保存修復|コンポジットレジン10材料の「修理前」と「修理後」の破壊抵抗を、V字ノッチ試験で比べた実験室研究(Bijelic-Donova ほか 2018・Operative Dentistry)
欠けたCRを全部やり直さず、削って足す「修理(リペア)」。低侵襲で便利ですが、古いレジンと新しいレジンの境目は弱点になりやすいと言われます。フィンランド・トゥルク大学のグループは、コンポジットレジン10材料で小さな円盤の試験片を作り、割ってから同じ材料で修理し、修理前と修理後の破壊抵抗を比べました。修理後の値がいちばん高かったのは、ミリ単位の短いガラス繊維とsemi-IPNという樹脂構造をもつeverX Posteriorで、この材料だけが修理した境目で2つに割れませんでした。ほかの9材料は、すべて境目で割れています。
①CRの修理、境目は弱点にならない?
欠けたコンポジットレジン(CR)を、全部外さずに一部だけ削って足す。修理(リペア)は歯質を守れる、低侵襲な選択肢です。ただ、気になるのは「足した境目」。古いレジンと新しいレジンのつなぎ目から、また割れてしまわないか。
この論文は10種類のCRで、修理前と修理後の強さを比べました。結論を先に言うと、修理後の値がいちばん高く、修理した境目で割れなかったのは、ミリ単位の短いガラス繊維入りの材料(everX Posterior)だけでした。ほかの9材料は、すべて境目で2つに割れています。ただし小さな試験片を使った実験室研究です。
②なぜ修理の境目は弱くなりやすいのか
ふつうのCRの樹脂は、ジメタクリレートが重合して網目がびっしり組まれた構造になります。重合を終えて時間がたったレジンは、新しいレジンのモノマーが溶け込む余地がほとんどありません。だから修理では、バーで削って表面を粗くし、ボンドやシランで「引っかかり」と化学的な結合を補うのが基本です。
一方、網目の中に直鎖状のPMMA(ポリメチルメタクリレート)の鎖が混ざった構造を semi-IPN(セミ相互侵入高分子網目)と呼びます。直鎖の部分はモノマーで溶けて膨らむため、新しいレジンがしみ込んで絡み合える。連続繊維の補強材では、この構造が修理に有利なことが以前から報告されていました(著者らが引用した先行研究)。
著者らによると、充填用の材料でsemi-IPNをもつのは当時市場に1つだけで、それが長さ約1mmの短いガラス繊維を含むeverX Posteriorでした。「semi-IPNの樹脂と、表面から突き出た繊維があれば、修理の強さが上がるのでは」というのが今回の仮説です。
③今回の実験:10材料を割って、修理して、また割る
材料10種(すべてA3):バルクフィル4種(Filtek Bulk Fill、Venus Bulk Fill、Tetric EvoCeram Bulk Fill、SDR)、ハイブリッド3種(G-aenial Anterior、G-aenial Posterior、Filtek Z250)、ナノフィル1種(Filtek Supreme XTE)、短い繊維入り2種(Alert=マイクロ単位の繊維、everX Posterior=ミリ単位の繊維+semi-IPN)。
保管:37℃で乾燥7日、または水中30日。
修理:割れた半分を細かいダイヤモンドバー(平均40μm)で削り、37%リン酸で15秒エッチング、水洗・乾燥、シラン入りユニバーサルボンド(Scotchbond Universal)を15秒こすり塗り→エアー→20秒照射。型に戻して同じ材料を一括で足し、修理前と同じ条件で保管してから再び割った。
評価:破壊抵抗(N/mm)と、割れ方(境目で2つに分かれたか)。everX Posteriorの割れ目は3個をSEMで観察。
④結果:修理後の値は everX Posterior が最も高かった
