1問1答 論文 エンド

湾曲根管のNiTi形成、押す力は強めがいい?——レジン模型で押し込む力を1 N・2 N・3 Nに機械で固定して比べたら、3 Nは1 Nより形成時間が短く根尖の偏りも小さかったが、ファイルが根管に引き込まれる力もX2で強まった(2022年)

1問1答 論文 エンド

エンド|NiTiロータリーファイルを根尖方向へどのくらいの力で押せばよいのか。押す力を機械で1 N・2 N・3 Nに固定し、湾曲したレジン製の根管模型をProTaper NEXTで形成して、根管の偏り・かかった力とトルク・形成時間を比べた実験室研究(Maki 2022・Materials・東京医科歯科大学)

NiTiファイルは「軽いタッチで」と習います。でも軽いとはどのくらいかは人によってまちまちです。東京医科歯科大学のグループは、押し込む力を機械で1 N・2 N・3 Nに固定できる自動形成装置を使い、45°に曲がったレジン製の根管模型30本をProTaper NEXT(X1→X2→X3)で形成しました。その結果、3 Nの群は1 Nの群より形成時間が有意に短く(図からの概数で約35秒→約28秒)、根尖(0 mm)での根管の偏りも3群でいちばん小さい結果でした。トルク(ねじる力)は3群で差がありませんでした。一方で、ファイルが根管にねじ込まれるように引き込まれる「スクリューイン」の力は、X2で3 Nが1 Nより大きくなりました。ただしレジン模型での実験で、機械の動きは実際の手の動きと同じではありません。

論文
Effect of Different Downward Loads on Canal Centering Ability, Vertical Force, and Torque Generation during Nickel–Titanium Rotary Instrumentation
著者
Keiichiro Maki, Arata Ebihara, Hayate Unno, Satoshi Omori, Taro Nakatsukasa, Shunsuke Kimura, Takashi Okiji(東京医科歯科大学 歯髄生物学分野)
掲載
Materials 2022;15:2724. doi:10.3390/ma15082724
種類
実験室研究(in vitro)。J字型に曲がったレジン製の根管模型(#15・.02テーパー・湾曲45°・長さ17 mm)30本を、押し込む力(下向きの荷重)で1 N・2 N・3 Nの3群(各10本)に無作為に分け、トルクと荷重を制御する自動形成装置でProTaper NEXT X1・X2・X3を順に使って形成。根管の偏り(canal centering ratio:根尖から0・0.5・1・2・3 mm)、上下方向の力、時計回りのトルク、形成時間を測り、分散分析とTukey検定で比較(有意水準5%)。必要な本数は事前の検出力計算で1群10本と見積もり
PMID
35454413

①NiTiファイル、どのくらいの力で押していますか?

湾曲根管をNiTiロータリーファイルで形成するとき、「根尖方向へは軽く押すだけ」と習った先生は多いと思います。でも、その「軽く」は何ニュートンなのか。ここは術者の手の感覚まかせで、決まった基準がありません。

この研究は、押し込む力(根尖方向への荷重)を機械で1 N・2 N・3 Nに固定して、湾曲したレジン製の根管模型を形成し、根管の偏り・ファイルにかかる力とトルク・形成時間がどう変わるかを比べました。

結論を先に言います。3 Nで押した群は、1 Nの群より形成時間が短く、根尖(0 mm)での根管の偏りも3群でいちばん小さい結果でした。トルクは3群で変わりません。ただし、X2では、ファイルが根管に引き込まれる力(スクリューイン)も強くなりました。

②なぜ「押す力」が問題になるのか

湾曲して細い根管では、レッジ(段差)・根尖部の変位(トランスポーテーション)・穿孔といった偶発症が起きやすく、NiTiファイルが根管内で折れる心配もつきまといます。

これまでの研究で、ファイルにかかるトルクや力を減らす扱い方として、上下動(ペッキング)を浅くする・往復運動(レシプロ)を使う・回転を速くする・上下動を速くするといった要素がわかってきました。

・押す力(下向きの荷重)も、ファイルにかかる負担を左右しそうな要素のひとつ
・「根尖方向へは軽い力で」と広く勧められている
・ただしその大きさは術者の手の動きしだいで、客観的な基準がない
・押す力が形成の出来・かかる力・効率にどう響くかのデータは少ない

