ペリオ|Phase2 歯周外科
付着歯肉を増やしたい。でも口蓋にもう一つ傷をつくるのは、術者にとっても患者にとっても軽くありません。受容側だけで完結する改良型根尖側移動弁(MARF)は、遊離歯肉移植(FGG)の代わりになるのか——2015年、Carnioらは15人の同じ口の左右で、同じ日に両方を行い、1年後を比べました。
①その付着歯肉、口蓋を採らずに増やせないか
下顎前歯の唇側。付着歯肉が1mmを切っていて、小帯が歯肉縁を引っぱっている。ここを厚くしておきたい——そう判断したとき、多くの先生の頭に最初に浮かぶのは遊離歯肉移植(FGG)でしょう。半世紀の実績があり、必要な量だけ確実に増やせます。
ただ、術者も患者も知っているとおり、FGGには「もう一つの傷」がつきます。口蓋のドナー部位です。術後の痛みの主役はたいてい採取側で、色調も周囲と揃うとは限りません。受容側だけで、口蓋を触らずに付着歯肉を増やせないか——この問いに、2006年にCarnioとCamargoが出した答えが改良型根尖側移動弁(MARF)でした。
②同じ口の左右で、同じ日に比べる
15名(女性11・男性4、平均34.4歳、全員非喫煙者)の下顎で、左右ともに付着歯肉1mm以下という条件の症例を集めました。どちらの側にどちらの術式を行うかはコイントスで決め、同じ日に両方を行っています(ランダム化スプリットマウス、FGG 35歯・MARF 42歯、1年追跡)。
同一患者の左右で比べる設計は、治癒力・喫煙・清掃状態といった「患者ごとの差」をまるごと相殺できるのが強みです。痛みや見た目のように主観が入る項目では、この設計の価値がとくに大きくなります。
下ごしらえも揃えてあります。術2か月前から口腔衛生指導とPMTCを行い、歯面の75%以上でプラークがない状態にしてから手術に入りました。骨の位置は術直前にボーンサウンディングで確認し、骨頂がポケット底より2.0mmを超えて根尖側にある症例は、MARFで退縮が増える恐れがあるとして除外しています。
術式の違いは、切開と剥離の深さに集約されます。FGGは歯肉歯槽粘膜境の約0.5mm歯冠側にバットジョイントで水平切開を入れ、縦切開を2本加えて部分層弁を約7mm根尖側まで剥離し、弁を切除して口蓋からの移植片(幅5.20mm・厚さ1.93mm)を縫合します。MARFは同じ位置にベベルを付けた水平切開を1本だけ入れ、縦切開なしで部分層弁を約4mm剥離し、そのまま根尖側に移動して骨膜に縫合します(露出させた骨膜の幅は平均3.59mm)。どちらも歯頸部の歯肉はもとの位置に残したままです。
③1年後、どちらも「足りる」ところまで増えた
まず押さえたいのは、両術式とも1年後に有意な増加を示したことです。角化組織はFGGが2.08→5.93mm、MARFが2.09→4.41mm。付着歯肉はどちらも0.81mmから、FGGが4.50mm、MARFが3.32mmへ増えました(いずれも p<.001)。
そのうえで、量そのものはFGGが上です。1年後の群間差は角化組織で1.52mm(p<.001)、付着歯肉で1.18mm(p<.01)。著者らはこの差を術式の優劣ではなく剥離量の設計差として説明しています。FGGは移植片の収縮を見込んで受容側を約7mmまで根尖側に広げたのに対し、MARFは約4mmに留めた——十分な付着歯肉ができることが先行研究で示されていたためです。
臨床的にはここが要点でしょう。1年後の実測値は、両術式とも角化組織4mm超・付着歯肉3mm超。もっとも厳しい基準に照らしても「足りている」水準に届いています。
④差がはっきり出たのは、チェアタイムと患者の実感
平均手術時間はFGG 47.67分に対しMARF 19.87分。約28分、ほぼ半分です。傷が1か所で済み、縦切開も不要で、口蓋からの採取工程がまるごと無いことを考えれば納得のいく差でしょう。
患者側の評価はさらに一方に振れました。術後1週の時点で、15人中14人が「FGG側のほうが不快だった」と答え、残る1人は差がないと答えました。そして1年後、審美性については15人全員がMARF側を選んでいます。同じ口の中で両方を経験した人が、そう答えたということです。
⑤明日の臨床へ——増やしたい量で選び分ける
著者らは優劣ではなく使い分けの表を残しています。読み替えると、こう整理できます。
MARFが向く場面:複数の隣接歯にまとまった付着歯肉が欲しい/術式を簡素にしてチェアタイムを削りたい/口蓋を触りたくない/色調を周囲と確実に揃えたい。前提として術前に0.5mm以上の付着歯肉が残っていることが必要です(残った歯肉の襟を歯冠側に留め置くため)。
FGGでなければならない場面:根面被覆も同時に狙う/骨の裂開がある部位。この2つはMARFでは代替できないと著者らは明記しています。加えて、1.5mm前後の上乗せがどうしても欲しい部位もFGG側の適応でしょう。
術後管理はどちらも同じで、0.12%クロルヘキシジン洗口を4週間、パックは1週で除去し、術野のブラッシングとフロスは5週目からという設計でした。
今日のひとこと
付着歯肉1mm以下の下顎症例15名で、左右にFGGとMARFをコイントスで割り付け、同じ日に両方行って1年後を比べたランダム化スプリットマウス研究。角化組織はFGGが2.08→5.93mm、MARFが2.09→4.41mm、付着歯肉はどちらも0.81mmからFGG 4.50mm・MARF 3.32mmへ増加し、両術式とも p<.001 で有意でした。1年後の群間差は角化組織1.52mm(p<.001)・付着歯肉1.18mm(p<.01)でFGGが上回りますが、著者らはこれを受容側の剥離量の設計差(FGG約7mm/MARF約4mm)として説明しています。歯肉退縮は両群とも術前後で有意な変化なし(FGG 1.29→1.08mm、MARF 1.07→1.01mm)。プロービング深さはFGG群のみ1.38→1.44mmと有意に増えましたが、差は約0.06mmで臨床的意義はほとんどないと著者らは述べています。差がはっきり出たのは手術時間で、FGG 47.67分に対しMARF 19.87分と約28分短縮。術後1週の不快感は15人中14人がFGG側と回答し、1年後の審美性は15人全員がMARF側を選びました。1年後の実測値は両術式とも角化組織4mm超・付着歯肉3mm超に届いており、著者らはどちらも実行可能な選択肢としたうえで、根面被覆を狙う症例と骨裂開のある部位はFGGでなければ代替できないと整理しています。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


