1問1答 論文 歯周病

歯周病は増えている?減っている?──答えは「測り方」で変わる

1問1答 論文 歯周病

ペリオ / 疫学 ・ Papapanou 1996

「日本人の8割が歯周病」——この手の数字を、患者さんに何度も使ってきたはずです。ではその数字は、どこの何を、どう測って出たものでしょうか。1996年、Papapanouは世界中の歯周疫学の文献をふるいにかけ、身も蓋もない結論に到達しました。世界的に増えているのか減っているのか、答えられない。なぜなら数字の大半は「測り方」の産物だから。それでも彼は、確かに言えることを3つだけ残しています。1996年ワールドワークショップの総説です。

論文
Papapanou PN. Periodontal diseases: epidemiology. Ann Periodontol 1996;1(1):1-36.
PMID
9118256
デザイン
ナラティブ総説(1996年ワールドワークショップ Section 1A):1989年以降のMedline文献約1,000件を検索・選別し、方法論/分布/リスクファクターの3部構成・10の表に整理
ひとことで
有病率の数字は診査法に強く依存し、部分診査は最大58%も過小評価する。世界的な増減は結論できない。真のリスクファクターとして確立したのは喫煙・特定の細菌・糖尿病。

「歯周病は増えている」と言えますか

患者説明でも、講演のスライドでも、私たちは有病率の数字をよく使います。では聞かれたら答えられるでしょうか——その数字は、誰の口の中の、どの歯の、何か所を、どんな基準で測ったものですか。1996年、Göteborg大学のPapapanouは、ワールドワークショップの依頼で世界中の歯周疫学の文献をふるいにかけました。そして到達した結論が、これです。世界的に増えているか減っているかは、答えられない。投げやりに聞こえますが、逆です。この総説は「数字を疑う作法」を歯周病学に持ち込んだ仕事でした。

従来の困りごと:歯周病には「共通の定義」がなかった

疫学調査の大前提は、調べる病気の定義がそろっていることです。ところが歯周病では、その統一基準が確立されていませんでした。ある調査は歯肉炎を、別の調査はポケットの深さを、また別の調査はX線上の骨吸収を数える。しかも「深い」ポケットの閾値も、「病気あり」と判定するのに必要な罹患歯面の数も、調査ごとにバラバラでした。

だから著者は、文献を読む側は報告された数字を一度「解読(decode)」して、それが実際にどんな健康状態・疾患状態を指しているのかを掴み直せと書いています。ちなみに定義を整えようとした試み(Machteiら 1992・成人508名)では、「確立された歯周炎」を隣接面CAL 6mm以上が2歯以上、かつPD 5mm以上が1部位以上と提案しました。かなり厳しい線引きですが、著者はここで一言添えます——偽陽性は減るが、歯周炎の患者を健康と誤分類する可能性も忘れるな。

今回の一手:文献1,000件を、方法論から解剖する

方法はシンプルです。Medlineで periodontal diseaseepidemiology を掛け合わせ、1989年以降に出た約1,000件を拾い、抄録・原著を印刷して読み、研究デザイン・サンプルサイズ・結果の妥当性から採否を判断しました。採用した文献を①方法論 ②歯周病の分布 ③リスクファクターの3つに割り振り、10の表に整理しています。表の並び順は質のランキングではない、とわざわざ断っているのが誠実です。

結果①:部分診査は、深いポケットの持ち主を半分以上見落とす

同じ集団でも、測り方で数字が変わる

全顎・全周の診査(基準) 47% 深いポケットを持つ人の割合

部分診査という 「ふるい」

部分診査(NIDR方式) 19.5% 同じ集団を測り直した数字

▲ 約58%の「深いポケットを持つ人」を見落とした(ギリシャの調査)

