エンド|2級窩洞の隣接面ボックスにデュアルキュア型コンポジットレジンを置き、光照射を始めるまでの時間(照射なし・直後・30秒・60秒・120秒)で辺縁からの色素の漏れを比べた抜去歯の実験(Atlas・Raman・Dworak・Mante・Blatz 2009・Quintessence International)。材料は1社の製品だけ、温度変化の負荷のあとに色素の入り方を0〜3で採点した実験室の研究で、臨床成績を調べた研究ではない
デュアルキュア型のレジンは、光を当てても、当てなくても固まります。では、置いてすぐ光を当てるのと、少し待ってから当てるのとで、辺縁の封鎖は変わるのか。Atlasらは2009年、抜去した大臼歯50本に2級の窩洞を形成し、隣接面ボックスの底にデュアルキュア型レジンを2mm置いて、光照射を始めるまでの時間を5通りに変えました。温度変化の負荷のあと、色素の入り方を0〜3で採点しています。漏れがいちばん多かったのは置いた直後に光照射した群、いちばん少なかったのは60秒待ってから照射した群でした。直後に照射した群は、30秒・60秒・120秒待った3群のどれよりも有意に漏れが多く(いずれもP<.001)、待った3群どうしの間に有意差は検出されていません。抜去歯と色素を使った実験室の研究で、二次う蝕や術後の症状、修復物の寿命を調べたものではありません。
①デュアルキュア型レジン、置いてすぐ光を当てる? 少し待つ?
デュアルキュア型のコンポジットレジンは、練和すると自分で固まり始め、光を当てればさらに固まります。窩洞や根管の中に置いたら、すぐ光を当てたくなります。待つ時間は、そのままチェアタイムだからです。
Atlasらは2009年、抜去した大臼歯50本を使い、「光を当て始めるまでの時間」だけを変えて、辺縁からの色素の漏れ(マイクロリーケージ)を比べました。2級窩洞の隣接面ボックスの底に、デュアルキュア型レジンを置く術式での実験です。
・色素の漏れがいちばん多かったのは、置いた直後に光照射した群
・いちばん少なかったのは、60秒待ってから光照射した群
・直後照射は、30秒・60秒・120秒待った3群のどれよりも有意に漏れが多かった(いずれもP<.001)
・30秒・60秒・120秒の3群どうしの間に、有意差は検出されなかった
・抜去歯に色素を浸み込ませて採点した実験で、二次う蝕や修復物の寿命を調べた研究ではない
②なぜこの実験が必要だったか
コンポジットレジンは固まるときに縮みます。著者らは序論で、この重合収縮とそのときに生じる応力が、歯とレジンの間のすき間やマイクロリーケージにつながり、二次う蝕や術後の知覚過敏の原因になりうる、と整理しています。深い2級修復の隣接面ボックスでは、象牙質やセメント質の辺縁が長期の成否にかかわる、とも書いています。
著者らが引いている先行研究では、化学重合(自己重合)のレジンは固まる速さがゆっくりで、歯にかかる応力が小さいとされています。一方、デュアルキュア型レジンは、光を当てた方が接着強さなどの性質が良くなる、という報告があります。
それなら、まず自己重合を少し進ませてから光を当てれば、両方の良いところを取れるのではないか。これが著者らの仮説です。この研究は、その「待つ時間」を実験で比べたものです。
③実験の組み立て:光を当て始める時間を5通りに
使ったのは抜去したヒトの大臼歯50本です。近心と遠心に2級のスロット窩洞を形成し、歯肉側の辺縁はセメントエナメル境に置きました。修復はオープンサンドイッチ法です。隣接面ボックスの底にデュアルキュア型レジン(DC Core Automix)を2mm置き、その上に光重合型のコンポジットレジン(Clearfil AP-X)を2mm重ねています。
・A:光を当てず、自己重合させた
・B:置いた直後に光照射
・C:置いて30秒後に光照射
・D:置いて60秒後に光照射
・E:置いて120秒後に光照射
歯は、使う接着材で無作為に2群に分けられました。I群は1ステップのセルフエッチ・デュアルキュア型(DC Bond)、II群は2ステップのセルフエッチ・デュアルキュア型(Clearfil Liner Bond 2V)です。それぞれを上の5通りに分けたので、小さな群は合わせて10個になります。
光照射器はOptilux 400で、600 mW/cm²の連続照射を40秒。修復した歯は37℃・湿度100%で1週間保管し、5℃と55℃を2,000回くり返す温度変化の負荷をかけました。そのあと1%メチレンブルー水溶液に37℃で24時間浸し、近遠心方向に切断して、実体顕微鏡で色素の入り方を採点しています。
・0:色素の侵入なし
・1:エナメル質まで
・2:歯肉側壁の象牙質まで
・3:軸側壁の象牙質まで
スコアは正規分布しないので、順位にもとづく分散分析(Kruskal-Wallis)で比べ、群どうしの比較にはTukeyの検定を使っています(有意水準5%)。
④結果(1):直後照射でいちばん深く漏れ、60秒後でいちばん浅かった
接着材の2群の間に、漏れの有意差はありませんでした(P=.947)。そこで上の図では、2群を足して固め方ごとにまとめています。固め方の間には有意差がありました(P<.001)。
・I群(1ステップ接着材)
A 自己重合:0・7・7・6
B 直後照射:0・4・7・9
C 30秒後:2・7・7・4
D 60秒後:4・9・6・1
E 120秒後:2・5・9・4
・II群(2ステップ接着材)
A 自己重合:0・4・11・5
B 直後照射:0・2・8・10
C 30秒後:3・6・8・3
D 60秒後:4・8・7・1
E 120秒後:3・7・8・2