そこで著者らは、押す力だけを変えて、あとの条件をそろえた実験を組みました。

③今回の一手:押す力を機械で固定する自動形成装置

使ったのは、トルクを制御できる低速モーター(モリタ)と、モーターで上下する試験スタンド(イマダ)を組み合わせた装置です。ハンドピースは電磁石でスタンドに留められ、反対側に吊るしたおもりで釣り合いを取ってあります。電磁石を切ると、ハンドピースはおもりで決めた荷重(1 N・2 N・3 N)で下へ落ちるしくみです。

ハンドピースは、モーターが感じるトルクに応じて3通りに動く:
・0.2 N·cm未満:上下動(下へ2秒・上へ1秒、毎分50 mm)。形成はいつもこの動きから始まる
・0.2〜2.5 N·cm:電磁石を切り、決めた荷重で下へ押し込む
・2.5 N·cmを超えたら:3秒間引き上げる(抵抗に当たったときの引き戻し)
・模型:J字型に曲がったレジン製の根管模型(#15・.02テーパー・湾曲45°・長さ17 mm)30本を、1 N・2 N・3 Nの3群(各10本)に無作為に分けた
・下準備:ProTaper Gold SXで根尖から5 mm手前まで拡げ、ProGliderでグライドパスをつくる
・形成:ProTaper NEXT X1(17/.04)→ X2(25/.06)→ X3(30/.07)。各ファイルとも、まず根尖の1 mm手前まで、次に根尖まで。潤滑剤(RC Prep)を使い、各ファイルの後に蒸留水1 mLで洗浄して#10 Kファイルで穿通を確認。ファイルは1本の根管だけに使用
・測ったもの:根管の偏り(形成前後の画像を重ね、根尖から0・0.5・1・2・3 mmの位置で外弯側と内弯側の削れた量を比べる)、上向き・下向きの最大の力、時計回りの最大トルク、形成時間

根管の偏り(canal centering ratio)は、外弯側の削れた量と内弯側の削れた量の差を、形成後の根管の径で割った値です。0に近いほど、元の根管の中心を保ったまま形成できていることを表します。

なお、1〜3 Nという数字は、経験のある術者が実際にNiTiファイルで形成するときの力を事前に測ったところ、平均で1.5〜2 Nだったことから決めた、と著者らは書いています。

④結果①:3 Nで押すと、形成時間が短くなった

まず、どの群でもファイルの破折・変形・レッジはありませんでした。

0 15秒 30秒 45秒 形成にかかった時間(秒・X1〜X3の合計) 35秒 32秒 28秒 1 N で押す 2 N で押す 3 N で押す 原著Figure 5の棒から読み取った概数(本文に数値の記載なし)。3 N は 1 N より有意に短い(p<0.05)。2 Nは両群と有意差なし。各群n=10・レジン製の湾曲根管模型
押す力ごとの形成時間(X1〜X3の合計)。原著Figure 5の棒から読み取った概数で、本文に数値は書かれていない

X1〜X3の合計の形成時間は、3 Nの群が1 Nの群より有意に短くなりました(p<0.05)。図から読むと、1 Nで約35秒、2 Nで約32秒、3 Nで約28秒です。2 Nは、1 N・3 Nのどちらとも有意差がありませんでした。ファイル別では、X3の形成時間が3 Nの群でいちばん短く(p<0.05)、どの群でもX2がいちばん時間がかかっていました。

⑤結果②:根尖での偏りは3 Nがいちばん小さかった

0 0.2 0.4 0.6 根尖(0 mm)での偏り(canal centering ratio) 0.32 0.28 0.13 1 N で押す 2 N で押す 3 N で押す 原著Figure 3の棒から読み取った概数(本文に数値の記載なし)。0に近いほど元の根管の中心を保てている。根尖0mmで3 N が3群で最小(p<0.05)。0.5〜3 mmでは群間に有意差なし
根尖(0 mm)での根管の偏り(canal centering ratio)。0に近いほど元の根管の中心を保てている。原著Figure 3の棒から読み取った概数

根尖から0 mmの位置では、3 Nの群の偏りが3群でいちばん小さく(p<0.05)、図から読むと1 Nで約0.32、2 Nで約0.28、3 Nで約0.13でした。1 Nと2 Nの群では、0 mmの偏りがほかの位置より有意に大きくなっています。一方、0.5・1・2・3 mmの位置では3群に有意差はありませんでした。

また、どの群でも形成後の根管は根尖部で外弯側へ寄っていました。NiTiファイルが曲げられても元のまっすぐな形に戻ろうとする性質が一因だろう、と著者らは考えています。

