保存修復|ナノリーケージ・1ステップ接着材・セルフエッチ。抜去歯の浅い象牙質で5製品を比べた実験室研究(Yuan, Shimada, Ichinose, Tagami 2007・Dental Materials)
「1ステップのボンドは手早いけれど、封鎖は2ステップに劣る」——そんなイメージを持っていませんか。東京医科歯科大学のグループが、抜去歯の浅い象牙質に5つの接着システムを使い、24時間後の接着界面にどれだけ銀が染み込むか(ナノリーケージ)を電子顕微鏡と元素分析で比べました。著者らの結論は、漏れの程度も場所も接着材によって違い、2ステップと1ステップの間だけでなく、1ステップ同士でも違いがあった、というものです。
①1ステップのボンド、封鎖は大丈夫?
エッチング・プライミング・ボンディングを1本にまとめた1ステップのボンドは、工程が少なく手早いのが魅力です。一方で「そのぶん象牙質の封鎖は2ステップに劣るのでは」という心配も、よく耳にします。
この研究は、その心配を界面への銀の染み込み(ナノリーケージ)という物差しで確かめたものです。結論を先に言うと、漏れの程度も場所も接着材によって違い、2ステップと1ステップの間だけでなく、1ステップ同士でも違いがありました。「1ステップだから漏れる」と一括りにはできない、という結果です。
②なぜ1ステップは心配されてきたのか
著者らは序論で、1ステップの接着材は酸性が強く、親水性の成分を多く含み、光照射で重合しきらない部分が残りうると考えられている、と整理しています。時短の代わりに象牙質との封鎖が甘くなり、重合しきらない親水性成分が溶け出して、コラーゲン線維がむき出しになるおそれがある、という懸念です。
③今回の一手:5つのボンドを同じ条件で比べた
ヒトの抜去第三大臼歯15本の咬合面を切り落とし、エナメル質の残らない浅い象牙質を#600の耐水研磨紙で平らに整えました。そこへ5つの接着システムのどれかを使い、コンポジットレジンを1 mmずつ3回積みました。
- 2ステップ・エッチ&リンス:シングルボンド(3M ESPE)
- 2ステップ・セルフエッチ:クリアフィルSEボンド(クラレ)
- 1ステップ・2液混合:ワンアップボンドFプラス(トクヤマ)
- 1ステップ・1液:Gボンド(GC)、クリアフィルS3ボンド(クラレ)
37℃の水に24時間保管したあと約1 mm厚に切り出し、1歯から中央の2枚を使って各群6試料としました。硝酸銀アンモニア溶液に18時間浸けて現像し、FE-SEMの反射電子像(2000倍)で銀の沈着を観察。EDS(エネルギー分散型X線分光)で、写っている粒が本当に銀かどうかも確かめています。
判定は、接着材層・接着材層とハイブリッド層の境界・ハイブリッド層の3か所ごとに「漏れなし(−)・軽度(±)・明らか(+)」の3段階。群間の差はKruskal–Wallis検定で調べました。
④結果:明らかな銀の染み込みは、製品で大きく違った
接着材層では、シングルボンドとワンアップボンドFプラスは6試料すべてが「明らか」でした。Gボンドは明らか3・軽度1、クリアフィルSEボンドは明らか1・軽度1、クリアフィルS3ボンドは軽度1のみで、明らかは0でした。
ハイブリッド層では、シングルボンドが6試料すべて「明らか」。ワンアップボンドFプラスとGボンドは明らか3・軽度2。クリアフィルSEボンドは6試料中4、S3ボンドは6試料中4が「漏れなし」でした(残りはSEが明らか2、S3が軽度2)。
5群の差は、接着材層とハイブリッド層では有意でした(p<0.05)。一方、接着材層とハイブリッド層の境界では有意差はありませんでした(p>0.05)。EDSの結果は、FE-SEMで見た銀の分布とよく対応していた、と報告されています。なお統計は5群まとめての検定で、「どの製品とどの製品の間に差があるか」という組み合わせごとの検定は示されていません。
