1問1答 論文 虫歯

何歳からバイトウィングを撮るべきか——317名の14歳で、視診とX線を1歯面ずつ突き合わせた

1問1答 論文 虫歯

カリオロジー|隣接面う蝕・視診とX線の一致度・撮影を始める年齢

う蝕が減った集団で、子どもに毎回バイトウィングを撮る意味はあるのか。オランダのナイメーヘン大学が、6歳から学校歯科保健を受けてきた14歳児317名に、視診とバイトウィングを両方行い、1歯面ずつ突き合わせました。結果として出てきたのは「撮るべきか」ではなく「何歳から撮るべきか」の答えでした。転換点は12歳あたりにありました。

論文
Radiographic versus Clinical Diagnosis of Approximal Carious Lesions
著者
H.C.B. de Vries, H.M.H.M. Ruiken, K.G. König, M.A. van ‘t Hof(ナイメーヘン大学 カリオロジー・歯内療法学/予防・地域歯科学/統計相談部門、オランダ)
掲載
Caries Research 1990;24(5):364-370
種類
診断精度研究(14歳児317名・6,781歯面を視診とバイトウィングで並行診査)
PMID
2261609

「う蝕が減ったのだから、もう毎回は撮らなくていいのでは」

小児の定期健診で、必ず出てくる問いです。う蝕の有病率がはっきり下がった集団で、被曝と手間をかけてまでバイトウィングを撮る価値があるのか

オランダのナイメーヘン大学のグループは、この問いを「撮るべきか」ではなく「何歳から撮るべきか」に置き換えて調べました。6歳から学校歯科保健を受けてきた14歳児317名に、視診とバイトウィングを両方行い、6,781歯面を1面ずつ突き合わせています。しかも、8歳・10歳・12歳の既発表データを同じ方法で再解析し、年齢ごとに並べました。

先に結論: 著者らの結論は「12歳未満では、X線診査を省いても情報の大きな損失にはならない。だがそれ以上の年齢では、隣接面にX線診査を含めることが望ましい」。転換点は12歳あたりにあった。

317名の14歳、6,781歯面

  • 対象:学校歯科保健プログラムに6歳から参加してきた14歳児317名(平均14.3歳)。プロジェクト開始当時のオランダはう蝕有病率が下がり始めたばかりで、まだ比較的高かったため、14歳では隣接面病変がそれなりに存在し、比較が成立した
  • 記録法:Marthaler(1966)の部分記録法。う蝕がまれにしか起きない片顎22歯面を、はじめから除外する方式
  • 視診:疫学調査法の訓練を受けた歯科医2名が学校で実施。携帯型の診療椅子、圧縮空気で乾燥50Wハロゲンのファイバーオプティック光源(直径4 mm)、平面ミラー。探針はプラーク除去のためだけに使用
  • X線:1人につきバイトウィング2枚。携帯型X線装置(Philips Oralix 50 kV, 15 mA)、疫学調査用に特別に作られたフィルムホルダーを使用。臨床記録を参照せずに歯科医が読影
  • 判定基準D0=臨床所見なし/エナメル質外層に透過像なし、D2=臨床的に見えるエナメル質病変/エナメル質外層の透過像、D3=臨床的な象牙質病変/象牙質に見える透過像
  • フィルムの質:634枚のうち読影可能なもの542枚(85%)。1〜2歯面が読めないもの51枚(8%)、3〜5歯面24枚(4%)、6歯面以上17枚(3%)。3%は本研究には使えなかった

設計上の重要な断りがあります。この研究では特異度と陽性的中率を計算していません。理由も書かれています——「X線で『健全』とした診断を確かめるには、抜歯して直接観察するしかないが、それは不可能だから」X線を暫定的な参照基準に置いた研究であり、「X線が真実」という前提ではないことを、著者ら自身が明示しています。

視診だけでは、隣接面の3分の1しか見えていなかった

0 1.7 3.3 5 1人あたりの隣接面う蝕歯面数 1.3 4.1 0.7 1.1 D2MF-S(エナメル質病変を含む) D3MF-S(象牙質病変のみ) 14歳児317名の平均。X線を省くと、D2MF-S全体を平均18.9%、D3MF-Sを7.4%過小評価する。濃い棒=視診のみ、淡い棒=バイトウィング
14歳児317名の、1人あたりの隣接面う蝕歯面数。視診のみとバイトウィングの比較
  • 隣接面のD2MF-S(エナメル質病変を含む):視診 1.3±2.2/X線 4.1±5.0
  • 隣接面のD3MF-S(象牙質病変のみ):視診 0.7±1.5/X線 1.1±2.1
  • 全歯面のD2MF-S:視診 11.5±9.0/X線 14.3±11.4
  • 全歯面のD3MF-S:視診 5.0±5.1/X線 5.4±5.5
  • 男女差は統計学的に有意ではなかった(Student’s t検定、p>0.05)

