1問1答 論文 エンド

根管治療の終点はどこか(後編・組織学的研究)——41歯49根を切片で見ると、溢出した6根は全例で高度の炎症。しかも痛みは無かった(1998年)

1問1答 論文 エンド

エンド|前編で文献を整理した著者らが、今度は実際の組織で確かめた。根管治療後の根尖・根尖周囲組織を、41歯49根の連続切片で観察した生体内の組織学的研究(Ricucci & Langeland 1998・International Endodontic Journal/後編)

前編(文献レビュー)で「根尖の手前で止める」根拠を並べ直した著者らが、後編では実際の組織で確かめます。対象は患者36名(男14・女22、16〜65歳)から得た41歯・計49根。器具操作(および多くは根管充填)の後、18日から10年8か月までのさまざまな観察期間を経た根尖と根尖周囲組織を、5µmの連続切片にして観察しました。結果は明快です。器具操作と充填が根尖狭窄部かその手前に留まったとき、最も良好な組織学的条件が得られた——これは生活歯髄でも壊死歯髄でも、そして細菌が根尖孔を越えて根尖周囲組織に存在していた場合でも同じでした。一方、シーラーやガッタパーチャが根尖周囲組織・側枝・根尖分岐へ溢出したときは、常に異物反応を含む高度の炎症反応が見られました。しかも——臨床的には疼痛が無いにもかかわらず

論文
Apical limit of root canal instrumentation and obturation, part 2. A histological study
著者
Domenico Ricucci(開業・チェトラーロ〈コゼンツァ県〉・イタリア)、Kaare Langeland(コネチカット大学歯学部 保存歯科学・歯内療法学講座・米国)
掲載
International Endodontic Journal 1998;31(6):394-409
種類
ヒトを対象とした生体内の組織学的観察研究(対照群のない症例シリーズ)。対象=患者36名(男性14・女性22、16〜65歳)から得た41歯・計49根。全員から、処置の性質・不快感・リスクを説明したうえで同意を得ている。内訳は、以前の研究から引き継いだ10例(9歯)=器具操作とCa(OH)₂貼薬の後に根尖と根尖周囲骨を生検したもの(症例1〜10)、う蝕や修復処置による損傷で歯髄・根尖の病変があり歯内療法を要した19歯(症例11〜29)、貼薬と根管充填を5か月〜7年3か月前に行った13歯20根(症例30〜49。矯正・補綴の都合や歯根の縦破折で抜歯が予定されていた歯)。分類=根管内に細菌の定着がない生活歯髄の症例(24例)と、細菌の定着が根管内へ進んだ壊死歯髄の症例(25例)。根管口に連続した血液に満たされた歯髄組織があるかどうかを臨床的に確認・記録し、それを1回法の根拠とした。壊死歯髄では2回以上の来院を必須とし、Ca(OH)₂を根管内貼薬として用いている。観察期間は全体で18日から10年8か月まで。標本は10%中性緩衝ホルマリンで即時固定し、固定後に根の長軸と直角のX線写真と写真を撮影。コネチカット大学へ送って5µmの連続切片を作製し、ヘマトキシリン・エオジン、マッソントリクローム、Brown-Brennで交互に染色。材料と組織の接触部、および根尖周囲組織と直接つながる根尖孔を含む切片を得て位置づけることに特に注意を払った
PMID
15551607

「痛くないから大丈夫」は、組織で確かめられるか

前編の文献レビューで、著者らは「根尖の手前で止める」根拠を予後研究・解剖・歯髄の病理から並べ直しました。後編はその続きです——実際の組織で確かめる

結論を先に言います。充填材が根尖周囲へ溢出した6根は、全例で高度の炎症反応しかも、どの症例にも疼痛は無く、そのうち2例ではX線写真上で以前の根尖病変が著明に縮小していました

なぜ「組織で見る」ことが要るのか

著者らは、この分野の出発点をDavis(1922)に置きます。根尖部の組織を丁寧に扱うことが根管治療の成功の条件であると最初に提唱した人物です。

以来、多くの組織学的研究——根尖と周囲組織を含む生検、あるいはさまざまな期間を経て抜歯された根管治療歯の観察——がこの見方を裏づけてきました。これらの研究はすべて、生活歯髄の治療では全部切断より部分切断(partial pulpectomy)が好ましいという点で一致しています。
そしてLangelandら、Linらは歯髄壊死の進行を詳細に記載し、大きな根尖病変が存在していてさえ、主根管の最も根尖側には神経と血管を伴う生活歯髄組織が残ることを示しました。
その臨床的な帰結として彼らが提案したのが、根尖病変があっても、器具操作と充填をX線根尖のすぐ手前の根尖狭窄部で終えることでした。