著者らの帰無仮説は「1ステップのセルフエッチ接着材は2ステップより銀の取り込みが多くはない」。シングルボンド・ワンアップボンドFプラス・GボンドとクリアフィルSEボンド・S3ボンドで漏れの程度や場所が違ったことから、著者らはこの仮説を「一部採択」としています。筆者の読みでは、Table 2で2ステップのシングルボンドが最も漏れが目立ち、1ステップのS3ボンドが最も少なかった(製品同士の検定はなし)ので、ステップ数だけでは分けられなかったと言えます。
⑤なぜ差が出たのか(著者らの考察)
ここからは著者らの考察で、この研究で直接確かめたものではありません。
クリアフィルSEボンド:マイルドなセルフエッチは、ハイブリッド層に無機結晶を残し、象牙細管の入り口にスミアプラグを残すこと、さらに疎水性のボンドを別に塗る工程があることが、封鎖に有利に働いたのではないかと述べています。機能性モノマー10-MDPが歯質のハイドロキシアパタイトと安定したカルシウム塩をつくるという先行研究も引いています。
クリアフィルS3ボンド:FE-SEMでは、変性したスミア層で細管の入り口をふさぐ像がよく見られたとし、エタノールと水を含むためエタノールの速い蒸発が溶媒や水を抜きやすいのではないか、と推測しています。
Gボンド:アセトンと水を含む1液型で、残った水によってレジンが相分離し、ハイブリッド層が多孔質になりうると説明。メーカー指示は強いエアブローですが、アセトン系の残留水は抜けにくく、エアブローをさらに延ばせば漏れが減るかもしれない、としています。
ワンアップボンドFプラス:指示が弱いエアブロー(または不要)なので、水が残った可能性を挙げつつ、グラスアイオノマー系のフィラーの周りでは化学反応として銀が沈着しうるので、この製品の点状の銀沈着は封鎖性の物差しとして適切でないかもしれない、とも述べています。
シングルボンド:リン酸エッチングで象牙質の透過性が上がり、ウェットボンディングの水分過多で接着材層が影響を受けた可能性、フィラーを含まないボンドで重合収縮が大きかった可能性を挙げています。
⑥明日の臨床へ
①「1ステップか2ステップか」だけでボンドを判断しない。今回の5製品では、同じ1ステップでもS3ボンドとワンアップボンドFプラス・Gボンドで銀の染み込みが大きく違いました(ただしワンアップボンドFプラスの点状の銀沈着は、封鎖性の物差しとして適切でない可能性があると著者ら自身が推測しています)。
②製品ごとの操作、とくにエアブローの意味を意識する。著者らは、Gボンドでは残った水が漏れの一因になりうると考え、エアブローの延長で減る可能性を挙げています(この研究では試していません)。
③エナメル質の辺縁があるかどうかも一緒に考える。今回はエナメル質のない象牙質だけの試験です。著者らは、窩洞がエナメル質の辺縁で囲まれていれば、リン酸エッチングのシングルボンドのナノリーケージは減る可能性が高い、と推測しています。
補足(筆者の読み):ナノリーケージは封鎖の指標の一つで、接着強さや修復の予後そのものではありません。また製品は論文当時(2005〜2006年ごろ)のもので、現行品とは違う可能性があります。
⑦ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
著者らの結論は、ナノリーケージの程度とその場所は使う接着材によって違い、2ステップと1ステップの間でも、1ステップ同士でも違いがあった、というもの。今回の5製品では、明らかな銀の染み込みが接着材層で見られた試料は、シングルボンドとワンアップボンドFプラスで6試料中6、Gボンドで3、クリアフィルSEボンドで1、クリアフィルS3ボンドで0だった。ただし抜去歯の浅い象牙質・24時間後・各群6試料の実験室研究で、群ごとの組み合わせの有意差や、接着強さ・長期の劣化・臨床成績は調べていない。