他の診査法でも、同じ向きに数字が縮む 半顎診査 ▲ 最大13%

NIDR方式(4mm以上) ▲ 20%以上

指標歯のみ(25〜29歳) ▲ 55%

最悪の所見で代表させる採点法(CPITN)は「粗すぎるので廃止すべき」と著者は結論した

診査法が変わると、同じ集団から出てくる数字が変わる。全顎診査を基準にしたとき、部分診査(NIDR方式)は深いポケットを持つ人の割合を約58%、部位の平均割合を約40%も過小評価した(ギリシャの調査)。他の研究でも4mm以上のポケットで20%以上の過小評価が報告されている。CPITNは著者が「廃止すべき」と結論した(Papapanou 1996 本文の記述にもとづく概念図)。

この総説の一番の見どころが、方法論のセクションです。測り方を変えるだけで、同じ集団の数字が別物になることを、著者はいくつもの実例で示します。

ギリシャの調査が象徴的です。全顎で歯の全周を診査すると、1人あたり平均5%の部位に深いポケット(PD 6mm以上)があり、被験者の47%が深いポケットを1つ以上持っていました。ところが同じ集団を、当時のNIDR(米国国立歯科研究所)方式の部分診査で測ると、平均3.2%・19.5%。深いポケットを持つ人の割合を約58%、部位の平均割合を約40%も取りこぼしたことになります。別の研究(成人1,090名)でも、NIDR方式は4mm以上のポケットの有病率を少なくとも20%過小評価していました。半顎診査でも、CAL・PDが4mm以上の人の割合を最大13%低く見積もると報告されています。

WHOの指標歯だけを診るやり方はもっと深刻でした。ケニアのデータでは、指標歯だけを見た場合に見落とされる「6mm以上のポケットを持つ人」の割合は、25〜29歳で55%、40〜44歳で39%、50〜54歳で23%。若い人ほど取りこぼす、という厄介な性質があります。

つまり: 有病率の数字は「その集団の姿」ではなく「その集団を、その方法で測ったときに見える像」。全顎診査を基準にすると、部分診査は最大58%、指標歯方式は若年層で55%も病気の持ち主を見落とす。だから測り方の違う調査どうしを並べて増減を語ることはできない。

結果②:CPITNは「廃止すべき」──著者の踏み込んだ結論

途上国のデータの大半を生んできたCPITN(地域歯周疾患治療必要度指数)に対して、著者の評価は容赦がありません。CPITNは「その区画で最も重い所見」で代表させる階層構造を持ちますが、ケニアの1,121名のデータでは、この前提そのものが崩れました。歯石を最重症所見とみなすと出血の頻度を最大18%過大評価し、ポケットを最重症所見とみなすと歯石を最大54%、出血を最大13%も過大評価したのです。

さらに、CPITNスコアは付着喪失の量と一貫して対応しませんでした。40歳超ではCPITNスコア2の人の90%超がCAL 4mm以上を持ち、50歳超では半数超がCAL 6mm以上。逆に15〜29歳ではCPITNスコア3の人のうちCAL 6mm以上は20%未満でした。つまり若年者では過大評価、高齢者では過小評価という、方向まで逆の歪みを持っていたわけです。治療前後で歯周組織の状態が大きく改善しても、CPITNスコアはわずかしか動かなかった、という報告も紹介されています。

結論として著者は、「口腔内や歯の区画の最悪の所見を記録する採点法(CPITNなど)は廃止すべき(should be abolished)——現代の疫学調査の質的要求を満たすには粗すぎる」と書きました。総説としては相当踏み込んだ一文です。理想は全顎診査で、1歯につき最低4部位のPDとCALを測ることだとしています。

結果③:それでも確かなこと──重度は少数に集中し、真犯人は3つ

「関連がある」から「真のリスクファクター」までは、4つの関所がある

多変量解析が挙げる候補(リスク指標):年齢・人種・教育・所得・受診習慣・プラーク・歯石・細菌・喫煙・糖尿病 …

① 同定 関連する因子を挙げる

② 多変量モデル 交絡を除いて絞り込む

③ スクリーニング 集団のリスクを予測する

④ 介入で検証 減らせば病気が減るか

4段階すべてを通った因子は、1996年時点でまだ一つもない(③④が未達)

それでも「真のリスクファクターとして証明された」と総説が明記した3つ 喫煙 重度歯周病のオッズ比 2.82(2.36〜3.39)

