エンド|NiTiロータリーファイルの「折れにくさ」は、室温の試験で測られてきた。では体温ではどうか。4種のファイルを20℃と37℃の水中で模擬根管の中で回し、折れるまでの回転数と、合金の相変態温度を比べた実験研究(de Vasconcelos 2016・Journal of Endodontics)
NiTiファイルの「繰り返し疲労(cyclic fatigue)」の試験は、ほとんどが室温で行われてきました。でも実際にファイルが回るのは、体温に近い根管の中です。著者らはProTaper Universal・Hyflex CM・TRUShape・Vortex Blue(先端径#25)を、曲率半径3mm・角度約60°の金属ピンの模擬根管にセットし、20℃と37℃の水中で折れるまで回しました(各群20本)。結果、37℃では4種すべてで破折までの回転数が有意に減り、減り幅は33〜85%。たとえばHyflex CMは平均2986回→487回でした。合金の相変態温度を測ると、熱処理ファイルは室温ではやわらかいマルテンサイト寄り、体温ではオーステナイト寄りに移ることが示唆されました。「室温で測った折れにくさを、そのまま根管内の寿命として読まない」——これが持ち帰りです。ただし模擬根管での実験で、患者さんの口の中で破折が増えるかを見た研究ではありません。
①その「折れにくさ」、何度で測った数字?
急な湾曲根管でNiTiファイルを回すとき、頭のどこかで「このファイルは折れにくいはず」と思っていませんか。マルテンサイト寄りに熱処理したファイルは、疲労試験で従来品よりずっと長く回り続けることが示されてきました。
ところが、その試験の多くは室温で行われています。実際にファイルが回るのは、体温に近い根管の中です。
結論を先に言います。この研究では、4種のNiTiファイルを37℃の水中で回すと、20℃より折れるまでの回転数が4種すべてで有意に減り、減り幅は33〜85%でした。とくに熱処理したファイルで、落ち方が大きかったのです。
②なぜ、これまで室温で測ってきたのか
回転中のファイル破折には2つの型があります。湾曲の中で回るたびに曲げが繰り返されて起こる繰り返し疲労(cyclic fatigue)と、ねじれが材料の限界を超えて起こるねじれ破折です。この研究が扱うのは前者です。
繰り返し疲労の試験には決まった規格がなく、金属ピンや溝を刻んだ金属ブロックなど、さまざまな装置が使われてきました。そして、どの試験も室温で、測定できるほどの熱を出さないよう注意して行われてきました。熱でNiTiの性質が変わりうると考えられていたからです。
さらに、熱処理した新しい合金は、従来の合金より相変態温度(結晶の並び方が切り替わる温度)がずっと高く、体温に近いところで変態する可能性があるとされていました。
だとすると、室温の試験では体温での性質を見落としているのではないか——これが出発点です。
③今回の一手:同じ装置を、水温だけ変えて回す
・ProTaper Universal(F2):従来型の合金
・Hyflex CM(25/.06)・TRUShape(25/.06v)・Vortex Blue(25/.06):熱処理した合金
ステンレスの3本ピンで作った模擬根管に、曲率半径3mm・角度60°・湾曲の中心は先端から4.5mm・作業長19mmでファイルをセット。装置ごと脱イオン水200mLに沈め、20℃±1℃(氷で冷やす)と37℃±1℃(ホットプレートで温める)で、各メーカー推奨の回転数(Hyflex CM・Vortex Blue 500rpm、ProTaper Universal・TRUShape 300rpm)、トルク制限なしで折れるまで回しました。各群20本。
折れた瞬間に回路が切れてストップウォッチが止まる仕組みで、時間を折れるまでの回転数(NCF)に換算して比べています(回転数の設定がブランドで違うため)。
あわせて、各ブランドのファイルを示差走査熱量測定(DSC)にかけました。温めたり冷やしたりしたときの熱の出入りから、合金の相変態温度を読み取る方法です。「なぜ体温で変わるのか」を、合金の中身から説明しようとしたわけです。
なお、空気中で回す予備試験(各3本)も行われています。
④結果①:37℃では4種すべてが早く折れた
20℃→37℃で、折れるまでの回転数の平均は次のように変わりました。
Hyflex CM 2986回→487回、Vortex Blue 1816回→479回、TRUShape 1372回→201回、ProTaper Universal 199回→134回。4種すべてで、37℃のほうが有意に少なくなっています。
