ペリオ / 診断・予後 ・ Hou & Tsai 1987
清掃状態は同じなのに分岐部病変が進むのはいつも決まった大臼歯。その一因が、付け根に潜むエナメルの突起CEPかもしれません。719本の大臼歯でCEPと分岐部病変の関係を定量した古典です。
大臼歯の分岐部病変、なぜ"この歯だけ"?
同じようにプラークが付いているのに、分岐部病変が進むのはいつも決まった大臼歯——そんな経験はありませんか。全体の清掃状態では説明しきれない、部位ごとの"当たり外れ"。その一因が、歯の付け根に潜む小さな解剖学的形態CEP(歯頸部エナメル突起/cervical enamel projection)かもしれません。Hou & Tsai 1987は、719本の大臼歯でCEPと分岐部病変の関係を数字で示しました。
従来の常識:分岐部病変の主因はプラークと清掃性
根分岐部病変は、プラーク・歯石と、そこを清掃できるかどうかで進むと理解されています。ただ臨床では、清掃状態が似ていても特定の歯・特定の部位だけが分岐部病変になることがある。CEPは、エナメル質がセメントエナメル境(CEJ)を越えて根分岐部方向へ舌状に垂れ下がる形態異常で、以前から「分岐部病変と関係するのでは」と観察されてきました。とはいえ、大規模に定量した報告は多くありませんでした。
今回の一手:719本の大臼歯でCEPと分岐部病変を突き合わせる
78人・719本の大臼歯(クラウンやう蝕のない、CEPと分岐部を正確に判定できる歯)を対象に、CEPの有無・グレード(Masters & Hoskins分類の1〜3)を臨床・X線・フラップ時の直視で判定。同時に分岐部病変(Glickman分類)、プラーク指数・歯肉指数も記録し、CEPのある歯とない歯で分岐部病変の頻度を比べました。CEPは患者の67.9%、大臼歯の45.2%に見られ、下顎大臼歯に多く、左右対称に出る(93.9%が対)のも特徴でした。
結果①:CEPがある歯は、分岐部病変が2倍多い
結果は明快でした。CEPのある大臼歯は82.5%が分岐部病変を伴い、CEPのない歯(40.4%)の約2倍。この差は統計的に有意で、CEPは分岐部病変と強く結びついていました。さらに、CEPのある歯はプラーク指数・歯肉指数も有意に高い——CEPがプラークを溜め、清掃を邪魔する局所因子として働いていることを示しています。
結果②:突起が大きいほど、リスクは跳ね上がる
しかも「量的」な関係がありました。CEPのグレード(突起の大きさ)が上がるほど分岐部病変の頻度も上がり、グレード1で53.7%、グレード2で83.1%、グレード3では97.5%。グレード3のCEP——エナメルが分岐部内まで入り込むタイプでは、ほぼ確実に分岐部病変が起きていました。加えて分岐部病変は加齢とともに増え、とくにCEPを持つ歯で顕著でした。CEPは「あるかないか」だけでなく「どれだけ深く根分岐部に踏み込んでいるか」が効く、というわけです。
なぜ?──エナメル面には付着できないから
理由は付着の生物学にあります。歯肉の結合組織性付着(シャーピー線維)はセメント質には付くが、エナメル質には付けません。CEPはエナメルが分岐部方向へ張り出した部分なので、そこでは本来の付着が成立せず、上皮性付着に頼るしかない弱い境界になります。しかもエナメルの舌状の張り出しは表面に段差・くぼみを作り、プラークが溜まりやすく、器具も届きにくい。「付着できない面」+「清掃できない形」が分岐部の入口に居座る——だからそこが炎症と付着喪失の入口になり、分岐部病変へ直結する。CEPが"co-factor(併発因子)"と呼ばれる所以です。
明日の臨床へ:大臼歯の分岐部を診たら、CEPを疑う
実務にこう使えます。①分岐部病変のある大臼歯、とくに下顎第一大臼歯では、CEPの有無をCEJ付近の探針・X線・(外科時は)直視で確認する。左右対称に出やすいので、片側にあれば反対側も要チェック。②CEPが分岐部病変の局所因子と判断できれば、原因除去としてodontoplasty(エナメル突起の削合・整形)を治療に組み込む。フラップやENAP、歯肉整形と併せて突起を除くことで、清掃できる形に整える。③術後は分岐部のプラークコントロールを最優先に。要は、「なぜこの歯だけ悪いのか」の答えとしてCEPを鑑別に入れ、原因そのものを形態修正で断つ視点を持つことです。
今日のひとこと
分岐部病変のある大臼歯、とくに下顎第一大臼歯ではCEPの有無を確認する。左右対称に出やすいので片側にあれば反対側も要チェック。局所因子と判断できれば、原因除去としてodontoplasty(突起の削合)を治療に組み込み、清掃できる形に整える。