ただし彼らはこうも結論しています。時間が経てば、すべての歯髄組織が壊死に巻き込まれ、最終的には根尖の組織と分岐の中の組織も含まれ、細菌が定着する

今回の一手:41歯49根を、連続切片で見る

対象=患者36名(男性14・女性22、16〜65歳)から得た41歯・計49根。全員から、処置の性質・不快感・リスクを説明したうえで同意を得ています。
内訳は3群。①以前の研究から引き継いだ10例(9歯)——器具操作とCa(OH)₂貼薬の後に根尖と根尖周囲骨を生検したもの。②う蝕や修復処置による損傷で歯髄・根尖の病変があり歯内療法を要した19歯③貼薬と根管充填を5か月〜7年3か月前に行った13歯20根(矯正・補綴の都合や歯根の縦破折で抜歯が予定されていた歯)。
分類は、根管内に細菌の定着がない生活歯髄(24例)と、細菌の定着が根管内へ進んだ壊死歯髄(25例)。この分類の根拠について著者らは、臨床的に観察できる状態と組織学的な事実の間には明確な相関があると述べています。実際、根管口に連続した血液に満たされた歯髄組織があるかどうかを臨床的に確認・記録し、それを1回法の根拠としました。壊死歯髄では2回以上の来院を必須とし、Ca(OH)₂を根管内貼薬に用いています。
標本は10%中性緩衝ホルマリンで即時固定し、コネチカット大学で5µmの連続切片を作製、H&E・マッソントリクローム・Brown-Brennで交互に染色。材料と組織の接触部、および根尖周囲組織と直接つながる根尖孔を含む切片を得て位置づけることに特に注意が払われました。

結果①:狭窄部の内側に留まった43根で見えたもの

0 16.7根 33.3根 50根 その所見が見られた根の数 43根 6根 処置が根尖狭窄部の内側に留まった 充填材が溢出した 原著Results。41歯・49根のうち43根で器具操作と充填が根尖狭窄部の内側に留まり、6根(症例15・17・18・22・40・42)でオーバーフィリングが認められた。なお症例22は、X線写真では充填が根尖の手前で終わっているように見えたが、組織学的には解剖学的根尖の数ミリ手前の頬側面で終わっていた
49根の内訳(原著Results)

まず全体像です。49根のうち43根で、処置は根尖狭窄部の内側に留まっていました。

根管充填した群のうち19例が臨床的に成功と分類され、これらはいずれも慢性炎症細胞を伴う生活歯髄断端を示しました。健康な歯根膜が観察されたのは症例14で、抜去した根に付着した歯根膜の断片が炎症を伴わずに見つかった例も3例ありました。
以前の根尖透過像が治癒したとされる8例でも、切片には生活歯髄断端が存在していました。
最根尖部に石灰化が見られた例(5例)では根管腔が狭くなっていましたが、どの例でも完全な閉鎖には至っていません。この現象は炎症を起こした歯髄断端と共存していました。
・一方、この群で失敗と分類された4例(症例24〜26・29)では根尖周囲組織に高度の炎症反応全例で、根尖部のdebrisと隣接する象牙細管に細菌が同定されました。1例では、長く口腔環境にさらされていた最根尖部に植物性の食物残渣が細菌のコロニーに感染した状態で見つかっています。

充填を行わなかった群(11根。うち10根はCa(OH)₂貼薬、1根はCresatin貼薬)でも、術前に透過像が無かった7例では、程度の違う慢性炎症を示す生活歯髄断端が観察され、そのうち3例では炎症が根尖歯髄断端に限局し、歯根膜は健康でした。

結果②:溢出した6根は、全例で高度の炎症。しかし痛みは無い

組織切片で見えた対比(原著Resultsの記述を整理)

処置が根尖狭窄部の内側に留まった 43根 ・充填した19例は臨床的に成功と分類され、 いずれも慢性炎症細胞を伴う生活歯髄断端 ・以前の透過像が治癒した8例でも、 切片には生活歯髄断端が残っていた ・失敗と分類された4例では、根尖部の debrisと隣接象牙細管に細菌が同定された

充填材が根尖周囲へ溢出した 6根 全例で根尖周囲組織に高度の炎症反応 ・溢出したシーラーの近くに、 根尖周囲の壊死と炎症 どの症例にも疼痛は無かった ・2例では、以前の根尖病変が 著明に縮小していた

