鎮痛ではない薬です。抗てんかん薬、抗不整脈薬、抗うつ薬。これらは大きく2つの系統に分けられます。
抗うつ薬について。初期の試験では直接的な鎮痛作用が示唆されたものの、その多くは対照が不十分か、鎮痛薬の併用で解釈が難しくなっていたと著者らは書きます。より新しい試験では、抗うつ薬が神経障害性疼痛の一部の患者で直接痛みを和らげることが明確に示された。ただし除痛は不完全なことがあり、まったく反応しない患者もいる。もっとも有効なのは三環系抗うつ薬で、神経障害性疼痛の治療に30年以上使われてきました。問題は、三環系は治療の継続を妨げる副作用をしばしば伴うこと。SSRIのような新しい抗うつ薬は忍容性は良いものの、三環系より効果は劣るようだとされています。
抗てんかん薬(AED)について。1960年代から三叉神経痛の治療に使われてきました。神経障害性疼痛に対する抗てんかん薬の最初に報告された試験は、なんと1942年のものです。Bergouignan が、三叉神経痛は一部のてんかんモデルで見られる神経過興奮に似ているという発想から、フェニトインで三叉神経痛の患者を治療しました。抗てんかん薬は薬によって作用の仕方が異なりますが、多くはナトリウムチャネルを抑えて神経の過興奮を下げる働きをもちます。ここでも主な問題は忍容性で、めまいと鎮静が挙げられ、古い世代の薬ほど強く出る傾向があります。
・大半の抗てんかん薬の有効性の根拠は、逸話的な報告と、特定の病態の患者を対象とした少数の試験から来ている
・現在のエビデンスは、ある薬を他より優先する根拠にならない。薬の選択は、臨床医と患者の経験、そして予想される副作用によることがある
・2剤以上が必要なこともあるが、併用療法のデータはさらに不十分で、併用はまったく経験的
・併用の指導原則は、副作用ではなく「付加的な治療効果」に従って薬を選ぶこと
⑥「壊す手術」が勧められない理由
歴史的に、神経障害性疼痛の治療は侵襲的なものから始まりました。デカルト的な痛みのモデルを当てはめて、神経伝達を遮断すれば痛みは和らぐはずだと考えたわけです。局所麻酔薬で一時的に、あるいは外科的に神経を破壊して永久に。大戦で切断や創傷を負った兵士の慢性痛に対して、これらの手技はとくに好まれました。
1916年には Leriche が、末梢神経損傷のある患者に見られる血管運動性の変化に着目し、痛みと異常な血管刺激の関連を示唆しました。これが動脈周囲交感神経切除につながります。しかし著者らの評価は一行です——これらの治療のどれも、一貫して成功するものではなかった。
神経外科的な手技はその後も増えました。原著が挙げる破壊的な術式は、神経の引き抜きや切断、後根切断術、脊髄後根進入部の破壊、脊髄視床路切截術、視床破壊術、帯状回切截術、前頭葉ロボトミー、さらには一次感覚野の破壊にまで及びます。それに対する評価は明快です。
一方、著者らが臨床的な根拠とかなり説得力のある理屈の両方に支えられていると評価するのが脊髄後索刺激です。TENSと同じ考え方で、太い神経線維を脊髄で刺激して、上行する侵害伝達を調節する。成否は患者選択で決まり、虚血性疼痛も併せ持つ患者がとくに向いていると一般に受け入れられている、とされます。最大の利点は神経を意図的に傷つけないことです。
歯科・口腔顔面痛に近いところでは、三叉神経痛に対する微小血管減圧術が、比較的良好な長期成績を示す治療として臨床的根拠に支持されていると書かれています。また、局所麻酔薬(リドカインなど)の注射による一時的な神経ブロックは今も使われることがあるものの、有効性には議論があり、プラセボ対照試験はほとんど行われていないとされています。
⑦誰が診るかで、受ける治療が変わる
ここは、読んでいて背筋が伸びる部分です。著者らは、患者が痛みの専門医に診られているか、非専門医に診られているかによって、神経障害性疼痛の臨床管理へのアプローチが変わると書きます。
