1問1答 論文 歯周病

その3.2ミリは、誰が稼いだ分なのか

1問1答 論文 歯周病

ペリオ|Phase2 歯周外科

再生療法の論文を読むとき、ベースラインの数値がいつ測られたものかを確認しているでしょうか。骨縁下欠損は、非外科治療だけでもポケットが浅くなり、X線でも骨が埋まります。だとすれば、再生外科の成績には前段の分が混ざっているかもしれない——2015年、Nibaliらは293本の論文を数え直しました。

論文
Effect and timing of non-surgical treatment prior to periodontal regeneration: a systematic review
著者
Nibali L, Pelekos G, Onabolu O, Donos N
掲載
Clinical Oral Investigations 2015;19(8):1755-1762
種類
系統的レビュー(3310本を選別し293本を解析・PRISMA準拠)
PMID
25957601

そのベースラインは、いつ測ったものか

再生療法の論文を読むとき、私たちは結果の数字を見ます。「付着レベルが3.2mm獲得できた」「X線で骨が3.3mm回復した」では、その出発点となったベースラインの数値は、いつ測られたものでしょうか

ここが問題になる理由は、近年の知見にあります。骨縁下欠損は、非外科治療(SRP)だけでも臨床的に改善するばかりか、X線で見える骨の充填が起きることが分かってきました。著者らの先行研究では、126の骨縁下欠損を非外科治療だけで治療したところ、X線的な骨欠損が平均0.7mm(非喫煙者では約1mm)減り、ポケットは2.3mm浅くなっています39部位のサブトラクションX線でも、SRP後に骨密度の有意な増加が確認されました

だとすれば、こうなります。ベースラインのX線を非外科治療の前に撮っていたら、最終結果は「非外科治療+再生外科」の合算になる逆に非外科治療の直後(2〜3か月)に撮っていたら、骨密度の変化はまだX線に現れていない可能性がある——どちらにしても、再生外科だけの効果を見ていることにはなりません

先に結論: 293本のうち、非外科治療の前後の数値を報告した論文はゼロ再評価の時期を書いた論文も45%だけ

293本を、4つの問いで数え直す

MedlineとEMBASEを2013年9月まで検索し、3310本から293本を選び出しましたPRISMA準拠・言語制限なし・2名の独立した査読者でκ=0.97の一致)。対象は骨縁下欠損(根分岐部は除外)を再生外科で治療した10名以上のRCTまたは縦断研究です。

内訳はRCT 206本・縦断研究87本29か国(米国53本・イタリア38本・ドイツ27本)、215本が大学、46本が開業医、27本が併設1980年代6本・1990年代74本・2000年代151本・2010年代62本と、4つの年代にまたがっています。

そして、次の4つを数えました。①手術前の初期治療はどう記載されているか ②その時期(手術との間隔)は書かれているか ③初期治療の臨床値・X線値は報告されているか ④手術前のベースラインをいつ測ったかが明確か

数えてみたら、書かれていなかった

0 33.3% 66.7% 100% 293本の論文に占める割合 (%) 76% 45% 14% 10% 0% 非外科治療を実施と明記 再評価の時期を明記 記載が不明確 実施していない 前後の数値を報告 骨縁下欠損の歯周再生外科の論文293本を、術前の非外科治療(SRP)の記載で分類した結果
293本の論文における、術前の非外科治療の記載状況

縁下のデブライドメントを行ったと明記していたのは223本(76%)40本(14%)は「初期治療」「初期の歯周治療」「スケーリング」といった曖昧な記述で、縁下まで行ったのか判別できませんそして28本(約10%)は、試験部位に縁下の器具操作を行っていませんでした

その理由も記されています。「全患者が初期治療を受けたが、試験部位を除くすべての部位で」「術前の退縮を避けるため、GTRを行う歯には縁下の器具操作をしなかった」あるいは全顎の縁上スケーリングと口腔衛生指導だけ、口腔衛生指導だけ、という論文もありました「大がかりな縁下デブライドメントは歯肉の退縮を招き、軟組織の扱いと再生能力に不利になる」という考え方が、背景にあったと著者らは推測しています。

非外科治療から手術までの再評価時期を報告していたのは133本(45%)だけその間隔は2週間から6か月までそして、非外科治療の前後で骨縁下欠損の臨床値やX線値を報告した論文は、293本中1本もありませんでした初期治療の内容(回数・器具・麻酔の有無・抗菌薬の併用)が詳細に書かれていた論文も、ごくわずかです。

年代で改善しているかも見ていますSRPの記載は1980年代50%・1990年代78%・2000年代79%・2010年代76%——ほとんど変わっていません再評価時期の記載だけは17%→36%→49%→53%と改善傾向でした。

0 1.7mm 3.3mm 5mm ポケット深さの減少 (mm) 2.3mm 4.1mm 非外科治療のみ 再生外科の研究(中央値) 「非外科治療のみ」は著者らの先行研究(126の骨縁下欠損・X線的な骨欠損も平均0.7mm減少)。「再生外科」は293研究の報告値の中央値で、いずれも術前の非外科治療を経ている
非外科治療だけで得られる改善と、再生外科研究が報告してきた改善の中央値

