1問1答 論文 虫歯

1歳半から3歳の間に虫歯を増やしていたのは何か——尾道市1,167名の追跡が出した答え

1問1答 論文 虫歯

カリオロジー|1歳6か月児健診・3歳児健診・スポーツ飲料・就寝時授乳・ロジスティック回帰

「何に気をつければいいですか」。1歳半の健診で保護者に聞かれたとき、どこから話しますか。哺乳瓶、間食、仕上げ磨き——挙げるべきことは山ほどあります。でも、全部言えば全部が薄まる。広島県尾道市が、1歳6か月児健診と3歳児健診をつないだ1,167名のデータで、「どれがいちばん効いているか」に順番をつけました。

論文
尾道市における乳幼児のう蝕有病状況に影響を与える生活・環境要因について
著者
三藤聡(広島大学大学院歯学研究科博士課程 歯学系〈口腔衛生学〉専攻)
掲載
口腔衛生学会雑誌 2006;56(5):688-708
種類
観察研究(1歳6か月児健診と3歳児健診の記録を個人単位で連結した1,167名・多変量ロジスティック回帰)
PMID
なし(日本語誌のためPubMed未収載)

「何に気をつければいいですか」に、どこから答えるか

1歳半の健診で、保護者にそう聞かれる。哺乳瓶、就寝時の授乳、ジュース、間食の回数、仕上げ磨き——挙げるべきことは山ほどあります。でも、全部言えば全部が薄まる

この論文がやったのは、「どれがいちばん効いているか」に順番をつけることでした。しかも面白いのは、その順番が、時期によって入れ替わると示した点です。

先に結論: 1歳半までのう蝕に効いていたのは就寝時授乳(オッズ比 9.17)・母乳(3.70)・甘味食品を6〜12か月で開始(2.70)1歳半から3歳のう蝕に効いていたのはスポーツ飲料(2.35)・就寝時授乳(2.23)・ジュース(2.01)授乳の話から、飲み物の話へ——重心が移る。

尾道市が、2つの健診を1人ずつつないだ

  • 対象1998年8月〜2000年8月に尾道市の3歳児健診を受診した幼児1,406名のうち、同一児の1歳6か月児健診の資料も揃った1,167名
  • 調査:両健診の案内に同封した質問票(家族環境・授乳状況・間食習慣・飲料の摂取状況・食事習慣・口腔清掃習慣・習癖・予防処置)と歯科健診。3歳時の質問票は、授乳関係を除いてほぼ同じ内容
  • 解析多変量ロジスティック回帰(変数増加法・採用p値0.2)。単変量で有意だった項目を投入し、φ係数0.35以上で相関の強い項目どうしは、説明力の高いほうを残した(就寝時授乳と母乳継続、哺乳瓶使用などが該当)
  • 新規発症を見る解析には、1歳6か月時にう蝕がなかった1,130名のデータを使っている

まず現状の数字から。1歳6か月時は一人平均0.09本・有病率3.2%。3歳時は一人平均1.25本・有病率34.4%。1年半で、有病率が3.2%から34.4%へ跳ね上がります。

1歳半までに効いていたのは「授乳」だった

0 3.3 6.7 10 1歳6か月時のう蝕に対するオッズ比 9.17 3.7 2.7 就寝時授乳 今もしている 授乳方法 母乳 甘味食品 6〜12か月で開始 多変量ロジスティック回帰(表3・R²=0.206)。95%信頼区間は順に 2.60〜32.38/1.80〜7.62/1.05〜6.85。就寝時授乳の区間は非常に広い
1歳6か月時のう蝕に対するオッズ比(多変量ロジスティック回帰・表3)
  • 就寝時授乳「今もしている」:オッズ比 9.17(p<0.001、95%CI 2.60〜32.38)
  • 授乳方法「母乳」:オッズ比 3.70(p<0.001、95%CI 1.80〜7.62)
  • 甘味食品を「6〜12か月」で始めた:オッズ比 2.70(p=0.040、95%CI 1.05〜6.85)。「6か月以前」は3.26だが有意ではない(p=0.059)
  • 祖父母との同居(1.94)、就寝前飲食(1.96)、間食の規則性なし(1.64)はいずれも有意ではなかった
  • このモデルのR²は0.206

