エンド|CBCT・根尖病変・診査/診断
不可逆性歯髄炎と診断して、デンタルを見る。根尖に透過像は無い——だから「まだ根尖性歯周炎ではない」。その読み方を、同じ歯をCBCTでも撮って確かめた研究です。307根のうち根尖病変ありとされたのは、デンタルで3.3%、CBCTで13.7%。差が大きかったのは、痛みを訴えている歯の側でした。
①「デンタルは異常なし」で、根尖はまだ無事と言えるか
歯髄の炎症が進んで壊死になり、それから根尖に病変ができる——診断名の並びも、教わった順番もそうなっています。だから不可逆性歯髄炎の歯でデンタルを撮り、根尖に透過像が無ければ「根尖はまだ無事」とカルテに書く。ごく自然な読み方です。
でもデンタルは、立体を1枚の平面に潰した像です。海綿骨の中にとどまっている病変は写らないことがある——これは以前から指摘されてきました。では、歯髄がまだ生きている歯だけに絞ってデンタルとCBCTを撮り比べたら、何が起きるのか。バルセロナのグループが、それを正面からやりました。
②不可逆性歯髄炎の138歯を、根ごとにペアで見比べた
対象は、2011年1月から2012年3月にカタルーニャ国際大学のエンド科を受診し、不可逆性歯髄炎と診断されて根管治療が予定された歯。失活歯・既根管治療歯・保存不可能な歯・歯周ポケット3mm超の歯、妊婦、免疫抑制状態の患者は除外されています。歯髄の生死は冷刺激または温熱刺激で判定し、あとから根管内の出血の有無で裏づけました。最終的に130人・138歯(女性67人・男性63人、平均55歳/10〜80歳)。
この138歯の内訳が、この論文を読むうえで大事です。無症候性の不可逆性歯髄炎が60歯(43.5%)、症候性が78歯(56.5%)。原著の定義では、無症候性=臨床症状や痛みが無いにもかかわらず根管治療が必要と判断される歯髄の状態、症候性=刺激を除いたあとも続く、あるいは自発的な軽度〜重度の痛みがある状態です。
デンタルは平行法(ビームエイミングデバイス使用)でデジタル撮影。CBCTはProMax 3Dsで、可能な限り小さいFOV(5×8cm)・0.5mmスライス。較正済みのエンドドンティスト2名が6セッションに分けて読影し、不一致は合議で決着させました(κ値はデンタル0.975・CBCT 0.965)。
根尖病変の定義は「歯根の根尖部に関連し、歯根膜腔の幅の2倍を超える透過像」。CBCTでは同じ基準に加えて、2つ以上の断面で見えることを条件にしています。複数根の歯は根ごとに判定し、同じ根をデンタルとCBCTでペアにして比較——138歯から307のペア根が得られました。
③結果:同じ307根で、3.3%と13.7%に分かれた
307根をペアで比べると、デンタルで根尖病変ありとされたのは10根(3.3%)、無しが297根(96.7%)。同じ307根をCBCTで見ると、ありが42根(13.7%)、無しが265根(86.3%)でした。割合にしておよそ4倍です(本文の割合から計算)。
CBCT
内訳(原著の表3)はもっと具体的です。両方が「あり」とした根が8、両方が「無し」とした根が263。CBCTだけが「あり」とした根が34、デンタルだけが「あり」とした根が2。原著の本文には「全体として10.4%の根尖病変がデンタルX線写真で見落とされた」とあります。ただしこの10.4%は病変の10.4%ではなく、根の10.4%=検出率の差です(42根と10根の差=32根を307根で割った値)。
もうひとつ。デンタルでは根そのものを同定できず、CBCTでのみ同定できた根が22根(7.2%)ありました——これは病変の数ではなく根の数です。この22根も含めた329根で数え直すと、根尖病変ありは52根(15.8%)。ただし22根はデンタルと対にできないため、統計解析には含まれていません。
そして、症状で分けると絵はさらにはっきりします(原著の表4)。症候性の177根では、デンタル4根(2.3%)に対しCBCTは36根(20.3%)。ところが無症候性の130根では、デンタル6根・CBCT 6根で同数(どちらも4.6%)でした。CBCTでの検出率は症候性群で有意に高く(P<.05)、デンタルでは両群に差がありません(P=.275)。著者らは結論で「症候性不可逆性歯髄炎では根のペアの20.3%でCBCTが根尖病変を検出し、デンタルでは2.4%だった」と述べています(この2.4%は、表4の実数4/177根=2.3%とわずかにずれます)。
