1問1答 論文 エンド

上顎臼歯の外科、デンタルだけで計画していませんか——病変の34%と、洞との関係が写っていない

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エンド|外科的歯内療法・上顎臼歯・CBCTの光と影

外科的歯内療法の適応を検討するために紹介された上顎小臼歯・大臼歯74歯(156根)を、デンタルと限局CBCTで撮り比べた研究です。CBCTで見つかった109個の病変のうち34%はデンタルに写っていませんでした。見落としは根尖が上顎洞底に「接している」歯で65%まで跳ね上がり、さらに見逃し根管・洞への進展・洞粘膜の肥厚といった、外科計画に関わる情報もデンタルにはほとんど写っていませんでした。

論文
Comparison of Periapical Radiography and Limited Cone-Beam Tomography in Posterior Maxillary Teeth Referred for Apical Surgery
著者
Low KMT, Dula K, Bürgin W, von Arx T
掲載
Journal of Endodontics 2008;34(5):557–562(ベルン大学 口腔外科・口腔科学教室ほか)
種類
臨床の診断精度研究(外科的歯内療法の適応検討で紹介された連続例45人74歯156根/デンタル vs 限局CBCT)
PMID
18436034

上顎の第一大臼歯、外科に入る前——その計画、デンタル1枚で足りていますか

再根管治療でも治らない上顎の大臼歯。外科的歯内療法(歯根端切除術)を選択肢に入れたら、まずデンタルを撮ります。病変の位置と大きさを確かめ、上顎洞までの距離を目測し、フラップの設計を頭に描く——ここまでは日常の手順です。

では、その1枚に「写っていないもの」はどれくらいあるのでしょうか。2008年、ベルン大学のグループが、外科の適応を検討するために紹介されてきた上顎臼歯を、デンタルと限局CBCTで撮り比べました。結論から言うと、CBCTで見つかった病変の34%はデンタルに写っておらず、しかもその見落としは、根尖が上顎洞底に「接している」歯では65%まで跳ね上がりました。

なぜ上顎臼歯部でデンタルは苦戦するのか

理由は単純で、デンタルは三次元を二次元に潰す撮影法だからです。原著も冒頭で、デンタルは情報が2次元でしか表現されないという制約を挙げ、背景のパターンが複雑なときほど読影が難しくなると述べています。

上顎臼歯部は、その「複雑な背景」の代表格です。歯根どうしが重なり、上顎洞や頬骨突起が像に乗り、既根管治療歯であれば根充材やポストの不透過像まで加わります。読めていないのではなく、そもそも重なって写っている。だから「デンタルで異常なし」が、その歯の実態を保証しないという構図になります。

今回の一手:外科の適応を判断する段階で、同じ歯を2つの方法で撮る

2005年6月から2006年8月にかけて、ベルン大学の口腔外科・口腔科学教室に外科的歯内療法の適応を検討する目的で(原著の表現では referred for possible apical surgery)紹介されてきた連続53人が対象です。条件は、①上顎臼歯部の1歯に根尖性歯周炎の臨床症状・徴候またはX線所見がある、②その歯が既に根管治療されている、③デンタルとCBCTの両方が撮られている、の3点。画像の質が不良だった8例(デンタル6・CBCT2)を除き、最終的に45人の74歯・156根(女性19・男性26、平均51歳、31〜80歳)が解析されました。内訳は第一小臼歯17・第二小臼歯20・第一大臼歯29・第二大臼歯8=小臼歯37歯と大臼歯37歯です。

デンタルは平行法(Rinn XCP)でF感度フィルム、CBCTは限局照射型の3DX アキュイトモ(モリタ)で、1mmスライスを軸位・冠状・矢状の3断面に再構成しました。読影は口腔放射線科医とエンド専門医の2名が合議で行い、まずデンタルを読み、2週間以上あけてからCBCTを読む順です。