特定の歯肉縁下細菌 縦断研究で新規の 付着喪失に結びついた

糖尿病 関連を示す相関係数 0.19(0.16〜0.22)

オッズ比は6研究2,361名、相関係数は4研究3,524名を著者がメタ解析した値。いずれも95%信頼区間つき

リスクファクターの選別。多変量解析で挙がる「リスク指標」は多いが、著者が引く4段階(同定→多変量モデル→スクリーニング→介入による検証)をすべて通った因子はまだ一つもない。それでも「真のリスクファクター」として確立したと総説が明記したのは、喫煙・特定の歯肉縁下細菌・糖尿病の3つ(Papapanou 1996 Summaryの記述にもとづく概念図)。

数字が測り方に振り回されるとしても、この総説が「言い切っている」ことが3つあります。

①重度歯周炎は、少数に集中する。早期発症型歯周炎はどの集団でも稀です。米国の全国調査(14〜17歳・40,694名を診査)では、限局型若年性歯周炎0.53%、汎発型0.13%、偶発的付着喪失1.61%——合計2.27%でした。成人の慢性歯周炎はありふれていますが、進行した重度の病態が及ぶのは人口の10〜15%未満と考えられ、有病率のピークは50〜60歳あたりに来ます。ほとんどの場合、進行のパターンは生涯にわたって機能する歯列を保てる範囲に収まる、というのが著者の見立てです。

②喫煙は、疑いようのない真のリスクファクター。著者は6つの研究(計2,361名)をメタ解析にかけ、喫煙者が重度歯周病を持つオッズ比 2.82(95%信頼区間 2.36〜3.39)を算出しました。さらに、20歯以上を持つ349名を1970年と1980年の10年間隔で診た縦断研究では、喫煙者の進行は非喫煙者のほぼ2倍速く、期間中に禁煙した人では進行が有意に遅くなっていました。多変量解析が示すのは、喫煙者の歯周組織の状態の悪さがプラークコントロールの悪さでは説明できないということ。むしろ喫煙者は歯肉炎が軽く見えるという報告すらあります。

③糖尿病も、他の因子とは独立したリスク。4つの研究(18歳以上・計3,524名)のメタ解析で、糖尿病と歯周病の関連を示す相関係数は 0.19(95%信頼区間 0.16〜0.22)——統計学的に有意な関連です。Pima族の大規模調査では、糖尿病者が歯周病を持つオッズ比は臨床評価で2.8、X線評価で3.4。ただし糖尿病なら誰でも、ではありません。リスクを押し上げるのは罹病期間の長さ・早期発症・代謝コントロールの悪さで、血糖コントロールの良い患者の進行は、悪い患者より明らかに少ないという縦断研究が並んでいます。

そして4つ目。特定の歯肉縁下細菌——とくに Porphyromonas gingivalis が縦断研究で新規の付着喪失に結びついており、著者はSummaryで喫煙と特定の細菌、そして糖尿病を「真のリスクファクターとして証明された」と明記しています。

なぜ「増減が語れない」のか──パラドクスの正体

ここが面白いところです。歯を失う人は減りました。過去20年で無歯顎の割合は下がり、人々は昔の世代より多くの天然歯を保っている——これはよく記録された事実です。ではその分、歯周病は減ったのでしょうか。

逆です。歯周病を「積み上がった付着喪失」で測る限り、高齢者が歯を残せば残すほど、その集団の有病率はむしろ上がる。抜けてしまった歯は数えられないからです(著者はこれを選択バイアスの一種として説明しています——重い歯は先に抜かれ、健康な歯だけが調査に残る)。しかも著者は同じ段落で、「有病率が上がるからといって、必ずしも治療の必要量が増えるとは限らない」とも釘を刺します。数字が動いたことと、現場の仕事が増えることは別問題。

