エンド|細菌や真菌の液に浸して菌を付けたガッタパーチャポイントを、薬液に5分浸し、培養して増殖の有無を見た実験室研究(Linke・Chohayeb 1983・Oral Surgery, Oral Medicine, Oral Pathology)。各条件は試験管3本で、統計処理の記載はない
ガッタパーチャポイントは、オートクレーブや乾熱にかけられません。では、チェアサイドにある薬液に浸すなら、どれに浸せばよいのでしょうか。LinkeとChohayebは1983年、細菌の液に浸して菌を付けたポイントを薬液に5分浸し、培養液に移して菌が増えるかどうかを調べました。ミュータンス菌1株(OMZ-176)では、次亜塩素酸ナトリウム(4.5%・2.25%・1.125%)、0.53% Zephiran、3%過酸化水素で、3本の試験管すべてに増殖が見られませんでした。一方、80%エタノール、ユージノール、グラムのヨード液、Betadine、クロロホルムでは増殖が見られています。菌と真菌に広げた実験(Zephiran と過酸化水素は14株、次亜塩素酸ナトリウムは6株で試験。株数は原著の表3から筆者が数えた)では、0.53% Zephiran は14株すべてで増殖なし、3%過酸化水素は黄色ブドウ球菌とペニシリウム属のカビで増殖あり、4.5%次亜塩素酸ナトリウムは試した6株すべてで増殖なしでした。ただし、菌を付けたポイントを使った実験室研究で、各条件は試験管3本、浸漬時間は5分だけです。根管治療の成績を調べた研究ではありません。
①ガッタパーチャポイント、何に浸せば菌は増えない?
根管の形成や清掃では、無菌的な操作に気を配る。ところが、根管充填の直前に取り出すガッタパーチャポイント(以下、GPポイント)は、熱にかけられません。「アルコール綿で拭いているから」「次亜塩素酸ナトリウムに浸しているから」。どちらも耳にしますが、薬液によって違いはあるのでしょうか。
この問いを実験室で調べたのが、LinkeとChohayebが1983年に Oral Surgery, Oral Medicine, Oral Pathology に報告した研究です。細菌の液に浸して菌を付けたGPポイントを、診療室にある薬液に5分浸し、そのあと培養して菌が増えるかどうかを見ました。
・ミュータンス菌1株(OMZ-176)を付けたポイントでは、次亜塩素酸ナトリウム(4.5%・2.25%・1.125%)、0.53% Zephiran、3%過酸化水素に5分浸すと、3本の試験管すべてで増殖が見られなかった
・80%エタノール、ユージノール、グラムのヨード液、Betadineでは増殖が見られた。クロロホルムは3本中2本、0.27% Zephiran は3本中1本で増殖した
・菌と真菌に広げると(Zephiran と過酸化水素は14株、次亜塩素酸ナトリウムは6株で試験。株数は原著の表3から筆者が数えた)、0.53% Zephiran は14株すべてで増殖なし。3%過酸化水素は黄色ブドウ球菌とペニシリウム属のカビで増殖あり。4.5%次亜塩素酸ナトリウムは、試した6株すべてで増殖なし(残る8株は試していない)
・著者らは、4.5%次亜塩素酸ナトリウム、0.53% Zephiran、3%過酸化水素による5分の処理が、表面の殺菌に最も有効だったとしている
・菌を付けたポイントを使った実験室研究(in vitro)で、各条件は試験管3本、統計処理の記載はない。浸漬時間は5分だけ。根管治療の成績は調べていない
②なぜこの実験が必要だったか
著者らは序論で、こう整理しています。根管治療の成功は無菌的な手技にかかっている。根管の形成や清掃では無菌に気を配るのに、そのあとの充填では、滅菌していないGPポイントを使うことで「無菌の鎖」が切れやすい。GPポイントは、オートクレーブや乾熱といった通常の物理的な滅菌になじまないからだ、と。
そこで著者らは、診療室ですぐ手に入る殺菌性の薬液、できれば根管洗浄に使う薬液で、GPポイントの表面を殺菌する実用的な方法を探すことを目的にしました。
先行研究として著者らが挙げたのは、次の報告です。ポビドンヨード製剤(Betadine)に最長6分浸して表面が殺菌できたとするMontgomeryの報告。5.25%次亜塩素酸ナトリウムに最長1分浸して殺菌できたとするSeniaらの報告。パラホルムの粉末から出るホルマリンの蒸気を使うBuchbinderの方法で、こちらは数時間かかります。ここまでは、著者らが引いた文献にもとづく整理です。
③何をどう比べたか
