1問1答 論文 痛み・口腔顔面痛

歯の異常が見つからない痛みを、どう考える?——PDAPの総説が示す、処置の前に確かめたいこと

1問1答 論文 痛み・口腔顔面痛

痛み・口腔顔面痛|Malacarneらの2018年の包括的総説。名称・診断基準が揃わないPDAPを、病態・鑑別・治療の根拠から読む

歯の痛みが続くのに、診察と画像では説明できる異常が見つからない。そんなとき、次の処置を急ぐ前に何を考えるか。Malacarneらは抄録345件を確認し、関連する128本を全文精読した総説で、PDAPの文献を整理しました。感覚の異常や麻酔への反応は神経系の関与を示唆しますが、痛みの発症・持続機序は十分には分かっていません。名称と診断基準の不一致も残ります。著者らが強調するのは、処置の前に正しい診断を確かめることです。

論文
Persistent Dentoalveolar Pain Disorder: A Comprehensive Review
著者
Alberto Malacarne, Egilius L H Spierings, Chao Lu, George E Maloney
掲載
Journal of Endodontics 2018;44(2):206-211. doi:10.1016/j.joen.2017.09.009
種類
文献検索を伴う包括的総説(ナラティブな整理)。PubMedを2017年1月1日時点で検索し、抄録345件を確認、関連する128本を全文精読。利用できる文献の多くは症例報告・ナラティブレビュー。治療を評価した研究は非盲検試験7本・ランダム化比較試験2本(抄録の集計)。
PMID
29174443

①歯の異常が見つからない。それでも痛い

歯の痛みが続く。けれど、診察と画像では痛みを説明できる異常が見つからない。「もう一度、根管治療をしたら変わるだろうか」。次の処置を考える前に、立ち止まりたい場面だ。

Malacarneらの2018年の総説が伝えるのは、原因を説明できない歯の痛みでは、処置の前に診断を確かめるということ。神経系の関与を示す所見はある。しかし、痛みが始まり、続く仕組みまで解明されたわけではない。

今回の問い: 歯の異常が見つからない痛みを、どう考える?
PDAPの総説から、処置の前に考える。

②名前には、原因の仮説が入り込む

この総説が扱うPDAP(persistent dentoalveolar pain disorder:持続性歯槽部痛障害)は、歯、または以前に歯があった場所の痛みで、診察と画像で歯や関連する硬・軟組織の病変を認めない状態として紹介されている。総説は毎日・連続的に痛む臨床像を説明しているが、PDAPは他の原因を除外して考える診断であり、痛みの持続と画像所見だけでは診断できない。

ただし、文献に登場する名前は揃っていない。phantom tooth pain(幻歯痛)、atypical odontalgia(AO:非定型歯痛)、PDAPなどが使われてきた。著者らは、名称と診断基準の不一致が研究を比較しにくくしていると指摘する。

「幻歯痛」という呼称には、幻肢痛のような仕組みを想定する響きがある。また、有痛性外傷後三叉神経ニューロパチーという診断には、明らかな神経損傷と、その外傷から痛みが生じたという関係が含まれる。ところが、総説が扱う患者には自然に痛みが始まった人もいる。

歯科処置は、すでにあった痛みを解決しようとして行われた可能性もある。そこで著者らは、原因を決めつけない記述的な呼称としてAOやPDAPを選ぶ立場を示している。名前を付けても、原因が確定したことにはならない。

③128本を全文精読した総説

方法はPubMedでの文献検索。検索時点は2017年1月1日で、AO、幻歯痛、PDAPなど関連する語を使い、抄録345件を確認し、関連する128本を全文精読した。

これは新たな患者群に治療を試した研究ではなく、既存の報告を整理した包括的な総説だ。利用できる文献の多くは症例報告とナラティブレビューで、臨床像・病態・診断を調べた後ろ向きの症例対照研究も含まれる。治療を評価した研究は、抄録の集計で非盲検試験7本・ランダム化比較試験2本だった。

以下は、診断基準の異なる研究を横断して読んだ著者らの整理である。単一の患者集団の成績や、統一基準でまとめた治療効果としては読めない。

④歯科治療後に残る痛みを、ひとまとめにしない

総説の検索時点では、一般人口でのPDAPの発生率・有病率を推定できる研究はなかった。著者らは根管治療後に残る痛みの研究も紹介しているが、そこで数えられた非歯原性疼痛のすべてがPDAPだったわけではない。

原著が引くNixdorfらの根管治療後の鑑別研究では、非歯原性の痛みの多くは筋・筋膜に由来していた。さらに総説の診断の節では、咀嚼筋から歯へ痛みが広がり、患者が歯だけに痛みを感じる場合もあると説明している。適切に触診しなければ、原因となる筋の痛みを見逃すことがある。

つまり: 非歯原性の痛みを、すべてPDAPと呼ばない。
筋から歯への関連痛も、鑑別に入る。

PDAPは他の原因を除外して考える診断とされる。一方、この総説は、何をどこまで調べれば十分かという診断評価の範囲が、文献では定まっていないとも指摘している。「画像で説明できない」だけで、診断が完成するわけではない。