2群を足すと、いちばん深いスコア3は、直後照射で40件中19件(47.5%)、60秒後で40件中2件(5.0%)です。色素の侵入なし(スコア0)は、直後照射と自己重合では0件、60秒後では40件中8件(20.0%)でした(割合はいずれも表2から筆者が計算)。
著者らが順位の分析から示した漏れの少ない順は、60秒後、30秒後、120秒後、自己重合、直後照射です。
⑤結果(2):待った3群の間には、有意差が検出されなかった
・直後 対 60秒後:P<.001
・直後 対 30秒後:P<.001
・直後 対 120秒後:P<.001
・直後 対 自己重合:P=.052
・自己重合 対 60秒後:P<.001
・自己重合 対 30秒後:P=.057
・自己重合 対 120秒後:P=.056
・120秒後 対 60秒後:P=.057
・120秒後 対 30秒後:P=.980
・30秒後 対 60秒後:P=.057
有意水準は5%です。有意差があったのは、直後照射と待った3群の間、そして自己重合と60秒後の間の、合わせて4つの組み合わせです。直後照射と自己重合の間、待った3群どうしの間には、有意差が検出されていません。
つまり、この実験から言えるのは「直後に当てるより、待ってから当てた方が漏れが少なかった」までです。「30秒より60秒が良い」「120秒は待ちすぎ」とは、統計の上では言えません。
⑥なぜこうなったのか(著者らの考察)
・デュアルキュア型レジンでも、置いた直後に光を当てると、重合収縮の応力については光重合型レジンに近いふるまいをする
・先に自己重合を始めさせると、最後の光照射の前に反応の速さがゆるやかになり、収縮の応力が小さくなる可能性がある
・最後に光を当てることで、材料の性質は自己重合だけの場合より良くなる。待ってから当てる方法は、自己重合と光重合の良いところを両方使える
著者らは、温度変化の負荷をかけたあとの値なので、この差には臨床的な意味がある、とも述べています。ただし、測ったのは色素の入り方だけです。収縮の量や応力、重合の進み具合は、この実験では測っていません。
⑦明日の臨床へ
・デュアルキュア型レジンのベースは、直後ではなく、待ってから光を当てた方がマイクロリーケージが減った(結論)
・ほかのメーカーのデュアルキュア型レジンで同じ結果になるかは分からず、今後の研究の課題である
・実験室の結果を確かめるには、長期の臨床試験と、接着界面の形態の分析が必要である
・デュアルキュア型レジンを「置いたらすぐ照射」が習慣になっているなら、その手順を一度考え直すきっかけになります。この実験では、30秒待った群でも、直後照射より漏れが有意に少ない結果でした
・ただし、待つ秒数をそのまま持ち込める話ではありません。自己重合の進む速さは、製品や温度で変わります。調べたのは1製品だけです。まず、使っている製品の添付文書を確かめるのが先です
・調べたのは2級窩洞のボックスの底に2mm置く術式です。根管内の支台築造は、この論文では調べていません。窩洞の形も、光の届き方も違います
・待つ間、ボックスの中のレジンを唾液や血液に触れさせない防湿が要ります。待つ時間は、その分だけ防湿の手間になります
材料は、デュアルキュア型レジン1製品(DC Core Automix)と、同じ会社の接着材2製品です。固まる速さは製品ごとに違うので、ほかの製品にそのまま当てはまるかは分かりません。著者ら自身がそう書いています。
原著の中で、気をつけて読みたい箇所が4つあります。(1)抄録は「1分後に光照射した群がもっとも漏れが少なかった(P<.05)」と書いていますが、表3では、60秒後と30秒後・120秒後の間はどちらもP=.057で、有意差は検出されていません。(2)考察には「待ってから照射した群はすべて、自己重合の群より有意に漏れが少なかった」とありますが、表3で自己重合と有意差があるのは60秒後だけです(30秒後はP=.057、120秒後はP=.056)。(3)歯は50本、表2の小さな群はそれぞれ20件です。1本の歯に近心と遠心の両方を形成したのか、20件が何を数えたものかは、原著に明記されていません。同じ歯から複数の値を取っていれば、値どうしは独立ではありません。(4)採点した人の数や、採点者が群を知らされていなかったかどうかは、書かれていません。自己重合の群で、上のレジンを置くまでに何分待ったかも書かれていません。
資金と利益相反についての記載は、原著に見当たりません。使われた接着材とレジンは4製品ともKuraray America社の製品です。「待ってから光を当てる」術式は、筆頭著者らが2005年と2006年に自分たちで提案したもので、この論文はその術式を確かめる立場から書かれています。
それでも、同じ歯種、同じ窩洞、同じ材料で、違いを「光を当て始める時間」だけに絞った実験です。デュアルキュア型レジンは、光を当てるタイミングで結果が変わりうる。その問いを、はっきり見せてくれる1本です。
今日のひとこと
この実験が示したのは、2級窩洞のボックスに置いたデュアルキュア型レジンは、置いた直後に光を当てた群で色素の漏れがいちばん多く、30秒・60秒・120秒待ってから当てた3群はどれも直後照射より有意に漏れが少なかったということです(いずれもP<.001)。いちばん少なかったのは60秒後の群ですが、30秒・60秒・120秒の間に有意差は検出されておらず、「60秒が最適だと示された」わけではありません。抜去歯に色素を浸み込ませて0〜3で採点した実験で、材料は1社のデュアルキュア型レジン1製品だけです。二次う蝕や術後の症状、修復物の寿命を調べた研究ではなく、ほかの製品で同じ結果になるかは分からない、と著者ら自身が書いています。筆者の読みでは、デュアルキュア型レジンを使うときに「すぐ照射する」以外の手順を考える材料になる1本です。