・痛みの専門医は、その患者で痛みを起こしていると推定されるメカニズムに向けた薬物治療を選ぶ傾向がある
・そして、専門の疼痛クリニックで治療された患者のほうが、有効性の示された治療を受けやすい
その裏づけとして引かれているのが、ドイツのデータです。ペインクリニックに新しく紹介された379人(うち18%が神経障害性疼痛の診断)を調べた研究で、新しい治療計画により、74%がベースラインから50%を超える除痛を得ました(74%は379人全体の数字で、神経障害性疼痛の患者に限った成績ではありません)。
注目すべきはその手前です。この患者さんたちは、平均8年にわたって痛みに苦しみ、紹介されるまでに平均8人の医師にかかっていました。
国ごとの事情も書かれています。
・欧州:三環系抗うつ薬と新しい抗てんかん薬が、神経障害性疼痛の治療によく使われている
・日本:治療を選ぶときにもっとも影響が大きいのは忍容性で、とくに非専門医では単剤処方が一般的。現在日本で神経障害性疼痛に使われている薬の多くは忍容性は良いが効果は低く、たとえば有痛性糖尿病性神経障害にはビタミンB12やアルドース還元酵素阻害薬がしばしば処方される。ペインの専門医は、難治性の痛みには神経の遮断を起こす薬で対応することが多い
そして日本については、制度の話が続きます。日本では適応外処方が認められていない。臨床試験は特定の病態で行われるため、成功すればその病態に対する適応は得られても、「神経障害性疼痛一般」に対する適応にはならない。その結果、欧州や米国と対照的に、日本では三環系抗うつ薬が神経障害性疼痛の治療にほとんど使われていない(夜間症状をやわらげる目的の夕方の投与を除いて)——これが2003年時点の記述です。
⑧効き目を比べる物差しとしての NNT
薬どうしをどう比べるか。著者らが使うのが NNT(number-needed-to-treat)です。定義は、ある薬で1人の患者に「少なくとも50%の痛みの軽減」を得るために、治療しなければならない患者数。
NNTは25%や75%の除痛についても計算できますが、50%が使われるのは、理解しやすく、臨床的に意味のある効果を示すと一般に受け入れられているからです。また、プラセボ反応者の補正が式に含まれるため、プラセボ対照試験からしか算出できません。
図を眺めると、点推定(棒の先)だけを見れば、ほとんどの薬は NNT が 2 前後から 7 前後に集まっていることがわかります。三環系抗うつ薬がもっとも小さく、SSRI はそれよりかなり大きい——本文の「SSRIは忍容性は良いが三環系より効果は劣るようだ」という記述と、図の並びは一致しています。ひとつだけ大きく離れているのが抗不整脈薬(ナトリウムチャネル遮断薬)で、40近くまで伸びています。
ただし、棒の先だけを見て順位を細かく読むのは危険です。原著の図には各薬に上側の限界を示す線が引かれていて、L-ドパ・SSRI・ナトリウムチャネル遮断薬の線は軸の右端(50)まで伸びています。カルバマゼピンやガバペンチンでも10前後、カプサイシンは13ほどまで届きます。ここからは筆者の読みですが、中位の薬どうしは、上側に伸びる幅が大きく重なり合っています(原著の図に下側の限界は描かれていません)。
もうひとつ見ておきたいのが右端の例数です。三環系(用量調整)の266人/277人が突出して多く、残りは十数人から200人台。つまりこのNNTの多くは、二桁から百人台の例数の上に乗った推定値だということです。著者らもそこは正直で、この方法は効果の粗い指標しか与えないので、最良の推定値としてのみ扱うべきだと書いています。そのうえで、直接比較の試験がない以上、NNTは現時点で利用できる最良の比較効果の指標だと思われる、と結んでいます。
⑨明日の臨床へ
