1問1答 論文 エンド

バイオセラミック系シーラーは、AH Plusより細胞にやさしい?——培養した歯肉線維芽細胞の実験では、BCシーラーの溶出液のほうがAH Plusより生きた細胞が有意に多く、小核のある細胞の割合も有意に少なかった。抗菌性は、直接接触1時間ではAH Plusが上回り、24時間以降はどちらも菌が検出されなかった(Candeiro 2015)

1問1答 論文 エンド

エンド|プレミックスのバイオセラミック系シーラー(EndoSequence BC Sealer)とエポキシレジン系の AH Plus を、培養したヒト歯肉線維芽細胞(不死化した細胞株)への毒性・遺伝毒性と、腸球菌(E. faecalis)1株への抗菌性で比べた実験室研究(Candeiroら・International Endodontic Journal・2015年オンライン公開)

根管充填のシーラーは、根尖から押し出されれば歯周組織に触れます。Candeiroらは、プレミックスのバイオセラミック系シーラー(EndoSequence BC Sealer、以下BCシーラー)と AH Plus を、実験室で比べました。培養したヒト歯肉線維芽細胞では、BCシーラーの溶出液のほうが AH Plus より、生きた細胞が有意に多く、小核のある細胞(DNAの傷の目安)は有意に少ない結果でした。抗菌性は、寒天拡散試験ではAH Plusの阻止円が有意に大きく(直径の平均 10.31 mm 対 6.00 mm)、菌液をシーラーに直接触れさせた試験では、1時間の時点では、AH Plusでは菌が検出されず、BCシーラーでは菌が残っていました(有意差あり)。24時間以降は、どちらのシーラーでも菌が検出されませんでした。細胞は1つの細胞株、菌は1株、各条件3回の実験で、患者さんの歯で治り方を比べた研究ではありません。

論文
Cytotoxicity, genotoxicity and antibacterial effectiveness of a bioceramic endodontic sealer
著者
G. T. M. Candeiro, C. Moura-Netto, R. S. D’Almeida-Couto, N. Azambuja-Júnior, M. M. Marques, S. Cai, G. Gavini(ブラジル・サンパウロ大学ほか)
掲載
International Endodontic Journal 2016;49(9):858-864(2015年にオンライン公開)
種類
実験室研究(in vitro)。BCシーラーと AH Plus の2種を比較。①細胞毒性:不死化したヒト歯肉線維芽細胞(FMM1株)を、シーラーを24時間浸した培地(10倍に薄めたもの)で1・3・5・7日育て、MTT法で生きた細胞の量を測定(各3回)。②遺伝毒性:同じ培地で24時間育てた細胞で、小核のある細胞の割合を数えた(小核試験・各3回)。③抗菌性:E. faecalis(ATCC 29212)1株で、寒天拡散試験(48時間後の阻止円)と直接接触試験(1・24・72・168時間後の生菌数・各3回)。検定は分散分析とTukeyの検定、小核試験はFisherの正確確率検定
資金・利益相反
著者らは利益相反を否定している。資金の記載は見当たらない
PMID
26281002

①バイオセラミック系シーラーは、AH Plusより細胞にやさしい?

根管充填のシーラーは、根尖からわずかに押し出されることがあります。押し出されたシーラーは、根尖周囲の組織に直接触れます。だからこそ、シーラーが細胞にどれくらい害を与えるかは、気になるところです。

この問いを実験室で確かめたのが、Candeiroらが International Endodontic Journal に報告した研究です(2015年にオンライン公開)。プレミックスのバイオセラミック系シーラー EndoSequence BC Sealer(以下BCシーラー)と、エポキシレジン系の AH Plus を、培養した細胞と菌で比べています。

結論を先に書きます。
・培養したヒト歯肉線維芽細胞(不死化した細胞株)で、BCシーラーの溶出液のほうが、AH Plus の溶出液より生きた細胞が有意に多かった。どちらのシーラーも、シーラーなしの培地よりは少なかった
・小核のある細胞(DNAの傷の目安)の割合は、BCシーラーのほうが AH Plus より有意に少なかった
・抗菌性は、寒天拡散試験ではAH Plusの阻止円が有意に大きかった(直径の平均 10.31 mm 対 6.00 mm)。菌液をシーラーに直接触れさせた試験では、1時間の時点でAH Plusが有意に少なく(菌が検出されず)、24時間以降はどちらのシーラーでも菌が検出されなかった
・細胞は1つの細胞株、菌は E. faecalis の1株、各条件3回の実験室研究。患者さんの歯で治り方を比べた研究ではない