※「疼痛が無い」「X線写真で病変が縮んだ」ことは、組織が健全であることを意味しない——  これがこの研究の最も実務的な指摘です 原著41歯49根の組織学的観察。5µm連続切片をH&E・マッソントリクローム・Brown-Brennで染色して評価

処置が狭窄部の内側に留まった場合と溢出した場合の対比(原著Resultsの記述を整理)
オーバーフィリングは6例(症例15・17・18・22・40・42)。
全例で根尖周囲組織に高度の炎症反応が観察されました。溢出したシーラーの近くには、根尖周囲の壊死と炎症
どの症例にも疼痛はありませんでした
・しかも2例(15・17)では、以前の根尖病変が著明に縮小していました。

そしてもう一つ、X線写真の限界を突く所見があります。症例22は、X線写真では充填が根尖の手前で終わっているように見えたにもかかわらず、組織学的には、解剖学的根尖の数ミリ手前の頬側面で終わっていた——つまり実際には根管の外だったのです。

透過像がある状態で生検した16例のうち、6例では生活歯髄組織が根尖周囲病変と共存していました。残る10例では最根尖部に壊死組織があり、歯根膜側は好中球の密な集積で境されていました。
これはこの論文の緒言で整理された病理の見方——大きな根尖病変があってさえ、主根管の最も根尖側には生活歯髄組織が残る。そして時間が経てば、すべての歯髄組織が壊死に巻き込まれ、細菌が定着する——を、切片の上で確かめたことになります。

明日の臨床へ

「痛くない」は、組織が健全であることを意味しません。溢出した6例はすべて高度の炎症を示しながら、疼痛はありませんでした。
「X線写真で病変が縮んだ」も同じです。縮小していた2例でも、切片では高度の炎症が続いていました。
X線写真で「手前で終わっている」ように見えても、実際には根管の外に出ていることがある(症例22)。近遠心方向の像では、頬舌方向のはみ出しは見えません。
根尖狭窄部かその手前に留めれば、生活歯髄でも壊死歯髄でも——細菌が根尖周囲に及んでいた場合でも——最も良い組織学的条件が得られたというのが、この研究の答えです。
最根尖部の石灰化は根管腔を狭めても完全には閉じず、炎症を起こした歯髄断端と共存していました。「閉じたから大丈夫」ではないということです。

ここだけ、冷静に補助線

まず対照群のない症例シリーズです。「狭窄部で止めた群」と「溢出した群」を無作為に割り付けたわけではなく、溢出は意図した介入ではありません。症例数の偏りも大きい(43根 対 6根)。観察期間は18日から10年8か月までと大きくばらついており(③で触れた「5か月〜7年3か月」は、そのうち症例30〜49に限った期間です)、短すぎて成功とも失敗とも分類できなかった例が9例ありました。生検や抜歯が必要だった歯が対象なので、そもそも何らかの事情を抱えた歯に偏っています。組織像の評価に盲検化や複数評価者の一致についての記載はありません。そして最大の注意点として、この研究は「溢出させると治らない」ことを示したのではなく、「溢出した所には炎症が残っていた」ことを示したにすぎません——実際、2例では病変が縮小していました組織学的な炎症と臨床的な転帰は、必ずしも一対一で対応しないのです。それでも、「痛くない」「X線で縮んだ」という臨床の手がかりだけでは見えないものを、切片で突きつけたこの研究は、前編の文献整理に実体を与えています。資金源・利益相反の記載はありません。

今日のひとこと

著者らの結論:器具操作と充填が根尖狭窄部かその手前に留まったときに、最も良好な組織学的条件が得られた——生活歯髄でも壊死歯髄でも、細菌が根尖孔を越えて根尖周囲組織に存在していた場合でも同じです。そしてシーラーやガッタパーチャが根尖周囲組織・側枝・根尖分岐へ溢出したときは、臨床的に疼痛が無いにもかかわらず、常に異物反応を含む高度の炎症反応があった。数字で言えば、49根のうち43根で処置が根尖狭窄部の内側に留まり、6根で溢出溢出した6根は全例で根尖周囲組織に高度の炎症反応が見られ、そのうち2例では以前の根尖病変がX線写真上で著明に縮小していました。また以前の根尖透過像が治癒したとされる8例では、切片に生活歯髄断端が残っていました「痛くない」「X線写真で病変が縮んだ」ことは、組織が健全であることを意味しない——この後編の持ち帰りはそこです。ただし対照群のない症例シリーズであり、観察期間も18日から10年8か月までと症例ごとに大きく異なります。

Ricucci D, Langeland K. Apical limit of root canal instrumentation and obturation, part 2. A histological study. Int Endod J. 1998;31(6):394-409. PMID: 15551607
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。