病変の定義: デンタルでは、根尖部の透過像の幅が歯根膜腔の幅の2倍を超えるもの。CBCTでも同じ基準を用い、2断面以上で見えることを要件としました。

結果①:34%が写っていない。しかも「接している」歯がいちばん危ない

156根のうち、両方で病変なしが47根、両方で病変ありが72根。そして37根はCBCTだけで病変が見つかり、デンタルでは見落とされていました。病変109個の34%にあたります(P<0.001)。

面白いのはここからです。デンタル上での根尖と上顎洞底の位置関係(Oberliらの分類)で分けると、見落とし率がはっきり動きました。

0 33.3% 66.7% 100% CBCTだけで見つかった病変の割合(%) 17% 65% 32% 34% 離れている 接している 重なっている 全体 デンタル上での根尖と上顎洞底の位置関係(Oberliらの分類)で病変109個を分けた。離れている=46病変、接している=26病変、重なっている=37病変。接している群は離れている群とp=0.001、重なっている群とp=0.010で有意差あり。離れている群と重なっている群の間には差なし(p=0.111)(Low 2008・表3)
デンタルでは見つからずCBCTだけで見つかった病変の割合。根尖が洞底に「接している」歯で最も高かった

根尖が洞底から離れて見える歯(class 1)では見落としは17%。ところが接して見える歯(class 2)では65%、重なって見える歯(class 3)では32%でした。接している群は、離れている群とP=0.001、重なっている群とP=0.010で有意差があり、離れている群と重なっている群のあいだには差がありません(P=0.111・いずれも表3)。

つまり: 「重なっているほど見えない」という直感は当たらない。いちばん取りこぼされたのは、根尖が洞底にちょうど触れて見える歯だった。デンタルを見ながら「CBCTを撮るか」を決めるなら、ここが最初の目印になる。

歯種別(表4)では、第二大臼歯の見落としが最も多く54%、第二小臼歯が最も少なく19%でしたが、歯種間の差は統計学的に有意ではありませんでした(小臼歯まとめ vs 大臼歯まとめで P=0.13)。原著の本文は「第二大臼歯がデンタル単独では最も難しかった」と述べていますが、数字の傾向としての話だと読むのが正確です。

結果②:外科計画に効くのは、病変の有無だけではない

この研究の値打ちは、むしろこちらにあります。著者らは病変の有無に加えて、洞粘膜の肥厚・病変の上顎洞への進展・見逃し根管・辺縁骨頂から根尖までつながった骨欠損(apicomarginal communication)の4つを記録しました。いずれも「開けてから知る」と手が止まる情報です。

CBCTで確認できた歯
うちデンタルでも確認できた歯

0 13.3 26.7 40 その所見が確認できた歯の数 35 16 23 2 15 4 6 1 洞粘膜の肥厚 洞への進展 見逃し根管 辺縁との交通 分母は外科的歯内療法の術前に撮影した上顎小臼歯・大臼歯74歯。洞粘膜の肥厚とは4mm超の肥厚、洞への進展とは病変が上顎洞内へ広がった状態、辺縁との交通とは辺縁骨頂から根尖までの歯根膜腔が正常の2倍に開いた状態。p<0.001/p<0.001/p<0.05/p=0.12(Low 2008・本文)

外科計画に効く4つの所見。CBCTで見つかった歯数のうち、デンタルでも確認できたのは一部にとどまった(対象74歯)

とくに差が大きいのが病変の上顎洞への進展で、CBCTでは23歯に認めたのに対し、デンタルで見えたのは2歯だけ(P<0.001)。見逃し根管もCBCTで15歯に見つかり、デンタルで指摘できたのは4歯でした(P<0.05)。洞粘膜の肥厚は35歯対16歯(P<0.001)。辺縁までつながる骨欠損は6歯対1歯で、こちらは有意差なし(P=0.12)ですが、6歯中5歯(83%)はデンタルに写っていなかったことになります。この所見について原著は、外科の成功率を左右する重要な予測因子であることが先行研究で示されており、見逃されている垂直性歯根破折と関連していることもある、と考察しています。