9.17という数字の大きさに目を奪われそうになりますが、信頼区間は2.60〜32.38——非常に広い。1歳6か月時のう蝕有病率が3.2%と低く、イベントが少ないためです。「大きい」ことは確かでも、「どれくらい大きいか」はこの研究では絞り込めていないと読むのが正確です。

1歳半から3歳では、飲み物が前に出てくる

0 0.9 1.7 2.6 3歳時のう蝕に対するオッズ比(1歳6か月時の要因) 2.35 2.23 2.01 1.82 1.63 1.62 1.42 スポーツ飲料 ほぼ毎日〜週2〜3回 就寝時授乳 今もしている ジュース よく飲ませる 授乳方法 母乳 間食 3回以上 昼間の保育者 祖父母 祖父母と同居 多変量ロジスティック回帰(表7・R²=0.133)。基準は順に「与えない」「したことがない」「ほとんど飲ませない」「人工乳・混合乳」「1回以下」「母親・保育園」「同居無し」。基準カテゴリーのオッズ比は1
3歳時のう蝕に対するオッズ比(説明変数は1歳6か月時の要因・表7)
  • スポーツ飲料「ほぼ毎日・週2〜3回」:2.35(p<0.001、1.56〜3.55)。「熱や汗が出たときだけ」でも1.69(p=0.002、1.22〜2.35)
  • 就寝時授乳「今もしている」:2.23(p<0.001、1.56〜3.18)
  • ジュース「よく飲ませる」:2.01(p=0.005、1.24〜3.26)
  • 授乳方法「母乳」:1.82(p=0.001、1.34〜2.47)
  • 間食3回以上:1.63(p=0.047)/2回:1.39(p=0.036)
  • 昼間の保育者が祖父母:1.62(p=0.049)/祖父母と同居:1.42(p=0.025)
  • このモデルのR²は0.133

単変量の有病率で見ると、スポーツ飲料をほぼ毎日与えている群の3歳時う蝕有病率は43.5%、与えない群は25.3%——本文の割合から計算するとリスク比 約1.7です。就寝時授乳を今もしている群は48.2%、したことがない群は26.3%リスク比 約1.8。オッズ比よりは控えめな数字になります。

ここが実務的: 「熱や汗が出たときだけ」のスポーツ飲料でも、オッズ比1.69。保護者にとっては「特別なとき用」でも、歯にとっては十分な曝露になっている——この一行だけでも、患者説明の材料になります。

3歳時点の習慣で見ると、効き目は小さくなる

同じ3歳時のう蝕を、「3歳時点の生活習慣」で説明しようとすると、モデルの説明力は R²=0.071まで落ちます(表5)。

  • ジュース「よく飲ませる」1.46(p=0.010)/スポーツ飲料「ほぼ毎日」2.04(p=0.024)
  • 仕上げ磨き「時々する」1.56(p=0.027)/「していない」2.05(p=0.067、有意ではない)
  • 吸指癖「無し」1.69(p=0.002)

1歳6か月時点の情報(R²=0.133)のほうが、3歳時点の情報(R²=0.071)より3歳のう蝕をよく説明する。原著はこの2つのR²を並べて論じてはいませんが、すでにできてしまった虫歯を、いま現在の習慣だけで説明しようとしても届かないとは読めます(どちらのR²も高くはありません)。

ついでに、直感に反する結果も正直に紹介しておきます吸指癖が「無し」のほうがう蝕リスクが高い(1歳半時点の要因として1.54、3歳時点の要因として1.69)。指しゃぶりが歯列に与える影響とは別に、う蝕については逆向きの関連が出ている——著者は、吸指癖のある子では母乳継続・母乳育児・哺乳ビンの継続使用・就寝時授乳の割合がいずれも有意に低かったことを示し、う蝕が少ないのは授乳状況の違いで説明されると考察しています(ただし不正咬合を誘発させる可能性もあり、習癖の継続を推奨するものではない、とも書いています)。因果と読むべきではありませんが、こういう結果が出たことは知っておいて損はありません