原著は各群の数値を表にしておらず、本文に数字があるのは一部だけです。図2を読むと、繊維を含まない8材料の修理後の値はおおよそ10〜16 N/mm。これに対し、everX Posteriorは乾燥20.0、水中19.0 N/mmで最も高く、水中保管でも有意には下がりませんでした(修理後の試験片では、多くの材料で水中保管による低下は有意ではありませんでした)。著者らは、everX Posteriorの修理前・修理後の値が、繊維を含まない8材料のどれよりも有意に高かったと報告しています。
面白いのは、もう1つの繊維入り材料 Alert との対比です。
修理前・乾燥でいちばん高かったのは、じつはAlert(23.4 N/mm)で、乾燥保管ならeverX Posterior(約22.4)と同じくらいでした。ところが水中30日で17.4に有意に低下し、修理後も有意に弱くなって、著者らの言葉では「ふつうのハイブリッドレジン(Z250)と同じようなふるまい」になりました。everX Posteriorは、修理前・修理後、乾燥・水中のどれでも20前後を保っています。
・everX Posterior以外の9材料:修理した試験片はすべて境目で2つに割れた(境目がいちばん弱い場所だったというサイン)
・everX Posterior:修理した試験片はすべて(100%)2つに分かれず、ひびが途中で止まった
なお、修理後の値は全体として修理前より低く、著者らは修理後の破壊抵抗が平均で元の84%だったとまとめています(水中保管ではやや低め)。
⑤なぜ繊維入りのsemi-IPNだけが違ったのか(著者らの説明)
SEMで割れ目を見ると、everX Posteriorでは境目から繊維が突き出たり引き抜かれたりしており、ひびの始まりから終わりまで、繊維がひびをまたいで橋渡ししていました(観察は3個)。
著者らはここから、理由を3つ挙げています。1つ目は、短い繊維そのものが表面に細かな凹凸をつくり、新しいレジンが引っかかりやすいこと。2つ目は、突き出た繊維と橋渡しする繊維が境目を補強すること。3つ目は、semi-IPNの直鎖部分に新しいレジンのモノマーが溶け込んで絡み合う結合(二次IPN)ができること。一方Alertは繊維を含んでも樹脂が網目型でこの結合がつくれず、繊維もマイクロ単位の砕けた形で、ふつうのフィラーのようにふるまったのではないか、と著者らは推察しています。
つまり、修理の強さは、使った材料(削る下地と足す材料が同じ組み合わせ)で大きく変わりました。著者らは、ジメタクリレート系のCRどうしでは、材料が変わっても修理はそれほど改善せず、どれも境目で割れた、と述べています。
⑥明日の臨床へ
補足(筆者の読み):
・修理の手順そのものは、特別な器材のいらない「バーで削る→リン酸→シラン入りユニバーサルボンド」で、チェアサイドで再現しやすい方法です。
・ただしこの実験の修理は、everX Posteriorに everX Posteriorを足す組み合わせでした。臨床のように、下地の繊維入り材料の上に通常のCRを重ねた状態で修理した場合に同じ結果になるかは、この研究では調べていません。
・「修理した境目で割れにくい材料」という視点は、大きな臼歯部修復で材料を選ぶときの一つの判断材料になりそうです。
ただしこれは小さな試験片・短期間の保管での実験室の結果で、口の中での修理の長持ちは示されていません。
⑦ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
著者らの結論:この研究の条件では、ダイヤモンドバーで削り、リン酸エッチングしてシラン入りボンドを塗る修理で、修理後の破壊抵抗は平均で元の84%だった。そして修理後も元に近い強さを保ち、境目で割れなかったのは、ミリ単位の短いガラス繊維とsemi-IPN構造をもつeverX Posteriorだけだった。著者らは、繊維が生む細かな引っかかり、境目から突き出て橋渡しする繊維、semi-IPNの樹脂に新しいレジンが溶け込むこと、の3つを理由に挙げている。ただしこれは小さな試験片での実験室の結果で、修理した修復物の長持ちを示すには臨床研究が必要だ、と著者ら自身が述べている。


