1問1答 論文 エンド

歯の痛み止め、どれが一番効く?——5万人のコクラン総覧が出した答えは「単剤で戦わない」

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エンド|術後鎮痛・NNT・コクラン総覧

抜歯後・処置後の鎮痛薬、いつもの1剤を出し続けていませんか。39のコクラン・レビュー(約460研究・約5万人)を束ねた総覧で、イブプロフェン+アセトアミノフェンの併用はNNT 1.5——ほぼすべての単剤を上回りました。しかも試験の大半は、智歯抜歯後の痛みモデルです。

論文
Single dose oral analgesics for acute postoperative pain in adults – an overview of Cochrane reviews
著者
Moore RA, Derry S, Aldington D, Wiffen PJ
掲載
Cochrane Database of Systematic Reviews 2015;(9):CD008659(オックスフォード大学)
種類
コクラン・レビューの総覧(39レビュー・約460研究・約5万人)
PMID
26414123

処方箋の最後の一行、根拠を持って書いているか

抜歯やエンド処置のあと、痛み止めを出す。この「いつもの1剤」を、僕らは何を根拠に選んでいるでしょうか。効き目の比較となると、意外なほど手元に数字がありません。

この論文は、単回経口鎮痛薬を扱う39のコクラン・レビュー(41解析・約460研究・約5万人)を1本に束ねた「レビューのレビュー」。すべてのレビューが同じ方法・同じ主要評価項目で作られているため、薬どうしを同じ土俵で見比べられます。しかも組み込まれた試験の結果の大半は智歯抜歯後の痛みモデル由来——歯科の術後鎮痛にとって、ど真ん中のデータです。

ものさしは「NNT」——1人に効かせるのに何人必要か

効き目のものさしはNNT(number needed to treat)。「術後4〜6時間で、最大効果の50%以上の痛み軽減」を1人が得るために、プラセボではなくその薬を何人に飲ませる必要があるかを表します。NNT 2なら2人に1人が上乗せで効く——低いほど優秀です。

対象は中等度以上の術後痛がある成人。単回投与・二重盲検のRCTのみ。信頼できる結果(十分な人数・出版バイアスに頑健)が得られたのは53の薬剤・用量ペアで、NNTは1.5から12まで、きれいに序列がつきました。

結果:併用のNNT 1.5は、ほぼ全部の単剤に勝つ

0 4.3 8.7 13 NNT(1人に効かせるのに必要な人数・低いほど良い) 1.5 1.6 2.5 3.6 12 併用400+1000 併用200+500 イブ400単独 アセト1000単独 コデイン60 術後4〜6時間で50%以上の痛み軽減を得るNNT(プラセボ比)。併用=イブプロフェン+アセトアミノフェン(用量mg)、イブ=イブプロフェン、アセト=アセトアミノフェン。95%CI=1.5(1.4–1.7)・1.6(1.5–1.8)・2.5(2.4–2.6)・3.6(3.2–4.1)・12(8.4–18)
単回経口鎮痛薬のNNT(代表的な薬剤・用量)。併用が単剤を大きく引き離す

最良水準に立ったのはイブプロフェン400mg+アセトアミノフェン1000mgの併用でNNT 1.5(95%CI 1.4–1.7)(同率のNNT 1.5には高用量エトリコキシブ180/240mgもありますが、こちらは2試験199名の小規模データです)。この組み合わせでは72%の人が50%以上の痛み軽減を得ました(プラセボは6%)。半量のイブプロフェン200mg+アセトアミノフェン500mgでもNNT 1.6——標準のイブプロフェン400mg単独(NNT 2.5)を、半分の量の併用が上回る計算です。

一方、アセトアミノフェン1000mg単独はNNT 3.6コデイン60mg単独はNNT 12。オピオイドの単剤は最下位で、アスピリン500mgとオキシコドン5mg単独に至っては、プラセボとの差の証拠なしでした。ほかに、速放性製剤のイブプロフェン200mg(NNT 2.1)が酸型400mgに劣らない点、8時間以上効果が続く薬(ナプロキセン500/550mg・セレコキシブ400mg・イブプロフェン400mg+アセトアミノフェン1000mgなど)が特定された点も実務的な収穫です。

つまり: 機序の違う2剤を組むと、単剤の増量では届かない効きに達する。イブプロフェン+アセトアミノフェンの併用は、量を増やさずNNTを1.5まで下げた。

なぜ併用が強いのか

イブプロフェン(NSAIDs)は末梢の炎症部位でCOXを阻害し、プロスタグランジンの産生を抑える。アセトアミノフェンは主に中枢側で鎮痛に働くと考えられています。作用点が重ならないため、足し算がそのまま効く——だから半量ずつの併用が、フルドーズの単剤を超えられるわけです。

この構図は、抜髄後の痛みでイブプロフェン+アセトアミノフェン併用の優位を示したRCT(Menhinick 2004)や、急性歯痛の第一選択にNSAIDs±アセトアミノフェンを置いた米国歯科医師会(ADA)の2024年ガイドラインとも一直線につながります。単発の試験ではなく、5万人規模の総覧・RCT・ガイドラインが同じ方向を指しているのが強みです。

明日の臨床へ——「痛かったらこれ」を書き換える

まず、術後に強い痛みが予想されるケースでは、イブプロフェン+アセトアミノフェンの併用を第一選択の候補に置く。単剤を増やすより、機序の違う2剤を組む方が効率的です(用量は国内の添付文書と患者の腎機能・肝機能・既往に合わせて調整を)。

次に、コデインなどオピオイド単剤に期待しない。NNT 12という数字は「12人に出して1人」の世界で、依存リスクに見合いません。

最後に、患者説明の解像度が上がります。プラセボでも18%は楽になり、最良の薬でも3割前後には十分効かない——「効かなければ次の一手がある」ことまで含めて処方するのが、この総覧の正しい使い方です。

つまり: ①強い痛みが予想されるなら併用を第一候補に ②オピオイド単剤は選ばない ③「効かない人が一定数いる」前提で次の一手まで説明しておく。
ここだけ、冷静に補助線
これは単回投与・急性術後痛(智歯抜歯が中心)のデータで、反復投与や慢性痛には外挿できません。NNTはプラセボを介した間接比較で、薬剤どうしの直接対決RCTとは別物です。有害事象は姉妹編の別総覧で扱われており、本論文は効果のみ。それでも、同一手法のレビュー群を束ねた5万人規模の見取り図として、処方の初期値を決めるには十分な精度です。数字の細部より「併用>単剤」「オピオイド単剤を選ぶ理由なし」の構造を持ち帰るのが正解

今日のひとこと

鎮痛薬は単剤で戦わない。イブプロフェン+アセトアミノフェンの併用はNNT 1.5で、フルドーズの単剤も、オピオイドも置き去りにした。増量の前に、機序の違う2剤を組む——処方箋の最後の一行を、5万人のデータで書き換える。

出典:Moore RA, Derry S, Aldington D, Wiffen PJ. Single dose oral analgesics for acute postoperative pain in adults – an overview of Cochrane reviews. Cochrane Database Syst Rev. 2015;(9):CD008659. PMID: 26414123
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
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