この差を「割合」に直すと、意味がはっきりします。D2MF-Sの総数に隣接面が占める割合は、視診では11%(1.3/11.5)だが、X線では29%。D3MF-Sでは14%と20%視診だけで数えていると、隣接面の存在感そのものが3分の1に見えてしまう

X線を省いたときの過小評価。この集団では、D2MF-S全体を平均18.9%D3MF-Sを7.4%過小評価することになる。疫学調査の数字としても、個人の管理計画としても、無視できる幅ではない。

1人あたりで見ると、317名のうち251名(79%)は、視診で見落とされたう窩がゼロでした。ただし51名(16%)で1〜2か所、15名(5%)で3〜5か所のう窩が視診では診断されていませんでした。「ほとんどの子は大丈夫だが、5人に1人は見落としがある」という分布です。

一致していたのは「健全」の判断だけだった

視診とX線の一致度を、判定の種類ごとに分けて計算しています。ここが厳しい数字です。

  • 健全(sound)大臼歯82.6%・小臼歯88.5%で、まずまずの一致
  • エナメル質病変X線だけで診断されたもの 463歯面(72.1%)/視診だけ 39歯面(6.1%)/両方一致 140歯面(21.8%)。つまり一致は約5分の1
  • 象牙質病変:一致はわずか14.4%

内訳を追うと、ずれ方の向きが分かります。

  • 臨床的に健全とされた大臼歯の隣接面71か所に、X線ではう窩が見つかった。逆は1か所だけ
  • 462か所で、X線ではエナメル質病変だが視診では健全と判定された。逆(X線で健全・視診で病変)は29か所
  • 合計すると、「臨床の健全」がX線で確認されなかったのが533か所(462+71)「X線の健全」が臨床で確認されなかったのが30か所(29+1)

ずれは、ほぼ一方向です。視診が見逃す側に偏っている。著者らは「エナメル質病変は、小臼歯ではほぼX線でしか評価できないことがわかる」と書いています。

感度で見ると、視診はほとんど拾えていない

0 10% 20% 30% 感度 (%) 1.9% 12% 23.2% 14% 15.2% 14% 小臼歯 大臼歯 小臼歯+大臼歯 14歳児。X線で病変と判定された歯面のうち、視診でも病変と拾えた割合。小臼歯のエナメル質病変は、視診ではほぼ見えていない。濃い棒=エナメル質病変、淡い棒=う窩
X線で病変と判定された歯面のうち、視診でも病変と拾えた割合(14歳児)
  • エナメル質病変(D2)の感度:小臼歯 1.9%/大臼歯 23.2%/合計 15.2%
  • う窩(D3)の感度:小臼歯 12.0%/大臼歯 14.0%/合計 14.0%

言い換えると、X線を基準にしたとき、視診はエナメル質病変の84.8%(100−15.2)、象牙質病変の86%(100−14)を見落としていたことになります。

小臼歯のエナメル質病変の感度が1.9%——ここが目を引きます。小臼歯の隣接面は、視診ではほぼ見えていない。著者らはその理由を、光学的な性質に求めています。「口腔内では、ごく小さな病変は観察できない。大きめのものでも、辺縁しか見えない。X線はこれに対し、すべての構造を透過する」。加えて「小さなエナメル質病変が臨床的に見えるかどうかは、濡れている度合いに依存する」——抜去歯の実験では、湿潤・乾燥のさまざまな条件で観察でき、そこでは視診のほうが信頼できるという報告もあるのに、口の中では条件が揃えられない。

そして、12歳あたりに変わり目があった

0 33.3% 66.7% 100% 陰性的中率 (%) 98.4% 98.2% 89.7% 86% 8歳(110名) 10歳(165名) 12歳(142名) 14歳(317名) 小臼歯+大臼歯の合計。8歳・10歳では誤って健全と判定した歯面が2%未満だったが、12歳で10.3%、14歳で14.6%に増える。変わり目は12歳あたりにある
視診で「健全」とした歯面が実際に健全だった割合(陰性的中率)。8歳から14歳へ

この論文がいちばん実務に効くのは、ここです。既発表の8歳・10歳・12歳のデータを同じ方法で再解析し、年齢順に並べました。

  • 8歳(110名・808歯面):陰性的中率 98.4%。誤って健全と判定した歯面は1.6%
  • 10歳(165名・1,975歯面)98.2%。誤判定は1.8%
  • 12歳(142名・2,582歯面)89.7%。誤判定は10.3%
  • 14歳(317名・6,781歯面)86.0%。誤判定は14.6%