⑤感覚の異常は手掛かり。単独では診断できない

では、何も調べようがないのか。総説は、痛い側と痛くない側で刺激への反応を比べた研究を紹介している。定量的感覚検査(QST)は、専用の機器などを用いて感覚を数値で評価する検査。定性的感覚検査(QualST)は、触刺激・冷刺激・針刺激への反応の違いを調べる検査だ。

原著が引くListらやBaad-Hansenらの研究では、感覚検査で患者群と対照群の違い、あるいは患者の左右差が報告されている。ただし、定量的感覚検査(QST)だけでは、神経障害性の口腔顔面痛と診断できない。総説は、神経障害性の口腔顔面痛を診断するには特異度が低い、つまり他の状態と十分に見分けられないと述べている。

局所麻酔への反応にも幅がある。総説が紹介する研究では、完全に痛みが消えた人も、軽くなっても残った人も、反応がはっきりしなかった人もいた。原著が引くListらのランダム化比較試験では、局所麻酔薬は生理食塩液より鎮痛で優れたものの、平均の疼痛減少は50%未満で、痛みの強さを示すVASの値は24時間以内に通常の範囲へ戻った。

著者らの解釈: 末梢と中枢の関与が示唆される。
感覚の所見や麻酔への反応だけで、原因までは決められない。

著者らは反応のばらつきから、末梢と中枢の仕組みが併存し、その関わり方が患者ごとに異なる可能性を考えている。個々の患者で、その割合や原因を確定できたという意味ではない。

⑥心理的な問題との併存は、原因の証明ではない

痛みを説明する歯の病変が見つからず、患者が強い不安や抑うつを抱えている。ここで、痛みの原因を心理面だけに求めてよいのだろうか。

総説は、心理的・精神医学的な問題を伴う患者がいる一方、そうした異常を示さない患者もいると整理している。心理面を原因とする仮説を調べた研究は後ろ向きで、心理的な問題が痛みより先にあったのか、痛みの結果として生じたのかは分からなかった。

併存していても、原因とは限らない。神経系の関与を示唆する所見を集めても、心理面の評価をしても、この総説は痛みの発症・持続機序を説明し切れたとは結論していない。

治療にも同じ慎重さが要る。著者らが紹介する専門家の見解は、末梢神経障害性疼痛の治療方針を参考にしつつ、局所を傷つける不可逆的な処置を避けるというもの。ただし、PDAPの治療を導く質の高い根拠は限られている。特定の薬や処置を、この総説だけで標準治療に選べるわけではない。

⑦明日の臨床へ

この研究が確かめたことは、既存文献には感覚の異常などの所見がある一方、名称・診断基準が揃わず、信頼できる診断手順や治療の根拠も十分ではない、という状況である。ここから先は筆者の臨床的な読みとして、診療での伝え方と次の行動を考えたい。

  • 処置を増やす前に、診断の根拠を見直す。歯原性の病変を説明できるか、筋からの関連痛などを検討できているかを、診察と画像の所見に戻って確かめる。
  • 分かっている所見と、分からない原因を分けて伝える。「痛みを説明できる歯の異常は今の診察では見つかりません。でも、痛みがないという意味ではありません」と、患者の訴えを受け止める。
  • 判断に迷うときは、相談先と次の診察を決める。追加処置の根拠が乏しいときにも、口腔顔面痛を扱う診療先へ相談し、誰が経過を見ていくかを明確にしておきたい。これは総説で有効性を比較した診療手順ではなく、筆者の提案である。
ここだけ、冷静に補助線

文献検索を伴う包括的な総説だが、利用できる文献の多くは症例報告・ナラティブレビューで、診断基準も不統一だ。128本は全文精読した文献数であり、治療効果を統合した試験数ではない。検索時点は2017年1月1日。この総説の結論を、そのまま現在の診断基準や治療推奨として扱うことはできない。

筆者の用語上の注意として、本稿のPDAPという枠組みを、ICOPのPIDAPと同一の対象集団だとみなして読み替えない。総説が引用するZaguryらの研究では、頬側歯肉への冷刺激後の痛みの平均持続時間が本文では65秒(対照15秒)と記されている。一方、Table 1では60秒(対照15秒)とされ、値が一致しない。この数字は診断の目安には使わない。それでも、名前と原因を分け、処置の前に診断を確かめるという視点は、原因を説明できない痛みと向き合う足場になる。

今日のひとこと

原因を説明できない歯の痛みでは、処置の前に診断を確かめる。PDAPには神経系の関与を示唆する所見があるが、名前や検査所見だけで原因が確定するわけではない。

Malacarne A, Spierings ELH, Lu C, Maloney GE. Persistent Dentoalveolar Pain Disorder: A Comprehensive Review. J Endod. 2018;44(2):206-211. doi:10.1016/j.joen.2017.09.009. PMID: 29174443
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。