293研究が報告した改善の中央値は、ポケット深さ4.1mm・付着レベル3.2mm・X線的な骨獲得3.3mm・再手術時の骨欠損深さ減少3.0mm非外科治療が明確に行われた研究だけに絞っても、この数字はほぼ同じ(4.1・3.2・2.9・3.0mm)でした。

これを、非外科治療だけの成績と並べてみると、示唆的です。著者らの先行研究では、非外科治療だけでポケット2.3mm減少・X線的な骨欠損0.7mm減少低侵襲の外科と非外科をランダム化して比べた試験でも、6か月後の付着獲得は2.8mm対2.6mmで差がなく、歯肉退縮の差もありませんでした

足し算の内訳が、分からない

誤解しないでおきたいのは、この論文は「再生外科に効果がない」と言っているのではないということです。GTRと歯肉弁剥離掻爬(OFD)を比べた系統的レビューでは、付着レベルの差はGTRが1.22mm、GTR+骨補填材が1.25mm優れていると示されています。

問題は内訳が分からないことです。ベースラインが非外科治療の前なら、報告された改善には前段の分が含まれるベースラインが非外科治療の2〜3か月後なら、X線的な骨の変化はまだ現れきっていないかもしれないしかも弁を挙上して掻爬すれば、非外科治療で進行中だった治癒過程が中断される可能性もある——だから「再生外科の効果」と「非外科治療の効果」を分離できる研究が、1本も存在しないのが現状です。

もうひとつの読み方もあります非外科治療の伸びしろを、多くの研究が使い切っていなかったという見方です。手術までの間隔が最短2週間では、臨床的にも(まして X線的にも)変化を観察する時間がありませんベースラインのX線に縁下歯石が写っている論文や、非外科治療後の平均ポケットが10mmを超えたままの論文もあったと、著者らは指摘しています。

ここが要点: 「外科でこれだけ良くなった」の分母には、非外科治療の分がどれだけ入っているか分からない

明日の臨床へ

1つ目。非外科治療のあと、6か月あけて測り直す。 これが著者らの提案です根分岐部病変を除く骨縁下欠損は、少なくとも6か月後に再評価してから、再生外科を検討する非外科治療の伸びしろを使い切ってから、外科の適応を判断するという順序です。

2つ目。論文を読むときの3つの確認事項。 ベースラインは非外科治療の前か後か手術までどれだけ待ったのか非外科治療だけでどこまで治ったのか——3つ目に答えている論文は、いまのところありません

3つ目。自分の症例では、両方の数字を持っておく。 初期治療の前と後で測っておけば、外科で上乗せできた分が自分のデータとして残りますこの論文が研究者に求めていることは、そのまま日常臨床にも使えます

4つ目。「退縮を避けるために縁下を触らない」を、疑ってみる。 28本の論文がその方針を採っていましたが、その前提自体が検証されていませんむしろ低侵襲な非外科治療では、歯肉退縮の差は出ないと報告されています

ここだけ、冷静に補助線。 この論文は「記載の有無を数えた研究」であって、治療効果を比較したものではありませんメタ解析も行っていません(研究の性質と異質性のため)「再生外科の成績が過大評価されている」というのは、著者ら自身が”speculation(推測)”と明記している仮説です——それを検証できる研究(再生外科 vs 非外科治療のみ、X線アウトカムつき)が1本も存在しないことが、この論文の発見そのものだからです。「6か月あけて再評価」という提案も、その妥当性が試験で確かめられたわけではありません。それでも、293本を数え直して「私たちは何を知らないか」を示した点で、読む側の姿勢を変える一本です。次に再生療法の論文を開いたとき、まずベースラインの位置を探すようになります

今日のひとこと

骨縁下欠損に対する歯周再生外科の論文293本(RCT 206本・縦断研究87本)を集め、「手術前の非外科治療(SRP)がどう記載されているか」だけを軸に読み直した系統的レビュー結果、術前に縁下のデブライドメントを行ったと明記していたのは223本(76%)40本(14%)は記載が不明確、28本(約10%)は試験部位に縁下の器具操作を行っていませんでした「術前の退縮を避けるため、GTRを行う歯には縁下の器具操作をしなかった」と明記した論文もあります)。非外科治療から手術までの再評価時期を報告していたのは133本(45%)だけで、その間隔は2週間から6か月までばらついていましたそして、非外科治療の前後で骨縁下欠損の臨床値やX線値を報告した論文は、293本中1本もありませんでした報告の割合は30年でほとんど改善していませんSRPの記載は1980年代50%・1990年代78%・2000年代79%・2010年代76%)。293研究が報告した改善の中央値は、ポケット深さ4.1mm・付着レベル3.2mm・X線的な骨獲得3.3mm。一方で著者らの先行研究では、非外科治療だけで126の骨縁下欠損が平均0.7mm(非喫煙者では約1mm)のX線的な骨欠損減少と、2.3mmのポケット減少を示しています低侵襲の外科と非外科を比べた試験でも、6か月後の付着獲得は2.8mm対2.6mmで差がありませんでした。著者らの提案は「非外科治療の後、少なくとも6か月あけて再評価してから、再生外科を検討する」です。

出典:Nibali L, Pelekos G, Onabolu O, Donos N. Effect and timing of non-surgical treatment prior to periodontal regeneration: a systematic review. Clin Oral Investig 2015;19(8):1755-1762. PMID: 25957601
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。