②なぜこの比較が必要だったか

著者らは序論でこう整理しています。BCシーラーはアルカリ性で、カルシウムイオンを多く放出し、エックス線不透過性と流れも適しているとされ、抗菌性や生体親和性の報告もある。ただ、細胞毒性と抗菌性を調べた研究はまだ少なく、遺伝毒性(細胞のDNAを傷つける性質)は調べられていなかった。ここまでは、著者らが引いた文献にもとづく整理です。

根尖周囲の組織がきちんと治るには、シーラーが細胞を傷めないことが大切だ、というのが著者らの問題意識です。そこで、AH Plus を比べる相手にして、細胞毒性・遺伝毒性・抗菌性の3つを調べました。

③何をどう比べたか

比べたのは2種のシーラーです。BCシーラー(ジルコニア、ケイ酸カルシウム、リン酸カルシウム、水酸化カルシウムなどを含む)と、AH Plus(ビスフェノールA型・F型のエポキシレジンとアミンの2ペースト)。成分は原著の表1にもとづきます。

・細胞毒性:不死化したヒト歯肉線維芽細胞(FMM1株)を使いました。シーラー1.4 gに培地7 mLを加えて24時間置き、ろ過した液をさらに10倍に薄めて、細胞を育てる培地にしました。1・3・5・7日目に、MTT法(細胞のミトコンドリアの働きを色で測る方法)で生きた細胞の量を測っています。各条件3回
・遺伝毒性:同じ培地で24時間育てた細胞を染め、蛍光顕微鏡で、小核(細胞の核の外にこぼれたDNAのかけら)を持つ細胞の割合を数えました(決めた5視野で100個の細胞。各条件3回)
・抗菌性:E. faecalis(ATCC 29212)の1株を使いました。寒天拡散試験では、寒天に開けた直径6 mmの穴にシーラーを詰め、48時間後に周りの阻止円の直径を測定。直接接触試験では、用意したばかりのシーラー180 mgを穴の底に塗り、20分後に菌液を載せて、1・24・72・168時間後に生き残った菌の数(CFU/mL)を数えました(各条件3回)

検定は、細胞毒性と抗菌性が分散分析とTukeyの検定、小核試験がFisherの正確確率検定で、P<0.05を有意としています。

④結果:細胞への影響はBCが小さく、1時間の抗菌はAH Plusが上

図1:4つの試験の結果(いずれも平均。BCシーラー=EndoSequence BC Sealer。原著の図1・図2・表2と 本文から) 試験 測ったもの BCシーラー AH Plus 差(原著の検定) 細胞毒性(7日目) 生きた細胞の量 約2.1 約0.25 BCが有意に多い 遺伝毒性(24時間) 小核のある細胞 約2.4% 約7.9% BCが有意に少ない 寒天拡散(48時間) 阻止円の直径 6.00 mm 10.31 mm AH Plusが有意に大きい 直接接触(1時間) 生き残った菌 4.5×10⁴ 0 AH Plusが有意に少ない 直接接触(24時間以降) 生き残った菌 0 0 どちらも検出されず 表の数値はすべて各条件の平均(各3回)。「約」の付いた値は、原著の図の平均値を筆者が読み取った概数。 細胞は不死化したヒト歯肉線維芽細胞(FMM1株)。シーラーを24時間浸した培地を10倍に薄めて使った。菌は E. faecalis(ATCC 29212)1株。各条件3回。 「約」の値は、原著の図1(7日目)と図2の棒・点から読み取った。原著は数値を本文に書いていない。 細胞を育てるだけの対照(シーラーなし)は、7日目の吸光度 約2.8、小核のある細胞 約0.5%(図から筆者が読み取った 概数)。生きた細胞の量は、両シーラーとも対照より有意に少なかった。小核のある細胞の割合は、本文では対照が両シー ラーより有意に少ないと書かれているが、原著の図2では対照とBCシーラーに同じ記号(a)が付いている。 単位:細胞毒性はMTT法の吸光度、遺伝毒性は小核のある細胞の割合、寒天拡散は阻止円の直径(平均±標準偏差 6.00± 0.03 mm と 10.31±0.21 mm)、直接接触は生き残った菌の数(CFU/mL)。直接接触の24時間以降は24・72・168時間。 寒天拡散試験の穴の直径は6 mm。阻止円の直径の測り方の基準は原著に書かれていない。 検定:細胞毒性・抗菌性は分散分析とTukeyの検定、小核試験はFisherの正確確率検定(いずれもP<0.05を有意)。
図1:4つの試験の結果(いずれも平均)。「約」の付いた値は、原著の図の平均値を筆者が読み取った概数。