著者らの結論はこうです。現時点で、神経障害性疼痛とその併存病態の最適な治療戦略について合意はない。理由として挙げられるのは、神経障害性疼痛が独立した病態として認識されたのが比較的最近であること、曖昧さのない診断を確立するのが難しいこと、そして薬の有効性を評価する、よく設計された大規模な臨床試験が乏しいことです。
だから治療戦略は逸話的な根拠と少数の臨床試験のデータのまわりに組み立てられており、その結果として患者は除痛にたどり着くまでにいくつもの治療を受けることになる。歴史的に、神経障害性疼痛の管理は経験的なアプローチだった——そう総括したうえで、著者らは最後にこう書きます。より最近では、臨床家は神経障害性疼痛の症状の背後にあるメカニズムにもっと注目し、それを治療アプローチの基礎にすべきだと提案されている。これが、より合理的で改善された戦略につながることが期待される。
・神経の損傷があることと、目の前の痛みがそれで説明できることは別。定義の特異度が低いということは、「神経が傷んでいるから神経障害性疼痛だ」と即断しないということ
・逆に、感覚の異常を診ていなければ見落とす。温冷・触・痛みの簡単な比較だけでも、記録に残す価値がある
・痛みの質を患者さんの言葉で残す(電撃のような/灼けるような/鈍い)。原著が診断の要素に挙げている項目そのもの
・「取り除けば治る」の発想で侵襲を重ねない。著者らは、神経損傷や三叉神経痛の手術で元の痛みが悪化した例が文献に多数あると明記している
・紹介のタイミング。ドイツのデータの「平均8年・平均8人の医師」は、専門的な診療につながるまでの遅れを示す数字として重い
⑩ここだけ、冷静に補助線
図3のNNTは著者ら自身のデータではなく、別の論文から許可を得て転載された図です。しかも原著の本文に個々の数値の記載はありません。この記事の図は原著の図を実測して作図したもので、棒の長さは近似です。個別の薬の数値が必要なときは、必ず一次資料に当たってください。
そして最大の注意点は時間です。薬の顔ぶれも日本の制度の記述も2003年当時のもので、プレガバリンもデュロキセチンも本文には登場しません。
ここからは筆者の読みです。「日本では三環系がほとんど使われない」「適応外処方が認められていない」という記述も、その後の20年余りで状況が変わっているはずですし、「合意がない」という現状認識そのものも、その後のガイドライン整備で更新されていると考えるのが自然です。それでもこの総説が投げかけた問い——「病名で薬を選ぶのか、仕組みで薬を選ぶのか」——は、今も現役だと感じます。持続性歯槽部痛のような、原因を指し示しにくい痛みを前にしたとき、「診断名がつかないから何もできない」ではなく「どの仕組みが疑わしいか」で考える足場を、この論文は20年以上前に置いていました。そこは色あせていません。
今日のひとこと
2003年のこの総説がいちばん強く言っているのは、「神経障害性疼痛の最適な治療について合意はなく、治療は経験的である」という現状認識です。抗てんかん薬の根拠の多くは逸話的な報告と少数の試験で、現在のエビデンスはある薬を他より優先する根拠にならない、併用療法にいたってはまったく経験的だと明記されています。著者らの処方箋は薬の名前ではなく考え方でした——原因となった病名で分けるだけでなく、症状の背後にある仕組みで分けて、薬もその仕組みで層別化する。そして破壊的な手術は、神経系にさらなる損傷を与えて痛みをかえって強めうるため一般に推奨されない。歯科が持ち帰れるのは、「神経が傷んでいるから神経障害性疼痛だ」と即断せず、感覚の異常と痛みの質を自分の手と患者さんの言葉で確かめ、取り除く方向へ侵襲を重ねる前に立ち止まるという構えです。ドイツのデータの「平均8年・平均8人の医師」という数字は、紹介のタイミングを考えるうえで重く響きます。


