エンド|冠の入った歯に根管治療が必要になったとき、冠をつくり直すか、冠に開けたアクセス窩洞をコンポジットレジン(CR)で塞いで使い続けるか。ドイツの大学病院のカルテを振り返り、CRで塞いだ冠と支台装置180本のその後を追った研究(Wiegand 2020・Journal of Endodontics)
冠の入った歯でも、あとから歯髄が死んだり、根管治療のやり直しが必要になったりします。そのとき冠はつくり直すのがふつうですが、冠が良好ならアクセス窩洞をCRで塞いで使い続ける道もあります。ドイツ・ゲッティンゲン大学病院のカルテを振り返り、2000〜2015年にアクセス窩洞をCRで塞いだ単冠と支台装置 180本(151人)を平均4.5年追ったのがこの研究です。累積生存率は2年82.7%、5年71.5%、7年67.3%、10年48.8%、生存期間の中央値は9.65年。そして多変量解析で有意に残ったのは修復物の種類だけで、5年時点の年平均失敗率は単冠3.5%に対して支台装置11.8%(支台装置のハザード比 2.542)でした。ただし冠をつくり直した歯と比べた研究ではなく、1施設のカルテを振り返った調査です。
①その冠、外しますか? 塞ぎますか?
冠を入れて数年。その歯が痛み出して、根管治療が必要になった。あるいは根尖病変が出て、再根管治療をすることになった。冠の上から穴を開けて治療したあと、冠はつくり直すのか、それとも開けた穴をCRで塞いで使い続けるのか。
冠の上から開けた穴(アクセス窩洞)をコンポジットレジン(CR)で塞ぐことを、この論文は「修理(repair)」と呼んでいます。この研究は、ドイツの大学病院のカルテを振り返って、修理した冠がその後どれだけもったかを数字にしました。
結論を先に言います。修理した冠と支台装置180本の累積生存率は5年71.5%、10年48.8%、生存期間の中央値は9.65年でした。そして、ブリッジやテレスコープの支台装置は、単冠より失敗しやすいという結果でした。
②冠の下でも歯髄は死ぬ——そして冠はつくり直すのがふつう
冠を入れた歯でも、あとから根管治療が必要になることは珍しくありません。緒言で紹介されている先行研究では、次のような数字が挙がっています。
・歯髄が生きていた割合は、10年で冠の歯85%、ブリッジの支台歯71%、15年で81%と66%という報告
・初回の根管治療だけでなく、再根管治療が必要になることも多い
冠の入った歯の根管治療では、冠をつくり直すのがふつうとされています。冠が臨床的に良好なら、アクセス窩洞をCRで塞ぐ道もあります。ただし、金属・陶材・残った歯質という別々の面に接着させる必要があり、洗浄液や仮封材、シーラーで象牙質が汚れていると接着に響くかもしれません。
修理した冠の強度や維持は実験室(in vitro)ではよく調べられてきましたが、臨床で何年もつかのデータは少ない。先行研究では、修理した冠42本のうち33本が平均4.48年の観察期間に成功していた、という報告がある程度でした。
③今回の一手:大学病院のカルテを振り返る
・対象:2000〜2015年に、単冠(部分冠を含む)か、ブリッジ・テレスコープの支台装置のアクセス窩洞をCRで塞いだ症例。定期検診などの条件は付けていない
・除外:観察6か月未満、6か月以内のつくり直し、X線で見える二次う蝕、データ欠損(270本中90本を除外)
・失敗の定義:冠・支台装置の除去・脱離・つくり直し・再装着、またはアクセス窩洞の詰め直し。再根管治療や抜歯のように修理と関係のない処置は、その時点で観察打ち切り
・分析:Kaplan-Meier法で10年までの生存率と年平均失敗率。単変量で有意だった因子を、同じ患者の複数歯を考慮した多変量Cox回帰に入れた
解析したのは180本(151人)、平均追跡4.5年。患者の平均年齢は53.7歳でした。内訳は大臼歯52.8%・小臼歯32.2%・前歯15.0%、単冠111本(61.7%)・支台装置69本(38.3%)。材料は陶材焼付鋳造冠55.6%、全部金属冠42.2%、セラミック2.2%(4本)と、ほとんどが金属を使った冠です。初回の根管治療が76.1%、再根管治療が23.9%でした。
④結果①:10年で約半数がそのまま使えていた
