痛み・口腔顔面痛|PEARL Networkの後ろ向き再診調査
初回根管治療と修復から3〜5年後、診療所を訪れた患者を調べた研究です。解析対象1,257人のうち持続痛は63人(5%)。そのうち39人(持続痛があった人の62%、解析対象全体の3.1%)には明らかな歯原性の原因が見つかりませんでした。次の処置を考える前に、痛みを説明する所見を見直す材料になります。ただし、3〜5年間ずっと痛かったことや、根管治療が痛みを生んだことを示す研究ではありません。
①根管治療後の痛み、その歯だけで説明できる?
根管治療と修復を終えた歯が、再診時にも痛む。「もう一度、根管の中を確かめようか」。次の処置を考える場面で、立ち止まる材料になる研究がある。
Venaらが2014年に報告した診療所での調査では、持続痛があった人の半数を超える人に、明らかな歯原性の原因が見つからなかった。痛みがあることと、その歯への追加処置で解決できることは、分けて考えたい。ただし、これは非歯原性の診断を急ぐための数字でもない。
②歯が残ることと、痛みがないこと
著者らは背景として、従来の根管治療の成績評価では、持続痛のような患者中心の結果が十分に組み込まれていないと指摘する。さらに、持続痛の先行研究の多くは専門診療・大学などの施設で行われ、一般診療所にそのまま当てはめにくかった。
そこで問うたのが、一般診療所での持続痛と生活への影響だ。歯や修復物の状態に加え、患者さん自身が感じる負担にも目を向けた。
③治療後に再診した人を調べた
PEARL Networkの64診療所で、3〜5年前に永久歯の初回根管治療とその後の修復を受け、診療所を訪れた患者を登録した。治療後3〜5年の後ろ向き再診調査であり、治療開始時から登録して前向きに追跡した研究ではない。根管治療は専門医が行った例も含み、修復は参加診療所の研究担当歯科医が行っている。
登録した1,323人から、条件を満たさない13人、最終修復を受けていない12人、対象歯が抜歯された41人を除き、解析対象1,257人・各人1歯を評価した。該当歯が複数あれば、対象期間内で最も早く治療された歯を選んだ。
持続痛の定義は、自発痛、打診・触診・咬合で誘発される痛み。根尖病変はデンタルX線写真で判定し、根尖部の状態を表す指標が3以上に相当する明瞭な病変を陽性とした。生活への影響には、口腔関連QOLの質問票OHIP-14を用いた。
④持続痛は解析対象全体の5%
持続痛なし
大多数に持続痛はなかった。一方で、痛みがあった人は確かにいる。この図の「持続痛なし」は、治療成績全体の成功を意味する区分ではない。
⑤持続痛63人のうち、非歯原性と判定されたのは39人
非歯原性と判定
歯原性とされた人には、根尖病変または歯根破折が認められた。一方、この研究での「非歯原性」は、明らかな歯原性の原因が見つからなかったという判定だ。62%の分母は、持続痛があった63人である。根管治療を受けた患者全体の半数以上が非歯原性の痛みを持つ、という意味ではない。
さらに著者ら自身が、この研究の診断方法では歯原性の原因を見つけられなかった例が含まれる可能性を認めている。したがって、非歯原性と判定されても、原因が確定したわけではない。
⑥痛みの有無だけでなく、生活への負担も
原因を一つに決める研究ではないが、もう一つ大切な所見がある。打診痛は、口腔関連QOLの負担と関連していた。Table 2では、打診痛のある人に、ほかの刺激での痛みや、身体的な痛み・心理的不快感・心理的な生活上の支障が多く報告された。
これは非歯原性と判定された人だけの結果ではなく、打診痛の有無で比べた結果だ。また、心理的な負担との関連から、痛みの原因が心理にあるとは言えない。著者らは、患者報告による生活の質の評価が、臨床所見による成績評価を越えた情報を与える点を、この研究の強みとしている。
⑦明日の臨床へ
この研究が確かめたことは、選ばれた再診患者における持続痛の頻度、そのうち明らかな歯原性の原因が見つからなかった人の割合、そして痛みと口腔関連QOLとの関連だ。再治療や紹介の効果を比較した研究ではない。ここから先は筆者の臨床的な読みである。
- 治療前の痛みと、治療後の変化を分けて聞く。本研究では治療前の痛みの有無を記録していない。「治療の後に痛い」という情報だけで、治療が原因だと決めないための問診に戻りたい。
- 次の処置の前に、痛みを説明する所見を確かめ直す。歯原性の原因を探す視点と、診断を広げる視点の両方を持つ。画像で説明できないというだけで、非歯原性と決め切らない。
- 痛みの強さだけでなく、生活で何に困るかを聞く。処置の判断と並べて、患者さんの負担を診療の中に残したい。
この研究は、治療後に診療所を訪れた人を登録した後ろ向き調査である。抜歯例と最終修復を受けていない例は、解析対象から除外されている。著者らは、不満があって通院をやめた人が含まれず、頻度を低く見積もった可能性も挙げている。治療前の痛みを記録していないため、新たに治療で生じた痛みの割合は分からない。非歯原性の判定にも、歯原性の原因を見逃した可能性が残る。
数値には原著内の食い違いもある。非歯原性は結果本文では24人・1.9%、抄録・Table 1・考察では39人。後者に対応する全体での割合は3.1%で、この記事は後者を用いた。またTable 2は打診痛ありの見出しが「n=4」だが、各行の人数がこれを超えており、分母に不整合がある。そのため生活の質については細かな割合を転載していない。これらを踏まえても、歯の所見と患者さんの痛みを別々に確かめる視点を、一般診療所のデータが示している。
今日のひとこと
根管治療後に痛みがあっても、その歯への追加処置で解決できるとは限らない。歯原性の原因を確かめながら、診断の範囲と生活への負担にも目を向けたい。