⑥結果③:トルクは同じ、でも「引き込まれる力」は強まった

・下向きの力:3 N > 2 N > 1 N の順に有意に大きい(p<0.05)。ねらいどおりに荷重がかかっていた
・時計回りのトルク:3群とも差なし(図から読むと、どの群もおよそ1.2〜1.4 N·cm)
・上向きの力(スクリューインの力):X2では3 Nが1 Nより有意に大きい(p<0.05。図から読むと約1.1 N→約2.3 N)。X1とX3では有意差なし

ここでいう上向きの力は、回っているファイルが根管にねじ込まれるように引き込まれるとき、根管模型を上へ引っ張る力です。これがスクリューインの力で、ファイルが急に食い込むと、突然のねじれの負担で破折の危険につながる、と著者らは説明しています。

ここからは筆者の読みです。もうひとつ、図を見て気づく点があります。測った下向きの最大の力は、設定した荷重より大きく出ていて、図から読むと1 Nの群でも約3.7〜4.4 N、3 Nの群では約6 Nでした。設定した荷重と、ファイルに実際にかかった最大の力は同じではない、ということです。

⑦なぜ強めに押すと偏りが減るのか——著者らの見立て

著者らは、3 Nで根尖の偏りが小さかったのは形成時間が短かったためだと考えています。刃が根管壁に当たっている時間が短いぶん、外弯側のレジンを削りすぎずにすむ、という説明です(上下動を速くした過去の研究でも同じ傾向が報告されています)。

一方で、押す力が大きいほどファイルが根管壁に強く食い込みやすくなる可能性がある、と著者らは考えています(X2でスクリューインの力が大きくなったことからの推論で、食い込みそのものは測っていません)。著者らの結論は、押す力は形成の出来と、スクリューインによる負担の両方を左右する大事な要素として考えるべき、というものです。

⑧明日の臨床へ

・押す力は「軽く」のひとことで片づけない。形成時間や根尖での偏りに関わる要素として意識してみる
・著者らは、押す力を上げることは「トルクが適切に管理され、術者がスクリューインの力を扱える技量と経験を持っている限り」形成の出来と時間の短縮に役立つかもしれない、としている
・強めに押すなら、ファイルが急に引き込まれる感覚に備え、引き戻せる準備をしておく
・今回はProTaper NEXTだけの結果。別のファイルで同じになるかは、著者ら自身も今後の課題としている

「強く押せば速くてきれい」と読むのではなく、押す力も形成の条件のひとつとして、自分の手の力を意識するきっかけにする——このくらいの距離感がちょうどよさそうです。

⑨ここだけ、冷静に補助線

これはレジン製の根管模型を使った実験室研究(in vitro)で、各群10本です。著者ら自身も、機械の動きは実際の手の動きを再現しきれない(実際の臨床では押す力がもっとばらつく)こと、レジンは象牙質より柔らかく表面もなめらかで、削りくずも大きく根尖部で詰まりやすいことを限界に挙げ、臨床への当てはめには注意がいると書いています。使ったのはProTaper NEXTの1種類だけで、抜去歯での確認も今後の課題です。
ここからは筆者の読みです。本文には平均値の数字が書かれておらず、この記事の数値は図の棒から読み取った概数です。また、根尖での偏りに差が出たのは0 mmの位置だけで、0.5 mmより上では有意差はありませんでした。スクリューインの力の差もX2だけで有意でした。偏りが小さかった理由(形成時間が短いから)は著者らの考察で、この研究で直接確かめたものではありません。治療成績や、ファイルの破折がどのくらい起きやすくなるかは調べていません。それでも、「押す力」という術者しだいの要素を機械で固定し、数字で比べた点は、自分の手技を見直す材料になります。

今日のひとこと

押し込む力を機械で1 N・2 N・3 Nに固定して湾曲したレジン模型を形成すると、3 Nは1 Nより形成時間が短く、根尖での根管の偏りも3群でいちばん小さい結果でした。トルクは変わりません。ただしX2ではファイルが根管に引き込まれる力(スクリューイン)も強まり、著者らは「トルクが適切に管理され、術者がその力を扱える技量を持つ限り」押す力を上げる利点があるとしています。レジン模型・1種類のファイル・機械の動きでの結果なので、持ち帰るのは「押す力は形成の出来と時間を左右する大事な要素。強めに押すなら引き込まれに備える」という視点です。

Maki K, Ebihara A, Unno H, Omori S, Nakatsukasa T, Kimura S, Okiji T. Effect of different downward loads on canal centering ability, vertical force, and torque generation during nickel-titanium rotary instrumentation. Materials (Basel). 2022;15:2724. doi:10.3390/ma15082724. PMID: 35454413
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。