1問1答 論文 虫歯

う蝕が最も起きやすいのは「生えたて」ではなく、生えて2〜4年目だった

1問1答 論文 虫歯

カリオロジー|萌出後年数・う蝕発生率・生命表法

6歳臼歯が生えてきた。シーラント、フッ化物、仕上げ磨きの重点部位。ではその「危ない時期」はいつまで続くのか。1965年の Archives of Oral Biology は、ニューヨーク州キングストンの子どもを追跡し、歯が生えた瞬間を起点に時計を合わせてう蝕の発生を生命表で解析しました。多くの歯で発生率は萌出後1年目には比較的低く、急速に上がって2〜4年でピークに達し、4〜5年目には下がり始めていました。ただし下顎第二大臼歯は1年目からすでに高く男児の第一大臼歯ではほぼ最大の発生率が数年持続していました。

論文
Longitudinal Studies of the Natural History of Caries-II: A Life-Table Study of Caries Incidence in the Permanent Teeth
著者
Carlos JP, Gittelsohn AM
掲載
Archives of Oral Biology 1965;10(5):739-751
種類
縦断コホート研究(コホート型生命表法による解析)
対象
米国ニューヨーク州キングストンの子どもたち。歯種別・性別に萌出後6年まで追跡

「生えたばかりの歯」に、いつまで気を張るか

6歳臼歯が生えてきた。シーラント、フッ化物、仕上げ磨きの重点部位。私たちはここに力を注ぎます。

ではその「危ない時期」は、いつまで続くのでしょうか。1965年の Archives of Oral Biology は、ニューヨーク州キングストンの子どもたちを追跡し、歯が生えた瞬間を起点に時計を合わせて、う蝕がいつ起きるかを生命表で解析しました。

先に結論: 多くの歯で、う蝕の発生率は萌出後1年目には比較的低く、そこから急速に上がって2〜4年でピークに達し、4〜5年目には下がり始めていました。ただし例外があります。下顎第二大臼歯は1年目からすでに高く男児の上下第一大臼歯ではほぼ最大の発生率が数年持続していました。

今回の一手:歯が生えた日を「0年目」に揃える

  • ニューヨーク州キングストンの子どもたちを縦断的に追跡(診査間隔はおおむね1年)
  • 解析はコホート型の生命表法(follow-up life-table)4か月を1区間として、う蝕発生率を推定する
  • 歯が萌出した時点を起点にして、そこから何年たったかで揃える。年齢ではなく「萌出後年数」で時計を合わせる
  • 歯種ごと・性別ごとに生命表を作成。左右の同名歯の値は非常に近かったため平均して扱う
  • 観察は萌出後6年で打ち切り

この「萌出を起点に揃える」という発想が肝です。年齢で比べると、同じ10歳でも第一大臼歯は生えて4年、第二小臼歯は生えたばかり——という混ざり方をしてしまいます。

結果その1:危ないのは「生えた直後」ではなく「その少しあと」

多くの歯に共通する形は、こうでした。

  • 萌出後1年目:発生率は比較的低い
  • そこから急速に上昇し、2〜4年で最大に達する
  • 4〜5年目には下がり始める

ただし歯種によって、この時計の進み方が違いました。

  • 第二大臼歯:発生率が最大になるのは萌出後2年目。他の多くの歯より1〜2年早い
  • 下顎第二大臼歯1年目からすでにかなり高い
  • 男児の上下第一大臼歯ほぼ最大の発生率が数年にわたって持続する

結果その2:歯によって、リスクの順番がある

著者らは、全体の発生パターンから歯を感受性の高い順に並べています。

  1. 下顎第一・第二大臼歯/上顎第一大臼歯
  2. 上顎第二大臼歯
  3. 上顎第一小臼歯/上下第二小臼歯
  4. 上顎切歯
  5. 上顎犬歯/下顎第一小臼歯
  6. 下顎切歯/下顎犬歯

この順番は男児でも女児でも同じでした。そして下顎前歯部では、とくに女児で、6年間を通じて発生率が1%に達しないことすらありました——グラフに現れないほどです。

明日の臨床へ

  • 「生えたて」よりも「生えて2〜4年」が山です。萌出直後にシーラントを入れて安心してしまうと、いちばん危ない時期に目が離れることになります
  • 第二大臼歯は時計が速い。ピークが萌出後2年目に来るので、12〜13歳ごろの管理が効いてきます
  • 第一大臼歯は、男児で高い率が長く続きます。「6歳臼歯は6歳のうちだけ気をつける」では足りません
  • 下顎前歯は、リスクの優先順位としては低い。限られた時間をどこに使うかを考えるときの材料になります
  • ただしこれは1960年代前半のデータです(⑥へ)

ここだけ、冷静に補助線

読むときに置いておきたいこと1965年の報告で、データは1960年代前半のアメリカ・ニューヨーク州の一地域のものです。フッ化物配合歯磨剤が普及する前後の時代であり、現在の日本の子どもとはう蝕の背景がまったく違います。萌出後年数とリスクの「形」は参考になっても、絶対的な発生率をそのまま持ち込むことはできません。②診査間隔はおおむね1年で、その間のどこで発生したかは推定です。著者らは4か月を1区間として計算していますが、これは計算上の区切りであって観察の間隔ではありません。③生命表法は本来「個体間で発生確率が一定」「事象が独立」という仮定を置きますが、著者ら自身が「う蝕ではこれらの条件が満たされることはない」と明記しています。発生率は子どもによって大きく違い、同じ子の中でも歯種によって違い、さらに左右の同名歯の発症は強く関連しています。だから歯種ごとに分けて解析した——という但し書き付きの結果です。④観察は萌出後6年で打ち切りられており、それ以降の挙動は分かりません。⑤発生率が低い歯(下顎前歯)では、グラフに乗らないほど事象が少なく、推定の精度も落ちます。

とはいえ「年齢ではなく、萌出からの年数で揃えて見る」という発想は、いまも実務にそのまま効きます。この歯は生えて何年目か——その問いを持つだけで、リコール間隔の付け方が変わってきます。

今日のひとこと

う蝕のリスクは「年齢」ではなく「その歯が生えてからの年数」で動いていた。コホート型生命表法(4か月を1区間)で、萌出時点を起点に揃えて歯種別・性別に解析した。多くの歯に共通する形は萌出後1年目は比較的低く、急速に上昇して2〜4年で最大、4〜5年目には低下し始めるというもの。ただし第二大臼歯は最大が萌出後2年目と他より1〜2年早く、下顎第二大臼歯は1年目からすでにかなり高い男児の上下第一大臼歯ではほぼ最大の発生率が数年持続した。歯の感受性は高い順に下顎第一・第二大臼歯/上顎第一大臼歯 → 上顎第二大臼歯 → 上顎第一小臼歯・上下第二小臼歯 → 上顎切歯 → 上顎犬歯・下顎第一小臼歯 → 下顎切歯・下顎犬歯で、この順序は男女で同じ下顎前歯部ではとくに女児で、6年間を通じて発生率が1%に達しないこともあった。ただし1960年代前半のニューヨーク州の一地域のデータで、診査間隔はおおむね1年。生命表法が前提とする「個体間で確率が一定」「事象が独立」という条件はう蝕では満たされないと著者ら自身が明記しており、だからこそ歯種ごとに分けて解析している。観察は萌出後6年で打ち切り

出典:Carlos JP, Gittelsohn AM. Longitudinal Studies of the Natural History of Caries-II: A Life-Table Study of Caries Incidence in the Permanent Teeth. Archives of Oral Biology 1965;10(5):739-751. PMID: 5226906
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。