1問1答 論文 歯周病

その唇側骨、1mmありますか

1問1答 論文 歯周病

ペリオ|Phase2 歯周外科

前歯を抜いたあと、唇側骨はどれだけ減るのか。2013年、Chappuisらが39名をCBCTで抜歯直後と8週後に撮り、3Dで重ね合わせました。中央部の垂直的な骨吸収の中央値は5.2mm。そして唇側骨が1mm以下だった症例では、7.5mmでした。

論文
Ridge Alterations Post-extraction in the Esthetic Zone: A 3D Analysis with CBCT
著者
Chappuis V, Engel O, Reyes M, Shahim K, Nolte LP, Buser D
掲載
Journal of Dental Research 2013;92(12 Suppl):195S-201S
種類
前向き症例集積研究(39名・上顎前歯部の抜歯・抜歯直後と8週後のCBCTを3D重ね合わせ・ベルン大学)
PMID
24158340

その唇側骨、1mmありますか

前歯部のインプラントで審美的な結果を出すには、十分な厚みと高さを持つ無傷の唇側骨壁を含む、立体的に足りた歯槽堤が前提です。唇側骨壁の不足は審美に負の影響を与え、インプラントの審美的合併症と失敗の重大な原因になる——ここまでは共有された理解でした。

問題は、その「どれだけ減るか」を、ヒトの審美領域で3次元的に測ったデータがなかったことです。

イヌの下顎小臼歯部の実験では、抜歯窩の唇側骨壁に大きな構造的・寸法的変化が起こることが示されていましたこの異化的な変化は、抜歯窩を裏打ちするバンドルボーンの吸収から始まり、歯根膜からの血液供給の途絶と著明な破骨細胞活性に関連するとされます。ただし、この実験所見がヒトの審美領域で確認されたことは一度もありませんでした——倫理的な問題から、組織学的な研究を行えないためです。

そこでCBCTという非侵襲の代替手段が使われます。小さなFOVで良好な画質と低い被曝線量を両立できる現在の技術が、この研究を可能にしました。

先に結論: 中央部の垂直的な骨吸収の中央値は5.2mm(もとの骨壁の高さの48.3%)近遠心部はわずか0.5mmそしてベースラインの唇側骨が1mm以下だった症例では7.5mm(62.3%)、1mm超では1.1mm(9.1%)「1mm」という厚みが、分岐点でした

抜歯直後と8週後、同じ骨を重ねる

ベルン大学口腔外科に紹介された39名の連続症例いずれも上顎前歯部で、避けられない抜歯のあとに単独歯の補綴を必要とする患者です。除外は骨・軟組織の治癒を変えうる全身疾患、妊娠、18歳未満州の倫理委員会承認を得た前向き臨床研究で、STROBE声明に沿って報告されています。

内訳は女性18名・男性21名、21〜69歳(平均45.8±12.6歳)抜歯部位は中切歯29・側切歯8・犬歯233名が非喫煙者、3名が軽度喫煙者(1日10本以下)、3名が重度喫煙者(1日10本超)抜歯部位に術後合併症は観察されませんでした

術式は統一されています0.1%クロルヘキシジンで1分間洗口し、局所麻酔後、フラップを開けない低侵襲法で抜歯抜歯窩は軟組織と肉芽組織をすべて除去するまで徹底的に掻爬し、コラーゲンスポンジを入れて血餅を安定させます。可撤性補綴物は、下の組織に直接圧がかからないよう調整して装着術後は2・4・6・8週にリコールしました。

計測がこの研究の技術的な核です。抜歯直後と8週後の2回のCBCT(FOV 4×4cm・ボクセル0.125mm・5.0mA/80kV・撮影17.5秒)を撮り、DICOMデータをセグメンテーションしてサーフェスメッシュモデルを生成8週のメッシュをベースラインのメッシュに重ね、解剖学的なランドマークで剛体位置合わせします。2つの面の距離を色分けの図にすることで、唇側骨のどこが吸収したかを可視化しました。

ベースラインの唇側骨の厚みは、骨頂の最も歯冠側の点から1・3・5mmの位置で測定解析は歯軸を基準に45度の角度で、中央部(c)と近遠心部(a)に分けて行われています。

減るのは「真ん中の高さ」

0 2mm 4mm 6mm 抜歯後8週の骨吸収(中央値・mm) 0.5mm 5.2mm 0mm 0.3mm 垂直的な骨吸収 水平的な骨吸収 淡い棒=近遠心部、濃い棒=中央部。中央部の垂直的な骨吸収はもとの骨壁の高さの48.3%(範囲 0.7–12.2mm)、近遠心部は4.5%(範囲 0.1–1.1mm)。中央部と近遠心部の差は p<.0001。失われるのは高さであって幅ではない
抜歯後8週の骨吸収——中央部と近遠心部の違い

ベースラインの唇側骨の厚みは、中央部で0.8±0.5mm(範囲 0〜1.7)、近遠心部で1.0±0.6mm(範囲 0〜1.9)。この差は統計学的に有意(p<.0001)でした。1mm以下だったのは、中央部の69%、近遠心部の59%

8週後、中央部では進行性の骨吸収が起こります。垂直的な骨吸収の中央値は5.2mm、もとの骨壁の高さの48.3%(範囲 0.7〜12.2mm、5.5〜99.6%)一方、水平的な骨吸収の中央値は0.3mm、3.8%にとどまりました(範囲 0〜3.4mm、0〜49.5%)

近遠心部では、垂直的にも水平的にも有意に骨吸収が少ない(p<.0001)。垂直0.5mm(4.5%・範囲 0.1〜1.1mm)、水平0mm(0%・範囲 0〜0.4mm)

