1問1答 論文 歯周病

歯間の傷は、なぜ開くのか——乳頭を切らずに持ち上げた1985年

歯周外科

乳頭保存術(papilla preservation technique)の原法

歯周外科でいちばん破れやすいのは、歯と歯のあいだです。切って、縫って、そこが開く。移植材を入れたのに露出する。——その一点を、器具でも材料でもなく「切開線をどこに置くか」で解こうとした報告があります。いま私たちが当たり前に使っている乳頭保存という考え方は、ここから始まりました。

論文
Flap technique for periodontal bone implants. Papilla preservation technique
著者
Takei HH, Han TJ, Carranza FA Jr, Kenney EB, Lekovic V
掲載
J Periodontol. 1985;56(4):204-210
種類
術式の報告(前歯部・臼歯部の症例)
PMID
3889270

いちばん破れるのは、いつも歯と歯のあいだだった

歯周外科で骨移植をしたあと、何が起きるか。移植材が歯間から漏れる。縫った歯間が開く。露出して感染する。——器具や材料をどれだけ吟味しても、この一点でつまずくことがあります。

1985年、Takeiらはこの問題を切開線をどこに置くかだけで解こうとしました。

従来の切開は、いちばん弱い場所を縫っていた

それまでの弁の設計では、歯間乳頭を頬側と舌側に切り分けて挙上していました。素直な方法です。しかし構造的な弱点がありました。

切り分けられた乳頭は薄い。そして縫合線は、ちょうど移植材を覆っていてほしい場所の真上に落ちます。覆いたい場所と、破れやすい場所が重なっていたのです。

乳頭を切り分けず、一塊で持ち上げる

提案された設計は単純です。歯間乳頭を切り分けない。

頬側は、各歯の周囲に歯肉溝内切開を入れるだけ。歯間乳頭を貫く切開は入れません。舌側・口蓋側では、歯肉溝内切開に加えて各歯間乳頭を横切る半月状の切開を置きます。この切開は歯のライン角から根尖側へ下がり、乳頭の切開線が歯肉縁から少なくとも5mm離れる位置に来ます。

つまり: 乳頭を舌側から切り離すことで、乳頭は頬側弁と一塊のまま挙上できるようになります。縫合線は、覆いたい歯間部から離れた位置へ移ります。
乳頭保存術(Takei 1985)——どこを切り、どこを切らないか 歯冠の長さを10mmとした模式図。骨欠損は歯間に垂直性のものを想定 頬側から見る 歯肉溝の中だけを切り、どの乳頭にも刃を入れない 歯槽骨の頂 垂直性骨欠損 舌側・口蓋側から見る それぞれの乳頭を横切って切り離す 歯槽骨の頂 垂直性骨欠損 5mm以上 歯肉縁から ━━ 歯肉溝内切開 ┈┈ 残す乳頭 ━━ 半月状切開 乳頭を舌側から切り離し、頬側弁と一塊のまま持ち上げる 縫合線は、覆いたい歯間部から離れた位置に落ちる
〔図〕乳頭保存術の切開線。頬側は歯肉溝内切開のみで乳頭に刃を入れず、舌側で各乳頭を横切る半月状切開を歯肉縁から5mm以上離して置く(原著の記述にもとづく模式図)

剥離した歯間組織は、鈍な器具で鼓形空隙を通して押し出します。骨欠損が口蓋側や舌側へ大きく広がっている場合は、半月状切開を頬側に置く変法が用意されています。

何が変わったか

著者らの報告では、治癒は常に一次治癒で得られ、移植材が即座に脱落することはありませんでした。そして歯間部にクレーター状の陥凹が生じない——これは患者さんが清掃を保ちやすいことを意味します。

もうひとつ、この弁は移植材を使わない場合でも、術後の軟組織の形態を良くする目的で使えると述べられています。前歯部にも臼歯部にも適用できる設計でした。

なぜ、この発想が効いたのか

歯肉への血液供給は、頬側は頬側から、舌側は舌側から来ます。乳頭を切り分けると、その細く薄い先端は両側から切り離された島になる。血の届きにくい組織を、最も張力のかかる場所で縫い合わせていたわけです。

一塊で扱えば、どちらか一方の血流が生きたまま残ります。そして縫合線は膜や移植材の真上ではなく、その隣へ移る。覆うべき場所と、破れる場所を、切り離したのがこの設計でした。

明日の臨床へ

この論文が置いた原則は、いまも動いていません。歯間の軟組織を、できるだけ切らず、動かさず、閉じ続ける。

1995年の改良型乳頭保存術(MPPT)は、この術式を「改良」したものです。以後の低侵襲術式——MIST、M-MIST、EPP——も、すべてこの上に乗っています。いま使っている術式が何を受け継いでいるのかを知ると、術式を選ぶときの物差しが変わります。

ここだけ、冷静に補助線 これは対照群を置いた比較試験ではなく、術式の報告です。「一次治癒が得られた」という記述はありますが、従来の切開と数字で比べたわけではありません。それでも、以後40年の弁の設計がこの一本から枝分かれしたという事実は動きません。比較されていないからといって、原則が弱いわけではない。

今日のひとこと

歯間乳頭を切り分けるのをやめ、舌側で半月状に切り離して頬側弁と一塊で持ち上げる。縫合線が歯間から離れるだけで、傷は開きにくくなった。

Takei HH, Han TJ, Carranza FA Jr, Kenney EB, Lekovic V. Flap technique for periodontal bone implants. Papilla preservation technique. J Periodontol. 1985;56(4):204-210. PMID: 3889270
臨床判断は必ず原著をご確認ください。