1問1答 論文 歯周病

患者は「何ミリ覆えたか」を見ていなかった

1問1答 論文 歯周病

ペリオ|Phase2 歯周外科

くさび状欠損に歯肉退縮が重なった歯。詰めるのが先か、覆うのが先か、それとも両方か——判断の基準がCEJでは足りません。2011年、Zucchelliらは「どこまで覆えるか」を先に見積もり、その線と欠損の位置関係で術式を5つに振り分けました。そして1年後、患者の満足度を決めていたのは、覆えたミリ数ではありませんでした。

論文
Non-Carious Cervical Lesions Associated With Gingival Recessions: A Decision-Making Process
著者
Zucchelli G, Gori G, Mele M, Stefanini M, Mazzotti C, Marzadori M, Montebugnoli L, De Sanctis M
掲載
Journal of Periodontology 2011;82(12):1713-1724
種類
ケースシリーズ(94名94部位・1年後評価・単一施設)
PMID
21542735

詰めるのが先か、覆うのが先か

くさび状欠損(NCCL)に歯肉退縮が重なった歯を前にしたとき、判断は3つに割れます。欠損が歯冠だけにあるならレジンで修復、根面だけにあるなら歯周形成外科——教科書的にはそう整理されます。ところが実際には、NCCLは歯冠と歯根の両方にまたがっていることが多く、そのときセメント‐エナメル境(CEJ)は摩耗して消えていますつまり、術式選択の基準にしていた目印そのものが無いのです。

さらに厄介なのは、Miller III級・IV級では、解剖学的なCEJまで軟組織で覆えるとは限らない点です。乳頭の高さが失われている、歯が回転・挺出している、咬耗がある——こうした条件があると、被覆できる高さは解剖学的CEJより根尖側で頭打ちになります。基準がCEJでは足りないわけです。

先に結論: 基準をCEJから「最大根面被覆線(MRC)」に置き換えるMRCとくさび状欠損の位置関係で、術式は5通りに決まる

覆える高さを、先に測ってしまう

Zucchelliらが使ったのは、同じグループが2010年に報告した「最大根面被覆線(MRC)の術前予測法」です。理想的な歯間乳頭の高さを計算し、そこから被覆線を描くという方法で、術後3か月の歯肉縁の位置を予測できることが検証済みでした。

手順はこうです。まず、頬側の近遠心のライン角でCEJが交差する点(CEJ‐角点)と、コンタクトポイントとの距離を測って、理想的な乳頭の高さを求めますNCCLがある歯でも、歯間の軟組織をプローブや小スパチュラで持ち上げれば、歯間部のCEJは触知できますこの寸法を、近遠心の乳頭先端から根尖方向へ置き換え、その水平投影の2点を結ぶと、スカラップした1本の線が引けますこれがMRC=根面被覆の到達しうる最も冠側の線です。

対象はボローニャ大学に紹介された94名(男性45・女性49、20〜48歳、平均34.6歳)単独の歯肉退縮にNCCLを伴う歯を1本ずつ、連続的に組み入れていますMiller I級26・II級20・III級38・IV級101日10本を超える喫煙者、既に補綴物がある歯、大臼歯は除外されました。計測は術者と別の盲検の1名(検者内一致κ>0.75)が担当しています。

そしてMRCとNCCLの位置関係で、5つのタイプに振り分けます。

タイプ1=MRCがNCCLの最上端より1mm以上冠側予測誤差1mmを吸収できる余裕があるので、修復せず冠側移動弁(CAF)だけで対応します(露出根面はNCCLごと機械的に整えてEDTAで処理し、弁はMRCより1mm冠側で縫合)。タイプ2=MRCがNCCL上端の1mm以内余裕がないので、結合組織移植(CTG)を欠損の凹みに詰めて、弁が落ち込むのを防ぐ二層法グラフトが空隙を埋める「詰め物」として働きますタイプ3=MRCがNCCLの最深部にあるもっとも複雑で、歯冠側のオドントプラスティ(修復前)と根面のオドントプラスティ(手術中)で欠損を浅く広くし、レジンで修復してからCAFタイプ4=MRCが最深部より根尖側覆えない部分をレジンで修復し、その根尖側の露出根面をCAFで覆いますタイプ5=MRCがNCCLの下端かそれより根尖側軟組織では覆えない位置なので、修復のみです。

覆えた量は5倍違う。満足度は変わらない

0 1.3mm 2.7mm 4mm 1年後の平均根面被覆量 (mm) 3.1mm 3.3mm 1.9mm 1.5mm 0.6mm タイプ1 タイプ2 タイプ3 タイプ4 タイプ5 タイプが上がるほど(最大被覆線がくさび状欠損の根尖側へ寄るほど)軟組織で戻せる量は減る
NCCLタイプ別の1年後の平均根面被覆量。タイプが上がるほど軟組織で戻せる量は減る

1年後の平均根面被覆は、タイプ1が3.06±0.79mm、タイプ2が3.33±0.59mm、タイプ3が1.92±0.54mm、タイプ4が1.47±0.51mm、タイプ5が0.6±0.73mm全体では2.07±1.12mmでした。Miller分類別ではI級2.69mm、II級3.1mm、III級1.55mm、IV級0.4mm角化組織の幅は1.58±0.62mmから2.35±0.8mmへ増加(+0.76±0.86mm)し、プロービング深さは術前1.1±0.3mmから1年後1.2±0.3mmで、有意な変化はありません1年後に出血部位はゼロ、プラークが付着していたのは3%の部位だけでした。