さらにCBCTでしか測れない情報として、病変と上顎洞の距離が報告されています。病変の32%は洞との間に骨が検出されない=洞に穿孔している状態で、もう30%は骨の厚みが1mm以下、残る38%が1mm超でした。根と洞底の関係も歯種で大きく違い、第一小臼歯で洞底に近づいていたのは1歯(5.9%)だけだった一方、第一大臼歯の76%・第二大臼歯の50%では、洞底が根と入り組んでいました。

つまり: CBCTが足すのは「病変が1つ増えた」ではない。洞との位置関係・骨欠損の形・見逃し根管という、外科計画に関わる情報が足される。

明日の臨床へ——「外科を検討している上顎臼歯」に絞って使う

この論文が示したのは、CBCTを全例に撮る根拠ではありません。撮る場面をどこまで絞れるかという話です。

第一に、上顎臼歯の外科を計画するとき、デンタルの「病変なし」を計画の根拠にしない。とくに根尖が洞底に接して見える歯では、病変の65%が取りこぼされていました。

第二に、探しているのは病変だけではありません。洞への進展や洞粘膜の肥厚が分かれば、口腔上顎洞交通のリスクと術後の説明が変わります。辺縁までつながる骨欠損が分かれば、膜を使うかどうかの準備が変わる——原著も、CBCTなら骨欠損の形を調べて膜が有用かを判断できる、と述べています。見逃し根管が見つかったときに、外科の前に再根管治療(あるいは併用)という選択肢を置き直す——ここは原著が述べているところではなく、僕の臨床判断です。どれも術中に初めて知るより、術前に知っておきたい情報です。

第三に、コストと被曝は現実の制約として残ります。原著自身、CTはデンタルよりはるかに被曝線量が多いと述べ、限局CBCTは従来CTより低線量だという先行研究を引いています。これは原著の記述ではなく一般論として言えば、その限局CBCTでもデンタルより線量は大きくなります。参考までに露光時間は、デンタルが0.12秒でCBCTが17.5秒と報告されています(露光時間そのものは線量ではなく、原著は線量を測定していません)。だからこそ、この研究と同じ土俵——外科の適応を判断する段階の上顎臼歯——に絞るのが、いちばん納得しやすい使い方になります。

ここだけ、冷静に補助線
これはCBCTを「正解」に置いた比較で、組織学的な真値と突き合わせたものではありません。「デンタルが34%見落とした」は「CBCTが34%多く病変と呼んだ」と同じ事実の裏返しで、CBCT側の偽陽性はこの設計では検出できません。対象も外科の適応を検討するために紹介された連続例=病変がある確率が最初から高い集団で、45人74歯と小さく、画質不良の8例が除かれています。読影は2名の合議、しかもデンタルを先に読んでからCBCTという順で、観察者間の一致度は報告されていません。原著の表記には揺れもあり、同じ72病変を表3では66%、表5では64%と記しています(本記事が使った37/109=34%のほうは、本文・表3〜表5のいずれでも一致しています)。位置関係別のp値も、本文はP<0.001/P<0.010、表3はP=0.001/P=0.010と表記が揺れており、本記事は表3の実値を採りました。それでも「上顎臼歯の外科を検討する段階」という一点に絞れば、ここで示された追加情報は外科計画を動かしうる——光と影を両方見たうえで、撮る場面を選びたい一本です。

今日のひとこと

上顎臼歯の「デンタルで病変なし」は、外科計画の根拠にならない。とくに根尖が洞底に接して見える歯では、CBCTで見つかった病変の65%がデンタルに写っていなかった。そしてCBCTが足すのは病変の有無だけではない——見逃し根管、洞への進展、洞粘膜の肥厚。被曝と費用を払う価値があるかは、撮る場面をどこまで絞れるかで決まる。

出典:Low KMT, Dula K, Bürgin W, von Arx T. Comparison of periapical radiography and limited cone-beam tomography in posterior maxillary teeth referred for apical surgery. J Endod. 2008;34(5):557–562. doi:10.1016/j.joen.2008.02.022 PMID: 18436034
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
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