減少率にすると、TRUShape 85%・Hyflex CM 84%・Vortex Blue 74%・ProTaper Universal 33%(平均値から計算)。熱処理した3種は7割以上減り、従来型のProTaper Universalは3分の1の減少にとどまりました。
⑤結果②:体温では、順位も入れ替わった
20℃では、Hyflex CMが他の3種より有意に多く回り、TRUShapeとVortex Blueの間には有意差がなく(P=.2019)、ProTaper Universalが最も少ない、という順でした。
37℃では様子が変わります。Hyflex CM(487回)とVortex Blue(479回)の間に有意差はなく(P=.9943)、この2種がTRUShapeとProTaper Universalより有意に多く回りました。TRUShape(201回)とProTaper Universal(134回)の間にも有意差はありませんでした(P=.1306)。
室温では2986回と群を抜いていたHyflex CMの強さは、体温ではVortex Blueと並ぶ程度まで縮んだことになります。室温で有意差がなかったTRUShapeとVortex Blueも、体温では差がつきました。
⑥なぜ体温で折れやすくなるのか:合金の「相」が変わる
NiTi合金には、大きく2つの状態(相)があります。マルテンサイト相はしなやかで曲げに強く、オーステナイト相は弾性係数が高く、しなりにくい。一般に、マルテンサイトの割合が多い合金ほどしなやかで、疲労に強いとされます。マルテンサイト相の中の境界がひびの広がりを妨げることも、理由として挙げられています。
カギになるのがAf(オーステナイトへの変態が終わる温度)です。DSCで測ると、Hyflex CM 43.5℃、Vortex Blue 33.7℃、TRUShape 31℃、ProTaper Universal 10.5℃でした。
・Hyflex CMはAfが体温より高いので、37℃でも変態は終わり切らないが、かなりの部分がすでにオーステナイトになっていると著者らは読んでいる
・ProTaper UniversalはAfが10.5℃なので、20℃でも37℃でもほぼオーステナイト。結晶の状態はほとんど変わらないはずなのに、それでも33%減った
最後の点について、著者らは「相変態以外の、まだわかっていない要因も疲労寿命を下げている」と述べ、追加の実験が必要だとしています。仕組みの説明はDSCからの推論で、疲労との因果を直接確かめたものではない点は押さえておきましょう。
⑦明日の臨床へ
・熱処理ファイルの強みは、体温では小さくなった。この研究では、室温で約15倍あったHyflex CMとProTaper Universalの差(2986回と199回)が、37℃では約3.6倍(487回と134回)に縮んだ(平均回転数どうしの割り算)。
・だから、急な湾曲では熱処理ファイルだからと余裕を見込みすぎない。
・ただし、この研究は口の中で破折が増えるかを調べたものではない。何回まで使うか・どこで替えるかの基準は、この研究からは出てこない。
根管内の温度は、生体の報告で31〜35℃、根管から出した直後のファイル表面は30.8〜32.5℃(著者らの予備計測)でした。今回の37℃はそれより少し高めの条件です。とくにAfが31〜34℃のTRUShapeとVortex Blueでは、この数度の差が結果に響く可能性もあります(筆者の補足)。
⑧ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
4種のNiTiファイルを模擬根管で回したこの実験では、37℃の水中にすると、20℃より破折までの回転数が4種すべてで有意に減り、減り幅は33〜85%でした(Hyflex CM 2986→487回、Vortex Blue 1816→479回、TRUShape 1372→201回、ProTaper Universal 199→134回)。熱処理ファイルは体温でオーステナイト寄りに移ることが相変態温度から示唆され、室温で目立ったHyflex CMの強さは、体温ではVortex Blueと並ぶ程度まで縮みました。室温の試験で測った「折れにくさ」を、そのまま根管の中の余裕として読まない——これが持ち帰りです。ただし湾曲1種類・#25だけの模擬根管での実験で、臨床での破折率を調べた研究ではありません。