GPポイントはMynol社のfineサイズです。まず、ポイントを細菌の液に浸して菌を付けます。次に、薬液5mLを入れたビーカーに5分浸します。そのあと培養液に移し、37℃で最長7日間培養して、菌が増えるかどうかを見ました。菌を付けて処理しないポイント(対照)と、菌を付けて処理したポイントを比べています。試験はすべて試験管3本で行いました。
増殖の読みは、次の記号で示されています。「-」は増殖なし、「+」はわずか、「++」は中等度、「+++」は旺盛な増殖。表に載っているのは、3本の試験管の平均の読みです。
試した薬液は、次亜塩素酸ナトリウム、Zephiran、過酸化水素、エタノール、クロロホルム、ユージノール、Betadine、グラムのヨード液です(濃度の違いを含めて、原著の表2に並ぶもの)。実験は次の順に組まれています。
(1)診療室で開封して数日置いたポイントと、工場で封をしたままの包装から出したポイントを、そのまま培養液に入れて汚染を調べる。(2)ミュータンス菌1株(Streptococcus mutans OMZ-176)を付けたポイントで、これらの薬液を比べる。(3)成績のよかった薬液を、菌と真菌に広げて試す(0.53% Zephiran と3%過酸化水素は14株、4.5%次亜塩素酸ナトリウムはそのうち6株)。(4)菌の液を10倍ずつ薄めて、菌の量を変えて試す。(5)菌を付けたポイントに3種類のシーラーを塗り、シーラーに菌を抑える働きがあるかを見る。
統計処理についての記載はありません。結果は、増殖の読みをそのまま表にしたものです。
④結果:5分で増殖が見られなかった薬液
まず、ミュータンス菌1株を付けたポイントでの比較です(図1)。
処理しない対照は、旺盛に増殖しました。これに対して、次亜塩素酸ナトリウムは4.5%・2.25%・1.125%のどの濃度でも増殖なし。0.53% Zephiran と3%過酸化水素も増殖なしでした。
一方、グラムのヨード液とユージノールは、対照と同じ旺盛な増殖。80%エタノールとBetadineは中等度の増殖でした。クロロホルムは3本中2本で中等度の増殖、0.27% Zephiran は3本中1本でわずかな増殖が見られています。Zephiran は濃度を半分にすると、増殖を抑えきれない試験管が出た、ということになります。
Betadineが有効でなかった点は、Montgomeryの報告と食い違います。著者ら自身がそう書いています。
次に、成績のよかった薬液を、菌と真菌に広げて試した結果です(図2)。0.53% Zephiran と3%過酸化水素は14株で、4.5%次亜塩素酸ナトリウムはそのうち6株で試されています。以下の株数は、原著の表3の行と記号を筆者が数えたものです。
0.53% Zephiran は、14株すべてで増殖が見られませんでした。3%過酸化水素は12株で増殖なしでしたが、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)とペニシリウム属のカビ(Penicillium sp.)では、対照と同じ旺盛な増殖が見られています。4.5%次亜塩素酸ナトリウムは、試した6株(ミュータンス菌OMZ-176、黄色ブドウ球菌、枯草菌、酵母、ペニシリウム属のカビ、大腸菌)すべてで増殖なしでした。残る8株では試されていません。
なお、14株のうち S. mitis の2株は、処理しない対照でも増殖しませんでした。著者らは、GPポイントそのものに菌を抑える働きがある可能性を考察しています。ポイントに含まれる酸化亜鉛(製造元によれば約16%)などによるのではないか、という推測です。この2株については、薬液の効果を判定できません。
残りの実験の結果は、次のとおりです。
菌の量:ミュータンス菌OMZ-176の液を10倍ずつ、1:10から1:10,000,000まで薄めて(1mLあたり2.31×107個から2.31×101個)ポイントに付けても、0.53% Zephiran と3%過酸化水素は、どの段階でも増殖なしでした(表4)。この実験に次亜塩素酸ナトリウムは含まれていません。
シーラー:ミュータンス菌OMZ-176を付けたポイントに3種類のシーラー(Luk’s、Fleck’s、Kerr Tubli-Seal)を塗って培養すると、どのシーラーでも3本の試験管すべてで菌は増えました(表5)。この実験では、薬液への浸漬は行っていません。著者らは、この実験ではシーラーに静菌や殺菌の働きは認められなかった、としています。
開封後のポイント:こちらは菌を付ける実験ではありません。開封して診療室に数日置き、ふた付きのガラス容器で保管していたポイントを、薬液に浸さずそのまま培養液に入れると、3本の試験管のうち2本で菌が増えました(運動性の長い桿菌と酵母、双球菌と短い連鎖の球菌)。工場で封をしたままの包装から無菌的に取り出したポイントは、3本とも増殖なしでした(表1)。