1歳半から3歳の間に、習慣はどう変わったか

この論文のもう一つの見どころは、同じ子の習慣が1年半でどう動いたかを追ったところです(表1)。

  • 良い方向に動いた間食の規則性あり 68.1% → 77.1%仕上げ磨き毎日 46.6% → 59.6%(「していない」は13.1% → 3.1%)/フッ素塗布経験あり 16.3% → 76.4%(いずれもp<0.001)
  • 悪い方向に動いたジュースの1日摂取量「コップ1杯以上」13.2% → 18.2%スポーツ飲料「週2〜3回」11.7% → 13.7%、「与えない」は34.6% → 27.7%へ減少(p<0.001)

著者の整理はこうです——間食の規則性と仕上げ磨きは「1歳6か月時に指導することで効果が得られやすい項目」ジュースの1日摂取量とスポーツ飲料の摂取頻度は「放っておくと増えていく項目」だから、1歳6か月時に「増やさないための指導」が要るどちらも指導すべきだが、伝え方の向きが違うということです。

明日の臨床へ

  • 1歳半までは「授乳」の話、1歳半からは「飲み物」の話——時期で重心を変える。これがこの論文のいちばん使える結論です
  • スポーツ飲料は名指しで聞く。「ジュースは?」だけでは拾えません。「熱が出たときだけ」でもリスクは上がっている
  • 就寝時授乳は、1歳半でも3歳でも最も強い要因として残りました(授乳方法「母乳」も両方の時期に残っています)。ここは両方の時期で伝える価値があります
  • 間食の規則性と仕上げ磨きは、1歳6か月時に指導すれば効果が得られやすい項目だと著者は結論しています。一方ジュースとスポーツ飲料は「増やさない」向きの指導が要る——同じ指導でも向きが違います
  • 表7では、祖父母に関わる2項目(同居・昼間の保育者)がともに残ったのも見逃せません(表3の1歳半時点では、祖父母との同居は有意ではありませんでした)。母親だけに伝えても届かない家庭がある、ということです
ここだけ、冷静に補助線 — まず曝露はすべて保護者の自己申告です。就寝時授乳もスポーツ飲料の頻度も、質問票に書かれた通りに扱われています。次に、モデルの説明力はどれも高くありません(R²=0.206/0.133/0.071)。「これらを全部直せば虫歯が防げる」わけではないことは、数字自体が語っています。またオッズ比は、アウトカムが多い集団では「何倍なりやすいか」より大きめの数字になります——3歳時の有病率は34.4%と高いので、上の2.35や2.23は、リスク比に直すともっと小さくなります(本文の有病率から計算したリスク比は、スポーツ飲料で約1.7、就寝時授乳で約1.8)。母乳のオッズ比が両方の時期で残っている点は誤解を招きやすいところです。著者は「母乳摂取がう蝕発症要因となったことは、就寝時に授乳することの関与が大きいことが推察された」と考察しています(なお解析の前段で、就寝時授乳と相関の強い「母乳継続の有無」「哺乳ビン使用の有無」は説明変数から除外されています)。問題は母乳そのものというより、「寝かしつけながら飲ませ続けること」だという読み方です。これは1998〜2000年・尾道市という単一自治体のデータで、飲料の商品構成もフッ化物の普及状況も今とは違います。それでも、同じ子を2時点で追い、「時期によって効く要因が入れ替わる」ことを数字で見せた研究は多くありません。指導の優先順位を考えるうえで、今も参照する値打ちがあります。

今日のひとこと

1歳半までのう蝕に効いていたのは、就寝時授乳(オッズ比 9.17)・母乳(3.70)・甘味食品を6〜12か月で始めたこと(2.70)。1歳半から3歳の間に効いていたのは、スポーツ飲料(2.35)・就寝時授乳(2.23)・ジュース(2.01)。時期によって、言うべきことが入れ替わる。著者は「スポーツ飲料は本市で最も優先的に対策を講じるべき要因」と書き、間食の規則性と仕上げ磨きは「1歳6か月時に指導すれば効果が得られやすい項目」だと結論している。

三藤聡. 尾道市における乳幼児のう蝕有病状況に影響を与える生活・環境要因について. 口腔衛生学会雑誌. 2006;56(5):688-708.
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。