追加の処置なしに残っていた割合は、2年82.7%、5年71.5%、7年67.3%、10年48.8%。年平均失敗率は2年9.0%、5年6.5%、7年5.5%、10年6.9%。数字と生存曲線を見るかぎり、最初の2年に失敗が多めに出ているように読めます(筆者の読み)。生存期間の中央値は9.65年(95%CI 7.31〜11.99)でした。
10年以内に失敗したのは53本(29.4%)。内訳は、冠の除去・脱離・つくり直しが46本、アクセス窩洞の詰め直しだけが5本、再装着だけが2本です。つまり53本のうち7本は、元の冠を残したまま対処できたことになります。ほかに28本(15.6%)が、再根管治療(23本)や抜歯(5本)で観察打ち切りになりました。
⑤結果②:ブリッジなどの支台装置は、単冠より失敗しやすい
単変量解析では、歯の種類・修復物の種類・シリカコーティング・シラン/ユニバーサルプライマー・CRの種類(光重合かデュアルキュアか)が生存率と関係していました。ところが、これらをまとめて多変量Cox回帰に入れると、有意に残ったのは修復物の種類だけでした。
・5年時点の年平均失敗率:単冠3.5%、支台装置11.8%
・歯の種類、CRの種類、シリカコーティング、シラン/ユニバーサルプライマーは、多変量では有意差なし
前歯の修理は臼歯より生存率が高い傾向があり、これは冠やブリッジそのものの成績と同じ傾向だ、と著者らは考察しています。シリカコーティングやシランの効果は単変量では見えましたが、処理をした症例が少ない(16.1%と11.7%)ため、結果の確からしさは限られると著者ら自身が書いています。
⑥なぜ支台装置は失敗しやすいのか——著者らの見立て
著者らは、支台装置の成績が単冠より低いのは、生活歯でも根管治療歯でも、テレスコープやブリッジの成績は単冠より低いことが多いという先行研究と同じ傾向だ、と説明しています。ここからは筆者の読みですが、この差は、修理だけの問題ではなく、支台装置という修復物そのものの成績の差を映している可能性がある、という読み方です。
一方で著者らは、修理はブリッジや義歯を一からつくり直すような大がかりで高額な治療が必要になる患者には特に意味があるかもしれない、とも書いています。支台装置は失敗しやすいけれど、失敗したときの代わりの治療も大きい。その両方を天秤にかける話です。
そのうえで著者らは、修理した冠は根管治療歯に新しくつくり直した冠と比べると、生存率が低いかもしれないことも考えておく必要がある、と注意しています。
⑦明日の臨床へ
・単冠なら、失敗は年あたり約3.5%(5年間の平均)という数字が、患者さんへの説明の目安になる。
・ブリッジやテレスコープの支台では、失敗が多い(年あたり約11.8%、5年間の平均)前提で、つくり直しとの損得を話し合う。
・筆者の提案:最初の2年に失敗が多めに見えるので、修理した冠は早めに経過をみておくと安心(論文が経過観察の間隔を調べたわけではない)。
・ただしこれは「修理 vs つくり直し」を比べた研究ではない。どちらが長持ちするかは、この論文からは言えない。
冠を外すか残すかで迷ったとき、「残した場合の成績」を数字で示せる——このくらいの使い方がちょうどよさそうです。
⑧ここだけ、冷静に補助線
ここからは筆者の読みです。対象は全部金属冠と陶材焼付鋳造冠がほとんどで、セラミック冠は4本だけ。ジルコニアやオールセラミックの冠にそのまま当てはめるのは難しそうです。10年時点で観察が続いていたのは14本だけなので、10年生存率48.8%は幅を持って読む必要があります。また要旨では「洗浄液の種類」も生存率に関係したと書かれていますが、本文の表にはその項目が見当たらず、限界の項では洗浄の条件はカルテから取れなかったとされています。それでも、修理した冠の臨床成績を10年まで追い、単冠と支台装置の差を数字で示した点は、冠を外すか残すかを考える材料になります。
今日のひとこと
アクセス窩洞をCRで塞いで使い続けた冠と支台装置180本は、5年で71.5%、10年で48.8%が追加の処置なしに残り、生存期間の中央値は9.65年でした。多変量解析で残ったのは修復物の種類だけで、5年の年平均失敗率は単冠3.5%、支台装置11.8%。著者らはCRでの修理は冠の寿命を延ばし、新しい冠をつくる時期を先送りできるとまとめています。ただし冠をつくり直した歯との比較はなく、1施設のカルテを振り返った調査です。持ち帰るのは「冠が良好な単冠なら、修理は現実的な選択肢」「ブリッジやテレスコープの支台は失敗が多い前提で説明する」の2点です。