⑤結果の読み方
著者らの結論は、抄録の一文にまとまっています。表面の殺菌に最も有効だったのは、4.5%次亜塩素酸ナトリウム、0.53% Zephiran、3%過酸化水素による5分の処理である。これらはグラム陽性菌、グラム陰性菌、芽胞をつくる菌に有効だった。カビの胞子に効いたのは次亜塩素酸ナトリウムとZephiranだけで、過酸化水素は効かなかった。エタノール、クロロホルム、ユージノール、Betadine、グラムのヨード液は、表面の殺菌には有効でなかった、と。
読むときに押さえておきたいのは、3つの薬液の「試した範囲」がそろっていないことです。0.53% Zephiran は14株すべてで試されています。3%過酸化水素も14株で試され、2株で増殖しました。4.5%次亜塩素酸ナトリウムは6株だけです。ただ、その6株には、過酸化水素が効かなかった黄色ブドウ球菌とカビが含まれており、どちらも増殖なしでした。
もう1つ。この実験が見たのは「5分浸したあと、培養して菌が増えるかどうか」です。なぜエタノールやユージノールで増殖したのか、という仕組みは調べられていません。著者らも「意外なことに」と書くにとどめています。
⑥明日の臨床へ
ここからは筆者の読みです。原著の主張ではありません。
まず、開封して置いてあるポイントの扱いです。この実験では、開封して診療室に数日置いたポイントから、3本中2本の試験管で菌が増えました。試験管3本の観察にすぎませんが、「箱から出したポイントは清潔」と決めつけない理由にはなります。
次に、浸す薬液です。80%エタノールに5分浸しても、ミュータンス菌は中等度に増殖しました。アルコールで拭く・浸すという手順の根拠を、この実験は支えていません。一方、次亜塩素酸ナトリウムは1.125%まで薄めても、ミュータンス菌1株では5分で増殖なしでした。根管洗浄で使う薬液がそのまま使える、という点は、手間の面でも現実的です。
ただし、この論文は「何分で十分か」には答えていません。試した時間は5分だけです。浸したあとにすすぐ必要があるか、薬液でポイントの表面や性質が変わるかも、調べられていません。そして何より、ポイントを浸すかどうかで根管治療の成績が変わるかどうかは、この実験からは分かりません。
(1)実験室研究(in vitro)です。菌の液に浸して菌を付けたポイントを使っており、患者さんの根管で起きることを見た研究ではありません。根管治療の成績は調べていません。
(2)各条件は試験管3本です。統計処理の記載はなく、結果は増殖の読み(-〜+++)をそのまま示したものです。
(3)浸漬時間は5分だけです。より短い時間で足りるか、長くすると結果が変わるかは分かりません。
(4)4.5%次亜塩素酸ナトリウムは、14株のうち6株でしか試されていません。菌の量を変えた実験にも入っていません。
(5)S. mitis の2株は、処理しない対照でも増殖しなかったため、薬液の効果を判定できません。
(6)ポイントは1社の製品(Mynol社・fine)だけです。ほかの製品でも同じ結果になるかは調べられていません。
(7)原著の中に小さな食い違いがあります。方法の節は「1・2・7日後に確認」と書きますが、表の脚注は「24・48・144時間後に判定」です(144時間は6日)。これとは別に、エタノールは、入手した製品が95%、表2で試した濃度が80%で、薄め方の説明はありません。
(8)1983年の論文です。浸したあとのすすぎや、薬液によるポイントの表面の変化は、この論文では扱われていません。
GPポイントを何に浸すかを考えるとき、「薬液によって結果が違った」という出発点を与えてくれる研究、という位置づけで読むのがよさそうです。
今日のひとこと
この実験が示したのは、菌を付けたガッタパーチャポイントを5分浸すと、4.5%次亜塩素酸ナトリウム・0.53% Zephiran・3%過酸化水素では、ミュータンス菌1株の増殖が3本の試験管すべてで見られなかったということです。80%エタノール、ユージノール、グラムのヨード液、Betadine、クロロホルムでは増殖が見られました。3%過酸化水素は、黄色ブドウ球菌とペニシリウム属のカビでは増殖を止められていません。4.5%次亜塩素酸ナトリウムを試したのは14株のうち6株です(株数は原著の表3から筆者が数えた)。各条件は試験管3本で、統計処理の記載はなく、浸漬時間は5分だけ。浸したあとのすすぎやポイントの変化、根管治療の成績は調べていません。ポイントを浸す薬液を選ぶときの手がかりの1つ、という位置づけで読みたい1本です。