つまり失われるのは「高さ」であって「幅」ではない。そしてその舞台は唇側骨の中央部——これが著者らの言う「リスクゾーン」です。

なお多変量回帰では、歯槽堤の変化と年齢・性別のあいだに相関は認められませんでした

1mmで、運命が分かれる

0 2.8mm 5.7mm 8.5mm 中央部の垂直的な骨吸収(中央値・mm) 1.1mm 7.5mm 厚い壁(1mm超・中央値1.4mm) 薄い壁(1mm以下・中央値0.7mm) もとの骨壁の高さに対する割合では9.1%対62.3%。差は p<.0001。厚い壁の範囲は0.7–3.2mm、薄い壁の範囲は0.8–12.2mm。ベースラインの唇側骨が1mm以下だったのは中央部の69%
ベースラインの唇側骨の厚みで層別した、中央部の垂直的な骨吸収

重ね合わせの色分け図が示したもうひとつの発見が、厚みによる層別です。唇側骨壁の厚み1mmが、決定的な境目(critical facial bone wall thickness)として同定されました

薄い壁のフェノタイプ(1mm以下)は、中央値0.7mm(範囲 0.4〜1.0mm)。ここでは垂直的な骨吸収の中央値が7.5mm、もとの高さの62.3%(範囲 0.8〜12.2mm、8〜99.6%)、水平的にも0.8mm、10.5%(範囲 0〜3.4mm、0〜49.5%)

厚い壁のフェノタイプ(1mm超)は、中央値1.4mm(範囲 1.1〜1.7mm)。垂直的な骨吸収の中央値は1.1mm、9.1%(範囲 0.7〜3.2mm、5.5〜38.6%)、水平的には0mm、0%(範囲 0〜1.5mm、0〜21.2%)

薄い壁と厚い壁の垂直的な骨吸収の差は、有意(p<.0001)。同じ8週間で、7.5mm減る人と1.1mmしか減らない人がいる、ということです。

そして著者らが強調するのが、ヒトとイヌの差「イヌの下顎小臼歯部で確立された前臨床の所見を確認したが、審美領域の唇側骨の寸法変化は、ヒトでは2〜3.5倍大きかった」抄録では「垂直的な骨吸収は、既存の文献の報告より3.5倍大きかった」と書かれています。

明日の臨床へ

①抜歯前のCBCTで、唇側骨の「中央部の厚み」を見る。 1・3・5mmの位置で測る、というこの研究の作法はそのまま真似できます。1mmが境目

②「薄い」は例外ではなく多数派。 中央部の69%が1mm以下でした。前歯部で「厚いほうが珍しい」という前提で計画を立てるほうが現実に合っています。

③8週で、もう半分近く失われている。 中央部の垂直的な骨吸収は8週時点で48.3%。「様子を見てから考える」の”様子を見る”あいだに、リスクゾーンの骨は減り続けます

④近遠心の骨は、意外に残る。 垂直0.5mm・水平0mm。隣接部の骨と乳頭の支持は保たれやすい——これは治療計画で使える良い知らせです。

⑤動物実験の数字をそのまま患者に話さない。 ヒトの審美領域では2〜3.5倍大きい。説明に使う数字は、ヒトの前歯部で測られたものを選ぶべきです。

ここだけ、冷静に補助線。 これは対照群のない前向き症例集積研究で、39名・上顎前歯部・観察は8週間までです。8週より先にどこまで進むのか、また抜歯即時埋入やソケットプリザベーションを行った場合にこの数字がどう変わるのかは、この研究の外側にあります喫煙者が6名含まれること、CBCTのセグメンテーションに由来する計測誤差も頭の隅に置きたいところ。それでも、ヒトの審美領域で唇側骨の3次元的な変化を初めて記録し、「1mm」という具体的な閾値を出したという点で、抜歯前の説明の言葉を確実に変えてくれる一本です。

今日のひとこと

上顎前歯部の抜歯後8週で唇側骨がどう変化するかを、2回のCBCTの3D重ね合わせで測った前向き研究39名・女性18名男性21名・21〜69歳(平均45.8±12.6歳)・抜歯部位は中切歯29・側切歯8・犬歯2)。抜歯はフラップを開けない低侵襲法で行い、ソケットは掻爬してコラーゲンスポンジで血餅を安定させ、可撤性補綴物は圧がかからないよう調整CBCTは抜歯直後と8週後の2回(FOV 4×4cm・ボクセル0.125mm)で、サーフェスメッシュを重ねて色分けし、骨吸収の場所を可視化しましたベースラインの唇側骨の厚みは中央部で0.8±0.5mm、近遠心部で1.0±0.6mm(p<.0001)。1mm以下だったのは中央部で69%、近遠心部で59%8週後、中央部の垂直的な骨吸収の中央値は5.2mm(もとの骨壁の高さの48.3%)、水平的には0.3mm(3.8%)近遠心部は垂直0.5mm(4.5%)、水平0mm(0%)とごくわずかさらにベースラインの厚みで層別すると、薄い壁(1mm以下・中央値0.7mm)では垂直的骨吸収の中央値が7.5mm(62.3%)、厚い壁(1mm超・中央値1.4mm)では1.1mm(9.1%)で、差は p<.0001年齢・性別と骨変化のあいだに相関はありませんでした著者らは「ヒトの審美領域の変化は、イヌの下顎小臼歯部の実験より2〜3.5倍大きい」と述べています。

出典:Chappuis V, Engel O, Reyes M, Shahim K, Nolte LP, Buser D. Ridge alterations post-extraction in the esthetic zone: a 3D analysis with CBCT. J Dent Res 2013;92(12 Suppl):195S-201S. PMID: 24158340
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。