エンド|歯髄診査・冷診・冠越しのテスト
「被せてあるから、冷たいのは分からないですよね」——冠が入った歯の歯髄診査を、そう言って諦めていないでしょうか。抜去小臼歯の髄室に熱電対を入れ、同じ歯に金冠・PFM冠・セラミック冠を順に被せて、歯髄象牙質境(PDJ)まで届く温度を測った実験室研究があります。答えは意外で、セラミックもPFMも天然歯とほぼ同じだけ冷えました。別格だったのは、むしろ金冠のほう。ただし測ったのは温度であって、患者が冷たさを感じるかどうかではありません。
①「クラウンだから冷診はムリ」で、いいのか
歯髄診査で本当に困るのは、たいてい冠が入っている歯です。セラミックは熱を通しにくい——その素材のイメージから、冠越しの冷診は当てにならないと敬遠されがちではないでしょうか。
けれど診査を飛ばすわけにもいきません。原著が引く調査では、全部被覆の補綴をした歯の多くは装着から5〜10年以内に歯内療法が必要になる、と多くの臨床家が考えているとされています(その認識が正しいかどうかは別問題だ、と著者らも断り書きを入れています)。いずれにせよ、冠の下の歯髄を確かめる手段は要る。
ところが著者らが文献を当たったところ、PFM冠やオールセラミック冠にCO2スノーやTFE(冷媒)を当てたとき、冷たさがどこまで届くのかを直接測った研究は、当時ひとつもありませんでした。そこで彼らは、髄室に熱電対を差し込んで温度そのものを測りに行きます。
②同じ10本に、金・PFM・セラミックを順に被せた
対象は抜去された小臼歯10本(上顎5本・下顎5本)。X線で髄室の広さと頬側のエナメル・象牙質の厚みが揃っていることを確認し、歯根はセメントエナメル境の5mm下で切断、髄腔の内容をバーブドブローチで除去したうえで、髄室に熱伝導ペーストを詰めてT型熱電対を留置しました。熱電対の先端が、冷やす面(頬側)の反対側にある歯髄象牙質境(PDJ)に当たっていることも、X線で確認しています。
冷やし方は3つ。①氷スティック(直径7mm)、②TFE=1,1,1,2-テトラフルオロエタン(Endo Ice)を#2の綿球にたっぷり含ませ、止血鉗子で保持したもの、③CO2スノー(直径3.5mmの鉛筆状)。いずれも頬側面の中央1/3に30秒間当て、5秒ごとに髄室内の温度を記録しました。
そして同じ10本に平行切削器で全部被覆の支台歯形成を行い、全部金冠・PFM冠・オールセラミック冠(IPS Empress)を順に装着して同じ試験を繰り返します。最後にEmpress冠をデュアルキュアレジンで接着し、もう一度。比較されたのは5条件——無冠・全部金冠・PFM冠・非接着のセラミック冠・接着したセラミック冠です。同じ歯を使い回す設計なので、歯の個体差が群間差に混ざりません。
③結果:冠は”断熱材”ではなかった
まず、著者ら自身が「予期しなかった発見」と書いた結果から。PFM冠とオールセラミック冠を通した熱の伝わり方は、無処置の歯とほぼ同じでした。原文はこう続きます——歯髄を断熱するどころか、セラミックや金属焼付のセラミックは、エナメル質と同じように冷たさを伝えるようだ、と。
統計でも同じ向きでした。5秒の時点では、どの冠どうしにも温度低下の有意差はありません(Table 2)。試験期間を通して他のすべての条件より有意に大きく冷えたのは全部金冠だけで、10秒以降はどの冷却剤でも他を上回りました。天然歯とセラミック冠に差が出たのはTFEを20秒以上当てたときだけ、PFM冠と接着セラミック冠の差は氷を30秒当てたときだけ——例外はその2つに限られます。
④どの冷やし方が、いちばん届くのか
冷却剤どうしを比べると、TFEを綿球に含ませて当てる方法が最も速く、深く冷やしました。著者らは「TFEが最も速い温度低下を生み、7℃に近づいた」と記しています。TFEがCO2スノーより有意に大きく冷やしたのは、天然歯とPFM冠では10〜30秒、オールセラミック冠(接着の有無を問わず)では15〜25秒でした(Table 1)。なおこの時間の幅は原著のなかでも揺れています——Results本文の総括は「金冠以外のすべてで10〜30秒」ですが、Table 1でセラミック冠に印が付くのは15〜25秒、AbstractとConclusionは「10〜25秒」。ここでは表と一致する読みを採りました。
例外は、やはり金属冠です。全部金冠では15秒以降はCO2スノーがTFEを追い越し、30秒では約28℃まで下がりました(Fig.2の読み取り)。金は冷たさを桁違いに速く伝えます。氷ですら、金冠に15〜20秒当てれば、他の材料にTFEやCO2を25〜30秒当てたときに近い温度に達したほどでした。
ただし著者らは但し書きも付けています。TFEとCO2の差は1〜2℃以内のことが多く、臨床的に意味のある差ではないかもしれない、と。それでも入手のしやすさと簡便さから、冷診の第一選択はTFEだろう——というのが結論です。
⑤明日の臨床へ——冠だからと諦めず、数秒当てて対照歯と比べる
第一に、PFM冠・オールセラミック冠が入っているという理由だけで冷診を飛ばさない。少なくとも「冷たさ」は、天然歯と同じように歯髄側まで届いています。
第二に、当て方。冷媒を#2の綿球にたっぷり含ませ、鉗子で保持して冠の頬側面の中央1/3に当てる。この方法はこの研究が発明したものではなく、原著がJonesの記載から採用したものですが、その方法が冠越しでも通用すると示したのがこの論文です。原著はFussらの説明を引いて、綿球に含ませるやり方はCO2スノーより接触面が広く効果的だろう、と述べています。
第三に、時間。原著が引くTrowbridgeらの研究では、冷刺激への平均感覚応答時間は1.49秒。実臨床で当てるのは数秒で、この研究でも5秒の時点では冷却剤どうしにも冠どうしにも差はありませんでした。30秒は「臨床的に十分すぎる長さ」として実験用に選ばれた時間です。
第四に、金属冠は当てすぎない。全部金冠は速く強く冷えるので、短時間で判定を切り上げる。逆に、金属冠を15秒以上かけて調べたい場面ではCO2スノーのほうが効率的です。
ついでにTFEの弱点も。綿球からの気化が速く、2〜3歯を数秒ずつ調べると効きが落ちます。含ませ直せば戻りますが、1顎まとめて調べるならCO2スノーのほうが便利なことがある、と著者らも書いています。
抜去歯10本の実験室研究です。測っているのは歯髄象牙質境の「温度」であって、患者が冷たさを感じるかどうかではありません。歯髄も血流も唾液もない状態で、試験そのものは室温で行われています(サイクルの合間だけ37℃の水槽で基準温度に戻す設計)。試験中の口腔内の温度環境はあえて再現していないと著者らも明記しています。冠は熱伝導ペーストで密着させた状態での試験(実際のレジン接着は接着セラミック冠のみ)で、実臨床のセメント層とも条件が違います。それでも「セラミックは断熱材ではない」という骨格は、冠が入った歯の診査をあきらめないための、確かな後押しになります。
今日のひとこと
「被せてあるから冷診はムリ」ではなかった。PFM冠もオールセラミック冠も、歯髄側の温度は天然歯とほぼ同じだけ下がる。別格に冷えるのは金属冠のほう。冷媒を含ませた綿球を冠の頬側中央に数秒当てて、対照歯と比べる——諦めていた1本を読む手がかりが、そこから戻ってくる。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