細胞毒性。シーラーなしの培地で育てた細胞がいちばん多く、BCシーラー、AH Plus の順でした。原著は、シーラーなしの対照が他の2群より有意に多く(P<0.01)、BCシーラーは AH Plus より有意に多かった(P<0.01)と書いています。7日目の吸光度の平均は、図1から読むと、対照 約2.8、BCシーラー 約2.1、AH Plus 約0.25です(筆者が図から読み取った概数)。AH Plus の溶出液では、増え方がわずかでした(原著は、どの群でも細胞が有意に増えたと書いています)。

遺伝毒性。小核のある細胞の割合の平均は、AH Plus が約7.9%、BCシーラーが約2.4%、対照が約0.5%でした(原著の図2から筆者が読み取った概数)。BCシーラーは AH Plus より有意に少ない結果です(P<0.05)。

寒天拡散試験。阻止円の直径(平均±標準偏差)は、AH Plus が 10.31±0.21 mm、BCシーラーが 6.00±0.03 mm で、AH Plus が有意に大きい結果でした(P<0.05)。

図2:直接接触試験で生き残った E. faecalis の数(平均 CFU/mL。原著の表2の全4行・全4時点) 1時間 24時間 72時間 168時間 BCシーラー 4.5×10⁴ 0 0 0 AH Plus 0 0 0 0 菌だけ(シーラーなし)※1 6.0×10⁷ 8.1×10⁷ 1.2×10⁸ 4.0×10⁸ 菌を入れない培地 ※2 0 0 0 0 用意したばかりのシーラー180 mgを穴の底に塗り、20分後に菌液(3×10⁸ CFU/mL)500 µLを載せた。各条件3回。 有意差(P<0.05)があったのは1時間の時点のBCシーラーとAH Plusの間だけ。24時間以降は両シーラーとも0(菌が検出 されなかった)。 ※1 原著の表2での名は Negative control、※2 は Positive control。原著の方法の節では、菌だけを入れた穴を「陽 性対照」、菌を入れない培地を「陰性対照」と定義しているが、結果の本文と表2では呼び名が逆になっている。表の行の 中身は方法の定義に合わせて書いた(筆者の読み)。
図2:直接接触試験で生き残った菌の数(原著の表2の全行・全時点)。

直接接触試験。1時間の時点で、AH Plus では菌が検出されず(0)、BCシーラーでは平均 4.5×10⁴ CFU/mL が残っていました。この時点の差は有意です(P<0.05)。24・72・168時間では、どちらのシーラーでも菌が検出されず、有意差はありませんでした。菌だけを入れた穴では、菌の数の平均は 6.0×10⁷ から 4.0×10⁸ CFU/mL へ増えています。

⑤結果の読み方

著者らの結論は、BCシーラーは AH Plus より細胞毒性と遺伝毒性が低く、E. faecalis への抗菌効果は同程度だった、というものです。

抗菌性の「同程度」は、少し分けて読みたいところです。寒天拡散試験では AH Plus の阻止円が有意に大きく、直接接触試験でも1時間の時点では AH Plus が上回っていました。観測された結果としては、直接接触試験の24・72・168時間で、両シーラーとも菌が検出されなかった(有意差なし)、というところまでです。著者らの「同程度」は、この範囲の結果にあたる、と筆者は整理しています。著者らは、寒天拡散試験は材料が寒天にしみ出す力に左右されるので、直接接触試験のほうが受け入れられている、と考察しています。

もう1つ、寒天拡散試験の穴の直径は6 mmでした。BCシーラーの阻止円の直径の平均 6.00 mm は、穴の外側にはほとんど阻止帯が広がらなかった値と読めます(筆者の読み。原著は、直径を穴の縁から測ったかどうかを書いていません)。