加えて、途上国の調査の大半は粗いCPITNで、先進国の質の高い調査には比較できる過去のデータが乏しい。つまり「昔と今」を並べる土俵そのものが無い。だから答えは出ない——これが「増減を語れない」の中身です。ちなみに、人種・地域で有病率が違うという昔ながらの一般化にも、著者は疑いを向けています。ケニアと中国のデータを他国と同じ方法で計算し直したメタ解析では、口腔衛生状態に大きな差があるのに、8集団のうち6集団で歯周破壊の分布は驚くほど似ていました

つまり: 「歯周病が増えた/減った」は、測り方が揃っていない以上、答えの出ない問い。無歯顎が減って天然歯が残るほど、付着喪失で測る有病率は上がる方向に動く。ただし有病率の上昇が、そのまま治療必要量の増加を意味するわけではない。

明日の臨床へ:この総説が、いま何を渡してくれるか

①数字を見たら「診査法」を見る。「〇割が歯周病」という数字に出会ったら、まず全顎か部分か、何部位か、閾値は何mmかを確認する。この総説が示したとおり、そこだけで数字は58%動きます。学会発表でも、患者説明でも、この一手間が効きます。

②リスクの話に時間を使う。疫学が確立させた介入先は、いまのところ喫煙・細菌・糖尿病です。禁煙の話を5分するほうが、有病率の話を5分するより、目の前の患者さんの未来を変える可能性が高い。しかも禁煙は進行を遅らせることがこの総説の時点ですでに縦断データで示されていました。

③「うちの重度患者が増えた」を病気の増加と早合点しない。高齢の患者さんが歯を残したまま来院し続ける——それは治療の成果であって、同時に「重度に見える人」が増える理由でもあります。著者が30年前に整理したこの構図は、超高齢社会の日本の診療室にそのまま重なります。

もうひとつ。この総説には、のちに巨大な研究領域へ育つ芽も収められています。歯周感染と全身疾患です。14年間の追跡では歯周炎を持つ人の冠動脈疾患リスクが25%高く、50歳未満の男性では70%高い。124名の妊婦の研究では、重度歯周病を持つ女性の早産・低体重児出産の調整オッズ比が7.5と報告されました。著者は皮肉を効かせて書きます——「近代科学には、昔に提起され(そして)棄却された問題を再発見する傾向がある」。かつての病巣感染説を思い出さずにはいられない、と。そして「今世紀の残りと次の世紀初頭の歯周研究の多くは、これまで軽視されてきた歯周病の全身への影響に向かうだろう」と締めました。この予言は、みごとに当たりました。

ここだけ、冷静に補助線これはナラティブ総説です。系統的レビューではなく、著者が読んで選んだ文献を著者の枠組みで整理したもの——採否の基準は明文化されていますが、最終的には一人の専門家の目を通っています。英語以外の文献は除外されており、検索は1989年以降に限られています。数字も、そのほとんどは個々の研究の記述統計をそのまま引いたもので、群間の統計的検定を経た値ではありません(例外は著者自身が行った喫煙・糖尿病の2つのメタ解析)。加えて、1996年の総説であることも大きい。ここで語られる「若年性歯周炎」という分類は1999年に「侵襲性歯周炎」へ、さらに2018年には新分類のステージ/グレードへと置き換わりました。ですから「歯周病は10〜15%」といった数字を今の日本にそのまま持ってくるのは行き過ぎです。この総説の価値は数字そのものではなく、数字の読み方にあります。「その数字は、どう測られたのか」——この問いを持ち帰るだけで、エビデンスの読み方は確実に変わります。30年経っても古びない、いい総説です。

今日のひとこと

疫学の数字は「事実」ではなく「測り方を通した像」である。部分診査は深いポケットの持ち主を最大58%も見落とし、CPITNは著者が「廃止すべき」と断じるほど粗い。だから「歯周病は増えたか」には答えが出ない。それでも確かなのは、重度歯周炎は人口の10〜15%未満に集中し、そこに効く介入先として喫煙・特定の細菌・糖尿病の3つが真のリスクファクターとして残ったこと。数字を語る前に、その数字がどう測られたかを問う——それがこの総説の遺した作法。

出典(PubMed):Papapanou PN. Periodontal diseases: epidemiology. Ann Periodontol 1996;1(1):1-36. PMID: 9118256
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。