感度も同じ方向に動いています。8歳では「う窩」が、10歳では「エナメル質病変」が、X線で診断されながら臨床的に確認できなかったものは1か所しかなく、その項目の感度は0.0だった。エナメル質病変を正しく診断できる確率は、8歳で6.3%、14歳で15.2%と上がっていきます。う窩では10歳で66.0%あったものが、14歳では14.0%まで下がりました。

「感度も陰性的中率も、12歳あたりに変曲点がある」——だから「12歳以上の子どもでは、隣接面にX線診査を含めることが望ましい」というのが結論です。

ただし著者らは、若年での高い一致度に警告を添えています。「低う蝕集団の若年児では、明確な『ゼロ』のスコアの割合が高く、判断に迷う歯面が少ない。この特殊な事情が、高有病率集団の場合より一致を見かけ上よく見せる方向に働いた」。実際、κ値は10歳の0.83から12歳の0.88へむしろ上がっている——κだけを見ていたら、この変わり目は見えなかったことになります。

明日の臨床へ

結論は年齢の線引きに落ちる。「12歳未満では省いても情報の大きな損失にならない、12歳以上では含めることが望ましい」。撮るか撮らないかの二択ではなく、いつから始めるかの問題として置き直したのが、この論文の貢献だ。
  • 12歳という線は、第二大臼歯の萌出と小臼歯の隣接面接触が揃う時期と重なります(これは原著には書かれていない、筆者の見立てです)。歯列が完成に近づくほど視診で見えない面が増える、という説明なら数字と発育が符合します
  • 小臼歯の隣接面は、視診で見えていないと考えて診る。エナメル質病変の感度1.9%という数字は、「見えなかった=無かった」とは言えないことを示しています
  • 「視診で健全」の意味が、年齢で変わる。8歳の「健全」は98%の確からしさですが、14歳の「健全」は86%です。同じ言葉を、同じ重みで使えない
  • κ(一致度)だけでリスクを測らない。この研究では、κが上がっている区間で陰性的中率が落ちていました
ここだけ、冷静に補助線
まず1990年・オランダのデータです。フィルムX線であり、いまのデジタルセンサーとは解像度も被曝量も違います。被曝の側の計算が変われば、この線引きも動きます
そして参照基準そのものの弱さを、著者らが正直に書いています。特異度と陽性的中率は計算していません——X線で「健全」とした診断は、抜歯して直接見ない限り確かめられないからです。「X線は理想的な基準ではないが、それを暫定の物差しに選んだ」と明記されています。だからこの論文の「感度15.2%」は、「X線を正解とすれば」という条件つきです。X線にも偽陽性はあります。
撮影条件の限界もあります。フィルムの3%は重なりのため、本研究の目的には使えませんでした。そして著者らは「隣接面の外縁が完全に見えていることが判定の前提」と書いており、重なりのある写真では、この精度は出ないということでもあります。
最後に、この研究は「撮ったほうが多く見つかる」を示したのであって、「撮ったほうが患者の利益になる」を示したわけではありません。エナメル質病変を多く見つけることが、そのまま良い結果につながるかは別の問題です——見つけたものをどう扱うか(削るのか、経過を追うのか)を決めるのは、この論文の外側にあります。
それでも、「省いてよい年齢がある」とはっきり書いたことにこの論文の価値があります。全員に撮れとも、誰にも撮るなとも言っていない。数字が変わる場所を探して、そこに線を引いた——その手続きが真似できます。

今日のひとこと

14歳児では、視診だけで数えた隣接面のD2MF-Sは1人あたり1.3歯面、X線を足すと4.1歯面。X線を省くとD2MF-S全体を平均18.9%、D3MF-Sを7.4%過小評価する。エナメル質病変を視診で拾える感度は小臼歯1.9%・大臼歯23.2%(全体15.2%)、う窩でも12.0%・14.0%(全体14.0%)。陰性的中率は8歳98.4%・10歳98.2%と高いのに、12歳で89.7%、14歳で86.0%まで落ちる——この変わり目が12歳あたりにある。だから著者らの結論は「12歳未満では省いても情報の大きな損失にはならないが、それ以上では隣接面にX線診査を含めることが望ましい」。

de Vries HCB, Ruiken HMHM, König KG, van ‘t Hof MA. Radiographic versus Clinical Diagnosis of Approximal Carious Lesions. Caries Res. 1990;24(5):364-370. PMID: 2261609. DOI: 10.1159/000261297
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。