AH Plus の毒性が高かった理由について、著者らは、重合を速めるアミンからのホルムアルデヒドの放出や、エポキシレジン、ビスフェノールAを挙げています。BCシーラーの細胞へのやさしさや抗菌性は、アルカリ性やカルシウムイオンの放出、水酸化カルシウムの拡散による可能性がある、としています。どちらも、この研究で確かめたことではなく、著者らが引いた文献にもとづく推測です。

⑥明日の臨床へ

ここからは筆者の読みです。原著の主張ではありません。

シーラーが根尖から押し出される可能性がある症例で、周囲の細胞への影響を気にするなら、この結果はBCシーラーを考える材料の1つになります。培養した歯肉線維芽細胞では、AH Plus の溶出液では細胞の増え方がわずかだったのに対し、BCシーラーでは対照より少ないながらも、はっきり増えていました。

一方で、抗菌性について著者らは「同程度」と結論していますが、観測されたのは、直接接触して24・72・168時間の時点で両方とも菌が検出されなかった、という1株の菌での結果です(筆者の整理)。触れてすぐの短い時間では AH Plus のほうが強く、寒天の上で周りに広がる効果も AH Plus のほうが大きい結果でした。

そして、どちらも培養した細胞と菌での結果です。根尖周囲の組織が実際にどう治るか、根管治療の成績がどう変わるかは、この研究では調べていません。シーラーの選択は、封鎖性や操作性、再治療のしやすさなども合わせて考えるのが現実的です。

ここだけ、冷静に補助線著者らによれば、それまで調べられていなかったBCシーラーの遺伝毒性を、AH Plus と並べて調べた報告です。そのうえで、読むときの補助線をいくつか。
(1)実験室研究(in vitro)です。細胞は不死化したヒト歯肉線維芽細胞の1つの株、菌は E. faecalis の1株で、各条件3回の実験でした。根尖周囲の組織や、口の中の多くの菌での結果ではありません。
(2)細胞毒性と遺伝毒性は、シーラーを24時間浸した培地を10倍に薄めた液で調べています。固まってから時間がたったシーラーや、別の濃さでの結果は分かりません。直接接触試験は、用意したばかりのシーラーを穴に入れて20分後に始めています。
(3)細胞毒性と遺伝毒性の結果は、原著では図だけで示され、数値は本文にありません。記事の「約」の値は、筆者が図から読み取った概数です。
(4)原著の中に食い違いが2つあります。小核のある細胞の割合で、本文は対照が両シーラーより有意に少ないと書いていますが、図2では対照とBCシーラーに同じ記号(a)が付いています。直接接触試験では、方法の節の「陽性対照・陰性対照」の定義と、結果の本文・表2での呼び名が逆になっています(記事の図2は、方法の定義に合わせて行の中身を書きました)。
(5)抗菌性の「同程度」は著者らの結論で、観測されたのは直接接触試験の24・72・168時間で両シーラーとも菌が検出されなかったことです(筆者の整理)。寒天拡散試験と1時間の時点では AH Plus が上回っていました。
(6)比べたのは製品2つで、他のバイオセラミック系シーラーや他のシーラーに、そのまま当てはまるかは分かりません。著者らは利益相反を否定しています。資金の記載は見当たりません。
シーラーの「細胞への影響」と「抗菌性」を同じ実験系で並べてくれた1本として、臨床研究の結果と合わせて読むのがよさそうです。

今日のひとこと

この実験室研究では、BCシーラーの溶出液は AH Plus より、培養した歯肉線維芽細胞を多く生かし、小核のある細胞も少なかった。抗菌性は、直接接触の1時間ではAH Plusが上回り、24・72・168時間ではどちらも菌が検出されませんでした(著者らは抗菌効果を「同程度」と結論)。ただし、細胞は1つの細胞株、菌は1株の実験で、根尖周囲の治り方や臨床の成績を比べた研究ではありません。シーラーを選ぶときの「生体への影響」の材料の1つとして読みたい1本です。

Candeiro GTM, Moura-Netto C, D’Almeida-Couto RS, Azambuja-Júnior N, Marques MM, Cai S, Gavini G. Cytotoxicity, genotoxicity and antibacterial effectiveness of a bioceramic endodontic sealer. Int Endod J. 2016;49(9):858-864. doi: 10.1111/iej.12523. PMID: 26281002
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。