1問1答 論文 歯周病

前回出血した場所が、今日は出ない——治ったのか、測り方か

歯周病の診査

同じ日に二度測ったら、BOPはどれだけ再現したか

BOPの丸が消えていると、つい「良くなりましたね」と言いたくなります。ところが1986年、歯周組織が変わりようのない100分という間隔で同じ部位を二度測った研究は、その丸の当てにならなさが深さによって真逆になることを示しました。

論文
Reproducibility of bleeding tendency measurements and the reproducibility of mouth bleeding scores for the individual patient
著者
Janssen PT, Faber JAJ, van Palenstein Helderman WH
掲載
J Periodontal Res. 1986;21(6):653-659
種類
反復測定研究(成人歯周炎13名・隣接面703ポケット・定圧プローブ)
PMID
2947998

その丸が消えたのは、治ったからか

メインテナンスでチャートを開く。前回プラスだった部位が、今日はマイナス。「良くなっていますね」と伝えたくなる場面です。

でも、ほんとうに治ったのでしょうか。それとも、今日はたまたま出なかっただけでしょうか。これを確かめるには、病状が変わりようのない条件で二度測るしかありません。

それまで:BOPは「出ないこと」に強い、とされていた

BOPの評価は、陰性の価値が高いことで知られています。出血しない部位は、その後も安定している——この性質があるから、僕たちは「出ていない場所は手放す」判断ができます。

では陽性のほうはどうか。1回の丸は、どれくらい信用していいのか。ここがはっきりしないまま、日々の記録は積み上がっていきます。

今回の一手:100分あけて、同じ703部位をもう一度測る

対象は初期治療を終えた成人歯周炎13名。1人の検者が隣接面703ポケットを記録し、100分の間隔をあけて同じ部位をもう一度測りました。

100分では歯周組織は変化しません。差が出れば、それは測定のばらつきそのものです。しかもプローブは定圧型(32±2gf)、先端はWilliams型のフラット形状(直径0.42mm)。押し加減という最大の変数を、器具で消したうえでの再現性を見ています。

つまり: 「病気が動いた」の可能性を消し、「術者の力加減」の可能性も消した。残った差は、BOPという指標そのものの揺れ。

結果:浅いポケットでは、真逆に割れた

4mm以下の浅いポケットでは、こうなりました。

0 33.3% 66.7% 100% 同じ部位を100分後に測り直したときの一致率 (%) 86% 36% 「出血なし」の一致 「出血あり」の一致 浅いポケット(4mm以下)での再現性。出血なしは高く、出血ありは低い(Janssen 1986)

「出血しなかった」は86%が再現。一度目に出血しなければ、二度目もほぼ出血しません。ところが「出血した」は36%しか再現しませんでした。浅いところで出た出血の三分の二は、100分後には出ないのです。

ところが深いポケットでは、関係が逆転する

ポケットが深くなるにつれて、この関係はきれいに反転しました。「出血しなかった」の一致率は有意に低下し(p<0.001)、逆に「出血した」の一致率は有意に上昇します(p<0.001)。

0 33.3% 66.7% 100% 「出血あり」の一致率 (%) 42% 84% 浅いポケットだけの人 深さが混在する人 同じ「出血あり」でも、深いポケットを持つ人では再現性が跳ね上がる(Janssen 1986)

患者単位で見ると、浅いポケットしか持たない人では出血の一致率が42%だったのに対し、さまざまな深さを持つ人では84%。全体を加重平均すると、出血なし78%・出血あり64%でした。

つまり: 同じ「BOP陽性」でも、浅い部位で出たものと深い部位で出たものは、情報としての重みがまるで違う。

著者が出した、もうひとつの答え

この研究のうまいところは、再現性の値から確率分布を計算したことです。二度の検査で出血部位数がいくつ違えば「本当に変わった」と言えるのか、を数字で出しました。

結論は控えめです。個々の患者で本当の変化を示せるのは、出血部位数の差が大きいときだけ。そして——ここが実務に効くのですが——記録する部位を増やすほど、口腔全体の出血スコアの感度は上がると述べています。

明日の臨床へ:3つ、持ち帰れる

① 浅いポケットの単発のプラスに、重い意味を負わせない。 3mmの部位が今日出血しても、それは三分の一の再現性しかない情報です。「4回続いたら話は別」という読み方が効くのは、この弱さを回数で補うからでした。
② 深いポケットのプラスは、そこそこ信用してよい。 深い部位の出血は繰り返し出ます。同じ丸でも、扱いを変える。
③ 部位数を削らない。 6点法を4点法にすれば手間は減りますが、口腔全体のスコアの感度は落ちます。数字の安定は、部位数が支えています。
ここだけ、冷静に補助線 13名・1人の検者・定圧プローブという、かなり恵まれた条件での結果です。日常の手用プローブでは、ばらつきはこれより大きくなると考えるのが自然でしょう。また対象は初期治療後の口で、炎症の強い初診時とは条件が違います。100分という間隔も、一度目のプロービングが二度目に与える影響を完全には消せません。それでも「出血の一致率は深さで真逆になる」という骨格は、毎日のチャートの読み方をはっきり変えてくれます。丸の数を数えるより、どこに付いた丸かを見る。

今日のひとこと

浅いポケットの「出血あり」は、100分後に測り直すと三分の一しか再現しない。深いポケットでは逆に再現する。同じ丸でも、深さによって重みが違う。

Janssen PT, Faber JAJ, van Palenstein Helderman WH. Reproducibility of bleeding tendency measurements and the reproducibility of mouth bleeding scores for the individual patient. J Periodontal Res. 1986;21(6):653-659. PMID: 2947998
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。