0 33.3% 66.7% 100% 審美の満足度がVAS 80点以上だった患者の割合 (%) 100% 94% 96% 89% 87% タイプ1 タイプ2 タイプ3 タイプ4 タイプ5 被覆量は0.6mm〜3.3mmと4倍以上違うのに、満足度に有意差はなかった(タイプ1 15/15・2 17/18・3 26/27・4 17/19・5 13/15)
患者の総合満足度。被覆量が5倍以上違っても、満足度に有意差は出なかった

ここからが本題です。審美の総合満足度がVAS 80点以上だった患者は、タイプ1で15/15、タイプ2で17/18、タイプ3で26/27、タイプ4で17/19、タイプ5で13/1550点未満をつけた患者は、全94名中ひとりもいません被覆量が0.6mmのタイプ5と、3.33mmのタイプ2で、満足度に統計学的な差はありませんでした

重回帰分析はさらに踏み込みます患者の総合満足度も、患者による根面被覆の評価も、歯周病専門医による根面被覆の評価も、「色調の合い方(カラーマッチ)」とは統計学的に有意に相関しました(患者 F=36.9・専門医 F=99.4、いずれもp<0.01)ところが、実際に覆えたミリ数とは相関しませんでした(専門医の評価で F=2.8、有意差なし)専門医の評価でMiller分類による差が出たのはIV級だけで、III級では、被覆を制限する解剖学的条件があるにもかかわらず、専門医は「不完全な被覆」だと気づけませんでした

なぜ色が、ミリ数に勝つのか

著者らの解釈はこうです。見る人の目に立つのは、白いエナメル質・レジンと、ピンクの軟組織の「境目に別の色が挟まっているかどうか」つまり黄色い象牙質やCEJが露出しているかどうかであって、軟組織の縁が何ミリ冠側にあるかではない完全被覆が達成できない症例では、被覆量そのものより「色の連続性」が審美の評価を決めていた——というわけです。

この読みは、修復を先に行う設計とも噛み合います。レジン修復を歯周外科の前に済ませておくと、修復側は軟組織に邪魔されず、ラバーダムで隔離した状態で仕上げられますそして外科側には、滑らかで凸型の安定した支持面ができる弁が乗る土台が整い、同時に色の段差も消えている——2つの利点が同時に手に入ります。

ここが要点: 覆いきれない症例で患者が見ているのは、境目の色だから「覆う量」を追うより「色を連続させる」ほうが、満足に直結する

明日の臨床へ

1つ目。術前にMRCを引く。 歯間のCEJを触知して理想的な乳頭の高さを出し、被覆線を描くこの線が「臨床的CEJ」の代わりになります線より冠側なら歯周外科だけで届き、線より根尖側なら修復が要る——判断はこれで分かれます。

2つ目。修復は外科の前に。 順番を逆にすると、軟組織が邪魔をして修復の質が落ちますMRCは、レジンを根尖側でどこまで延ばすかのガイドラインとしても使えます

3つ目。深い欠損は、削って浅くしてから詰める。 タイプ3の冠側・根面オドントプラスティは、欠損の鋭い段差を落として浅く広くする処置です。これによってレジンの適合が上がり、弁が乗る面も滑らかになります

4つ目。説明の焦点を、ミリからカラーマッチへ。 「解剖学的CEJまでは戻せません」で終わらせず、「境目の色を揃えます」を伝えるこの研究では、それが満足度と相関した唯一の因子でした

ここだけ、冷静に補助線。 これは対照群のないケースシリーズ(パイロット研究)で、術者は各1名の熟練歯周病専門医と熟練修復医です。タイプごとの被覆量の違いは、術式の優劣ではなく、そもそも「覆える量」で群分けした結果なので、群間比較として読むものではありません。審美評価も1年後の一時点で、レジンの経年的な色調変化や辺縁の劣化は見ていません著者ら自身、この治療方針の有効性を検証するランダム化比較試験が必要だと述べています。それでも、「覆える線を先に決めてから術式を選ぶ」という順序と、「患者はミリ数ではなく色を見ている」という発見は、明日の説明から使える一本です。

今日のひとこと

くさび状欠損(NCCL)に単独の歯肉退縮を伴う94名94部位を対象に、術前に「最大根面被覆線(MRC)」を予測し、MRCとNCCLの位置関係で5つのタイプに分けて術式を選ぶ意思決定プロセスを提示した研究。タイプ1(MRCがNCCL上端より1mm以上冠側)は冠側移動弁のみタイプ2(MRCがNCCL上端の1mm以内)は結合組織移植+冠側移動弁タイプ3(MRCがNCCLの最深部)は歯冠側・根面のオドントプラスティ+レジン修復+冠側移動弁タイプ4(MRCが最深部より根尖側)はレジン修復+冠側移動弁タイプ5(MRCがNCCL下端かそれより根尖側)は修復のみ1年後の平均根面被覆はタイプ1が3.06±0.79mm、タイプ2が3.33±0.59mm、タイプ3が1.92±0.54mm、タイプ4が1.47±0.51mm、タイプ5が0.6±0.73mm全体平均2.07±1.12mm)。角化組織の幅は1.58mmから2.35mmへ増加(+0.76±0.86mm)し、プロービング深さは1.1mmから1.2mmで変化なし。注目すべきは審美評価です。総合満足度がVAS 80点以上だった患者はタイプ1で15/15、タイプ2で17/18、タイプ3で26/27、タイプ4で17/19、タイプ5で13/15——被覆量が0.6mmと3.3mmで5倍以上違っても、満足度に有意差はありませんでした患者の満足度・患者と歯周病専門医による根面被覆の評価は、いずれも「色調の合い方」と統計学的に相関し、実際に覆えたミリ数とは相関しませんでした

出典:Zucchelli G, Gori G, Mele M, et al. Non-carious cervical lesions associated with gingival recessions: a decision-making process. J Periodontol 2011;82(12):1713-1724. PMID: 21542735
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。