CBCT
④なぜ、こんなに違うのか
理由の半分は物理です。デンタルは立体を1枚に重ねて写すので、解剖学的構造の重なりに紛れます。加えて病変が海綿骨の中にとどまっているうちは透過像として現れにくく、同じ大きさの病変でも、皮質骨が薄い部位では写り、厚い部位では写らないことが知られています。CBCTは重なりを排除した3断面(軸位・冠状・矢状)を作るので、デンタルにはまだ写らない段階の病変を拾えます。
なお、CBCTで見つかりデンタルで見落とされた割合を20〜39%と報告する先行研究もありますが、著者らが書いているとおり、それらの多くは根管治療が失敗した歯が対象です。母集団が違うので、この研究の13.7%と単純に並べられません。
理由のもう半分は、僕らが「不可逆性歯髄炎」とひとくくりにしている集団の中身にあります。著者らは、症候性群でCBCT検出が多かった理由について、(Levinらを引きつつ)症候性不可逆性歯髄炎はより重度の変性炎症過程を意味する可能性を挙げながらも、「さらなる検討が必要」と慎重です。そのうえで診断の難しさ(偽陰性反応など)に触れ、(Abbottらを引いて)客観的な臨床徴候・症状と歯髄の組織像は必ずしもよく相関しない、と述べています。
そして著者ら自身が正直に書いています——歯髄組織の状態を定量的に決められるのは組織学的検査だけで、本研究ではそれができていない、と。僕らが「不可逆性歯髄炎」と名づけている集団の中身は、実は幅があるということです。
⑤明日の臨床へ——全例CBCTではなく、「見えていない前提」で計画する
ではすべての抜髄でCBCTを撮るのか。著者らはそう言っていません。むしろ逆です。
被曝は、引用値でデンタル2〜3枚分と同じ桁。追加のコストと機器へのアクセスも制約になります。だから著者らは「CBCTは、デンタルで異常所見があるとき、あるいは中等度〜高難度の症例に限って考慮すべき」と明記し、被曝は合理的に達成可能な限り低く(ALARA)という原則を確認しています。この研究自体も、可能な限り小さいFOVで撮っています。
一方、撮ったときに得られるものもはっきりしています。根尖病変の有無はエンドの診断名そのものを変え、(Patelらを引いて)治療戦略を変えうる——単回で終える計画から、水酸化カルシウム貼薬を挟む複数回法へ、といった具合です。どの根・どの根管かが分かることは、根尖部の形成と消毒の設計にも効きます。予後の見積もりも変わります(術前に根尖病変が無ければ初回根管治療の良好な転帰は90%を大きく超えうる、と著者らは他研究を引いて書いています)。
現実的な落としどころは、こうでしょう。全例では撮らない。ただし「不可逆性歯髄炎、デンタルは異常なし」を、根尖が無事であることの証明として扱わない。とくに強い痛みを訴えている歯では、CBCTを撮れば診断名が変わる可能性がそれなりにある——そう見込んだうえで、説明と治療計画、そしてリコールの構えを決める。
横断的な比較研究で、CBCTが写した透過像が本当に病変かを組織学的には確かめていません(著者らはVelvartら・Paula-Silvaら・Patelらの報告を引いて、CBCTで病変ありとされた場合は組織学的にも根尖に炎症があったと述べていますが、これは本研究自身の所見ではありません)。読影は2名の合議で、盲検化の記載はありません。CBCTでのみ同定された22根は統計解析の外です。細かい点では、結果の項がP<.05、考察の項がP<.001と食い違っています。それでも、歯髄が生きている歯だけに絞って撮り比べた研究は当時ほとんど無く、診断名の順番だけで根尖の状態を決めつけないための一本です。
今日のひとこと
「不可逆性歯髄炎、デンタルは異常なし」は、根尖が無事だという意味ではない。同じ307根で、根尖病変ありはデンタル3.3%に対しCBCT 13.7%。差が開いたのは、痛みを訴えている歯の側だった。「歯髄炎の段階だから根尖はまだ」と、診断名の順番だけで線を引かないこと。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


